午前0時の転生屋

玖保ひかる

文字の大きさ
上 下
5 / 16

第5話 クロとディーの出会い

しおりを挟む

 ある日天界に、小さい黒猫が現れた。よろよろとふらつきながら、天界の門をくぐったのは、クロである。

 飼い主の女の子に襲い掛かった暴漢に勇敢にもかみつき、ひっかき、果敢に戦った結果、投げ飛ばされて死んでしまったが、クロが頑張っている間に、物音を聞きつけ人が来たため、女の子は助かった。


(よかったにゃ…。さみしいけれど、バイバイにゃ…)


 魂になって天に昇りかけたとき、ものすごい力で引っ張られる感じがして、気が付けば天界の入り口にいた。


(今の力はにゃんだろう…。ここはどこだろう…。あぁ…おにゃかすいたにゃ)


 フラフラと歩いているクロを見て、天界の人々は冷たい視線を向ける。


「黒猫?なんて不吉な」

「猫の死神だと?!まさか終末戦争が始まるのか?!」


 口々に恐ろしいことを言うので、クロは人目を避けて何日も過ごした。お腹がすいても、だれにも食べ物を与えてもらえなかった。


(もう、力が出にゃい…。消えちゃいそうなのよ…。もう一度あの子のもとに行きたかったにゃ)


 クロが小さな瞳から、小さな涙を流したその時、柔らかい体を持ち上げる手があった。


「おい、大丈夫か」


 それがクロとディーの出会いだった。

 ディーは部屋にクロを連れて行くと、ミルクを温めて飲ませた。クロは少しずつなめて用意したミルクを全部飲んだ後、意識を失うように眠りに落ちた。寝ている間も、ディーは何度もクロの頭を優しくなでた。

 クロが目覚めて食事を取れるようになると、ディーはクロをラダの執務室に連れて行った。


「おや、その子は。小さいかわいい子ですね」

「さまよっていたので拾いました。その、黒猫だったから」


 ラダは一つ力強く頷いた。


「話ができるようにしましょう」


 そう言ってラダは指をパチリと鳴らした。すると、小さな黒猫だったクロの体は、くるりと回転して人型に変化した。もとが子猫だからか、まだ年端もいかない少年の姿だ。

 黒い髪に、黒い耳、柔らかそうな毛の黒い尻尾。

 ディーはびっくりしてクロの体をまじまじと見つめた。

 クロ自身も自分の手を見つめて、手を握ったり開いたりしてみている。そのあと、手で顔を触って見て、「ヒゲがにゃいー!」と叫んでいる。

 ラダはふふふ、と嬉しそうに笑った。

「ぼく人間ににゃったの?!」

「いいえ、人型が取れるようになっただけです」

「にゃんだ、そうかー。びっくりしたのよ」

「名前は何と言うのですか」

「にゃまえ…」


 クロは目をしばしばさせながら考え、そして答えた。


「クロ」

「クロというのですね。ディー、世話をしておあげなさい。元気になったら、仕事のことを説明しましょう」


 ディーは無言で頷いた。ラダの執務室から出たとき、クロは丸い目をごしごしとこすった。


「あの人はだれ?」

「ラダ様だ」

「ディーはラダ様を見てもまぶしくにゃいの?ぼくはまぶしくて目がチカチカするのよ」


 クロには、ラダは光の粉をまき散らしているみたいに見えた。あのように美しい人を見たことはなかった。


「ああ、直視しなければ大丈夫だ」

「直視?」

「まっすぐ見なければいいんだ」

「えー、でもラダさま、美しいから顔は見たいにゃ。どうやって見ればいいにゃ」

「たしかにラダ様は美しいが、ラダ様が言うにはハーデス様はもっと美しいらしい」

「にゃ!?じゃあハーデス様を見たら目がつぶれちゃうのよ」

「ははは、大丈夫だよ。俺たちがハーデス様にお会いすることはないから」


 しばらくディーの部屋で世話をされ、すっかり元気を取り戻すと、何度もくるりと回っては猫になったり人になったりしてみた。

 人型になったときでも、耳と尻尾がついているのが、クロとしては誇らしかった。

 ディーの部屋の隅に、キラキラと光る粒が入っている透明な瓶があった。クロはその瓶が気に入って、何度もうっとりと眺めた。


「ディー、このキラキラはにゃに?」

「それは星のかけらだ」

「星のかけら、きれい」

「ああ、きれいだな。いっぱい集めると願いをかなえてもらえるんだ」

「えー!すごい!ぼくもほしいのよ!」

「…叶えたい願いがあるのか?」

「飼い主のもとにかえりたいのよ。とってもとっても大切な人にゃのよ」


 クロは大好きな飼い主の女の子を思い出した。茶色いおかっぱの髪を揺らして、楽しそうに笑うあの子。毎日たくさん遊んでくれた。毎日一緒にご飯を食べて、一緒に眠った。


「そうか。叶うといいな」

「うん!」


 クロの笑顔に、ディーは久しぶりに安らぎを感じるのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...