30 / 62
CC兄妹
しおりを挟む二人の目の前に突然飛んできたボール。
アイザックはすぐに仁亜から離れ、それを片手で止めた。パァン!という音と共に。
「だ、大丈夫ですかアイザックさん?!」
「問題ない。だが、あの声はまさか…」
受け止めたボールから、うっすらと煙が出ている。子供用であろう小さいボールなのに、なんて威力なのか。
仁亜が疑問に思っていると、回廊から見える庭園のずっと向こう側から、誰かが走ってくる。…女の子だ。
「ハァ…ハァ……お二人とも大丈夫かしら?!」
「私達は大丈夫ですよ、コーデリア様」
そうアイザックが返事をした相手を見る。
小学生くらいかな、すんごい美少女だ。ダークブラウンの髪に緑色の瞳。
少女の容姿には思い当たる節があった。仁亜は彼に小声で話す。
「あの、アイザックさん。彼女ってまさか…」
「ああ。王太子夫妻の御子、コーデリア様だ」
やっぱり。ヒルダ様そっくりだもん。将来が楽しみだ。あ、挨拶しないと…と思ったら、彼女からカーテシーをされた。
「あら?アイザックがついているという事は…あなた渡り人さまね!はじめまして、わたくしはコーデリアですわ!」
立場的に上の人からお辞儀されてしまい、慌てて仁亜も応じる。背筋が曲がりかけてるし足がプルプルするが、なんとか一人でできた。
「ご丁寧にありがとうございます、コーデリア様。私は仁亜と申します」
「きゃっ、こんな所でお会いできるなんてうれしいわ!」
その場でぴょんぴょん跳ねて嬉しそうにしている姿にホッコリする。すると、
「コーデリア様!ふぅ、やっと追いついた」
と、息急き切って駆けつけてきた男がいた。近衛隊のソルトだ。
「急に走るのは危ないです、おやめください」
「だってボールが二人に当たりそうだったんだもん…でしたから。ソルトがちゃんと受け止めてくれないのが悪いのよ?」
「はぁ…でしたらコーデリア様、もう少し力を加減なさいませ。あと二人にぶつけそうになったのでしょう?ちゃんと謝りましたか?」
「アイザックが受け止めたから怪我人はいないわよ?」
開き直る姫様に、珍しく眉間に皺を寄せるソルト。
「…コーデリア様!」
「うぅー……お二人ともごめんなさい」
気まずそうに、それでも素直にペコッと頭を下げる姫様はなんて愛らしい。速攻で許した。
「コーデリア様とソルトさんはキャッチボールをしていたのですね。楽しそう」
「ただ、受け止められないのは問題だな。近衛隊の訓練内容を見直さないとだな、ソルト」
「うっ…はい、そうですね…。安心して護衛を任されるよう強くならないと…」
アイザックさんにそう言われて苦笑いするソルトさんだったが、コーデリア様の次の一言で固まった。
「あら、ソルトはそのままでいいですわ?わたくしが一生守ってあげるもの。未来のだんな様ですから」
「え、そうなんですかソルトさん!」
仁亜はびっくりして彼を見たら…またいつもの胃をさするポーズをして言った。
「ハハ…以前付き合ったおままごとの影響ですよ。私が夫役でしてね。どうも気に入られてしまったようで」
ああ、そういう事。おしゃまな子なのねと微笑ましく思っていると、
「おかあさまがね、大人になってもステキな『しゅくじょ』でいられるのなら許可するわと言ってたの!
だから20歳になるまでに、いっぱいお勉強して…こうやって、強くなるために訓練もしてますの!」
そう言いながら姫様は落ちていたボールを拾い上げて、ソルトに向かって投げた。慌てて両手でキャッチするソルトだが、またスパァン!と良い音が響いた。…ものすごい豪速球だ。子供が投げているとは思えない。
「ぐふっ…ヒルダ様…なんて事をおっしゃる…それは初耳…で……」
両手で受け止めきれず、胃に当たってしまったらしい。彼はそのままボールを抱え込むようにして、その場にうずくまってしまった。
思わず介抱しようとする仁亜をアイザックが手で制した。俺がなんとかする、と目で合図しながら。
「大丈夫かソルト。…悪いがコーデリア様の手前、あまり大事にはしたくないのだが…医務室へ行くか?」
「ぐっ…。いえ、平気です…少しの間さすっていれば。申し訳ございませんが、それまで姫様の相手をお願いしても…」
「ああ、任せておけ」
そう彼らがコソコソ話をしている間、仁亜は彼女の話し相手になっていた。
「いやですわソルトったら。恥ずかしくて丸くなっていますのね。照れ屋さんなんだから」
「(ツッコミたいけど我慢我慢…!)
コーデリア様、勉強はわかりますけど、強くなるというのは淑女とは関係ない気が…」
「そんなことありませんわ。タナノフ人のおかあさまはいつも言うもの。
あの国では清く正しく美しく、そして強い女が『しゅくじょ』と呼ばれ、皆に愛されるって。
わたくしはクルセイドと比べてタナノフの血がつよく出ているから、とっても力がありますの。
それにニア様が城に現れたときにね、風魔法が使えるようになりましたわ。さっきはボールを投げるときにその力を込めましたの!」
あーなるほど。だからあんなに威力のあるボールになったのか。と仁亜は思った。
私の「救いの渡り人(笑)」の力かはわからないけど。
「ヒルダ様は強化魔法をお使いですし、コーデリア様にも魔法の力が遺伝されたのですね。あれ、クルセイド様とは…?」
「それはボクのことですね」
声変わり前の男の子の、高い声が聞こえた。聞こえた方向に振り返ると、見た事がある容姿…。
「ギリアム殿下…じゃない、えっと…」
「その息子です。はじめまして、ニア様。クルセイドと申します。コーデリアの双子の兄です」
うわあ、チャラ殿下をそのままちっちゃくした感じだ。そっくり。でも首を横に曲げニコッとした顔はとても可愛かった。
コーデリアが彼の所へ駆け寄る。
「クルセイド!もう剣のおけいこは終わったのね!」
「うん!だからボクもいっしょに渡り人さまとお話しする!」
そう二人でキャッキャしている姿は本当に愛おしく、国の宝と呼ぶに相応しいのであった。
1
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
冷酷非情の雷帝に嫁ぎます~妹の身代わりとして婚約者を押し付けられましたが、実は優しい男でした~
平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは落ちこぼれと蔑まれながらも、希望だった魔法学校で奨学生として入学することができた。
ある日、妹のノエルが雷帝と恐れられるライトニング侯爵と婚約することになった。
ライトニング侯爵と結ばれたくないノエルは父に頼み、身代わりとしてフィーナを差し出すことにする。
保身第一な父、ワガママな妹と縁を切りたかったフィーナはこれを了承し、婚約者のもとへと嫁ぐ。
周りから恐れられているライトニング侯爵をフィーナは怖がらず、普通に妻として接する。
そんなフィーナの献身に始めは心を閉ざしていたライトニング侯爵は心を開いていく。
そしていつの間にか二人はラブラブになり、子宝にも恵まれ、ますます幸せになるのだった。
【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。
櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。
ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。
気付けば豪華な広間。
着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。
どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。
え?この状況って、シュール過ぎない?
戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。
現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。
そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!?
実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。
完結しました。
騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。
婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
きさらぎ
恋愛
テンネル侯爵家の嫡男エドガーに真実の愛を見つけたと言われ、ブルーバーグ侯爵家の令嬢フローラは婚約破棄された。フローラにはとても良い結婚条件だったのだが……しかし、これを機に結婚よりも大好きな研究に打ち込もうと思っていたら、ガーデンパーティーで新たな出会いが待っていた。一方、テンネル侯爵家はエドガー達のやらかしが重なり、気づいた時には―。
※『婚約破棄された地味令嬢は、あっという間に王子様に捕獲されました。』(現在は非公開です)をタイトルを変更して改稿をしています。
お気に入り登録・しおり等読んで頂いている皆様申し訳ございません。こちらの方を読んで頂ければと思います。
悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜
見丘ユタ
恋愛
意地悪な双子の姉に聖女迫害の罪をなすりつけられた伯爵令嬢リーゼロッテは、罰として追放同然の扱いを受け、偏屈な辺境伯ユリウスの家事使用人として過ごすことになる。
ユリウスに仕えた使用人は、十日もたずに次々と辞めさせられるという噂に、家族や婚約者に捨てられ他に行き場のない彼女は戦々恐々とするが……彼女を出迎えたのは自称当主の少年だった。
想像とは全く違う毎日にリーゼロッテは戸惑う。「なんだか大切にされていませんか……?」と。
【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする
冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。
彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。
優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。
王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。
忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか?
彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか?
お話は、のんびりゆったりペースで進みます。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる