上 下
27 / 30

第二十七話 美波の初夜。

しおりを挟む
「ねえねえ、海斗くんの子供が欲しい」
「はあああ?」
 書斎にノックもしないで入って懇願すると、呆れたようにコチラを一瞥して再びパソコンに向き直った。
「後で相手してやるから向こういっとけ」
 猫かあたしは、まったく海斗くんはイマイチ女心が分かっていない、デリカシーもない、今までの彼女はどうしてたのだろうか。
「浮気してやる」
「へ?」
「海斗くんが抱いてくれないから浮気してやるー」
「抱いてってお前……」
 海斗くんの言葉は無視して部屋を飛び出した、分かっている、子供を作ることなんてできるはずがない、でも、いったい自分は何のために現世に留まっているのか。海斗くんが言う通り、やり残した事があるから成仏出来ないだけなのだろうか。
 家を飛び出すと当てもなくブラブラと歩いた、連日の猛暑で外にはあまり人がいない、地球に恨みでもあるのだろうか、燦々と降り注ぐ太陽は容赦なくアスファルトを照らしていた。近くの公園には誰も遊んでいる子供がいない、日陰に設置されたベンチに座った。
 このままでいいのだろうか――。
 最近考えることはそんな事ばかりだった、このまま永遠に夏休みを繰り返す、変わらない自分とどんどん年齢を重ねる海斗くん、いずれ海斗くんもお爺ちゃんになって死んでいく、そうしたら美波はどうなってしまうのだろうか。誰も自分のことを知らない世界で永遠に生きていく事は死ぬよりも恐ろしいことに思えた。
「欲しいな、海斗くんの子供……」
 神様に聞こえるように声に出して呟いた、両親を訪ねて子供の大切さを聞いた事も影響しているのかも知れない、なにか現世において生きていた証を残したい。
 八年前にリセットしたはずの人生にはどういう訳か続きがあった、それはせっかく貰った命を簡単にリセットした事を後悔させるように神様が用意した罰なのかも知れない。
「暑くないのか」
 目の前に影が伸びる、その先には海斗くんがいた。
「すごい暑い」
「だろうな、ほら」
 細い缶のサイダー、去年の夏祭りで美波が好きだと言ってから家からストックが無くなった事がない。
「どうして海斗くんはそんなに優しいの?」
 もっと海斗くんが嫌なやつだったら、全然好きにならなければ、あの時話しかけなかったら、自殺なんてしなければ――。
「美波を愛してるからだよ」   
 生きている時に出会いたかった、夏休みだけじゃなくてずっと海斗くんの側にいたかった、結婚して幸せな家庭を作りたかった、二人の子供が欲しかった。 
「美波は海斗くんを不幸にしてないかな」
 ずるい質問。
「そんな訳ないだろ、馬鹿なこと言うな」 
 そう言うに決まってるよね。
「その、別に子供とかあんまり興味ないからさ、気にするなよ」 
 うそ、自惚れかも知れないけど、きっと海斗くんは美波との子供が欲しいはず、もっとずっと一緒にいたいはず。
「美波と海斗くんの子供だったらさ、ぜったい野球選手だよね」
 名前は何にしよう、女の子だったら、男の子だったら、そんな普通の会話が美波達には成り立たない。
「美波……」
「うそうそ、ごめんね、困らせちゃって、帰ろっか」
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

賞金王と呼ばれた男 〜童貞の果てしなき挑戦〜

桐谷 碧
ライト文芸
 二十二歳の若さでボートレース史上最年少賞金王に輝いた佐藤寿木也は童貞だった、小、中、高校時代を野球に捧げ、卒業するとすぐに競艇選手を育成する養成所に通った。  八方美人で、見栄っ張り、しかし見栄を張るためには努力を惜しまない男は、またも青春時代を競艇に捧げる。その甲斐あって競艇選手としては超一流となった佐藤は童貞を捨てるべく、彼女探しに奔走し始める。そんな時にキャバクラで出会った星野莉菜の見た目は、佐藤のどストライクだった。  寿木也に思いをよせる幼馴染の絵梨香の登場で三人の恋の行方は混沌としていく、さらに八百長を斡旋する組織『ヘルメス』が佐藤に忍び寄る。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

コント:通信販売

藍染 迅
ライト文芸
ステイホームあるある? 届いてみたら、思ってたのと違う。そんな時、あなたならどうする? 通販オペレーターとお客さんとの不毛な会話。 非日常的な日常をお楽しみください。

処理中です...