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犬のように鎖で繋がれて、もう何日経ったのだろう。ここには時計もテレビもない。ただ、ステンドグラスから差し込む日差しでおおよその時間を予想することしかできなかった。
ここから逃げるために無理やり枷を外そうとしても、ただ爪が割れただけだった。あの人は私の傷ついた手を見て、「まだ暫くそれは外してあげられないね……」と寂しそうに呟いていた。
部屋の外から足音が聞こえる。あの人が食事を持ってきたのだろう。いつものようにノックが聞こえて、扉が開いた。

「お昼ご飯だよ。今日はサンドイッチとスープにしたんだ」

アボカドと海老の入ったサンドイッチは色鮮やかできっと美味しいのだろうけど、ここに来てから食欲がなくなった。

「在宅ワークだけの日はこうして一緒にお昼を食べられていいね」
「…………」
「あぁ、でも明日は出社しなきゃいけないんだ……ごめんね」

あの人の車を奪って逃げようと決めたものの、そのチャンスは一向に訪れなかった。ここからなかなか出られないし、一階に連れて行ってもらえたとしても、あの人の目を盗んで車の鍵を探し出すことは難しい。

彼は、どうしてるだろう……怪我は良くなったのかな……

もう彼のことを考えても涙は出なくなった。泣けるほどの体力もなくなったのかもしれない。

私は、いつここから出られるのかな。

ぼんやりとステンドグラス越しに外へと目を向けると、あの人が口を開いた。

「ふふ……綺麗でしょう?そのステンドグラス。その天使は、君を守ってくれるように……それからこの花は……なんて言うか知ってる?」
「……知らない」
「ゼフィランサスって言うんだよ」

聞いたことのない花だ。目を閉じた天使を囲むように咲く小さな花。

「……汚れなき愛……っていう、花言葉で……」

言いにくそうに俯いたりステンドグラスや私をチラチラ見ている。そのもじもじとした様子に、何故か苛立ちを覚えた。

「あの……僕の気持ちを、形にしたくて……このステンドグラスを用意したんだ……」
「……え?」

あの人の頬が染まっている。この感じは、過去にも覚えがある。こんな密室で足枷つきで味わうようなものではないけれど。

「今までちゃんと口にしたことはなかったけど……僕も、君のことが好きだったよ……」
「……!!」

愛の告白なんて、本来なら嬉しいはずだ。例え私がその人を好きでなかったとしても、照れくさいような、恥ずかしいようなくすぐったさを覚えるものだけど。
薄々感づいてはいたけれど、目を逸らしていたのに。

「好きだからって……人を襲ったり、誘拐したり……もう……」

泣く体力なんてないと思っていたのに。勝手に涙が溢れてきて、それを見たあの人は驚いていた。

「勿論すごく勇気が必要だったけど……僕は、君のためならそれくらいできるよ」

そう言いながら真っ直ぐにこちらを見る目が許せなくて、苦しくて、でも逃げられない自分が情けなくて、ただあの人が見えないようにベッドに突っ伏して涙が止まるのを待った。
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