22 / 56
22
しおりを挟む
「やだー、久しぶりー!」
個人経営の小さな居酒屋を貸し切って開催されたクラス会は土曜日の昼下がりから始まった。幸い、夫は社員旅行と称して不倫旅行に出かけている。
誰からも、覚えて貰えてなかったらどうしよう。そんな心配はすぐに解消した。
「優香じゃーん? なに、なんか垢抜けたねー」
「お、水森か?」
会場に着くと矢継ぎ早に話しかけられた。旧姓で呼ばれるのが少しだけくすぐったい。
次々に集まってくる懐かしい顔、不思議なもので十二年ぶりでも。化粧が濃くても、禿げてても。何となく誰だか分かって安心した。
「はい、はーい! それじゃあみなさん一旦席に着いてくださーい」
声を聞いても誰だか全く分からない、けど仕切ってる事でそれが彼だと察した。意味もなくドキドキする。
「とりあえず乾杯しますので、とりあえずビールを、テーブルの。そう、瓶ビールで」
え? だれ?
いや、正確には成長した松本くんだと一目で分かった。みんなも分かってる。ただ。
めちゃくちゃイケメンになってた。
顔の作りは変わってない、もともと可愛らしい顔はしていた。それが時間を掛けて男らしさが加わって、坊主だった頭も韓流アイドルみたいにオシャレになっていた。
何より背が伸びた。
「松本くんめっちゃイケメンになっててウケる」
隣の女子が小声で呟く。
なんだろう、この気持ち。
どこか遠くに行ってしまったような疎外感。
思い出を上書きされたような喪失感。
私は決してカッコいいから好きになったんじゃない。それを何となく誇りに思ってた。けど、今それを言ってもきっと説得力がない。それくらい彼は変わってしまった。
「では、久しぶりの再会にかんぱーい!」
中学校を卒業してからも交流があった子、まるでなかった子。みんな懐かしく当時の思い出を振り返る。
ちゃんとあったんだ、思い出。
ちゃんといたんだ、友達。
くだらない事で大笑いしながら、そう言えばこのクラスはみんな仲が良かった事を思い出す。
次々に増えていく連絡先。「また集まろうよ」なんて言って本当に集まるかは置いといて。久しぶりに楽しい時間を過ごした。
「水森? だよな」
強引に隣に座ってきた松本くんはまじまじと私の顔を観察して言った。
「また、可愛くなったなあ」
また? の意味は分からずに「ありがとう」と返事する。距離が近い。
「結城は水森が好きだったからなぁ」
いつの間にグデグデに酔っている額が怪しい男子、確か伊藤くんが笑いながら言った。
「え?」
「ちょ! やめ」
松本くんが止めようとするが伊藤くんは構わず続けた。
「バレンタインチョコもらって、大はしゃぎしてたよこいつ」
隣の松本くんを覗き見ると真っ赤な顔で俯いていた。あっ、松本くんだ。
遠くに行った思い出は踵を返して戻ってきた。やっぱり同級生っていいな。
夫も恒くんも一回り歳上。同い年でしか味わえない空気感。そんなぬるま湯に浸ったような感覚に自然とお酒も進んでいった。
個人経営の小さな居酒屋を貸し切って開催されたクラス会は土曜日の昼下がりから始まった。幸い、夫は社員旅行と称して不倫旅行に出かけている。
誰からも、覚えて貰えてなかったらどうしよう。そんな心配はすぐに解消した。
「優香じゃーん? なに、なんか垢抜けたねー」
「お、水森か?」
会場に着くと矢継ぎ早に話しかけられた。旧姓で呼ばれるのが少しだけくすぐったい。
次々に集まってくる懐かしい顔、不思議なもので十二年ぶりでも。化粧が濃くても、禿げてても。何となく誰だか分かって安心した。
「はい、はーい! それじゃあみなさん一旦席に着いてくださーい」
声を聞いても誰だか全く分からない、けど仕切ってる事でそれが彼だと察した。意味もなくドキドキする。
「とりあえず乾杯しますので、とりあえずビールを、テーブルの。そう、瓶ビールで」
え? だれ?
いや、正確には成長した松本くんだと一目で分かった。みんなも分かってる。ただ。
めちゃくちゃイケメンになってた。
顔の作りは変わってない、もともと可愛らしい顔はしていた。それが時間を掛けて男らしさが加わって、坊主だった頭も韓流アイドルみたいにオシャレになっていた。
何より背が伸びた。
「松本くんめっちゃイケメンになっててウケる」
隣の女子が小声で呟く。
なんだろう、この気持ち。
どこか遠くに行ってしまったような疎外感。
思い出を上書きされたような喪失感。
私は決してカッコいいから好きになったんじゃない。それを何となく誇りに思ってた。けど、今それを言ってもきっと説得力がない。それくらい彼は変わってしまった。
「では、久しぶりの再会にかんぱーい!」
中学校を卒業してからも交流があった子、まるでなかった子。みんな懐かしく当時の思い出を振り返る。
ちゃんとあったんだ、思い出。
ちゃんといたんだ、友達。
くだらない事で大笑いしながら、そう言えばこのクラスはみんな仲が良かった事を思い出す。
次々に増えていく連絡先。「また集まろうよ」なんて言って本当に集まるかは置いといて。久しぶりに楽しい時間を過ごした。
「水森? だよな」
強引に隣に座ってきた松本くんはまじまじと私の顔を観察して言った。
「また、可愛くなったなあ」
また? の意味は分からずに「ありがとう」と返事する。距離が近い。
「結城は水森が好きだったからなぁ」
いつの間にグデグデに酔っている額が怪しい男子、確か伊藤くんが笑いながら言った。
「え?」
「ちょ! やめ」
松本くんが止めようとするが伊藤くんは構わず続けた。
「バレンタインチョコもらって、大はしゃぎしてたよこいつ」
隣の松本くんを覗き見ると真っ赤な顔で俯いていた。あっ、松本くんだ。
遠くに行った思い出は踵を返して戻ってきた。やっぱり同級生っていいな。
夫も恒くんも一回り歳上。同い年でしか味わえない空気感。そんなぬるま湯に浸ったような感覚に自然とお酒も進んでいった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
お隣の犯罪
原口源太郎
ライト文芸
マンションの隣の部屋から言い争うような声が聞こえてきた。お隣は仲のいい夫婦のようだったが・・・ やがて言い争いはドスンドスンという音に代わり、すぐに静かになった。お隣で一体何があったのだろう。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる