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食事が終わり二人で庭に出る。
断じて埋める為ではない!お散歩する為だ。
共通の趣味などなさそうなので、マーガレット様推奨のお散歩を選択してみた。
「ここのお庭は和みますね。侯爵家の庭園も素敵ですが、定規で測ったように整えられているので、歩く場所に気を付けないと庭師のおじいちゃんからお小言をもらっちゃうんです」
侯爵家の庭を維持するのはそれほど大変なのだと思う。庭師たちの雑草を敵視する姿は鬼気迫るものがあって番犬たちも避けて通る。
「母が自然のままの庭が好きらしい。だから庭師もあまり手を入れ過ぎないようにしているそうだ」
公爵家の庭にも植えてある高価な花の横に、原っぱに自生していそうな素朴な黄色い花が生えている。
今は黄色い花だけど季節によって、別の花が勝手に咲くのだろう。
「毎日変化があって飽きないし、季節の移り変わりを感じられるお庭ですね。そう言えば緑の間の植物でどのような研究をしていたのですか?」
「緑の間?緑……」
自分の家には興味が薄いらしい。昨日はどうやって緑の間まで来たのよ。使用人に尋ねたのかな?
伯爵家の肝の据わった使用人たちなら自分の家の部屋が分からない三十八歳を見ても驚かないのだろう。
「薄緑の蔦に黒い棘がびっしりと生えた植物が置いてありました」
「あぁ!あれは毛生え薬の研究だ」
男性ホルモンの多い皆様の救世主だわ。
「成功したのですか!?」
「うむ、一応は生えて来たのだが……棘だった」
棘が頭に?それはどうだろう?人としておかしい。
「庭師が薄毛に悩んでいたので作ったのだが、棘が生えたんだ。成分を調べるとタンパク質だったので毛髪で間違いないが、硬いうえに先端が鋭すぎて帽子が破けると叱られたよ。残念ながら失敗作だ。棘が抜けるまで口もきいてくれなかったな」
トゲかハゲか究極の選択だわ。きっとこの庭のように頭も自然のままが和むと言う神様のお告げに違いない。
しかしニコラス様は天才なのね。頭の良さよりズレた発言のインパクトが強すぎて、ちょっと疑っていたけど、毛を生やせる薬を作れるのだから、ただの本好きじゃなくて知識をちゃんと活かせる人なんだわ。
大きな木の下に、雑草なのか植えたものか分からないが、薄い水色の花が絨毯のように広がっている。
「君のパンツと同じ色だな」
……なんですと?聞き間違いだ。そうに違いない。
「ナニのナニですって?」
「君のパンツの色だ。白いレースもついていたが、あの花のように薄い水色だっただろう?僕の瞳も水色だが、それよりも優しい色合いで――」
「わーーわーー!!見えても見ていないと言うのがマナーですっ!!!」
「なるほど、嘘をつくのだな。君も僕の生しょ、ペニスを見ていないし、僕は君のパンツを見ていない」
言い直しても生々しい表現ですぅ……。
「下着の話もペ、ペ、下半身!そう下半身の話も禁止です!」
「うむ、下半身とは腰から下すべてか?尻も太腿もダメか?」
「ダメです!禁止です!」
「では、君が転んで膝を擦りむいた時はどうする?膝は下半身だろう。血が流れていても見てないふりをして散歩を続けるべきか?」
この人本気で言っているのだろうか。私をからかって楽しんでいるのではないだろうか。
澄んだ湖のような瞳を覗き込む……真剣な眼差しの中に、戸惑いが揺れている。
本気だ。本気で分からないんだ……。
「ニコラス様、今まで何人のマナー講師に教えて頂きましたか?」
折り返して屋敷に戻りながら聞いてみる。山から吹いてくる風が心地いい。
「十八人と半分だ」
「半分とは?」
「確か年配の男性だったかな。挨拶をしようと近づくと無言で帰ってしまった。名前も聞いていない」
「……もしかして寝起きでしたか?」
「そうだ。よくわかったね。クロエは素晴らしい先生だ」
そうでしょうとも。実際に寝起きのニコラス様を体験しましたからね。
「皆が少しづつ違う事を言うんだ。話題に困ったら天気の話をしろと言う人もいたし、天気の話は話題に困っているのがばれるから禁止だと言う先生もいた」
なるほど、色々と教えられ過ぎてこんがらがっているし、自信も無くなってしまっている。
だから膝を擦りむいた時、声を掛けるのが正解なのか迷ってしまうのね。
「空気を読めと言われるが、空気のどこに書いてあると言うのだ」
頭が良過ぎて正解を求めすぎているわ。会話に決まった正解なんて無いのに。
これは荷が重いとか言うレベルではない。
「私ではニコラス様の先生になるのは無理です。ここにいる時間が短すぎます」
言った途端に、ニコラス様の足が止まってしまった。
「……分かっている。でも、マーガレットが紹介してくれたのは初めてだったから少し期待してしまった。君にも悪い事をしたね」
シュンとさせてしまったけど、違うのよ。
「ニコラス様、先生じゃなくてお友達になりませんか?お友達としてお話しするんです」
「友達?」
意外な提案だったのだろう。まじまじと不思議そうに私を見ている。
「はい、ルールは一つ。たくさんお話しするだけです」
大切なのは経験だ。たくさん話して失敗も経験した方が良い。
「私には下半身の話をしてもいいです。でも、その話題が嫌な時ははっきりと言います」
きっと、賢いニコラス様だから、いずれご自分で理解なさるだろう。
「うむ、それなら単純で分かりやすい……ありがとう」
「いいえ。沢山お話ししましょうね」
嬉しそうに微笑んだ笑顔が印象的で胸が温かくなった。
風が冷たくなってきたので、室内に入って図書室へ向かう。
「小説は読まれますか?」
「フィクションは三十年以上読んでいない。興味が持てなくてな」
なるほど。短くてわかりやすい本を一緒に読んでみようか。登場人物の気持ちを想像してみたり、内容について議論してみるのもいい。
ずらりと並んだ本を見渡す、簡単な内容がいいだろう。童話にしようかしら。
白雪姫を手に取り私が読みながら質問する。
「どうして魔女は白雪姫を嫌ったのだと思います?」
「気が合わなかったのかもな」
「それもあるかもしれませんね。そう言えば魔女は鏡にどんな質問をしていましたっけ?」
本を読み慣れているだけあって、すぐに魔女の心情を読み解けるようになった。
今度は白雪姫側の立場に立って質問したが、よどみなく答えていく。
「それにしても王子の異常性が興味深いな。死体愛好家にもかかわらず、この先、生きている白雪姫で満足するのだろうか?続編は無いのか?……そうか残念だ。しかし物語を面白いと感じたのは初めてだ。とても楽しい」
キラキラと瞳を輝かせる姿にこちらも嬉しくなる。
「実際の人との会話にも応用できますよ。私が帰っても小説を読んで気持ちを読み取る練習を続けて下さいね。次はニコラス様が選んで来てください。昼食までに読み終わる薄い本にしてくださいね」
おやつを買いに行く子のように、少し急ぎ足で本棚の影へと消えて行った。
活字好きだから、本なら興味を持つのではと思ったが正解だった。
積極的に会話をしてくれるし、相手の気持ちを読み取る訓練にもなる。
マーガレット様はニコラス様に愛し愛される関係を知って欲しいと言っていた。
彼はきっと純粋で一途に相手を愛するのだろう。
チクリと痛んだ胸をさすりながら不思議に思う。
私ったらニコラス様のお相手を羨ましがっているのかしら?図々しいわね。
でもまぁ、誰だって一途に愛してくれるお相手を夢見るものよね……。
「これを読んでくれ」
白雪姫よりは厚い本を受け取る。童話の割に豪華な装丁がされている。
『さくらんぼ姫とチェリー』変な題名。聞いた事が無い。
――――「姫のさくらんぼはうまいな。ほら齧れば齧るほど赤く大きくなる」
「騎士様!どうかおやめくださいっ!」
「チェリーだから分からないと思っているのか?姫のさくらんぼのような乳首――」
バタンッと音を立てて本を閉じる。
「こ、これ、これはダメな本です。ほ、他の本にしてくださいっ!」
「なぜだ?生殖行為の時ほど人の気持ちが素直に表現されている物はないだろう?この騎士など若干嗜虐的ではあるが童貞という事は姫に一途な性格だと推測できる。僕も童貞だから感情移入もしやすいだろうし、嗜虐的な童貞の気持ちを読み解くのは面白いと思わないか?」
さては内容を確認してから持ってきたのね!?
「無理です。私には読めません!恥ずかしいです」
「なぜ恥ずかしい?生殖行為は子孫を残そうとする行為であり恥ずかしいものではない。特に女体は神秘的だ。助産師になれるのなら、間近で出産と言う神秘を見ることが出来たのに残念だよ。それにこの本は乳頭の変化が事細かに書かれており秀逸だ。専門書より優れている」
専門書ってなに?性行為の指南書?まさか乳首に関する専門書とかあるの?
「秀逸かもしれませんが、独身の男女が二人で読むには不適切な内容です」
「わからないな。もう少し具体的に不適切だと思う理由を言って――」
コンコンコンと三度響いたノックの音に天の助けとばかりに扉へと走った。
「お邪魔して申し訳ございません。ニコラス様、仕立屋が到着いたしました」
た、助かったーー。不満そうなニコラス様の背中を押して、使用人について行く。
近くの客室に放り込むと、深呼吸をしながら扉の前で待つ。
どうしよう、ちょうど助産師になりたがっていたタイミングだから女性の体に興味津々だ。
このままでは、他の方と話すときも、卑猥な話へと無意識に引っ張られてしまいそう。
「うわっーー!」
四十歳くらいの男性仕立屋が転がるように飛び出してきた。
「どうしました!?」
「パンツ穿いてないです!計測するのにズボンを脱ぐよう言ったら、ボロンとでっかい――」
「ストップ!それ以上は!あの、今朝ちょっとバタバタしていたので、いつもはちゃんと穿いている……のかしら?いえ、そうじゃ無くて下履きを持って来ますのでお待ちください」
慌ててニコラス様の部屋に行って、クローゼットをあさる。男性の下着なんて触ったことが無い処女なのに!
洗ってさえあればいいやと、適当に掴み来た道を走る。
「ぜー、ぜー、お待たせしました。これを渡してくださいますか?」
「嫌ですよ!あなたが渡して下さいよ。あんなデッカイのを二度も見たら自分の粗末さに号泣してしまいます!勃たなくなったら、奥さんに逃げられちまうぅ」
そんなの知りませんよ!もうっ、なんでこんな事になるのよーー!
これは艶本ごときに恥ずかしがっていられない。
じっくりと羞恥心に関する話をしなくちゃダメだ。
美丈夫のパンツを握りしめ、力いっぱいノックして、分厚い扉に阻まれないよう大声で叫ぶ。
「ニコラス様!クロエです。今から入室するんでズボンを穿いて下さい!アレを仕舞ってください!」
なんて恥ずかしいことを人様の家で叫んでいるのだろうか――――
【マーガレット、あの仕立屋はなぜ僕の生殖器を見て悲鳴を上げたのだ?どこか異常なのだろうか?ランドルフのを見せてもらうべきか?】
断じて埋める為ではない!お散歩する為だ。
共通の趣味などなさそうなので、マーガレット様推奨のお散歩を選択してみた。
「ここのお庭は和みますね。侯爵家の庭園も素敵ですが、定規で測ったように整えられているので、歩く場所に気を付けないと庭師のおじいちゃんからお小言をもらっちゃうんです」
侯爵家の庭を維持するのはそれほど大変なのだと思う。庭師たちの雑草を敵視する姿は鬼気迫るものがあって番犬たちも避けて通る。
「母が自然のままの庭が好きらしい。だから庭師もあまり手を入れ過ぎないようにしているそうだ」
公爵家の庭にも植えてある高価な花の横に、原っぱに自生していそうな素朴な黄色い花が生えている。
今は黄色い花だけど季節によって、別の花が勝手に咲くのだろう。
「毎日変化があって飽きないし、季節の移り変わりを感じられるお庭ですね。そう言えば緑の間の植物でどのような研究をしていたのですか?」
「緑の間?緑……」
自分の家には興味が薄いらしい。昨日はどうやって緑の間まで来たのよ。使用人に尋ねたのかな?
伯爵家の肝の据わった使用人たちなら自分の家の部屋が分からない三十八歳を見ても驚かないのだろう。
「薄緑の蔦に黒い棘がびっしりと生えた植物が置いてありました」
「あぁ!あれは毛生え薬の研究だ」
男性ホルモンの多い皆様の救世主だわ。
「成功したのですか!?」
「うむ、一応は生えて来たのだが……棘だった」
棘が頭に?それはどうだろう?人としておかしい。
「庭師が薄毛に悩んでいたので作ったのだが、棘が生えたんだ。成分を調べるとタンパク質だったので毛髪で間違いないが、硬いうえに先端が鋭すぎて帽子が破けると叱られたよ。残念ながら失敗作だ。棘が抜けるまで口もきいてくれなかったな」
トゲかハゲか究極の選択だわ。きっとこの庭のように頭も自然のままが和むと言う神様のお告げに違いない。
しかしニコラス様は天才なのね。頭の良さよりズレた発言のインパクトが強すぎて、ちょっと疑っていたけど、毛を生やせる薬を作れるのだから、ただの本好きじゃなくて知識をちゃんと活かせる人なんだわ。
大きな木の下に、雑草なのか植えたものか分からないが、薄い水色の花が絨毯のように広がっている。
「君のパンツと同じ色だな」
……なんですと?聞き間違いだ。そうに違いない。
「ナニのナニですって?」
「君のパンツの色だ。白いレースもついていたが、あの花のように薄い水色だっただろう?僕の瞳も水色だが、それよりも優しい色合いで――」
「わーーわーー!!見えても見ていないと言うのがマナーですっ!!!」
「なるほど、嘘をつくのだな。君も僕の生しょ、ペニスを見ていないし、僕は君のパンツを見ていない」
言い直しても生々しい表現ですぅ……。
「下着の話もペ、ペ、下半身!そう下半身の話も禁止です!」
「うむ、下半身とは腰から下すべてか?尻も太腿もダメか?」
「ダメです!禁止です!」
「では、君が転んで膝を擦りむいた時はどうする?膝は下半身だろう。血が流れていても見てないふりをして散歩を続けるべきか?」
この人本気で言っているのだろうか。私をからかって楽しんでいるのではないだろうか。
澄んだ湖のような瞳を覗き込む……真剣な眼差しの中に、戸惑いが揺れている。
本気だ。本気で分からないんだ……。
「ニコラス様、今まで何人のマナー講師に教えて頂きましたか?」
折り返して屋敷に戻りながら聞いてみる。山から吹いてくる風が心地いい。
「十八人と半分だ」
「半分とは?」
「確か年配の男性だったかな。挨拶をしようと近づくと無言で帰ってしまった。名前も聞いていない」
「……もしかして寝起きでしたか?」
「そうだ。よくわかったね。クロエは素晴らしい先生だ」
そうでしょうとも。実際に寝起きのニコラス様を体験しましたからね。
「皆が少しづつ違う事を言うんだ。話題に困ったら天気の話をしろと言う人もいたし、天気の話は話題に困っているのがばれるから禁止だと言う先生もいた」
なるほど、色々と教えられ過ぎてこんがらがっているし、自信も無くなってしまっている。
だから膝を擦りむいた時、声を掛けるのが正解なのか迷ってしまうのね。
「空気を読めと言われるが、空気のどこに書いてあると言うのだ」
頭が良過ぎて正解を求めすぎているわ。会話に決まった正解なんて無いのに。
これは荷が重いとか言うレベルではない。
「私ではニコラス様の先生になるのは無理です。ここにいる時間が短すぎます」
言った途端に、ニコラス様の足が止まってしまった。
「……分かっている。でも、マーガレットが紹介してくれたのは初めてだったから少し期待してしまった。君にも悪い事をしたね」
シュンとさせてしまったけど、違うのよ。
「ニコラス様、先生じゃなくてお友達になりませんか?お友達としてお話しするんです」
「友達?」
意外な提案だったのだろう。まじまじと不思議そうに私を見ている。
「はい、ルールは一つ。たくさんお話しするだけです」
大切なのは経験だ。たくさん話して失敗も経験した方が良い。
「私には下半身の話をしてもいいです。でも、その話題が嫌な時ははっきりと言います」
きっと、賢いニコラス様だから、いずれご自分で理解なさるだろう。
「うむ、それなら単純で分かりやすい……ありがとう」
「いいえ。沢山お話ししましょうね」
嬉しそうに微笑んだ笑顔が印象的で胸が温かくなった。
風が冷たくなってきたので、室内に入って図書室へ向かう。
「小説は読まれますか?」
「フィクションは三十年以上読んでいない。興味が持てなくてな」
なるほど。短くてわかりやすい本を一緒に読んでみようか。登場人物の気持ちを想像してみたり、内容について議論してみるのもいい。
ずらりと並んだ本を見渡す、簡単な内容がいいだろう。童話にしようかしら。
白雪姫を手に取り私が読みながら質問する。
「どうして魔女は白雪姫を嫌ったのだと思います?」
「気が合わなかったのかもな」
「それもあるかもしれませんね。そう言えば魔女は鏡にどんな質問をしていましたっけ?」
本を読み慣れているだけあって、すぐに魔女の心情を読み解けるようになった。
今度は白雪姫側の立場に立って質問したが、よどみなく答えていく。
「それにしても王子の異常性が興味深いな。死体愛好家にもかかわらず、この先、生きている白雪姫で満足するのだろうか?続編は無いのか?……そうか残念だ。しかし物語を面白いと感じたのは初めてだ。とても楽しい」
キラキラと瞳を輝かせる姿にこちらも嬉しくなる。
「実際の人との会話にも応用できますよ。私が帰っても小説を読んで気持ちを読み取る練習を続けて下さいね。次はニコラス様が選んで来てください。昼食までに読み終わる薄い本にしてくださいね」
おやつを買いに行く子のように、少し急ぎ足で本棚の影へと消えて行った。
活字好きだから、本なら興味を持つのではと思ったが正解だった。
積極的に会話をしてくれるし、相手の気持ちを読み取る訓練にもなる。
マーガレット様はニコラス様に愛し愛される関係を知って欲しいと言っていた。
彼はきっと純粋で一途に相手を愛するのだろう。
チクリと痛んだ胸をさすりながら不思議に思う。
私ったらニコラス様のお相手を羨ましがっているのかしら?図々しいわね。
でもまぁ、誰だって一途に愛してくれるお相手を夢見るものよね……。
「これを読んでくれ」
白雪姫よりは厚い本を受け取る。童話の割に豪華な装丁がされている。
『さくらんぼ姫とチェリー』変な題名。聞いた事が無い。
――――「姫のさくらんぼはうまいな。ほら齧れば齧るほど赤く大きくなる」
「騎士様!どうかおやめくださいっ!」
「チェリーだから分からないと思っているのか?姫のさくらんぼのような乳首――」
バタンッと音を立てて本を閉じる。
「こ、これ、これはダメな本です。ほ、他の本にしてくださいっ!」
「なぜだ?生殖行為の時ほど人の気持ちが素直に表現されている物はないだろう?この騎士など若干嗜虐的ではあるが童貞という事は姫に一途な性格だと推測できる。僕も童貞だから感情移入もしやすいだろうし、嗜虐的な童貞の気持ちを読み解くのは面白いと思わないか?」
さては内容を確認してから持ってきたのね!?
「無理です。私には読めません!恥ずかしいです」
「なぜ恥ずかしい?生殖行為は子孫を残そうとする行為であり恥ずかしいものではない。特に女体は神秘的だ。助産師になれるのなら、間近で出産と言う神秘を見ることが出来たのに残念だよ。それにこの本は乳頭の変化が事細かに書かれており秀逸だ。専門書より優れている」
専門書ってなに?性行為の指南書?まさか乳首に関する専門書とかあるの?
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「わからないな。もう少し具体的に不適切だと思う理由を言って――」
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た、助かったーー。不満そうなニコラス様の背中を押して、使用人について行く。
近くの客室に放り込むと、深呼吸をしながら扉の前で待つ。
どうしよう、ちょうど助産師になりたがっていたタイミングだから女性の体に興味津々だ。
このままでは、他の方と話すときも、卑猥な話へと無意識に引っ張られてしまいそう。
「うわっーー!」
四十歳くらいの男性仕立屋が転がるように飛び出してきた。
「どうしました!?」
「パンツ穿いてないです!計測するのにズボンを脱ぐよう言ったら、ボロンとでっかい――」
「ストップ!それ以上は!あの、今朝ちょっとバタバタしていたので、いつもはちゃんと穿いている……のかしら?いえ、そうじゃ無くて下履きを持って来ますのでお待ちください」
慌ててニコラス様の部屋に行って、クローゼットをあさる。男性の下着なんて触ったことが無い処女なのに!
洗ってさえあればいいやと、適当に掴み来た道を走る。
「ぜー、ぜー、お待たせしました。これを渡してくださいますか?」
「嫌ですよ!あなたが渡して下さいよ。あんなデッカイのを二度も見たら自分の粗末さに号泣してしまいます!勃たなくなったら、奥さんに逃げられちまうぅ」
そんなの知りませんよ!もうっ、なんでこんな事になるのよーー!
これは艶本ごときに恥ずかしがっていられない。
じっくりと羞恥心に関する話をしなくちゃダメだ。
美丈夫のパンツを握りしめ、力いっぱいノックして、分厚い扉に阻まれないよう大声で叫ぶ。
「ニコラス様!クロエです。今から入室するんでズボンを穿いて下さい!アレを仕舞ってください!」
なんて恥ずかしいことを人様の家で叫んでいるのだろうか――――
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