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もっと食べますよね?

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「蒼斗? いるんでしょ?」

 コンコンとドアがノックされてすぐにガチャリと開けられた。
 何事かと思って見れば、そこにいたのは圭介先輩だった。

「蒼斗が色々買ってこいって連絡してきたんでしょ! なんでまだ寝て──」
「け、圭介先輩……」

 圭介先輩と目が合って、もぞっと布団に潜る。
 すると、後ろからギューッと蒼斗先輩に抱きしめられた。
 俺達まだ裸なんですけど……。
 素肌が触れ合うと気持ちいい──じゃなくて。

「圭介、サンキューな。俺ら昨日の夜から何も食べてなかったからさ」

 そのまま蒼斗先輩に耳にチュッとされる。

「ちょっ……あ、蒼斗先輩……」

 圭介先輩は、何かを察したようでため息をつく。

「トモが付き合わされて可哀想だ」
「そんなことないよなぁ? トモくんなんて初めてなのにすごい──」
「うわぁ! 何を言い出すんですか!」

 慌てて蒼斗先輩の方を向いて口を塞ぐ。
 この人は……!

「うわっ……トモ……すごいキスマーク……背中までくっきり……」
「え⁉︎」

 先輩の口を塞いだせいで背中が見えてしまったらしい……。
 言われて自分を良く見れば、鎖骨やら胸やら赤い痕がいっぱいついている……。
 痛いぐらい吸われて感じてしまった昨日の自分を思い出して真っ赤になる。
 先輩は嬉しそうだ……。

「5分だけ出ててあげるから二人とも服着て……」
「す、すみません……」

 圭介先輩のため息に居た堪れなかった……。

     ◆◇◆

 三人でテーブルを囲んでいた。
 圭介先輩が買ってきてくれたおにぎりを頬張る。
 お腹が空いていたのですごく助かった。

「蒼斗は少し我慢を覚えた方がいい」
「好きなやつに触れたいと思うのは当たり前だろ?」

 二人は、俺を真ん中にして言い合いをしていた。
 す、好きなやつ……スラッと言われて嬉しい。

「あのキスマークはないでしょ」
「うるせぇな。トモくんが喜ぶからしたんだ」
「よ、喜んでません!」

 どうしてそういう事を言うかな……。
 蒼斗先輩にニヤニヤされる。

「へぇ……。それなら、試しに一個増やしてやろうか?」
「や、やめて下さい……」

 意地悪そうな顔……。

「あまりイジメるなって……小学生みたいだよ」

 圭介先輩がため息をつく。
 蒼斗先輩は、ちょっとムッとしたみたいだ。

「圭介は好きなやつに好きって言えないヘタレだからな」
「俺は蒼斗みたいに単純じゃないんだ」
「え? 圭介先輩、好きな人がいるんですか?」

 それは大変興味がある。

「好きな人は、年上の綺麗なお姉さん」

 ニコニコしながらお茶目な様子で言われた。

「そうなんですか⁉︎」

 圭介先輩の好きな人って年上なんだ。

「トモくん、騙されるな。こいつは本命がいるくせに女を何人も弄ぶ悪い男だぞ」

 蒼斗先輩にそんな事を言われて驚く。

「え⁉︎ 圭介先輩はそんな悪い男に見えませんよ」

 圭介先輩はすごく優しい。
 今だって蒼斗先輩と俺のご飯買ってきてくれたし。

「トモ~。いい子だね~」

 圭介先輩にナデナデされると、蒼斗先輩がその手を叩き落とす。
 お互いに目を細め合うのでハラハラしてきた。

「蒼斗の分はトモにあげちゃう」

 圭介先輩は、ニッコリ笑ってそっと俺の目の前にロールケーキを2つ置いた。
 蒼斗先輩は顔を引きつらせた。

「それ! 俺の大好きなやつ!」
「え~? 知らないなぁ~。トモが2個食べていいからね」

 チラリと先輩を窺えば、悔しそうな顔……。
 蒼斗先輩は、圭介先輩に弱いらしい。
 思わず笑ってしまう。

「じゃあ、遠慮なく」

 ロールケーキの袋を開けたら、蒼斗先輩の顔が仏頂面でかわいい。
 フォークですくって蒼斗先輩の口元に差し出した。
 驚いた顔をする先輩に笑顔を向ける。

「好きなんですよね?」

 パッと嬉しそうに笑った蒼斗先輩が、すかさずロールケーキをパクリと頬張った。
 かわいくて仕方ない。

「まったく。トモは優しいね」

 俺たちの様子に圭介先輩がクスクスと笑う。

「もっと食べますよね?」

 またロールケーキを差し出したら、蒼斗先輩は俺に真剣な顔を向けた。
 不思議に思って首を傾げる。

「先輩?」
「トモくん……愛してる」

 不意打ちの言葉に俺の胸がキュンと鳴る。
 蒼斗先輩のせいで俺の心臓は大丈夫なのか心配になってくる。
 一気に顔が熱くなった。

「きゅ、急に何を言い出すんですか!」

 蒼斗先輩は、差し出していた腕を掴むと、フォークをテーブルに置いた。そのままドサリと床に押し倒された。

「先輩⁉︎ ロールケーキは⁉︎」

 まだ一口しか食べていない。
 蒼斗先輩の真剣な顔が俺の事を真っ直ぐに見下ろす。

「圭介、俺はロールケーキより好きなものを見つけた……」
「はいはい。それじゃ俺はもう行くから。トモ、頑張ってね」

 いい笑顔で手を振る圭介先輩に唖然とする。そのまま部屋を出て行ってしまった。
 頑張れって何をですか⁉︎

「トモくん、もっと食べさせてもらうよ……」

 今日の先輩のキスは甘いロールケーキの味……。
 先輩の手が体を撫でる。

「せ、せんぱい……あっ……!」

 こんなに愛されて……いいんだろうか……。
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