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第三章
少しの変化
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テアロが戻って来たのは、お店を閉めて夕方になってからだった。
時々フラッといなくなる事はたまにあったので、それほど気にしていない。
テアロにもテアロの事情があるんだとわかっている。
「テアロ、お帰り!」
「ああ……ただいま」
優しく微笑むテアロが少し元気がないように見えた。
「どうした? 何かあった?」
「何も。先に風呂入るからな」
「わかった」
テアロは、すぐに風呂場へ向かう。テアロがお風呂に入っている間にご飯を作っていれば、すぐに戻ってきた。
キッチンにいた俺の隣に立って、作っていた野菜スープをつまみ食いした。
「味付けまだかよ……」
「先に食べるからだろ」
テアロは、すぐに調味料を取り出して、味付けをしてくれる。
その間にフライパンで焼いていたお肉が焼けた。
「テアロ、お皿取って」
「はいよ」
テアロの向こう側にあったお皿をとってくれた。
「お肉いい匂いだな。腹へった……」
「すぐ食べよ」
一緒に料理する事はたまにあって、二人でキッチンに立つのは慣れたものだ。
今日も一緒にご飯を食べる。一人じゃないって楽しい。
風呂に入って寝る時に、テアロはまたドアを開けて待っていた。
「今日も一緒に寝てくれるって事?」
「ああ……」
テアロの言葉に甘えて部屋に入ってベッドに入った。
テアロは、すぐにベッドに入ってこなかった。
「テアロ?」
ベッドの端に腰掛けて、やけに真剣な顔で上から覗き込んで猫を撫でるように俺の髪を撫でる。
「今まで……俺はお前が安心できる場所が作りたくて、お前の喜ぶ顔が見たかった」
「うん」
テアロの優しさは、よく分かっているつもりだ。
「お前は言ったよな……俺の笑った顔も見たいって……」
「言った……」
「お前は俺がどうしたら喜ぶか知ってるか?」
「え……」
テアロが喜ぶ顔……たくさんある気がするのに、なんでそんな顔をしていたのかは思い出せない。
俺は、甘えてばかりだったかもしれない。
「教えてくれるの?」
「俺は、ここでミオと一緒にいる事が嬉しいんだ……」
「俺も、テアロが側にいてくれて嬉しいと思う」
「お前の気持ちと俺の気持ちは違う」
俺は、テアロと一緒にいれて嬉しい。
その気持ちとは違うって事か?
「はっきり言わないとわかんないか?」
よくわからなくて、コクリと頷いた。
するとテアロは真剣な顔のまま俺の両頬を手で包み込んだ。テアロの顔が一気に近付いた。
おでこに触れた唇の感触は、とても優しかった。
手は俺の両頬を包んだままで、至近距離で見つめ合う。見つめ合う事は何度もあった……それなのに、今までのどんな時よりも経験した事がない雰囲気だった。
テアロから目が離せない。
「これは……好意のキスだ」
好意のキス……それはつまり……。
「お前の事、すげぇ好き」
テアロの赤い眼が本気なんだと訴えてくる。
ドキンと心臓が音を立てて鳴る。
「い、今までそんな事言ったことなかった……」
「今まではさ、それで良かったんだ。でも、今はそうはいかない。これでも焦ってんだよ……返事はいらない。俺の事、意識してもらいたかっただけだ」
「俺、自分の部屋で寝ようかな……」
隣で寝るなんてできない。
テアロは、起きあがろうとする俺の肩を掴んだ。
「逃げんなよ。俺に言わなきゃ良かったって後悔させんな」
そのまま布団に入って俺を胸に抱きしめる。
「だって……寝れない……」
先ほどと全く違う。気まずいようなこの感じ……。顔が熱い。
「俺はお前の安心できる場所になりたかった……でも、それだけじゃダメだった……」
テアロは俺のために今までずっとそう思ってくれていたのか……。
「俺を好きになれ。そうすれば、俺はお前の横で笑っていられるからさ。怖がらせたいわけじゃないんだ。この関係を壊したくもない……」
「テアロ……」
そっと背中を撫でる手は、いつもと同じ優しい手だった。
俺は、無神経だったかもしれない。いっぱいテアロに甘えてきた。
「俺もテアロの事、好きだ」
「知ってる。でも、それは、俺と同じ気持ちじゃない」
本当の家族より家族みたいな存在で大好きだ。
「ごめん……」
「だから、意識して欲しかっただけだ。これから好きになればいい」
「好きにならなかったらどうするつもりなの?」
俺は卑怯なのかもしれない。
テアロの気持ちに応えられないのに、一緒にいたいと思っている。
「別に何も変わらない」
「そっか」
俺、ホッとしてる。
「それなら、好きになったら何が変わるの?」
「キスして、エロい事する」
「え!?」
恥ずかしい事を堂々と言ったな……!
「お前が言う好きと俺が言う好きの違いは、それができるかどうかだろ?」
「確かにそうだけど……」
「していいなら今だってできる」
何を言い出すのか!
「ダメダメダメダメ!」
首を横に何度も振る。
「全力で否定すんな」
いつもの仏頂面だ。
「嫌われたくないんだ。お前がいいって言わなきゃ何もしねぇって」
「うん……」
その言葉が信じられるのは、普段のテアロが俺の嫌な事はしないからだ。いつだって俺の気持ちを尊重してくれる。
「テアロ……ありがとう」
「何も変わらないさ。お前が少しだけ俺を意識するようになるだけだ。もう寝ろよ」
やっぱり安心させようとしてくれる。
「おやすみ」
「ああ……おやすみ……」
◆◇◆
朝起きるとテアロはベッドにいない。
一階に降りるとバターの香りと卵を焼いている音がする。
「おはよう」
「はよ。ミオは飲み物用意しろ」
「はーい」
テアロの隣に立って食器棚からグラスを取って振り返れば、狭いキッチンで肩が触れ合った。
視線が絡み合った。やたらと恥ずかしい。
いつも気にならなかった事にドキリとする。
不快感はない。これが意識するって事か……。
「ご、ごめん……」
テアロは、ニヤリと笑った。
「そうやって少しずつ俺の事考えて、いつかは俺の事だけで頭がいっぱいになるといいな」
「ばか……」
「いい感じだ」
そう言って頭をポンッと触ったテアロに少し照れる。
俺は、少しずつテアロに惹かれているのかもしれない。
元々大好きだ。好きになるのはあっという間かもしれない。
時々フラッといなくなる事はたまにあったので、それほど気にしていない。
テアロにもテアロの事情があるんだとわかっている。
「テアロ、お帰り!」
「ああ……ただいま」
優しく微笑むテアロが少し元気がないように見えた。
「どうした? 何かあった?」
「何も。先に風呂入るからな」
「わかった」
テアロは、すぐに風呂場へ向かう。テアロがお風呂に入っている間にご飯を作っていれば、すぐに戻ってきた。
キッチンにいた俺の隣に立って、作っていた野菜スープをつまみ食いした。
「味付けまだかよ……」
「先に食べるからだろ」
テアロは、すぐに調味料を取り出して、味付けをしてくれる。
その間にフライパンで焼いていたお肉が焼けた。
「テアロ、お皿取って」
「はいよ」
テアロの向こう側にあったお皿をとってくれた。
「お肉いい匂いだな。腹へった……」
「すぐ食べよ」
一緒に料理する事はたまにあって、二人でキッチンに立つのは慣れたものだ。
今日も一緒にご飯を食べる。一人じゃないって楽しい。
風呂に入って寝る時に、テアロはまたドアを開けて待っていた。
「今日も一緒に寝てくれるって事?」
「ああ……」
テアロの言葉に甘えて部屋に入ってベッドに入った。
テアロは、すぐにベッドに入ってこなかった。
「テアロ?」
ベッドの端に腰掛けて、やけに真剣な顔で上から覗き込んで猫を撫でるように俺の髪を撫でる。
「今まで……俺はお前が安心できる場所が作りたくて、お前の喜ぶ顔が見たかった」
「うん」
テアロの優しさは、よく分かっているつもりだ。
「お前は言ったよな……俺の笑った顔も見たいって……」
「言った……」
「お前は俺がどうしたら喜ぶか知ってるか?」
「え……」
テアロが喜ぶ顔……たくさんある気がするのに、なんでそんな顔をしていたのかは思い出せない。
俺は、甘えてばかりだったかもしれない。
「教えてくれるの?」
「俺は、ここでミオと一緒にいる事が嬉しいんだ……」
「俺も、テアロが側にいてくれて嬉しいと思う」
「お前の気持ちと俺の気持ちは違う」
俺は、テアロと一緒にいれて嬉しい。
その気持ちとは違うって事か?
「はっきり言わないとわかんないか?」
よくわからなくて、コクリと頷いた。
するとテアロは真剣な顔のまま俺の両頬を手で包み込んだ。テアロの顔が一気に近付いた。
おでこに触れた唇の感触は、とても優しかった。
手は俺の両頬を包んだままで、至近距離で見つめ合う。見つめ合う事は何度もあった……それなのに、今までのどんな時よりも経験した事がない雰囲気だった。
テアロから目が離せない。
「これは……好意のキスだ」
好意のキス……それはつまり……。
「お前の事、すげぇ好き」
テアロの赤い眼が本気なんだと訴えてくる。
ドキンと心臓が音を立てて鳴る。
「い、今までそんな事言ったことなかった……」
「今まではさ、それで良かったんだ。でも、今はそうはいかない。これでも焦ってんだよ……返事はいらない。俺の事、意識してもらいたかっただけだ」
「俺、自分の部屋で寝ようかな……」
隣で寝るなんてできない。
テアロは、起きあがろうとする俺の肩を掴んだ。
「逃げんなよ。俺に言わなきゃ良かったって後悔させんな」
そのまま布団に入って俺を胸に抱きしめる。
「だって……寝れない……」
先ほどと全く違う。気まずいようなこの感じ……。顔が熱い。
「俺はお前の安心できる場所になりたかった……でも、それだけじゃダメだった……」
テアロは俺のために今までずっとそう思ってくれていたのか……。
「俺を好きになれ。そうすれば、俺はお前の横で笑っていられるからさ。怖がらせたいわけじゃないんだ。この関係を壊したくもない……」
「テアロ……」
そっと背中を撫でる手は、いつもと同じ優しい手だった。
俺は、無神経だったかもしれない。いっぱいテアロに甘えてきた。
「俺もテアロの事、好きだ」
「知ってる。でも、それは、俺と同じ気持ちじゃない」
本当の家族より家族みたいな存在で大好きだ。
「ごめん……」
「だから、意識して欲しかっただけだ。これから好きになればいい」
「好きにならなかったらどうするつもりなの?」
俺は卑怯なのかもしれない。
テアロの気持ちに応えられないのに、一緒にいたいと思っている。
「別に何も変わらない」
「そっか」
俺、ホッとしてる。
「それなら、好きになったら何が変わるの?」
「キスして、エロい事する」
「え!?」
恥ずかしい事を堂々と言ったな……!
「お前が言う好きと俺が言う好きの違いは、それができるかどうかだろ?」
「確かにそうだけど……」
「していいなら今だってできる」
何を言い出すのか!
「ダメダメダメダメ!」
首を横に何度も振る。
「全力で否定すんな」
いつもの仏頂面だ。
「嫌われたくないんだ。お前がいいって言わなきゃ何もしねぇって」
「うん……」
その言葉が信じられるのは、普段のテアロが俺の嫌な事はしないからだ。いつだって俺の気持ちを尊重してくれる。
「テアロ……ありがとう」
「何も変わらないさ。お前が少しだけ俺を意識するようになるだけだ。もう寝ろよ」
やっぱり安心させようとしてくれる。
「おやすみ」
「ああ……おやすみ……」
◆◇◆
朝起きるとテアロはベッドにいない。
一階に降りるとバターの香りと卵を焼いている音がする。
「おはよう」
「はよ。ミオは飲み物用意しろ」
「はーい」
テアロの隣に立って食器棚からグラスを取って振り返れば、狭いキッチンで肩が触れ合った。
視線が絡み合った。やたらと恥ずかしい。
いつも気にならなかった事にドキリとする。
不快感はない。これが意識するって事か……。
「ご、ごめん……」
テアロは、ニヤリと笑った。
「そうやって少しずつ俺の事考えて、いつかは俺の事だけで頭がいっぱいになるといいな」
「ばか……」
「いい感じだ」
そう言って頭をポンッと触ったテアロに少し照れる。
俺は、少しずつテアロに惹かれているのかもしれない。
元々大好きだ。好きになるのはあっという間かもしれない。
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