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第三十三話 復讐④
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なんでこんなことに。ニキビの男は真っ暗な山の中で頭に懐中電灯を付けて足元を照らしていた。スコップを持った手に力が入らない、すでに五時間以上は掘り続けていた。
「まだ掘るんですか?」
タバコを吸いながら、つまらなそうに辺りをウロウロしている渡辺にニキビは問いかけた。
「ん、あー、まだもうちょっと、お前達が完全にすっぽり埋まるくらい掘らないと」
背を向けて、一心不乱に掘り進めているノッポはもう精神が崩壊しているのかもしれない。
この穴は自分達が入る墓だ――。
自分達が埋められる穴を自分達で掘っているのだ。
「死体を埋めるから手伝ってくれ」
渡辺から連絡があった時にはなにも不信感は抱かなかった。死体処理は初めてだが、そんな仕事もあるだろうとは考えていた。組織が所有する千葉の山は死体遺棄の為だけに所有しているようだ。
相棒のノッポも一緒だった、相棒と言っても名前も知らない、異変に気がついたのは穴を掘り始めて数時間経ってからだった。死体を埋める為に穴を掘っているのに、肝心の死体が無いではないか。
「こないだの女、交通事故で死んだってよ」
腰の深さまで掘り進めたあたりで渡辺が呟いた、こないだの女、少し考えて思い至る。ラブホテルに連れ込んで犯した女だ。
『薬は使うなよ』
渡辺に釘を刺されていた、にも関わらず女に薬物を使用したのだ。あまりに反応がない女に興が削がれた。全く反応しないマグロ女は美しい分余計に気味が悪く、マネキンのようだった。
これは組織に迷惑をかけた人間への制裁だ、あとどれくらいか分からないが、穴を掘り終えた所で殺されるに違いない。
足が震えて上手く立てない、スコップを杖代わりにしてなんとか体勢を保つ。
「どうした、早くしないと帰れないぞー」
頭上から渡辺の声が聞こえてくる、穴はすでにニキビの背丈よりも深く掘られている、広さも四畳半くらいはありそうだ。
「わ、渡辺さん、僕たち殺されるんですか」
震えた声をなんとか絞り出した、なぜこんなに掘り進める前に反撃しなかったのか。これでは穴から這い上がるのも困難だ。
「ははは、どうしてお前達が? やっぱりお前面白いな」
少しでも命を先延ばしにしないと、チャンスを待つしかない。カチカチと奥歯を鳴らしながら震える手で穴を掘り続けた。
「あら、白石さん、どうしたんですか」
『パンパンッ!』
渡辺の声と、乾いた音が同時に頭上に響いた。黒い塊が落ちてきてその場に尻餅をついた。塊をどかして確認するとそれは渡辺だった。
「うわー」
ノッポがコチラを振り向いたが、何事も無かったように穴掘りを再開した。
見上げると高そうなスーツを着た几帳面そうな男が立っている、頭に装着したライトが当たり眩しそうにしていた。ニキビはライトのスイッチを切った。
「あなたは」
神の救いか、悪魔の使いか……。
「白石だ」
後者だった、この組織にいてその名前を知らない人間はいない、残虐非道、冷酷、手段を選ばない、顔も知らない上司をみな恐れていた。
「助けてください」
「まったく、お前達のせいで娘は攫われるわ、後始末をさせられるはで……」
白石はブツブツと文句を言いながらタバコに火をつけた。スマートフォンを取り出して耳に当てる。
「ああ、いま渡辺を始末した」
そう言うとスマートフォンをコチラに向ける。
「ほら、コイツらで間違いないだろ」
ビデオ通話でもしているのだろうか、相手の声が聞こえてくるが内容までは聞き取れない。
「おい、そっちのデカいの、こっち来い」
ノッポは呼ばれると作業を中断してこちらに歩いてきた。変わらず白石はスマートフォンをコチラに向けている。
『パンッ!』
ノッポはぐらりと膝が折れて、その場に倒れた。
「うわっ、うわぁー! いやだ、殺さないで」
白石から距離を取るように後ずさる、スマートフォンと、銃口がコチラを向いていた。
「え、ああ、分かったよ、弾も結構高いんだからな」
「パンッ」
銃弾がニキビの足元に弾けた。
「ひっ」
「あっこら、避けるな」
銃口が腹の辺りを向いている、ニキビは叫びながら穴の中を走り回る。
「ちょ、動くな」
『パンパンッ』
太ももに命中すると、その場に崩れ落ちた。
『カチッカチッ』
「あ、弾切れ、こいつは六発しか入ってなかったんだ」
「あ、あ、やだ、死にたく無い」
太ももの激痛に耐えながら穴の上をみた、すると一発の乾いた音と共にドサッと何か大きな物が穴に落ちてきた、それはたった今自分を殺そうとしていた白石だった。眉間に銃弾の跡があり絶命している。
「えっ、なんで」
混乱していると、また別の人影が頭上に現れた、冷たい目をした背の高い男がメガネ越しにジッとコチラをみている。
「生き埋めは苦しいだろう」
何かを放り投げると「ガチャッ」と銃のような物が落ちてきた、筒が二本にトリガーが付いているが、いかにも手作りといった代物だ。
「あと一発撃てる、良かったら使え」
そう言い残すと男は穴から遠ざかっていった、そして十分もしない内にショベルカーに乗って再び現れた。
「え、え」
ニキビは焦るが、撃たれた足が痛くて身動きが取れない。ショベルカーは穴の外に溜まった土を掬って穴に投入する、一撃で大量の土が流れ込んできた、白石の姿はすでに確認できない。
「やめて、やめてください」
ニキビの声が届いていないのか、男は淡々と土を投入してくる、あっという間に頭まで土に埋まる。土の重みと呼吸が出来ない苦しみ、ニキビは男に渡された銃を使いたかったが、すでにまったく身動きが取れなかった。穴が平らにならされた頃には、四人全員がすでに絶命していた。
「まだ掘るんですか?」
タバコを吸いながら、つまらなそうに辺りをウロウロしている渡辺にニキビは問いかけた。
「ん、あー、まだもうちょっと、お前達が完全にすっぽり埋まるくらい掘らないと」
背を向けて、一心不乱に掘り進めているノッポはもう精神が崩壊しているのかもしれない。
この穴は自分達が入る墓だ――。
自分達が埋められる穴を自分達で掘っているのだ。
「死体を埋めるから手伝ってくれ」
渡辺から連絡があった時にはなにも不信感は抱かなかった。死体処理は初めてだが、そんな仕事もあるだろうとは考えていた。組織が所有する千葉の山は死体遺棄の為だけに所有しているようだ。
相棒のノッポも一緒だった、相棒と言っても名前も知らない、異変に気がついたのは穴を掘り始めて数時間経ってからだった。死体を埋める為に穴を掘っているのに、肝心の死体が無いではないか。
「こないだの女、交通事故で死んだってよ」
腰の深さまで掘り進めたあたりで渡辺が呟いた、こないだの女、少し考えて思い至る。ラブホテルに連れ込んで犯した女だ。
『薬は使うなよ』
渡辺に釘を刺されていた、にも関わらず女に薬物を使用したのだ。あまりに反応がない女に興が削がれた。全く反応しないマグロ女は美しい分余計に気味が悪く、マネキンのようだった。
これは組織に迷惑をかけた人間への制裁だ、あとどれくらいか分からないが、穴を掘り終えた所で殺されるに違いない。
足が震えて上手く立てない、スコップを杖代わりにしてなんとか体勢を保つ。
「どうした、早くしないと帰れないぞー」
頭上から渡辺の声が聞こえてくる、穴はすでにニキビの背丈よりも深く掘られている、広さも四畳半くらいはありそうだ。
「わ、渡辺さん、僕たち殺されるんですか」
震えた声をなんとか絞り出した、なぜこんなに掘り進める前に反撃しなかったのか。これでは穴から這い上がるのも困難だ。
「ははは、どうしてお前達が? やっぱりお前面白いな」
少しでも命を先延ばしにしないと、チャンスを待つしかない。カチカチと奥歯を鳴らしながら震える手で穴を掘り続けた。
「あら、白石さん、どうしたんですか」
『パンパンッ!』
渡辺の声と、乾いた音が同時に頭上に響いた。黒い塊が落ちてきてその場に尻餅をついた。塊をどかして確認するとそれは渡辺だった。
「うわー」
ノッポがコチラを振り向いたが、何事も無かったように穴掘りを再開した。
見上げると高そうなスーツを着た几帳面そうな男が立っている、頭に装着したライトが当たり眩しそうにしていた。ニキビはライトのスイッチを切った。
「あなたは」
神の救いか、悪魔の使いか……。
「白石だ」
後者だった、この組織にいてその名前を知らない人間はいない、残虐非道、冷酷、手段を選ばない、顔も知らない上司をみな恐れていた。
「助けてください」
「まったく、お前達のせいで娘は攫われるわ、後始末をさせられるはで……」
白石はブツブツと文句を言いながらタバコに火をつけた。スマートフォンを取り出して耳に当てる。
「ああ、いま渡辺を始末した」
そう言うとスマートフォンをコチラに向ける。
「ほら、コイツらで間違いないだろ」
ビデオ通話でもしているのだろうか、相手の声が聞こえてくるが内容までは聞き取れない。
「おい、そっちのデカいの、こっち来い」
ノッポは呼ばれると作業を中断してこちらに歩いてきた。変わらず白石はスマートフォンをコチラに向けている。
『パンッ!』
ノッポはぐらりと膝が折れて、その場に倒れた。
「うわっ、うわぁー! いやだ、殺さないで」
白石から距離を取るように後ずさる、スマートフォンと、銃口がコチラを向いていた。
「え、ああ、分かったよ、弾も結構高いんだからな」
「パンッ」
銃弾がニキビの足元に弾けた。
「ひっ」
「あっこら、避けるな」
銃口が腹の辺りを向いている、ニキビは叫びながら穴の中を走り回る。
「ちょ、動くな」
『パンパンッ』
太ももに命中すると、その場に崩れ落ちた。
『カチッカチッ』
「あ、弾切れ、こいつは六発しか入ってなかったんだ」
「あ、あ、やだ、死にたく無い」
太ももの激痛に耐えながら穴の上をみた、すると一発の乾いた音と共にドサッと何か大きな物が穴に落ちてきた、それはたった今自分を殺そうとしていた白石だった。眉間に銃弾の跡があり絶命している。
「えっ、なんで」
混乱していると、また別の人影が頭上に現れた、冷たい目をした背の高い男がメガネ越しにジッとコチラをみている。
「生き埋めは苦しいだろう」
何かを放り投げると「ガチャッ」と銃のような物が落ちてきた、筒が二本にトリガーが付いているが、いかにも手作りといった代物だ。
「あと一発撃てる、良かったら使え」
そう言い残すと男は穴から遠ざかっていった、そして十分もしない内にショベルカーに乗って再び現れた。
「え、え」
ニキビは焦るが、撃たれた足が痛くて身動きが取れない。ショベルカーは穴の外に溜まった土を掬って穴に投入する、一撃で大量の土が流れ込んできた、白石の姿はすでに確認できない。
「やめて、やめてください」
ニキビの声が届いていないのか、男は淡々と土を投入してくる、あっという間に頭まで土に埋まる。土の重みと呼吸が出来ない苦しみ、ニキビは男に渡された銃を使いたかったが、すでにまったく身動きが取れなかった。穴が平らにならされた頃には、四人全員がすでに絶命していた。
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