17 / 56
17,孤独
しおりを挟む
「はあ? 喧嘩?」
母は呆れたように眉間に皺をよせた。結局行くあてもない私は電車で三十分の実家に帰る。咄嗟に奪い取ったスマートフォンがあれば最近は財布も必要ない。
「うん、ちょっと」
「どうせ、原因はあなたなんでしょう? まったくあんなに出来た旦那さんいないわよ」
ああ、、、。言うと思った。八方美人の内弁慶。私以外には礼儀正しく行儀良く。愛想も良ければ気前もいい。
「はやく謝っちゃいなさいよ、長引いても仕方ないでしょ」
謝る? 私が? 何を?
「離婚、とか……どうかな?」
母の目が途端にスッと据わる。お茶を一口啜ると勢いよくテーブルに置いた、飛沫が飛び散り顔にかかる?
「熱っ」
「このバカ! あんたみたいにだらしない女、他に誰が貰ってくれるの! いい加減にしなさい! 子供も出来ないあんたに文句も言わない出来た旦那さんじゃないの!」
意図的に作ってないんだよ、あんな奴の子供を可愛がれるか。
「ほら、お茶飲んだらさっさと帰る、まったく、この子は」
疫病神を追い払うように家から出された。帰りたくない、どうしよう。
どうしようなんて考えながら行き先は決まっていた、家にも、実家も追い出されたの、だから来ちゃった。
わざわざ実家に行ったのは自分に言い訳する為、恒くんに同情させるため。
電車を乗り継ぐ、家は分かってるから。いきなり行ったら迷惑かな。今日は月曜日、会う日じゃないから少し不安。
恒くんが住むマンションに着いた頃には十二時を回ってた。SNSに送ったメッセージには返信がない。
三階の一番端、電気はついてるからまだ寝てない。それでもオートロックのインターホンを鳴らすのは躊躇われて、エントランスに入っては出てをくり返した。
どうしようか悩んでいると恒くんの部屋のベランダに人影が見えた。
「あっ」
と思った声を無理やり喉の奥に押し込んで体を電柱の影に隠した。人影は髪の長い女だった。
女がタバコを咥えて火につける様子をじっと観察していた。
「だれ?」
小声で呟く。部屋間違えたかな。そんな気もする。
するとベランダに人影がもう一つ、それは愛おしそうに女を後ろから抱きしめる。女が差し出した吸いかけのタバコに口をつけた。オレンジ色の先端が一瞬、明るくなる。
「恒くん……?」
違う、恒くんはタバコ吸わないし。あの女誰だし。もう十二時過ぎてるから今は火曜日。私の日。
二人がベランダから部屋に入ったのを見送ると、フッと電気が消えた。私は混乱と嫉妬が入り混じる感情のまま走ってエントランスを目指す。
オートロックの301を押すと『ピーンポーン』と静かなエントランスに鳴り響く。
出ない、恒くん。出て。
何度も押す、何度も、何度も。
何の反応も無かった、ポケットに入れたスマートフォンが鳴っている。
「恒くん!」
急いで取り出した拍子に手元から離れて床に落ちた。拾うと画面がバキバキに割れていたけど着信は続いてる。
歪んだ画面に表示されたのは旦那の名前だった。私はスマートフォンを思い切り地面に叩きつけるとそれはやっと静かになった。
母は呆れたように眉間に皺をよせた。結局行くあてもない私は電車で三十分の実家に帰る。咄嗟に奪い取ったスマートフォンがあれば最近は財布も必要ない。
「うん、ちょっと」
「どうせ、原因はあなたなんでしょう? まったくあんなに出来た旦那さんいないわよ」
ああ、、、。言うと思った。八方美人の内弁慶。私以外には礼儀正しく行儀良く。愛想も良ければ気前もいい。
「はやく謝っちゃいなさいよ、長引いても仕方ないでしょ」
謝る? 私が? 何を?
「離婚、とか……どうかな?」
母の目が途端にスッと据わる。お茶を一口啜ると勢いよくテーブルに置いた、飛沫が飛び散り顔にかかる?
「熱っ」
「このバカ! あんたみたいにだらしない女、他に誰が貰ってくれるの! いい加減にしなさい! 子供も出来ないあんたに文句も言わない出来た旦那さんじゃないの!」
意図的に作ってないんだよ、あんな奴の子供を可愛がれるか。
「ほら、お茶飲んだらさっさと帰る、まったく、この子は」
疫病神を追い払うように家から出された。帰りたくない、どうしよう。
どうしようなんて考えながら行き先は決まっていた、家にも、実家も追い出されたの、だから来ちゃった。
わざわざ実家に行ったのは自分に言い訳する為、恒くんに同情させるため。
電車を乗り継ぐ、家は分かってるから。いきなり行ったら迷惑かな。今日は月曜日、会う日じゃないから少し不安。
恒くんが住むマンションに着いた頃には十二時を回ってた。SNSに送ったメッセージには返信がない。
三階の一番端、電気はついてるからまだ寝てない。それでもオートロックのインターホンを鳴らすのは躊躇われて、エントランスに入っては出てをくり返した。
どうしようか悩んでいると恒くんの部屋のベランダに人影が見えた。
「あっ」
と思った声を無理やり喉の奥に押し込んで体を電柱の影に隠した。人影は髪の長い女だった。
女がタバコを咥えて火につける様子をじっと観察していた。
「だれ?」
小声で呟く。部屋間違えたかな。そんな気もする。
するとベランダに人影がもう一つ、それは愛おしそうに女を後ろから抱きしめる。女が差し出した吸いかけのタバコに口をつけた。オレンジ色の先端が一瞬、明るくなる。
「恒くん……?」
違う、恒くんはタバコ吸わないし。あの女誰だし。もう十二時過ぎてるから今は火曜日。私の日。
二人がベランダから部屋に入ったのを見送ると、フッと電気が消えた。私は混乱と嫉妬が入り混じる感情のまま走ってエントランスを目指す。
オートロックの301を押すと『ピーンポーン』と静かなエントランスに鳴り響く。
出ない、恒くん。出て。
何度も押す、何度も、何度も。
何の反応も無かった、ポケットに入れたスマートフォンが鳴っている。
「恒くん!」
急いで取り出した拍子に手元から離れて床に落ちた。拾うと画面がバキバキに割れていたけど着信は続いてる。
歪んだ画面に表示されたのは旦那の名前だった。私はスマートフォンを思い切り地面に叩きつけるとそれはやっと静かになった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
お隣の犯罪
原口源太郎
ライト文芸
マンションの隣の部屋から言い争うような声が聞こえてきた。お隣は仲のいい夫婦のようだったが・・・ やがて言い争いはドスンドスンという音に代わり、すぐに静かになった。お隣で一体何があったのだろう。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる