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第十六話 美波、ユーチューバーになる。③

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『グーグルのアカウントを取得してください』

 アカウントとは何の事だろう、グーグルは知っている、アメリカの会社だ。ユーチューブとアメリカの会社が何の関係があるのだろう、よく考えてみたら自分はあまり機械に詳しくない事に気が付いた、スマホの初期設定すらできない。早くも挫折しそうで天井を見上げてため息をつくと後ろから視線を感じた、海斗くんが私のスマホを覗き込んでいる。

「手伝ってやろうか」

 ニヤニヤした顔を近づけてきた、かー憎たらしい、しかしここは海斗くんの助力が必要だ、まったく先に進めないのだから。

「お願いします……」  

「何にせよパソコンでやったほうが良いな」

 そう言って書斎に入るとノートパソコンを抱えて戻ってきた。

「これやるから、前に使っていたやつだけどまだ全然」

 パソコンを起動させると、カタカタと何やら打ち込んでいる、アッという間にアカウントは取得された。

「で、なんの動画を上げるわけ」 

 それが問題だった、人気のあるユーチューバーの中にはカップルで動画を撮って上げている人達も多いらしい、カップルかあ。

「海斗くんと美波のカップチャンネルとか」

「絶対に嫌だ」

 意志の強さが語尾に現れていた、確かに海斗くんがユーチューバーになって動画に出ている姿は想像できない、どうしようか、自分の得意分野といえばソフトボール、野球。それから午後はずっと何を配信するか悩んでいた、パソコンで検索したがコレと言って良いアイデアも浮かんでこない。

「取り敢えず撮ってみるかな」

 なんの計画もなくスマートフォンを動画撮影モードにしてダイニングテーブルの上に置いた、ティッシュ箱に立てかけて角度を付けると画面には自分の姿が映し出された。

「どーもー、星野美波でーす」

 流石に本名はまずいか、みんなニックネームのような物を付けていた事を思い出した、ニックネームねえ。

「どーもー、ホシミナでーす、今日はワイルドピッチとパスボールの違いについて解説していきまーす、野球初心者のそこの君、ホシミナチャンネルで目指せメジャーリーグ」

 イェイイェイ、とダブルピースしていると後ろから大爆笑が聞こえてきた、書斎で仕事をしていたはずなのにいつの間にか出てきたようだ。

「プッ、クククッ、誰が観るんだよそれ、ワイルドピッチとパスボールの違いって、美波、冗談だろ」

 腹を抱えて笑っている、今日は久しぶりに逢ったというのにこの仕打ち、絶対に良い動画を作ってやる。

「これは練習だから良いの、もう、そんな馬鹿にして、海斗くん嫌い」

「ごめんごめん、あまりにおもしろ――、いや可愛らしくて」 

「じゃあキスして」  

 目をつぶって首の角度を上げた。

「それは駄目だ、美波が成仏しちゃうかも知れない」

 海斗くんは自分の仮説をかなり信用している、本当だろうか、やり残した事を全て叶えた時に美波は成仏する、つまり夏休みをループするのもお終い、海斗くんともサヨウナラ。それは私も嫌だから強く反論はしない。

「まあ、最初から上手くはいかないよ、取り敢えずカメラを固定する機材くらい合ったほうが良いな、動画の編集するならソフトも必要だし、秋葉原でも行くか」

「うん」

 
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