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第一章
第二話 連と葵
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「好きです! 付き合ってもらえませんか」
校舎の裏に呼び出された時点でおそらく告白の類いであろうと思っていたので準備は出来ていた、会話もしたことがないが彼にとっては熟慮断行の思いで告白したに違いない。
だからこそ断るのが申し訳なく感じてしまう。
「ごめんなさい……」
深々と頭を下げて丁寧に断ると彼は幾分スッキリしたような表情になり去っていった。
「モテるねえ、葵ちゃーん」
後ろから突然肩を叩かれてビクッとする。
「ちょっと杏奈、のぞきなんて趣味悪いよ」
「何言ってんのよ、葵を怪しい男が人影少ない校舎裏に連れ込もうとしたから心配で追ってきたのよ」
幼い頃から空手をやっている藤堂杏奈は背も高く先程の細身の男子ならやっつけてしまいそうだ、小学校からの幼馴染でお互いになんでも話せる唯一無二の親友だった。
「また断ったの」
分かっているなら聞かないで欲しい。
「うん」
「ファザコン……か」
「違うし!」
「葵ってさあ、演技はあんなに上手なのに嘘つくの下手だよねえ」
顔を真っ赤にして否定する葵に杏奈が微笑みの眼差しを向ける。
「演技の時はその人物になりきってるから」
ファザコンなのは自覚していた、小さい頃からパパが大好きで蓮の年頃位まで本気で将来はパパと結婚すると思っていた。
「慎吾たちがカラオケ行くって、どうする?」
クラスメイトの仲良しグループだ。
「ごめん、蓮のご飯作らないと行けないから」
今日は蓮とパパが好物のカレーを作る予定だ。
「まったく、華のJKを所帯じみた過ごし方してるわねえ」
やれやれといったようすで杏奈がため息をついた。
「来週の金曜日だったかな、慎吾たちのバンドがライブやるんだってさ、葵を絶対誘えってうるさいのよ」
「あ、そうだね、うん、それは行くよ」
友達付き合いも大事にしなければならない事は分かっている。
「オッケー、じゃあまたね」
遠ざかる杏奈を見届けながら心の中ではチキンカレーにするかポークカレーにするかで悩んでいた。
「やったー、チキンカレーだ!」
小学校のあと友達と児童館で遊んできた蓮がキッチンに入るなりガッツポーズしている、一之瀬家のカレーは蓮が好きなチキンカレーかパパが好きなポークカレーの二択だ。
「前回ポークカレーだったからね」
胸の辺りにある蓮の頭がぴょこぴょこ上下していて可愛い。
「まあ、お姉ちゃんのカレーはどっちも好きだけどさ」
「ありがと」
「おねーちゃん」
「なあに?」
「明にご飯作らせるとかやめてくれよな」
パパは一人暮らしの経験がないらしく料理は全く出来なかった。
「前に明がお昼にチャーハン作ったんだけどさあ、すごい辛くて食べれなかったよ」
「ふふ」
「まったくお姉ちゃんがいなかったらこの家は終わりだな」
なんだかませた事を言っているが、褒めてくれる可愛い弟を抱きしめてヨシヨシする。
「ちょっ! やめろよー」
スルリと腕から逃れるとキッチンから出ていってしまった。
ママが死んでしまった時は絶望感しか無かった、蓮もパパも、私も毎日塞ぎ込んでいた。
何もする気がおきない、人間の体は不思議でそれでもお腹は空く、店屋物やコンビニ弁当、マクドナルドの日々が続いた。
ママは料理が上手で小さい頃からママのお手伝いをしていたから自然に覚えていった。
このままではいけないと思いカレーを作った、ママに最初に習ったカレーは辛いものが苦手なパパと蓮に合わせて甘口だ。
二人はカレーを食べながら泣いていた。
ママの味がすると泣いていた……。
それからは葵が毎日ご飯を作ることにした、少しづつ元気になる二人をみて自分も元気になっていく、ママが残してくれたものは葵が引き継いだ。
「ただいまー、今日はカレーだなあ」
毎日同じ時間にパパは帰ってくる。
「パパおかえりなさい、ちゃんと手を洗ってうがいしてね」
「はいはい、子供じゃないんだから」
ママ……。
あたし達は今幸せだよ。
※
首からぶら下げた鍵で玄関のドアを開けるとふわりと卵焼きの匂いがした。
「ただいまーって、誰もいないか」
お姉ちゃんは今日、友達と遊びに行って遅くなると朝言っていた、絶望感をあらわにすると「オムライス作っておくからレンジでチンしてね」
察したようにお姉ちゃんが言う。
ダイニングテーブルにはオムライスが二つ、ラップがかかって置いてある、指先で触るとまだ温かい、おそらく学校から一度戻りオムライスを作ってから再び出かけたのだろう。
『お鍋にスープ、冷蔵庫にサラダが入ってるから一緒に食べてね』
メモ書きされた紙を見ているとお腹が鳴った、温かいうちに食べてしまおうとキッチンにスプーンを取りに行って立ち止まる。
時計を見ると十七時を過ぎた所だ。
「明を待っててやるか、寂しがるからな」
一人呟くとテレビの脇で充電中のニンテンドーDSを取り出し画面と向き合った。
「ただいまー」
程なくして明が帰ってきた、なにやら両手に大量の袋をぶら下げている。
「あっ、お酒」
「今日は葵がいないからな、好きなだけ飲めるぞ」
「いーけないんだ、いけないんだー!」
すると袋から巨大なコーラとポテチ、チョコレートがでてくる。
「ほう、蓮はコチラの商品がいらないと?」
明は巨大なコーラを蓮がギリギリ届かない高さで見せびらかしている。
「あー! いるいる」
「葵には?」
「シー」
人差し指を口に当てて答えると巨大なコーラを手渡された。
「その前にご飯にしよう、うまそうなオムライスが先だ」
あっという間にオムライスを平らげると明は透明な液体をグラスに注ぎ美味そうに飲み始めた。
「なにそれ」
「これは冷酒だな」
「美味しい?」
「ああ、蓮も大人になったらわかるよ」
普段は体に悪いから飲ませて貰えないコーラを氷がたっぷりと入ったグラスに注ぐ、パチパチと炭酸が弾ける音を聞いているだけで心地よい、一口飲むと喉に程よい刺激と口の中に甘みが広がる。
「コーラよりうまい?」
明は神妙に頷いた。
「ああ、コーラよりもうまい」
「まじか……」
コーラよりうまいものがあるなんて俄かに信じることが出来なかったが明の幸せそうな顔をみるとそうなのだろう。
「姉ちゃんどこいったのかな?」
ダイニングテーブルには明のつまみや蓮が食べ散らかしたお菓子が散乱していた、いまお姉ちゃんに踏み込まれたら大変だ。
「お友達が歌を歌うのを聞きに行くみたい」
明はテレビの野球中継を観ながら答える。
「ふーん」
お姉ちゃんが夜いないなんて珍しい、と言うより初めてじゃないだろうか。
「あー! ダメだ、また負けた」
最近連敗中のジャイアンツがどうやら今日も負けたようだ、明が頭を抱えている。
『ピコピコ』
テーブルの上のスマートフォンが鳴った、時計の針は九時を指している。
「おっ、葵かな」
明がスマートフォンを手に取ると内容を読み上げた。
『パパ、今ライブ終わったよ、杏奈とファミレスでご飯食べてから帰るね。十一時迄には帰るから』
「だってさ、不良少女だな」
明が呟く。
「じゃあもう少しゲームできるよね」
「だめだめ、そろそろ風呂に入らないと」
「チェッ」
仕方なく風呂場に向かうと洗濯機にパンツを放り込む、お姉ちゃんがいないとコーラも飲めるしゲームも沢山できる、けど……。
やっぱりいないと寂しいな――。
校舎の裏に呼び出された時点でおそらく告白の類いであろうと思っていたので準備は出来ていた、会話もしたことがないが彼にとっては熟慮断行の思いで告白したに違いない。
だからこそ断るのが申し訳なく感じてしまう。
「ごめんなさい……」
深々と頭を下げて丁寧に断ると彼は幾分スッキリしたような表情になり去っていった。
「モテるねえ、葵ちゃーん」
後ろから突然肩を叩かれてビクッとする。
「ちょっと杏奈、のぞきなんて趣味悪いよ」
「何言ってんのよ、葵を怪しい男が人影少ない校舎裏に連れ込もうとしたから心配で追ってきたのよ」
幼い頃から空手をやっている藤堂杏奈は背も高く先程の細身の男子ならやっつけてしまいそうだ、小学校からの幼馴染でお互いになんでも話せる唯一無二の親友だった。
「また断ったの」
分かっているなら聞かないで欲しい。
「うん」
「ファザコン……か」
「違うし!」
「葵ってさあ、演技はあんなに上手なのに嘘つくの下手だよねえ」
顔を真っ赤にして否定する葵に杏奈が微笑みの眼差しを向ける。
「演技の時はその人物になりきってるから」
ファザコンなのは自覚していた、小さい頃からパパが大好きで蓮の年頃位まで本気で将来はパパと結婚すると思っていた。
「慎吾たちがカラオケ行くって、どうする?」
クラスメイトの仲良しグループだ。
「ごめん、蓮のご飯作らないと行けないから」
今日は蓮とパパが好物のカレーを作る予定だ。
「まったく、華のJKを所帯じみた過ごし方してるわねえ」
やれやれといったようすで杏奈がため息をついた。
「来週の金曜日だったかな、慎吾たちのバンドがライブやるんだってさ、葵を絶対誘えってうるさいのよ」
「あ、そうだね、うん、それは行くよ」
友達付き合いも大事にしなければならない事は分かっている。
「オッケー、じゃあまたね」
遠ざかる杏奈を見届けながら心の中ではチキンカレーにするかポークカレーにするかで悩んでいた。
「やったー、チキンカレーだ!」
小学校のあと友達と児童館で遊んできた蓮がキッチンに入るなりガッツポーズしている、一之瀬家のカレーは蓮が好きなチキンカレーかパパが好きなポークカレーの二択だ。
「前回ポークカレーだったからね」
胸の辺りにある蓮の頭がぴょこぴょこ上下していて可愛い。
「まあ、お姉ちゃんのカレーはどっちも好きだけどさ」
「ありがと」
「おねーちゃん」
「なあに?」
「明にご飯作らせるとかやめてくれよな」
パパは一人暮らしの経験がないらしく料理は全く出来なかった。
「前に明がお昼にチャーハン作ったんだけどさあ、すごい辛くて食べれなかったよ」
「ふふ」
「まったくお姉ちゃんがいなかったらこの家は終わりだな」
なんだかませた事を言っているが、褒めてくれる可愛い弟を抱きしめてヨシヨシする。
「ちょっ! やめろよー」
スルリと腕から逃れるとキッチンから出ていってしまった。
ママが死んでしまった時は絶望感しか無かった、蓮もパパも、私も毎日塞ぎ込んでいた。
何もする気がおきない、人間の体は不思議でそれでもお腹は空く、店屋物やコンビニ弁当、マクドナルドの日々が続いた。
ママは料理が上手で小さい頃からママのお手伝いをしていたから自然に覚えていった。
このままではいけないと思いカレーを作った、ママに最初に習ったカレーは辛いものが苦手なパパと蓮に合わせて甘口だ。
二人はカレーを食べながら泣いていた。
ママの味がすると泣いていた……。
それからは葵が毎日ご飯を作ることにした、少しづつ元気になる二人をみて自分も元気になっていく、ママが残してくれたものは葵が引き継いだ。
「ただいまー、今日はカレーだなあ」
毎日同じ時間にパパは帰ってくる。
「パパおかえりなさい、ちゃんと手を洗ってうがいしてね」
「はいはい、子供じゃないんだから」
ママ……。
あたし達は今幸せだよ。
※
首からぶら下げた鍵で玄関のドアを開けるとふわりと卵焼きの匂いがした。
「ただいまーって、誰もいないか」
お姉ちゃんは今日、友達と遊びに行って遅くなると朝言っていた、絶望感をあらわにすると「オムライス作っておくからレンジでチンしてね」
察したようにお姉ちゃんが言う。
ダイニングテーブルにはオムライスが二つ、ラップがかかって置いてある、指先で触るとまだ温かい、おそらく学校から一度戻りオムライスを作ってから再び出かけたのだろう。
『お鍋にスープ、冷蔵庫にサラダが入ってるから一緒に食べてね』
メモ書きされた紙を見ているとお腹が鳴った、温かいうちに食べてしまおうとキッチンにスプーンを取りに行って立ち止まる。
時計を見ると十七時を過ぎた所だ。
「明を待っててやるか、寂しがるからな」
一人呟くとテレビの脇で充電中のニンテンドーDSを取り出し画面と向き合った。
「ただいまー」
程なくして明が帰ってきた、なにやら両手に大量の袋をぶら下げている。
「あっ、お酒」
「今日は葵がいないからな、好きなだけ飲めるぞ」
「いーけないんだ、いけないんだー!」
すると袋から巨大なコーラとポテチ、チョコレートがでてくる。
「ほう、蓮はコチラの商品がいらないと?」
明は巨大なコーラを蓮がギリギリ届かない高さで見せびらかしている。
「あー! いるいる」
「葵には?」
「シー」
人差し指を口に当てて答えると巨大なコーラを手渡された。
「その前にご飯にしよう、うまそうなオムライスが先だ」
あっという間にオムライスを平らげると明は透明な液体をグラスに注ぎ美味そうに飲み始めた。
「なにそれ」
「これは冷酒だな」
「美味しい?」
「ああ、蓮も大人になったらわかるよ」
普段は体に悪いから飲ませて貰えないコーラを氷がたっぷりと入ったグラスに注ぐ、パチパチと炭酸が弾ける音を聞いているだけで心地よい、一口飲むと喉に程よい刺激と口の中に甘みが広がる。
「コーラよりうまい?」
明は神妙に頷いた。
「ああ、コーラよりもうまい」
「まじか……」
コーラよりうまいものがあるなんて俄かに信じることが出来なかったが明の幸せそうな顔をみるとそうなのだろう。
「姉ちゃんどこいったのかな?」
ダイニングテーブルには明のつまみや蓮が食べ散らかしたお菓子が散乱していた、いまお姉ちゃんに踏み込まれたら大変だ。
「お友達が歌を歌うのを聞きに行くみたい」
明はテレビの野球中継を観ながら答える。
「ふーん」
お姉ちゃんが夜いないなんて珍しい、と言うより初めてじゃないだろうか。
「あー! ダメだ、また負けた」
最近連敗中のジャイアンツがどうやら今日も負けたようだ、明が頭を抱えている。
『ピコピコ』
テーブルの上のスマートフォンが鳴った、時計の針は九時を指している。
「おっ、葵かな」
明がスマートフォンを手に取ると内容を読み上げた。
『パパ、今ライブ終わったよ、杏奈とファミレスでご飯食べてから帰るね。十一時迄には帰るから』
「だってさ、不良少女だな」
明が呟く。
「じゃあもう少しゲームできるよね」
「だめだめ、そろそろ風呂に入らないと」
「チェッ」
仕方なく風呂場に向かうと洗濯機にパンツを放り込む、お姉ちゃんがいないとコーラも飲めるしゲームも沢山できる、けど……。
やっぱりいないと寂しいな――。
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