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第14話 旅立ち②
しおりを挟む「姫ちゃーん、そろそろ出発するぞ~」
悠遊の声が聞こえ、サクはチナとも別れ指定された馬車へと乗り込んだ。往路は荷物を積んで来た馬車で、荷を下ろし空いた荷台に乗せてもらうことになった。馬車に乗るのは初めてでわくわくしているサクに、見ていた下級役人の男がサクに注意する。
「お嬢さん、嬉しそうなところ悪いけど、動き出したら口は閉じた方がいいぞ。舌を噛むからな。尻が痛くなるから座布団になるような物を敷いた方がいい。敷いたって痛いだろうが、気休めにはなるからな」
「そうなんですか?じゃあ着替えの風呂敷を敷こうかな」
そんなやり取りをしながら今か、今かと待っているが、なかなか出発する気配がない。
「なにか問題でも起きたんですかね?」
サクが荷台の上から身を乗り出して先頭の方を伺おうとしていたその頃、まさに先頭では問題が起きていた。いざ出発となったところに、馬の前に立ちふさがった男がいたのだ。
「たのもー!たのもー!」
男が大声でそう叫ぶと、馬はうるさそうに首を振って嫌がった。御者の男が怒って叫び返す。
「おい、なんだ!急に馬の前に飛び出して。危ねえじゃねえか!死にてえのか!」
男たちの大声が聞こえて、何事かと蒼月が首を出す。馬の前で立ちふさがっている男が、たたらの里の者とわかり、急いで馬車から降りた。
「ライではないか。どうした?剛虎殿からの連絡か」
里で一騎打ちをした際に、蒼月の相手となったライだった。ライは蒼月の姿を確認すると、ニカっと歯を見せて笑った。
「蒼月の兄貴!おらも連れて行ってくれ!」
「何を言っている」
「兄貴に勝負で負けてから、おら、自分の弱さを実感した。おらより強えぇ兄貴の側でもっと修業してえだ。だから、おらも連れて行ってくれ!」
蒼月は頭痛でもしたかのように、己の額にそっと手を当てた。
「剛虎殿は知っているのか?何と言っているのだ」
「長は勝手にしろって言った。だからおらは勝手に出て来ただ」
「なんということだ…」
「兄貴はおらがいたら迷惑なんか?来たらダメだったんか?」
困っている蒼月を見て、ライはしゅんとしてしまった。しかし甘い顔をしていられない。
「突然来る奴があるか。お前の分の食料などはないし、そう簡単に一人増やすことなどできないのだ」
「食料なんか、自分で取って来るから大丈夫だ。おらぁ弓の名人だぜ!おめえらに迷惑はかけねえよ。おらは勝手に付いて行く」
ライは自信満々に胸を叩いて見せた。
「そういうわけに行くまい」
「兄貴!おらの心配をしてくれてるだ?やっぱりおらが見込んだだけのことはある!立派な男だ!」
蒼月は大きなため息をついた。
「はあ~、そういうことではないのだが。…こうしていても埒が明かない。もう好きにするがよい」
「やった!兄貴!よろしく頼みます」
嬉しそうにニコニコ笑うライに、蒼月は一つだけ、と釘を刺した。
「兄貴、と呼ぶのはやめなさい。お前はこれから私の従者として扱う。蒼月様と呼びなさい」
「わかりやした!」
結局、拒絶できずに引き受けることになったのだった。
新たな仲間を加えて、蒼月一行はいよいよ王都へ向けて出立した。
都に着くと、蒼月は玉鋼の交渉の結果報告を済ませ、礼部の事務所がある建物へと足を運んだ。礼部はいつでも人手不足。そのうえ仕事量が多い。そのようなわけで、いつ来ても慌ただしい場所である。殿中の廊下を走り回っている役人を見れば、大抵は礼部の役人だ。
蒼月が歩み寄ると、役人たちは頭を下げて速足ですれ違っていく。礼部の部屋では、数人が物書き台に噛り付いて書類仕事をこなしていた。はたして、その中に蒼月のお目当ての人物がいた。
「清切」
名を呼ばれて、清切は顔を上げた。蒼月の姿を確認すると、驚きながらもにこりとほほ笑んで部屋から出て来た。
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「忙しい所すまないな」
「気にしないでくれ。いつだってどうせ忙しいのだ。少しくらい休憩を取っても罰は当たらないだろう。一体どうしたのだ?私を訪ねてくるなど」
二人は少し歩いて、庭に設置された東屋に座った。
「実は頼みがあって参ったのだ」
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