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第二章

離してくれない

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 案内された部屋は、それなりに綺麗な部屋だった。きっとレイジェルの為に綺麗にしたんだろう。
 国王は、どうにか俺とレイジェルを離そうと必死だった。けれど、レイジェルがそれを許さなかった。
 今は部屋の長椅子に座りながら、俺の手を握ったまま隣に座っている。

「レイジェル殿下、長旅で疲れたでしょう。今日はゆっくりお休み下さい。明日は歓迎の催し物を予定してます」
「ありがとう」
「で、では、ミリアンナは自分の部屋に戻りますのでそろそろ……」

 俺の方に目配せしてきたのでレイジェルから離れようと立ち上がったら、グイッと手を引かれてしまった。

「わっ!」

 そのままボスッとレイジェルの腕の中に収まってしまった。
 椅子の上でお姫様抱っこ……やめて……。

「ミリアンナも長旅で疲れている。家族と話すなら、ここで話せ。私がいても問題ないだろう?」

 ずっと離さないつもりらしい。

「わ、わかりました……」

 国王は、汗ダラダラで部屋から出て行った。
 俺はどうすればいいんだ……。

「ミリアンナ。君と一緒にいたいと言っただろう?」

 妖艶に微笑むレイジェルが間近に見えて顔を熱くする。

「お、降ろして下さい……」
「私の膝の上は不満か?」
「恥ずかしいんです……」

 すると、レイジェルは、俺を隣に座らせた。
 ホッとしていたのも束の間。横になると、俺の膝の上にポスッと頭を乗せてきた。
 膝枕再び……。
 レイジェルの膝の上がダメなら俺の膝の上って考えてそうだ。

「やめて下さい……」
「馬車の中では寝ていて勿体無いことをした。こんな気持ちになるんだな」

 そう言いながら、俺を見上げるレイジェルが嬉しそうに笑う。
 恥ずかしい……。

「どんな気持ちなんですか……?」
「嬉しくて気恥ずかしい。それでいて安心できる。しばらくこのままでいてくれないか?」

 そう言って笑うレイジェルに俺も気恥ずかしいのに、嬉しいような気がしてしまう。

「…………どうぞ……」

 ボソリと呟いた俺に、レイジェルは可愛らしい笑顔を向けて目を閉じた。
 全くこの人は強引でマイペースだ……と思って顔を上げれば、この状況をみんなに見られている事に気付く。
 ラトとロッシとカインはニヤニヤしているし、フロルにまで何かを悟っている笑顔を向けられて、羞恥心で死ねそうだった……。

     ◆◇◆

 レイジェルは、俺を全く離そうとしなかった。どこへ行くにも二人一緒だ。
 国王が何度か俺たちを引き離そうとしたけれど、レイジェルが理由をつけてはさえぎっていた。

 風呂まで一緒に入ろうと言い出した時には全力で拒否だ。そして、寝る時間……俺は、部屋に戻らせてもらえなかった。
 レイジェルの寝室に連れてかれて、ベッドに横になるレイジェルに微笑まれる。

「さぁ、一緒に寝よう」

 キラッキラの笑顔でポンポンと隣を叩くレイジェルに遠い目をする。

「部屋に戻ります……」

 回れ右をして扉に手を掛けようとしたら、ラトが扉の前に立った。

「一緒にお休みになって下さい。何もしませんよね? レイジェル様」

 レイジェルに向かって確認すれば、レイジェルは笑顔で頷いた。

「しない。だから、一緒に寝よう」

 その笑顔が嘘くさいんだ。

「どうしても部屋に戻ると言うなら、私もその部屋で寝よう」

 それじゃ意味ないんですよー。

「逆に聞くが、どうして嫌なんだ? ミリアンナの嫌がる事はしない」
「どうしてそんなに一緒に寝たがるんですか?」
「私の知らない間にいなくなったら困るからだな」

 そんなにも俺の逃亡劇がレイジェルのトラウマになっているとは……。

「ミリアンナが側にいないと不安で不安でたまらないな。隣で寝てくれないと私は眠れないんだ。君がこの部屋から出てしまったら……私は眠ることもできずに一夜を明かす事になるんだろうな……」

 そんな事を言い出したレイジェルに、顔を引きつらせながらため息をついた。
 
「…………寝るだけなら……」

 そう言った俺にレイジェルは、パァと笑顔を向けてきた。
 負けた……俺はこの人に負けた……。

「そ、その代わり、触ったりしないで下さいね! 寝るだけですよ! あくまで寝るだけ!」

 隣で寝るだけなら問題はないはず……。

「ああ。君の嫌がる事はしないと誓おう」

 仕方なくレイジェルの隣に行って人一人分の間を空けて横になる。
 すると、ラトが明かりを消して部屋を暗くするとドアが閉じる音がした。

 レイジェルと二人きりだ……。
 やけに緊張する……目を閉じても寝れる気がしない。
 レイジェルを意識しないように背中を向けた。
 少しして、ゴソッと音がした。
 背後から俺の方に伸びてきて、抱きしめてきた手にドキンと胸が鳴った。

「レイジェル……」
「なんだ?」

 耳元で囁かれた声に一気に体が熱くなった。
 明かりがついていたら真っ赤になっているのを見られていたかもしれない。

「何もしないんじゃないんですか……?」
「何もしない。抱きしめて寝るだけだ」

 それって何もしないって言えるのか……?
 そんな事されたら寝られない。

「私と一緒だと寝られないのは、意識しているからか? 私を好きになったのか?」
「な、何を仰るのです!」

 違う! 意識なんかしていない! 好きじゃない!
 男同士なんだから何も問題はない。そうだ! 寝る! 俺は寝る!

「ね、寝ます……!」
「ミリアンナが眠ったら解放しよう」
「絶対、約束ですからね!」
「ああ……だから、ゆっくり寝るといい」

 そう言ってギュッと抱き寄せられた。
 寝る時に誰かと一緒に寝るのなんて初めてだ。
 レイジェルの広い胸板にすっぽり収まっている自分……。
 人の体温って温かいんだな……。
 ドキドキとしていた胸が段々と落ち着きを取り戻してくる。
 レイジェルの心臓の音と混じり合っている気がして心地良くなってきた。

 なんか……安心する──……。

 俺はそのまま目を閉じてレイジェルの腕の中で眠りについた。
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