収穫祭の夜に花束を

10月24日

1.魔女は少年を拾った

　10月24日の夕方、魔女は路地に転がっている子どもを見つけた。
　骸かと思って拾ってみると、その小さな身体からはか弱い鼓動の音が聞こえる。
　どうやら死んではいないようだ。

　汚らしいボロ布を纏ったやせ細った子ども。
　食べられる肉も少ない、魔力が高いわけでもない。
　それでもが魔女の目を引いたのは、その子どもの髪が魔女と同じ鮮やかな金色だったからだ。
　
　魔女は思案する。
　これは何かに使えないだろうか。
　一度拾い上げてしまった手前、また手を離すのは少し決まりが悪い。

　ひとまずそれを持って帰ることにした。









　魔女は家に着くと子どもの状態を確認した。
　怪我はしていない。病気でもない。
　しかしその子どもは汚く、ひどい臭いがした。

　魔女は子どもを洗うことにした。
　ボロ布を剥ぎ取りぬるま湯を張った桶に入れる。
　その湯はすぐに真っ黒になった。
　何度か湯を入れ替え、湯が濁らなくなったころ、ようやく子どもは綺麗になった。

　子どもは痩せていて顔色が悪いが不細工ではなさそうだ。
　清潔にして気飾ればそれなりに見えるだろう。
　魔女は少しだけ子どものことを気に入った。

　瞳の色は何色だろうか。どんな声だろうか。
　この子どもの一番綺麗な場所を苗床にしよう。
　そうすればきっと美しい花が咲く。


　丁寧に身体を拭いて服を着せようとしたが、魔女の家には子ども用の服がない。
　仕方なく魔女は裸のまま子どもをベッドに寝かせた。

　衰弱している子どもには何を与えればいいのだろうか。
　魔女はこれまでに他人の看病などしたことはなかった。
　そもそも魔女という種族は病気にはならない。
　何を食べられるのかはわからないが、あの子どもに何かを食べさせなければならないことだけは確かだ。

　ひとまず魔女はオーツ麦と牛乳を煮込んでポリッジと呼ばれる麦粥を作ることにした。
　朝起きて食欲がないときによくこれを食べていた。
　だから子どももきっとこれなら食べられると思ったのだ。


　出来上がった麦粥を子どものもとへ運ぶ。
　子どもはまだ目を覚ましていない。
　魔女はベッドの横で子どもが起きるのを待つことにした。






　しばらくすると子どもの瞼が震えた。
　どうやら目を覚ますようだ。

「ようやく起きるのか。人間の子どもというのはよく寝るんだね」

　魔女は独り言のように呟いた。
　子どもはゆっくりと目を開く。

　その瞳は鮮血のような赤だった。
　魔女と同じ瞳の色だ。

　魔女は喜んだ。
　自身の身体で最も気に入っている部分がこの血のように赤い瞳だったからだ。

「ここは……？」
「ここは魔女の家だ。お前は魔女に拾われたのさ」
「魔女……それなら僕を、食べてくれるのですか？」

　子どもは呟くように問いかけた。
　魔女は笑う。

「いや、食べない。お前は食べても美味くなさそうだからね。お前は苗床になるのさ」
「苗床……？」
「そこらに花が咲いているだろう？」

　魔女は部屋に飾られた花たちを指差す。

「あれらは子ども達の生命力を吸い取って咲いたものだ。綺麗だろう？　お前もああなるんだよ」
「僕は花になって死ぬのでしょうか？」
「いいや、死にはしない。花の姿で生き続けるさ」

　魔女は笑った。