49 / 58
第47話 惨劇の真相
しおりを挟む「お前はだれだ!」
ニコラオが体面も忘れてしょっぱなからナリスに怒鳴る。
「おや、私は本日招待されてここにいるというのに、新郎殿には認知されていなかったようですね」
ナリスが大げさに肩をすくめる。
ホスト側が招待客を覚えていないなど、恥をさらしたも同然である。
これにはさすがにコルティジアーナが耐えられず、ナリスに向かってお辞儀をした。
「申し訳ございません。オーウェルズ国第二王子ナリス様とお見受け致します」
「コルティジアーナ嬢、ありがとう。結婚を祝いに来たつもりだったのですが、事情が変わりました。つい先ほど、国より緊急の知らせがありましてね。ここアンダレジアの王都に巣食う人身売買組織が、我が国で攫ってきた幼子をポルタに奴隷として売りさばいていることが発覚しました。人身売買組織で得た多額の資金がニコラオ王太子のもとに流れています。このことを説明していただきましょう」
「何だと!それは真か…」
ドミニクはやや青ざめて言った。
「で、でたらめだ!」
「往生際が悪いようですが、証拠は揃っています」
「うそだ!」
「あなたと違って、嘘はつきませんよ?ふふふ」
ナリスが魅惑的な笑顔を浮かべると、緊迫した場面にもかかわらず、ぽうっと頬を染める婦人方が続出した。
そんな中、王族と共に並び立っていたコルティジアーナが、壇上より降りて王に向き直る。
一挙手一投足が注目される中、コルティジアーナは優雅にほほ笑んだ。
「陛下。どうやらニコラオ殿下は次期国王にふさわしくないようでございますわね。国王となるニコラオ様をお支えするようにと承っておりましたが、その必要はなくなったと思います。わたくしは婚約を辞退させていただきますわ」
これには大広間に集まった貴族たちがざわついた。
「待ってくれ!私が王位を継がなくては、誰が継ぐというのだ!この国には私しかいないのだ」
ニコラオがみっともなく騒いでいる。
コルティジアーナは持っていた扇子を広げて口元を隠すと、鼻で笑った。
「あら、何をおっしゃるのかしら。アルフォンソ殿下がいらっしゃるではありませんか。もしアルフォンソ殿下が王太子になられるのであれば、わたくしがあらためてお支えする心づもりはありますわ」
するとすかさずアデレードが口をはさむ。
「お待ちになって。いくら親友のあなたと言えども、彼を渡すわけにはいかないわ、アーナ。アルフォンソはわたくしのものよ」
時と場合を考えずにふざけ合っている二人に、リアムは軽く苦笑をもらす。
王妃はすでに挽回できないことを悟り、力なくその場にへたり込んでいる。
「ニコラオ…何という愚かなことをしてくれたのです。わたくしの計画が台無しではないか…」
王妃が小さくつぶやいた声を、リアムは聞き逃さなかった。
「正妃様、まるでニコラオだけが悪事を働いたように仰いますが、私は忘れたわけではありませんよ。あなたに母を殺されたことを」
会場にいた多くの者がヒュッと息を吸い込んだ。
「わ、わたくしじゃないわ!あれは夜盗が…」
「母が喉を切られて死んだあと、賊どもは『ガキはどこだ』と私を探していました。私は窓から逃げ出して見つからずに済みましたが、ただの夜盗なら、なぜ子どもだった私を探しますか?私を殺すよう命じられていたのでしょう」
「だからと言って、わたくしが命じた証拠などないでしょう!」
「どうして証拠がないと言い切れるのですか?母に付いていた女官や侍女を全員処分したから大丈夫だと?」
「女官や侍女は側妃を守れなかったのですから、責任を取って処分を言い渡したまで」
「不思議ですね。なぜ護衛騎士は処分されなかったのでしょう?」
「あの者は守れなかったことを自ら悔いて自害したのです」
「ああ!それで証拠がないと勘違いして…」
「勘違い?どういうことです」
「お目に掛けた方が早いですね」
リアムが再び衛兵に合図を送ると、今度は中年のガタイの良い男が現れた。
「お前は!!!」
王妃の顔に驚きと焦りが見える。
「私はアルベルトと申します。側妃ミランダ様の護衛騎士をしておりました」
「自害したのではなかったか!」
「申し訳ありません。王妃様より自害するよう命じられておりましたが、父が自害したことにして市井にくだるよう手配してくれたのです」
身分の低いミランダに付けられた護衛騎士は男爵家の三男だった。
身を隠して平民となり今は幸せな家庭を築いていた。
「国王陛下、恐れながら申し上げます。ミランダ様殺害の夜、私は正妃様より呼び出されておりミランダ様のお側を離れてしまいました。ミランダ様が寝付いたら正妃様の私室へ来るようにと、正妃様の侍女より申しつかりました。そのような夜更けに正妃様の私室になど伺うわけにはいかないと断ったのですが、これは命令であると強く言われ、仕方なく訪れました。しかし、お部屋に伺うと、お前など呼んでいないと一掃され、首をひねりながらミランダ様の離宮に戻ったのです。そのときに侵入者を告げる鐘の音が聞こえてきました。性急に鳴らされる鐘の音を聞いて、私は駆け足で離宮へ向かいました。離宮の入り口が見えた辺りで、ミランダ様のメイドに出会いそこで事件を知りました。私はすぐに正妃様に諮られたと思い、取って返して正妃様の侍女に真相を正そうとしました。すると正妃様がお部屋より出てきて、こうおっしゃったのです。主を死なせるとはふがいない奴め、自害して詫びろ、と」
いまや大広間は静まり返っていた。
だれもがミランダ側妃の惨劇の真相が知りたく、息をのんで聞き入った。
「あの時は気が動転して深く考えることなどできませんでした。しかし、幾度となく私は考えました。正妃様の私室よりミランダ様の離宮へ向かう通路は一本道。私が正妃様の私室から離宮へ行って帰って来るまで、誰一人としてすれ違った者はいなかった。なのになぜ正妃様はミランダ様が襲われて亡くなられたことを知っていたのでしょう。答えは簡単です。襲われることを知っていたからとしか思えません。私はこのことを国王陛下にお話しするまでは死ねないと思い、こうして恥を忍んで参った次第です」
アルベルトは、床に膝をつき、王に深く頭を垂れた。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
処刑された王女は隣国に転生して聖女となる
空飛ぶひよこ
恋愛
旧題:魔女として処刑された王女は、隣国に転生し聖女となる
生まれ持った「癒し」の力を、民の為に惜しみなく使って来た王女アシュリナ。
しかし、その人気を妬む腹違いの兄ルイスに疎まれ、彼が連れてきたアシュリナと同じ「癒し」の力を持つ聖女ユーリアの謀略により、魔女のレッテルを貼られ処刑されてしまう。
同じ力を持ったまま、隣国にディアナという名で転生した彼女は、6歳の頃に全てを思い出す。
「ーーこの力を、誰にも知られてはいけない」
しかし、森で倒れている王子を見過ごせずに、力を使って助けたことにより、ディアナの人生は一変する。
「どうか、この国で聖女になってくれませんか。貴女の力が必要なんです」
これは、理不尽に生涯を終わらされた一人の少女が、生まれ変わって幸福を掴む物語。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
【完結】悪役令嬢のトゥルーロマンスは断罪から☆
白雨 音
恋愛
『生まれ変る順番を待つか、断罪直前の悪役令嬢の人生を代わって生きるか』
女神に選択を迫られた時、迷わずに悪役令嬢の人生を選んだ。
それは、その世界が、前世のお気に入り乙女ゲームの世界観にあり、
愛すべき推し…ヒロインの義兄、イレールが居たからだ!
彼に会いたい一心で、途中転生させて貰った人生、あなたへの愛に生きます!
異世界に途中転生した悪役令嬢ヴィオレットがハッピーエンドを目指します☆
《完結しました》
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?
もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。
王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト
悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。
不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜
晴行
恋愛
乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。
見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。
これは主人公であるアリシアの物語。
わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。
窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。
「つまらないわ」
わたしはいつも不機嫌。
どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。
あーあ、もうやめた。
なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。
このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。
仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。
__それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。
頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。
の、はずだったのだけれど。
アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。
ストーリーがなかなか始まらない。
これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。
カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?
それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?
わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?
毎日つくれ? ふざけるな。
……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる