上 下
8 / 36

レオフィルドの話 ①

しおりを挟む
 武器屋に入ってきたその少年は、落ち着きがないように見えた。
 店の店主は、どうしたのかと声を掛けた。

「あの、追われていて……どうか、僕をかくまって下さい!」

 店主は、必死な様子のその少年を、ジッと見つめると頷いた。

「ここに入った所は見られた可能性はあるのか?」
「わかりません……」
「見られていたら、ここに来るかもしれない。その前に裏口から逃げるといい。こっちだ」

 店主は、カウンターの端を持ち上げて店主がいる中へ入れるようにしてくれる。
 一歩踏み出した少年に問いかけた。

「道は詳しいのか?」

 少年は立ち止まり、首を横に振った。

「いいえ……良くは知りません」
「では、私も一緒に行こう。道案内ぐらいできる」
「え?」

 拒否される前に歩き出して裏口のドアの前へ行った。
 その少年も戸惑いながらも付いてきた。
 ギルは、一度ため息をついてから少年の後ろを付いてくる。

「早く行きな」

 そう言った店主に頷いて、裏口のドアを開けた。
 それと同時に武器屋のドアが開かれて、二人の大人が慌てて入ってきた。
 一般市民のように見えておかしい所はない。けれど、犯罪者だったら大変な事になる。
 素早く駆け出せば、私達に気付いて慌てだした。

「あ! お待ち下さい!」

 追いかけてくる怪しい奴らを店主がどうにか引き止めてくれるみたいだ。
 私の後ろを少年が続き、ギルがその後ろを走ってきてくれた。

 レンガ造りの裏路地を右へ行ったり左へ行ったり、しばらく走ってから足を止めた。
 それにならって少年もギルも足を止める。
 少年の体力が限界に近いと思った。それに、追っ手を巻いたようで安心できると判断した。
 辺りに人の気配はない。

「家まで送ろう。家はどこだ?」
「えっと……大丈夫です」
「そういう訳にはいかない。無事に帰れるまで見届けないと安心できない」
「いや……あの……」

 はっきりしない様子の少年に、それまで黙っていたギルが少年の胸ぐらを掴んだ。
 その拍子に被っていたマントのフードがパサリと落ちた。
 飴色の髪がサラリと揺れた。ぱっちりとした二重は、可愛らしい印象を与えるけれど、髪よりも色の濃いチョコレート色の瞳が真っ直ぐにギルを見る。
 少年の色彩が美味しそうだとこっそり思う。
 
「怪しいやつだ。何故追われていた?」
「──放してもらえるかな?」
「さっきの奴らに突き出してもいいんだ」

 睨み合った二人にどうしようかと悩む。
 この少年の素性がわからないと、どちらの味方もできない状況だった。
しおりを挟む

処理中です...