4 / 16
第4話 意地悪な天界人
しおりを挟む「ラダ様からオッケー出ましたにゃ」
ディーはわずかに眉を上げた。正直、許可が出るとは思っていなかった。転生者の希望で転生先が決まることなど、滅多にあることではない。
ディーとしては、ラダが良いと言うならその指示に粛々と従うだけである。
「聞いた通りだ。君は再び君がいた世界に転生する。それでよいな?」
「ええ、神に感謝いたします」
「希望を確認。クロ、世界の扉を開いてくれ」
「了解にゃ」
クロが再びキーボードを打ち込み始める。最後のエンターキーを力強くタン!と押し、準備が整ったようだ。
「準備完了にゃ」
空間に魔法陣が浮き出た。
「その魔法陣に乗って」
強い決意を瞳にこめて、ジョセフィーヌは魔法陣の中に立った。ピカッと強い光が出て辺りを明るく照らした。
次の瞬間、ジョセフィーヌごと光の輪は消えた。どうやら無事、元いた世界へ転生を果たしたようだ。
「転生完了を確認」
「お疲れ様にゃ」
クロは腑に落ちない様子で首をかしげていた。
「どうした?」
「んー、ぼくにはわからにゃいのよ。行くはずだったテュケー世界はどうにゃってしまうにゃ?予定が変わっても大丈夫にゃのか?」
「それは俺たちが考えても仕方のないことだが…。転生陣を見たか?今回の転生は時戻りだった。彼女は記憶を持ったまま過去へ戻り、人生をやり直す。きっと結末は変わるだろう。それをラダ様が許可したと言うことは、彼女の転生で修正すべきゆがみはこちらの世界の側にあったんじゃないか?」
「難しいことはわからにゃいのよ…」
「大丈夫だ。俺にもわからん」
そう言ってディーはクロの頭をポンポンとした。
二人は任務を終えて、ラダの許へ帰った。ラダはいつものようにほほ笑んで迎えた。
クロが転生への疑問を口にした。
「ラダ様。…転生屋って、必要にゃんですか?」
「というと?」
「だって、転生屋がいにゃくても人はいつか転生するのよ」
「ええ、そうですね」
ハーデスが治める黄泉に渡った魂は、幾千年の試練を経て、ふさわしき世界へと転生していく。試練に耐えきれなかった魂は魂喰いに喰われてしまうが。
「今日みたいに急に行き先を変えることができるんにゃら、今までだって、行き先を選びたい人もいたのかにゃ、不幸でもその世界に生きていたい人もいたのかにゃって」
「そうかもしれませんね」
「じゃあ、それじゃあ、転生屋のぼくたちって、ひどいことをしていると思うのよ。だから死神って言われちゃうのかにゃ…」
「クロ、本当なら死ぬはずじゃなかった人が死んでしまったら、助けたいとは思いませんか?」
「助けたいにゃ」
ラダは笑みを深めて、続きを話した。
「わたしたちにはそれができる。だからするのです。さあ、褒美を受け取りなさい」
そうして報酬の星のかけらをまた一つ受け取った。
ディーは部屋へと戻ったが、クロは気分転換がしたくなって、美しい花々が咲き誇る庭園へと足をのばした。
一人で歩いていると、いつもよりずっと、嫌悪のこもった視線や心無い言葉が浴びせられる。普段はディーが睨みを利かせてくれるから、ここまでの差別を受けることはないのだと実感する。
ディーへの感謝の気持ちがわいてきたとき、クロの目の前に、意地悪な天界人たちが現れた。
「おい死神、その手に持っている星のかけらを俺様によこせ」
ニヤニヤと馬鹿にしたように笑いながら、クロに向かって手を差し出す。
「え、にゃんで?」
「ははは、馬鹿な猫だな。星のかけらの価値も分からないくせに。代わりに俺が使ってやるよ」
「いやだ!これはぼくがもらったのよ!ぜったいにあげにゃい!」
「不吉な猫に星のかけらは必要ねーだろ!おい、やっちまえ!」
クロを押さえつけて星のかけらを取り上げようとする。クロは体を丸めて星のかけらを守った。たくさん殴られたり蹴られたりしたが、絶対に音をあげなかった。
その時、クロの耳元でバリバリっと大轟音が響いた。思わず耳をペタンと閉じる。
余韻が消え去ると、辺りはしーんと静まり返っていた。
クロは恐る恐る伏せていた顔をあげてみた。
すると、星のかけらを取り上げようとしていた奴らが全員白目を剥いて倒れていた。頭からうっすら煙が出て、手足が時々ぴくぴく動いている。
「え、にゃに?」
あたりをキョロキョロ見渡してから、クロは急いで逃げ出した。
建物の中に入ると、ディーが部屋から出てきていた。
「クロ、ケガをしているじゃないか。大丈夫か?何があったんだ?さっきの轟音は…?」
「ディー!!うにゃーん、こわかったにゃー!」
クロはディーに飛びついてしがみついた。
何があったか、事情を聞いたディーは珍しく驚いたように目を見開いていた。
「じゃあさっきのは、雷だったんだな?」
「うん、そうだと思う。ぼく小さくなってたから雷落ちなかったのよ」
「…天罰なんて、何十年ぶりだ?」
「ん?にゃに?」
「いや…。先に部屋に戻ってしまって悪かったな。今度から星のかけらを持っているときは、部屋に入るまで一緒に行動しよう」
「うん、ありがとう!」
クロが嬉しそうに笑うと、ディーはクロの頭を優しく撫でてやった。
10
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる