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嫌です……

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「トモ、朝は八木澤先輩と一緒に来るのに、帰りは一緒じゃないんだな」

 ふと和也に問いかけられた事に、そういえばそうだと思う。

「先輩も帰りぐらいは一人がいいんじゃない?」

 とか言って、ちょっと寂しい気がしたのは気のせいにしておこう。

 和也がニヤニヤとこちらを見る。

「八木澤先輩に、一緒に帰ろうって言ってみたら?」
「なんで俺が……」
「あの人なら喜ぶと思うよ」
「嫌だよ……」

 そんなの俺が先輩と一緒にいたいみたいじゃないか……。

 なんてやり取りをすれば、一緒に昼食を食べながらも意識してしまう。

 先輩は帰りはどうしてるんですか?
 そもそも、付き合おうと思ってくれてるのなら、デ、デートとか必要じゃないですか?
 もっとお互いを知ろうと思いませんか?

 なんて……思うだけで、言えない……。

 先輩はあんぱんを食べている。
 かわいい……って言ったら怒られるな。

「和也のメロンパン、ホイップ入ってんの? うまそうだな」

 蒼斗先輩は、和也の食べていたメロンパンが気になるらしい。
 メロンパンにホイップクリームが入った甘そうなパンだ。

「食べます? 俺の食べかけですけどね」
「なら、俺のあんぱん食べるか?」
「いいんすか! それ、美味しいやつっすよね!」

 二人で食べかけのパンを交換する。
 なんだ……? 胸の奥がチクッとした……。

 和也と蒼斗先輩がお互いのパンをアーンと口を開けて頬張ろうとした。

「あっ!」

 急に大きな声を出した俺にみんなで注目された。
 なんで今俺は叫んだんだ⁉︎

「トモ? どうした?」

 和也が不思議そうに声を掛けてくる。

「いや……なんでも……ない」
「変なやつ」

 和也と蒼斗先輩が再びお互いのパンを頬張ろうとする。

「あっ! ……と……えっと……」

 また叫んでしまった!
 蒼斗先輩がニヤリと笑った。

「和也、これさ、後で俺に買ってきて。あんぱん返せ」
「ははーん。なるほど。わかりましたよ」

 二人のパンが手元に戻ってホッとした。
 なんでホッとしているんだ……。

 三人にニヤニヤと見られて居心地が悪い。

「トモ、俺が蒼斗先輩の食べかけのパン食べるの嫌だった?」

 和也に問いかけられる。

「そ、そんな事ない……」

 視線を逸らして反論する。

「トモくん、俺が和也の食べかけのパン食べるの嫌だった?」

 ニヤニヤする蒼斗先輩にも同じ質問をされて、真っ赤になる。

「そんな事ありません!」

 うぅ……俺はそんな事が嫌だったのか……。

「おい」
「「はいはい」」

 蒼斗先輩の一言で、和也と圭介先輩は片付けをして屋上を出て行く。
 二人きりになった屋上で先輩が俺の正面にしゃがみ込む。
 ニヤニヤとしないで下さい。
 
「トモくんさぁ、そろそろ素直になった方がいいんじゃない?」
「な、なんの事だかわかりません」
「例えばさ──」

 頭の後ろをガシッと掴まれて、強引に唇を塞がれる。
 先輩のキスは甘い……。
 唇を離せば、目の前の先輩が微笑む。

「こういう事を俺がトモくん以外の誰かにしたらどう思う?」

 これは観念するしかなさそうだ……。
 視線を下に落として恥ずかしいのを我慢して答える。

「い、嫌です……」

 先輩は、嬉しそうに笑う。

「じゃあさ、例えば俺が他のやつと付き合ったら?」

 そんなの考えるだけで──

「嫌です……」
「和也の食べかけのパンを食べようとしたら?」
「嫌です……」
「それってさぁ……どういう事だかわかるよな?」

 わかる……。
 わかるけれど……その一言を先輩に言うのはなぜだか抵抗がある……。

「先輩……」

 先輩が今までにないぐらい楽しそうだ。

「先輩は……放課後何してますか?」

 やっぱりまだ言えなかった。

「は?」

 先輩が間抜けな顔をした……貴重だ。

「だから……ほ、放課後……何してますか?」
「お前さぁ、今この瞬間にする質問か? 他に言う事があっただろ?」

 呆れたように言われたけれど、だって……恥ずかしいんだもん……。
 放課後までに心の準備をしたい。

「放課後……一緒に帰りませんか?」

 そっと視線を上げて先輩を窺う。
 その時に言えたらいい。

「トモくんから誘われるの初めてだな……」

 先輩が……照れた。
 赤くなって口元を覆う。
 こういう反応をするから俺はこの人に翻弄されるんだ。

「今日はバイトなんだよ……」

 少し残念そうに言われた。

「バイトしてたんですか?」

 驚きだ。なんのバイトなんだろう。

「ああ。でも、早くあがらせてもらうから待っててくれる?」
「いいんですか?」
「放課後、迎え行くから」
「はい」

 先輩にポンポンと頭を叩かれた。
 この優しい手つきにドキドキする。
 放課後が待ち遠しかった。

 それまでには、心の準備をして……今は言えない一言が言えたらいいな。
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