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第二十五話 美波、両親と再開する。

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八回目の夏休みも中盤に差し掛かったある日、ツイッターのDMを確認していて思考が一瞬停止した。
『突然のメッセージで失礼致します、私、星野純子と申します。いつも楽しく動画を拝見して――』
 心臓の鼓動が速くなる、書斎で仕事中の海斗くんの部屋に飛び込んだ。
「ママからメッセージがきた」
 機械音痴でスマホの操作もろくに出来ないママがどうやって動画を見たり、SNSにメッセージを送ったり出来たのかは不明だった。
「え、まじ?」
「あっちゃだめかな」
 メッセージには誠に勝手ながら、他界した娘に自分が似ている事、無理だと分かりながら一度お目にかかりたい旨が丁寧に書かれている。
「そりゃさすがに、動画なら似たような女の子で済むけど会ったらバレるんじゃないか」
「うん……」
「まあ、でもいっか別に」
 バレたところでリスクはない、親が幽霊になった娘を晒し者にするとも思えない。
「でも、成仏させようとするかも」
「なるほど、それは困る」
 海斗くんは、顎に手を当てて考え込んでいる。
「よし、あくまでそっくりさん、それが通せるなら行っても良いと思うよ」

『メッセージありがとうございます、娘さんのことお悔やみ申し上げます、もし私に出来ることがあれば協力させて頂きます。お住まいはどちらでしょうか』
 ダイレクトメッセージに送信するとしばらくして感謝の意と住所、連絡先が送られてきた、それは確かに実家の住所で、もしかしたら悪戯かも知れないという考えは払拭された。コチラから伺う旨を返信すると、お願いしている私共が伺いますと連絡が来る。何度かやり取りを繰り返し、結局は美波が自宅に伺うという事で話はまとまった。
「海斗くんも付いてきてよ」
 一人だとボロが出るかも知れない。
「いや、構わないけど、去年お母さんに会ってるからバレないかな」
 そうだった、海斗くんが美波にお線香をあげに行ったのを忘れていた、しかしちょいと変装すればバレないだろう、お母さんは昔から人の顔を全然覚えない。 
「大丈夫、大丈夫、メガネ掛けちゃえばバレないよきっと」
「本当かよ」
 二日後、約束の時間に実家に向かった、久しぶりの赤羽駅は少しだけ綺麗になっていたが相変わらず駅前には売れそうにないミュージシャンや、理由は不明だが窓を開けたまま音楽を爆音で聞いているワンボックス、昼間からワンカップを飲んで地べたに座っているホームレスで賑わっていた。きっと海斗くんはこの街が嫌いだろうな。
「暑いなあー」
「スーツなんて着てくるからだよ」
 美波の親御さんに合うのにラフな格好では失礼だと言って、仕事でも着ないスーツに袖を通していた、かっちりと髪を固めてメガネを掛けると凄腕の弁護士みたいでカッコよかった。
「タクシー乗ろうよ」
「だーめ、歩いて直ぐなんだから」
 海斗くんは少し運動不足気味だから歩かせたほうが良いだろう。
「はーい」
 しかしまてよ、これはまるで結婚報告に向う婚約者みたいではないか、そう考えると緊張感がワクワクに変わった、冗談でも良いから「美波さんを僕にください」なんて言ってくれないかなぁ。
「なにニヤけてるんだよ」
「べーつにー」 
 商店街を抜けて一軒家が多い住宅地に入る、ここから先の景色は八年前と殆ど変わっていない、そう安々と一軒家が建て替えられる事はないのだろう。しかし景色が変わらないというのはどこか安心する、時が止まったままの自分の様に、この街もまた時間が停止したように変わらない風景を保っている。
 鉄棒と砂場、ブランコだけの公園を通り過ぎると三階建ての茶色い一軒家が現れた、家の前には白い車が停車している。
「なんか、緊張するね」
「ああ、緊張してきた」
 約束の時間、五分前にインターホンを押した、バタバタと階段を降りてくる足音が外まで聞こえてきた。玄関の扉が開く。
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