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涼と雅哉
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「雅哉」
「涼さん……」
雅哉は、夏休みが終わって数日経った放課後に、高校から出た所で涼に引き止められて立ち止まった。
何しに来たのかは何となくわかる。
「ちょっと話そうか」
「はい……」
二人は、近くの喫茶店に入って対面して座り、涼がアイスコーヒーを二つ頼んだ。
注文したアイスコーヒーが来てから、話し出したのは涼だった。
「雅哉はすごいね、あの高校に入れたんだから」
雅哉は笑顔を涼に向ける。
「涼さんこそ、名門大学卒業間近じゃないっすか」
二人は笑顔でしばらく沈黙して見つめ合った。
先に話すのはやっぱり涼だ。
「この前、ハルに宣戦布告を残してくれたね」
「あぁ──あれ、ハルは、とっても喜んでくれてましたよ」
笑顔で返す雅哉に、涼はクスクスと笑って目を細めた。
「雅哉は知らないだろうけど、ハルはね、僕の腕の中でトロトロになるまで突かれるのが一番喜ぶんだ。あんな可愛いハルを見せられないなんて残念だよ」
「──今は涼さんのものかもしれませんけど、この先はわかりませんよ」
涼の瞳がギロリと雅哉を射抜く。
「ガキが──調子に乗るなよ。この先もずっとハルは僕のものだ」
初めて涼の攻撃的な面を見て、雅哉の背中に冷や汗が伝った。
普段が温厚なだけあって、迫力があるように感じる。
けれど、雅哉はそれを表面に見せないように笑ってみせる。
「涼さんの本性ってそれですか? すげぇ猫被ってるんですね」
「これも僕だ。敵に優しくする必要はないだろう?」
雅哉は、敵だと言われた事に苦笑いする。
「敵……ですか。でも、俺だって真剣なんですよ。それに、ハルは涼さんを家族って言ってましたよ」
「……お前だってただの友達だろ?」
「じゃあ、お互い様っすね」
二人の沈黙の中、飲んでないアイスコーヒーの氷が溶けてカランッと鳴った。
遠くで「いらっしゃいませ」と店員の声が聞こえる。
「──ハルに近付くな」
「それはできませんね。ハルを忘れる事なんてできません。」
雅哉にとって春樹は特別だ。
何度も何度も忘れようとしたのに忘れられなかった特別な存在。
ずっと苦しかった気持ちをやっと伝えられたと思っている。
自分の手で蕩けた顔をした春樹をもう一度見てみたい。
涼は、雅哉の引き下がらない態度に苛立ち始める。
「あれだけハルは僕のものだと見せつけたのに、まだ諦めないんだ?」
「そんな簡単じゃないんですよ……だから宣戦布告したんです」
二人に笑顔はもうなかった。
真剣な瞳でお互いを見ていた。
「友達のままだったなら、側にいさせてやったのに──」
「それじゃ満足できなかった……涼さんも同じでしょ?」
涼は、雅哉を先程よりも更に敵視した。
雅哉には、涼の瞳の奥で怒りの炎が静かに揺らめいたように見えた。
「指を咥えて見ているだけだったお前と一緒にするなよ! すぐ側にいるのに手が届かなくて、毎日、毎日嫉妬で胸が焼きついて、狂ってしまいそうになる気持ちがお前にわかるのか……⁉︎ 嫌われても憎まれても──何をしても自分のものにしたい──そんな気持ちになった事がお前にあるのか⁉︎」
涼は、無意識に拳をギュッと握って、胸の奥の痛みに耐えていた。
その時の気持ちが戻ってくるようだ。
胸が張り裂けそうで痛くて……苦しい……。
「あるわけないんだ──だからお前は友達のままだった──それなのに……今更ハルを僕から奪うのか……?」
涼が何度愛していると言い続けても、返ってこない春樹の言葉……。
春樹をめちゃくちゃにして無理矢理手に入れた涼は、その言葉を聞ける事はできないのだと思っている。
それが自分への罰だと受け入れて、愛して欲しいと求める事ができない苦しさをずっと胸の内に秘めている。
春樹を傷付けてでも、どうしても春樹が欲しかった──。
涼の気持ちと快楽を、何度も何度も春樹に刻んで離れられないようにした。そうしなければ、手に入らなかった。
それなのに、そこまでしてやっと手に入れた春樹をどうして奪おうとするんだ……。
涼に余裕などなく、いつだって必死だった。
雅哉は、苦しそうな涼の様子を見て、春樹が涼のことを突き放せなかったと言っていたのを思い出す。
「涼さんは──ハルに何をしたんだ?」
「ハルは僕のものだ。お前になんか渡さない」
「……もしもハルが俺を選んだら?」
「有り得ない──忠告はしたからな」
涼は、テーブルの上にお金を置いて、雅哉を残してさっさと店を出た。
一人残された雅哉は、アイスコーヒーを飲んでホッと一息つく。
思ったよりも体の力が抜けた。かなり緊張していたようだ。
涼は、雅哉の問いに答えなかった。きっと言えない何かがあるのだろうと雅哉は思う。
涼の事を予想以上に厄介な相手だと思いながらもニヤリと笑った。
「わざわざ忠告しに来るなんて──涼さん、意外と余裕ないんだな。ははっ、俺にもチャンスはありそうだ」
雅哉は、どうやって春樹に近付こうかと考えていた。
「涼さん……」
雅哉は、夏休みが終わって数日経った放課後に、高校から出た所で涼に引き止められて立ち止まった。
何しに来たのかは何となくわかる。
「ちょっと話そうか」
「はい……」
二人は、近くの喫茶店に入って対面して座り、涼がアイスコーヒーを二つ頼んだ。
注文したアイスコーヒーが来てから、話し出したのは涼だった。
「雅哉はすごいね、あの高校に入れたんだから」
雅哉は笑顔を涼に向ける。
「涼さんこそ、名門大学卒業間近じゃないっすか」
二人は笑顔でしばらく沈黙して見つめ合った。
先に話すのはやっぱり涼だ。
「この前、ハルに宣戦布告を残してくれたね」
「あぁ──あれ、ハルは、とっても喜んでくれてましたよ」
笑顔で返す雅哉に、涼はクスクスと笑って目を細めた。
「雅哉は知らないだろうけど、ハルはね、僕の腕の中でトロトロになるまで突かれるのが一番喜ぶんだ。あんな可愛いハルを見せられないなんて残念だよ」
「──今は涼さんのものかもしれませんけど、この先はわかりませんよ」
涼の瞳がギロリと雅哉を射抜く。
「ガキが──調子に乗るなよ。この先もずっとハルは僕のものだ」
初めて涼の攻撃的な面を見て、雅哉の背中に冷や汗が伝った。
普段が温厚なだけあって、迫力があるように感じる。
けれど、雅哉はそれを表面に見せないように笑ってみせる。
「涼さんの本性ってそれですか? すげぇ猫被ってるんですね」
「これも僕だ。敵に優しくする必要はないだろう?」
雅哉は、敵だと言われた事に苦笑いする。
「敵……ですか。でも、俺だって真剣なんですよ。それに、ハルは涼さんを家族って言ってましたよ」
「……お前だってただの友達だろ?」
「じゃあ、お互い様っすね」
二人の沈黙の中、飲んでないアイスコーヒーの氷が溶けてカランッと鳴った。
遠くで「いらっしゃいませ」と店員の声が聞こえる。
「──ハルに近付くな」
「それはできませんね。ハルを忘れる事なんてできません。」
雅哉にとって春樹は特別だ。
何度も何度も忘れようとしたのに忘れられなかった特別な存在。
ずっと苦しかった気持ちをやっと伝えられたと思っている。
自分の手で蕩けた顔をした春樹をもう一度見てみたい。
涼は、雅哉の引き下がらない態度に苛立ち始める。
「あれだけハルは僕のものだと見せつけたのに、まだ諦めないんだ?」
「そんな簡単じゃないんですよ……だから宣戦布告したんです」
二人に笑顔はもうなかった。
真剣な瞳でお互いを見ていた。
「友達のままだったなら、側にいさせてやったのに──」
「それじゃ満足できなかった……涼さんも同じでしょ?」
涼は、雅哉を先程よりも更に敵視した。
雅哉には、涼の瞳の奥で怒りの炎が静かに揺らめいたように見えた。
「指を咥えて見ているだけだったお前と一緒にするなよ! すぐ側にいるのに手が届かなくて、毎日、毎日嫉妬で胸が焼きついて、狂ってしまいそうになる気持ちがお前にわかるのか……⁉︎ 嫌われても憎まれても──何をしても自分のものにしたい──そんな気持ちになった事がお前にあるのか⁉︎」
涼は、無意識に拳をギュッと握って、胸の奥の痛みに耐えていた。
その時の気持ちが戻ってくるようだ。
胸が張り裂けそうで痛くて……苦しい……。
「あるわけないんだ──だからお前は友達のままだった──それなのに……今更ハルを僕から奪うのか……?」
涼が何度愛していると言い続けても、返ってこない春樹の言葉……。
春樹をめちゃくちゃにして無理矢理手に入れた涼は、その言葉を聞ける事はできないのだと思っている。
それが自分への罰だと受け入れて、愛して欲しいと求める事ができない苦しさをずっと胸の内に秘めている。
春樹を傷付けてでも、どうしても春樹が欲しかった──。
涼の気持ちと快楽を、何度も何度も春樹に刻んで離れられないようにした。そうしなければ、手に入らなかった。
それなのに、そこまでしてやっと手に入れた春樹をどうして奪おうとするんだ……。
涼に余裕などなく、いつだって必死だった。
雅哉は、苦しそうな涼の様子を見て、春樹が涼のことを突き放せなかったと言っていたのを思い出す。
「涼さんは──ハルに何をしたんだ?」
「ハルは僕のものだ。お前になんか渡さない」
「……もしもハルが俺を選んだら?」
「有り得ない──忠告はしたからな」
涼は、テーブルの上にお金を置いて、雅哉を残してさっさと店を出た。
一人残された雅哉は、アイスコーヒーを飲んでホッと一息つく。
思ったよりも体の力が抜けた。かなり緊張していたようだ。
涼は、雅哉の問いに答えなかった。きっと言えない何かがあるのだろうと雅哉は思う。
涼の事を予想以上に厄介な相手だと思いながらもニヤリと笑った。
「わざわざ忠告しに来るなんて──涼さん、意外と余裕ないんだな。ははっ、俺にもチャンスはありそうだ」
雅哉は、どうやって春樹に近付こうかと考えていた。
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