私の執事は王子様〜イケメン腹黒執事は用意周到にお嬢様の愛を乞う〜

玖保ひかる

文字の大きさ
上 下
37 / 58

第35話 ありがた迷惑な話 ~過去・出会い②~

しおりを挟む

「…立てない」

 リアムはルシアに手を差し伸べる。

「なんだか力が入らない…」

「腰が抜けたのか?」

 リアムはルシアの手を取り、立ち上がらせようと引っ張った。

 しかし、生まれたての子馬のように足腰が立たずプルプルと震え、リアムにしがみついた。

 今度はリアムが頬を赤らめる番だった。

 ぎゅっと抱き着いてくるルシアがぽわぽわと柔らかくて、無条件で守りたくなる気持ちが沸き起こる。

「おい、くっつくなよ」

「で、でも…立てないもん」

 リアムはそっとルシアを地面に座らせなおした。

 ルシアはへなへなとしゃがみこんだ。

「はぁ…。まぁ、仕方ないか。怖かったもんな」

 リアムがルシアの隣にしゃがみこみ、ルシアの頭をポンポンと軽くたたくと、ルシアの目に再び涙がにじんだ。

 リアムはルシアの前に背中を向けてしゃがんだ。

「背中に乗れよ。負ぶってやる」

「え、でも…」

「歩けないんだろ。ほら」

「うん。…ありがとう」

 ルシアは遠慮がちにリアムの背中に体を預けた。

 リアムは軽々とルシアを背負い立ち上がると、すたすたと歩き始めた。

 ルシアは温かい背中に大きな安心感をもらった。

「あなたの名前を教えて?」

「…リアム」

「リアム、ありがとう。助けてくれて」

「どういたしまして」

「リアムってどこかの国の王子様じゃない?」

「な、んで?」

 みすぼらしい格好をしていても、リアムは歴としたアンダレジア国の王子である。

 まさか初対面の幼い子供に、事実を指摘されるとは思いもよらなかったため、声に動揺が現れてしまった。

「だってかっこいいし、やさしいんだもの。王子様みたいでしょう?」

 リアムは思わずふっと笑った。

(かっこいいし、やさしい、か)

 祖国から追われ、リアムは何もかもを失った。

 それでも、ルシアに王子のようだと言われ、己の中の矜持だけは失っていないことに気が付いた。

「そう?ルシアお嬢様は王子様が好きなの?」

「女の子はだれだって王子様が好きなの!」

「じゃあオレが王子様だったら、好きになってくれる?」

「ふふふ、王子様じゃなくても好きよ!」

 明るく笑うルシアの声に、リアムはすさんでいた心が癒されるように感じた。

 表通りに出ると間もなく、すごい形相で二人を指さし駆け付けてくる大人たちがいた。

「お嬢様~!よくご無事で!」

「お怪我はありませんか?」

 リアムはホッとして大人たちにルシアを託した。

 ルシアが使用人たちに囲まれて、体を確認されたり、はぐれてしまったことを怒られたり、謝られたりしているうちに、リアムは姿を消していた。

「リアムがいなくなっちゃった!」

 そう言ってルシアが大泣きしたことを、リアムは知らない。

 その後、屋敷に帰ってルシアが父のスチュワート伯爵にこの日の顛末を報告したところ、愛娘の命の恩人に礼をしなくては伯爵家の名が廃ると、諜報部員を動員してリアムを探し出すことになる。

 ルシアもはっきりと見たわけではないが、魔道を使って人さらいの男を昏倒させたらしきことも、伯爵の関心を引いた。

 ルシアが懐き、また会いたいと慕う少年を、ルシアの護衛としてスチュワート家に引き入れることができないかと考えていた。

 リアムという名と、際立って美しい容姿のおかげで、すぐに居所は知れた。

「船の荷を下ろしたり、船問屋の使い走りをしたりして生活をしているようです。よく働き真面目だとの評判です。親はなく一人で下町に住んでいます」

「孤児か」

「おそらく。2年前にスパニエル大陸からの船に密航してサガンに流れ着いたようです。それ以前にどこで何をしていたのかは知る者がいません」

「魔術に関しての情報はあるか」

「いえ、それが。町の者たちは少年が魔術を使えるなどただのデマだと笑い飛ばすばかりでして」

「ふむ。ルシアの勘違いということか?」

「しかし、倒れていた男の足元は地面がぬかるんだ後に固まった跡がありましたし、取り調べで顔の周りに水たまりができて息ができなくなったと男も証言しています。魔術が使われたのは間違いないかと」

「隠しているのか。賢明な判断だな。益々手に入れたくなった。ルシアの命の恩人として丁重に招待してここへ連れてこい」

「かしこまりました」

 リアムにとってはありがた迷惑な話である。

 拾ってくれた船問屋の片隅に寝泊まりさせてもらっている身で、領主様の使いに捜索され、身元を調べるような真似をされたのだ。

 リアムに同情的な船問屋の女将さんも、眉をひそめてリアムに言った。

「お前さん、何かやらかしらのかい?領主様が探しているようだけれど」

「何も悪いことはしていません」

「だけど、ずいぶんしっかり調べまわっているようだよ。大丈夫なのかい」

(魔術を使ったことがバレたか…。それとも身バレして国に引き渡されるのか)

 いずれにしろ、リアムにとってもあまりよい話ではなさそうだ。

「しばらくの間、隠れようと思います」

「そうした方がいいよ。行く当てはあるのかい?」

「当てはないけど、王都の方へ行ってみようかと」

「またほとぼりが冷めたら戻っておいで。待ってるよ」

「ありがとうございます。女将さん、今まで世話になりました」

 リアムは深々と頭を下げた。

 女将さんはリアムの肩を気づかわし気にポンポンと叩いた。

 リアムが出て行く準備を始めた時、入り口が何やら騒がしくなった。

(間に合わなかったか?)

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...