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第二十七話 美波の初夜。
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「ねえねえ、海斗くんの子供が欲しい」
「はあああ?」
書斎にノックもしないで入って懇願すると、呆れたようにコチラを一瞥して再びパソコンに向き直った。
「後で相手してやるから向こういっとけ」
猫かあたしは、まったく海斗くんはイマイチ女心が分かっていない、デリカシーもない、今までの彼女はどうしてたのだろうか。
「浮気してやる」
「へ?」
「海斗くんが抱いてくれないから浮気してやるー」
「抱いてってお前……」
海斗くんの言葉は無視して部屋を飛び出した、分かっている、子供を作ることなんてできるはずがない、でも、いったい自分は何のために現世に留まっているのか。海斗くんが言う通り、やり残した事があるから成仏出来ないだけなのだろうか。
家を飛び出すと当てもなくブラブラと歩いた、連日の猛暑で外にはあまり人がいない、地球に恨みでもあるのだろうか、燦々と降り注ぐ太陽は容赦なくアスファルトを照らしていた。近くの公園には誰も遊んでいる子供がいない、日陰に設置されたベンチに座った。
このままでいいのだろうか――。
最近考えることはそんな事ばかりだった、このまま永遠に夏休みを繰り返す、変わらない自分とどんどん年齢を重ねる海斗くん、いずれ海斗くんもお爺ちゃんになって死んでいく、そうしたら美波はどうなってしまうのだろうか。誰も自分のことを知らない世界で永遠に生きていく事は死ぬよりも恐ろしいことに思えた。
「欲しいな、海斗くんの子供……」
神様に聞こえるように声に出して呟いた、両親を訪ねて子供の大切さを聞いた事も影響しているのかも知れない、なにか現世において生きていた証を残したい。
八年前にリセットしたはずの人生にはどういう訳か続きがあった、それはせっかく貰った命を簡単にリセットした事を後悔させるように神様が用意した罰なのかも知れない。
「暑くないのか」
目の前に影が伸びる、その先には海斗くんがいた。
「すごい暑い」
「だろうな、ほら」
細い缶のサイダー、去年の夏祭りで美波が好きだと言ってから家からストックが無くなった事がない。
「どうして海斗くんはそんなに優しいの?」
もっと海斗くんが嫌なやつだったら、全然好きにならなければ、あの時話しかけなかったら、自殺なんてしなければ――。
「美波を愛してるからだよ」
生きている時に出会いたかった、夏休みだけじゃなくてずっと海斗くんの側にいたかった、結婚して幸せな家庭を作りたかった、二人の子供が欲しかった。
「美波は海斗くんを不幸にしてないかな」
ずるい質問。
「そんな訳ないだろ、馬鹿なこと言うな」
そう言うに決まってるよね。
「その、別に子供とかあんまり興味ないからさ、気にするなよ」
うそ、自惚れかも知れないけど、きっと海斗くんは美波との子供が欲しいはず、もっとずっと一緒にいたいはず。
「美波と海斗くんの子供だったらさ、ぜったい野球選手だよね」
名前は何にしよう、女の子だったら、男の子だったら、そんな普通の会話が美波達には成り立たない。
「美波……」
「うそうそ、ごめんね、困らせちゃって、帰ろっか」
「はあああ?」
書斎にノックもしないで入って懇願すると、呆れたようにコチラを一瞥して再びパソコンに向き直った。
「後で相手してやるから向こういっとけ」
猫かあたしは、まったく海斗くんはイマイチ女心が分かっていない、デリカシーもない、今までの彼女はどうしてたのだろうか。
「浮気してやる」
「へ?」
「海斗くんが抱いてくれないから浮気してやるー」
「抱いてってお前……」
海斗くんの言葉は無視して部屋を飛び出した、分かっている、子供を作ることなんてできるはずがない、でも、いったい自分は何のために現世に留まっているのか。海斗くんが言う通り、やり残した事があるから成仏出来ないだけなのだろうか。
家を飛び出すと当てもなくブラブラと歩いた、連日の猛暑で外にはあまり人がいない、地球に恨みでもあるのだろうか、燦々と降り注ぐ太陽は容赦なくアスファルトを照らしていた。近くの公園には誰も遊んでいる子供がいない、日陰に設置されたベンチに座った。
このままでいいのだろうか――。
最近考えることはそんな事ばかりだった、このまま永遠に夏休みを繰り返す、変わらない自分とどんどん年齢を重ねる海斗くん、いずれ海斗くんもお爺ちゃんになって死んでいく、そうしたら美波はどうなってしまうのだろうか。誰も自分のことを知らない世界で永遠に生きていく事は死ぬよりも恐ろしいことに思えた。
「欲しいな、海斗くんの子供……」
神様に聞こえるように声に出して呟いた、両親を訪ねて子供の大切さを聞いた事も影響しているのかも知れない、なにか現世において生きていた証を残したい。
八年前にリセットしたはずの人生にはどういう訳か続きがあった、それはせっかく貰った命を簡単にリセットした事を後悔させるように神様が用意した罰なのかも知れない。
「暑くないのか」
目の前に影が伸びる、その先には海斗くんがいた。
「すごい暑い」
「だろうな、ほら」
細い缶のサイダー、去年の夏祭りで美波が好きだと言ってから家からストックが無くなった事がない。
「どうして海斗くんはそんなに優しいの?」
もっと海斗くんが嫌なやつだったら、全然好きにならなければ、あの時話しかけなかったら、自殺なんてしなければ――。
「美波を愛してるからだよ」
生きている時に出会いたかった、夏休みだけじゃなくてずっと海斗くんの側にいたかった、結婚して幸せな家庭を作りたかった、二人の子供が欲しかった。
「美波は海斗くんを不幸にしてないかな」
ずるい質問。
「そんな訳ないだろ、馬鹿なこと言うな」
そう言うに決まってるよね。
「その、別に子供とかあんまり興味ないからさ、気にするなよ」
うそ、自惚れかも知れないけど、きっと海斗くんは美波との子供が欲しいはず、もっとずっと一緒にいたいはず。
「美波と海斗くんの子供だったらさ、ぜったい野球選手だよね」
名前は何にしよう、女の子だったら、男の子だったら、そんな普通の会話が美波達には成り立たない。
「美波……」
「うそうそ、ごめんね、困らせちゃって、帰ろっか」
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