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アフターストーリー
第四百八十九話 神々の拠点攻防戦 転回編
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VRMMOファーアースオンラインの『サンタ・エズレル神殿』の戦いはゼノフォーブの作戦通りに推移していた。それでもキュウは、その胸の内に不安が渦巻くのを止められないでいる。
素直に考えれば『敵は全知である』として計算して立案された作戦が、『実は敵が全知ではなかった』となったとしても覆されるとは考えづらい。
全知とは最上位の形容であり、それを破る作戦ならば古今東西ありとあらゆる作戦を超えるものであるはずだ。
ただし主人たちからすれば、例外があるらしい。
その例外で代表的なのは、論理的に全知は存在しないという点である。
『敵は全知である』という前提条件を入力して、確率百パーセントで勝利できる作戦を立案するには、『全知とは何か』を定義しなければならない。
しかし全知を定義することは不可能だ。全能のパラドクスは、そのまま全知のパラドクスにも言える。
『全てを知る存在は“無知”を知っているのか』。この問いを『一足す一は』と同じように数学的に定義する答えはない。
これは最初からゼノフォーブの作戦は破綻している、とも言えた。だがゼノフォーブ自身もそれを理解している。
それで問題ないのは、ゼノフォーブが挑んだ神戯がVRMMOファーアースオンラインだからである。ゲームに落とし込んでしまえば、全知も完全観測者も極限の定義として扱える。数学には無限大数や無限小数を扱う計算が存在する。
以上の内容を、主人から説明して貰ったけれど、キュウには理解不能だったので『この例外は問題ない』という事実だけを受け止めておいた。
なお主人の名誉のために言っておくが、キュウの知識が足りなかっただけで、主人の説明が下手だった訳ではないはずだ。
兎にも角にもマリアステラの存在が全知だろうが完全観測者だろうが、ゼノフォーブの作戦に狂いは起こらないという話。
だが、例外は一つとは限らない。
キュウ、ゼノフォーブ、ゼノフィリアが相対するマリアステラは、その表情に今までとは別種の笑みを作りながら、ゼノフォーブへ問いかけた。
「そういえば、ぜーが勝った場合の約束をしてなかったね。ぜーを無視した訳じゃないよ。ほらあれ。最推しのアイドルが目の前に居たら、その時ばかりは友達を後回しにしちゃう感覚。ごめんごめん。謝罪の意味で、この神戯に勝った時の賭けの天秤に、少し大きなものを乗っけて良いよ」
それはマリアステラからゼノフォーブへ向けた最大級の賛辞だったのだろう。無敵の女神マリアステラが戦う相手としてゼノフォーブを認めたのだ。少なくともキュウにはそう感じられた。
「吾からまーへの要求など、一つだ! まーを親友と呼べというシステムを撤回しろ!」
「えー、あれからいっぱい神戯をしたんだから、もう誰がどう見ても親友同士でしょ?」
「だからだ! 吾と、吾の派閥の者たちまで、<星>と交友があると思われる! そのせいで、ドラゴンやエルフ、<時>や無所属の神までが寄って来た!」
現代リアルワールドは、魔力や神の力に侵されていない純粋な世界である。そこへ入り込む異物を忌避するのがゼノフォーブだった。
「吾の世界で生きる者たちにとって、どれほど迷惑か!」
「それは見解の相違だね。私は魔法や神が在ったほうのが、人は幸福になれると思う」
「法則や世界をねじ曲げるような力は、より大きな戦乱を生む。吾の世界には、不要だ!」
「もう一人のぜーも、同じ考え?」
「まーが俺を気に掛けるのは珍しい。吾はフォーブの意志を尊重するだけだ。まあ言わせて貰えば、一人の気分によって世界がどうにかなるのは、どうなんだろうとは思うな」
「人間が民主主義って考えるやつだけど、それは神にも当て嵌まる?」
会話の最中もマリアステラ対ゼノフォーブ、ゼノフィリアの戦いは続いている。
いくらマリアステラがバフを受けていたとしても、トッププレイヤー二人を相手にすれば勝利の可能性を観測するのは難しい。亜量子コンピュータからの予知能力に加えて、ゼノフォーブとゼノフィリアの連携は完璧だった。
「ははっ、良いね、ぜー! 負けそう! だから―――」
マリアステラは笑った。嗤ったのではなく、笑った。
「負けないために、頑張る! それが楽しい! そして困難を超えた時が、一番楽しい! 楽しさはすべてに優先する!」
キュウの覚えた危機感は錯覚だったかと思い始めた頃、ゼノフォーブとゼノフィリアの連携攻撃に防戦一方だったマリアステラが、反撃を始める。
「成長、してる………?」
マリアステラはこの敗北の危機を前にして、猛攻を耐え抜くために成長しようとしていた。
まるで最強だった主人が、さらに最強へ到達したように。
虹の瞳の輝きが強くなったような気がする。
マリアステラはこの神戯で成長する。
「ぜ、ゼノフォーブ様!」
キュウはその黄金の耳で聞き取れる情報が、一気に狭まったのを感じた。
マリアステラの虹の瞳の力が強まったことにより、ほんの小さな可能性、亜量子コンピュータの極小の計算誤差、星の煌めきの違いが、マリアステラの都合の良い未来へ導こうとする。
「この後に及んで神格を昇華させるか。底なしめ」
「ぜーとキュウが私を楽しくさせるから!」
「だが同じだ! まー、お前がどうなろうと、最初から極限で計算されている最適解は狂わない」
ここはVRMMOファーアースオンライン、ゲームだから、マリアステラが更に強くなったところで、いきなりアバターが成長することはない。
戦闘の読み合いやタイミングは圧倒的にマリアステラに分があったとしても、ゼノフォーブとゼノフィリアは二対一で、装備もステータスも二人のが高い。
物語では主人公がいきなり覚醒して敵を倒す。マリアステラならそれができるけれど、それさえも封じた。ゲームでは覚醒をしてもステータスやスキルが変わるなんて有り得ない。
ゼノフォーブの作戦は、マリアステラの成長という要素さえも計算に入れている。
マリアステラのHPが急激に減っていった。
「あー、参ったなー。駄目かー。ちょっと格好悪いことして良い?」
「格好悪いこと?」
マリアステラは出会ってから初めて、本気で困ったような恥ずかしいような表情を作る。
まさか「格好悪いから駄目です」と言って、止めてくれるはずもないので身構えた。ゼノフォーブとゼノフィリアも警戒を強める。
いやマリアステラだから、本当に嫌がったら止めてくれそうな気もしたが。
そんな益体もないことを考えていた次の瞬間、絶望的な情報がキュウを襲った。
> Character Change
それは異世界ファーアースで、主人を祖父オウコーが乗っ取った時に現れた文字。
マリアステラ
BLv:9999+++
CLv:9999
DLv:9999
TLv:9999
HP :999,999,999
MP :999,999,999
SP :999,999,999
STR:99,999,999(+99,999,999)
DEX:99,999,999(+99,999,999)
VIT:99,999,999(+99,999,999)
INT:99,999,999(+99,999,999)
AGI:99,999,999(+99,999,999)
MAG:99,999,999(+99,999,999)
「え?」
「本当は、魔王様の前でやるつもりだったのに。ぜーとキュウに追い詰められちゃった」
マリアステラのアバターが光ったかと思った瞬間、ステータスがまるで反転したかのように成長していた。
「なん、で?」
「キュウ、そのなんでは、どうやってって意味? 今まではサブキャラを使ってただけだよ。ファーアースであった魔王様とオウコーの関係と一緒。らーを追い詰めた時に入れ替わったでしょ」
「そ、そうではなく、て」
「どうして私がキャラ替えすることをキュウの耳で聞こえなかったのか、どうして私がサブキャラであることをVR空間を管理運営するぜーも知らなかったのか」
キュウ、ゼノフォーブ、ゼノフィリアは動きを止めていた。亜量子コンピュータがビジー状態になり、計算結果となる予知を出力できなくなっていたからだ。
「キュウの可聴領域よりも私の可視領域のが広い。だから隠すのも簡単。それからぜーはVR空間の管理運営をしているけど、ファーアースオンラインは別の企業のものだから、そこのデータまでは勝手にアクセスできないんだよ。この世界の企業に詳しくないキュウには、ちょっと分かり辛いかな?」
キュウがゼノフォーブとゼノフィリアを見る。二人が否定しないところを見ると、その通りらしい。
「まー、お前、ファーアースオンラインを」
「そうだよ、ぜー。私はファーアースオンラインを廃課金廃人プレイしてた」
「ば、馬鹿なのか? <星>の者たちに、どう示しを付けている!?」
「いや、そもそも私がそれだけやっていたから、太陽神も全力で廃プレイに付き合ってくれてたんだよ。そうじゃなかったら、あの真面目ならーが、私を放ってゲームに傾倒するはずないでしょ」
マリアステラは最初から、その気になればいつでもカンストアバターへキャラクターチェンジが可能だった。未来視によって、絶対に失敗しないタイミングで。
マリアステラがレベル一アバターを使っていたのは、他者を弄ぶためだった。
「まー、本当に、心の底から、思う。お前の性格は、最悪だっ!」
ゼノフォーブが睨み付けたけれど、当のマリアステラはどこ吹く風と言った調子である。
「あははは! 酷いな、傷付いちゃうよ。でも私と魔王様、二人きりの一騎打ちのため、キュウとぜーたちには脱落して貰おうかな」
マリアステラはキャラクターチェンジを行ったため、まったくの無傷。それだけでなく、キュウたち三人のステータスを大きく上回っている。
キュウはあっという間に劣勢になったゼノフォーブとゼノフィリアを見る。二人は驚愕と苦渋の表情を作り、マリアステラは二人へ攻撃を続けながら心から楽しそうに笑っていた。
極限の未来視に、主人と同じカンストステータスが合わさった今、キュウの黄金の耳で聞き取れる未来に、マリアステラへ反撃する方法はない。
キュウもゼノフォーブもゼノフィリアも敗北する。
キュウは勝てない。
でも。
そう思った時、いつも現れてくれるのが。
フォルティシモだ。
「領域・爆裂」
極大の爆発音。巨大な衝撃が『サンタ・エズレル神殿』へ襲いかかった。感じたことのある震動と何かが崩れる音がした。キュウの耳がなくても聞き取れるような大きな音だ。それは『サンタ・エズレル神殿』の大聖堂の天井から聞こえて来た。見上げてみれば、大聖堂の天井が爆発によって吹き飛んでいる。
天井が取り払われたから空が見える。そこに居るのはキュウの主人だった。
キュウの主人はあの日と同じように、『サンタ・エズレル神殿』の天井を爆砕して現れたのだ。
あの日と違うのは、全身ボロボロでHPもレッドゾーンになっている点だった。太陽神ケペルラーアトゥムとの死闘を得て、大きなダメージを負っている。
「ご主人様!」
「魔王様、残念だよ。ぜーの作戦通りに動くなんて。今回は私が勝って、魔王様に“まー”って呼んで貰うようにしよう」
「フォルティシモ、だと? 計算上、ケペルラーアトゥムとの戦いは、あと数分は決着が付かなかったはずだが?」
主人は破壊された天井からゆっくりと降りてくる。この場に居る者たち全員が、主人の一挙手一投足へ注目していた。
そして主人が『サンタ・エズレル神殿』の大聖堂の床に足を付けた後、キュウを見る。
「キュウ、怪我はないな?」
ここはゲーム内だから怪我がないのは当たり前だけれど、キュウはあの日と同じように答えた。
「はいっ!」
素直に考えれば『敵は全知である』として計算して立案された作戦が、『実は敵が全知ではなかった』となったとしても覆されるとは考えづらい。
全知とは最上位の形容であり、それを破る作戦ならば古今東西ありとあらゆる作戦を超えるものであるはずだ。
ただし主人たちからすれば、例外があるらしい。
その例外で代表的なのは、論理的に全知は存在しないという点である。
『敵は全知である』という前提条件を入力して、確率百パーセントで勝利できる作戦を立案するには、『全知とは何か』を定義しなければならない。
しかし全知を定義することは不可能だ。全能のパラドクスは、そのまま全知のパラドクスにも言える。
『全てを知る存在は“無知”を知っているのか』。この問いを『一足す一は』と同じように数学的に定義する答えはない。
これは最初からゼノフォーブの作戦は破綻している、とも言えた。だがゼノフォーブ自身もそれを理解している。
それで問題ないのは、ゼノフォーブが挑んだ神戯がVRMMOファーアースオンラインだからである。ゲームに落とし込んでしまえば、全知も完全観測者も極限の定義として扱える。数学には無限大数や無限小数を扱う計算が存在する。
以上の内容を、主人から説明して貰ったけれど、キュウには理解不能だったので『この例外は問題ない』という事実だけを受け止めておいた。
なお主人の名誉のために言っておくが、キュウの知識が足りなかっただけで、主人の説明が下手だった訳ではないはずだ。
兎にも角にもマリアステラの存在が全知だろうが完全観測者だろうが、ゼノフォーブの作戦に狂いは起こらないという話。
だが、例外は一つとは限らない。
キュウ、ゼノフォーブ、ゼノフィリアが相対するマリアステラは、その表情に今までとは別種の笑みを作りながら、ゼノフォーブへ問いかけた。
「そういえば、ぜーが勝った場合の約束をしてなかったね。ぜーを無視した訳じゃないよ。ほらあれ。最推しのアイドルが目の前に居たら、その時ばかりは友達を後回しにしちゃう感覚。ごめんごめん。謝罪の意味で、この神戯に勝った時の賭けの天秤に、少し大きなものを乗っけて良いよ」
それはマリアステラからゼノフォーブへ向けた最大級の賛辞だったのだろう。無敵の女神マリアステラが戦う相手としてゼノフォーブを認めたのだ。少なくともキュウにはそう感じられた。
「吾からまーへの要求など、一つだ! まーを親友と呼べというシステムを撤回しろ!」
「えー、あれからいっぱい神戯をしたんだから、もう誰がどう見ても親友同士でしょ?」
「だからだ! 吾と、吾の派閥の者たちまで、<星>と交友があると思われる! そのせいで、ドラゴンやエルフ、<時>や無所属の神までが寄って来た!」
現代リアルワールドは、魔力や神の力に侵されていない純粋な世界である。そこへ入り込む異物を忌避するのがゼノフォーブだった。
「吾の世界で生きる者たちにとって、どれほど迷惑か!」
「それは見解の相違だね。私は魔法や神が在ったほうのが、人は幸福になれると思う」
「法則や世界をねじ曲げるような力は、より大きな戦乱を生む。吾の世界には、不要だ!」
「もう一人のぜーも、同じ考え?」
「まーが俺を気に掛けるのは珍しい。吾はフォーブの意志を尊重するだけだ。まあ言わせて貰えば、一人の気分によって世界がどうにかなるのは、どうなんだろうとは思うな」
「人間が民主主義って考えるやつだけど、それは神にも当て嵌まる?」
会話の最中もマリアステラ対ゼノフォーブ、ゼノフィリアの戦いは続いている。
いくらマリアステラがバフを受けていたとしても、トッププレイヤー二人を相手にすれば勝利の可能性を観測するのは難しい。亜量子コンピュータからの予知能力に加えて、ゼノフォーブとゼノフィリアの連携は完璧だった。
「ははっ、良いね、ぜー! 負けそう! だから―――」
マリアステラは笑った。嗤ったのではなく、笑った。
「負けないために、頑張る! それが楽しい! そして困難を超えた時が、一番楽しい! 楽しさはすべてに優先する!」
キュウの覚えた危機感は錯覚だったかと思い始めた頃、ゼノフォーブとゼノフィリアの連携攻撃に防戦一方だったマリアステラが、反撃を始める。
「成長、してる………?」
マリアステラはこの敗北の危機を前にして、猛攻を耐え抜くために成長しようとしていた。
まるで最強だった主人が、さらに最強へ到達したように。
虹の瞳の輝きが強くなったような気がする。
マリアステラはこの神戯で成長する。
「ぜ、ゼノフォーブ様!」
キュウはその黄金の耳で聞き取れる情報が、一気に狭まったのを感じた。
マリアステラの虹の瞳の力が強まったことにより、ほんの小さな可能性、亜量子コンピュータの極小の計算誤差、星の煌めきの違いが、マリアステラの都合の良い未来へ導こうとする。
「この後に及んで神格を昇華させるか。底なしめ」
「ぜーとキュウが私を楽しくさせるから!」
「だが同じだ! まー、お前がどうなろうと、最初から極限で計算されている最適解は狂わない」
ここはVRMMOファーアースオンライン、ゲームだから、マリアステラが更に強くなったところで、いきなりアバターが成長することはない。
戦闘の読み合いやタイミングは圧倒的にマリアステラに分があったとしても、ゼノフォーブとゼノフィリアは二対一で、装備もステータスも二人のが高い。
物語では主人公がいきなり覚醒して敵を倒す。マリアステラならそれができるけれど、それさえも封じた。ゲームでは覚醒をしてもステータスやスキルが変わるなんて有り得ない。
ゼノフォーブの作戦は、マリアステラの成長という要素さえも計算に入れている。
マリアステラのHPが急激に減っていった。
「あー、参ったなー。駄目かー。ちょっと格好悪いことして良い?」
「格好悪いこと?」
マリアステラは出会ってから初めて、本気で困ったような恥ずかしいような表情を作る。
まさか「格好悪いから駄目です」と言って、止めてくれるはずもないので身構えた。ゼノフォーブとゼノフィリアも警戒を強める。
いやマリアステラだから、本当に嫌がったら止めてくれそうな気もしたが。
そんな益体もないことを考えていた次の瞬間、絶望的な情報がキュウを襲った。
> Character Change
それは異世界ファーアースで、主人を祖父オウコーが乗っ取った時に現れた文字。
マリアステラ
BLv:9999+++
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「え?」
「本当は、魔王様の前でやるつもりだったのに。ぜーとキュウに追い詰められちゃった」
マリアステラのアバターが光ったかと思った瞬間、ステータスがまるで反転したかのように成長していた。
「なん、で?」
「キュウ、そのなんでは、どうやってって意味? 今まではサブキャラを使ってただけだよ。ファーアースであった魔王様とオウコーの関係と一緒。らーを追い詰めた時に入れ替わったでしょ」
「そ、そうではなく、て」
「どうして私がキャラ替えすることをキュウの耳で聞こえなかったのか、どうして私がサブキャラであることをVR空間を管理運営するぜーも知らなかったのか」
キュウ、ゼノフォーブ、ゼノフィリアは動きを止めていた。亜量子コンピュータがビジー状態になり、計算結果となる予知を出力できなくなっていたからだ。
「キュウの可聴領域よりも私の可視領域のが広い。だから隠すのも簡単。それからぜーはVR空間の管理運営をしているけど、ファーアースオンラインは別の企業のものだから、そこのデータまでは勝手にアクセスできないんだよ。この世界の企業に詳しくないキュウには、ちょっと分かり辛いかな?」
キュウがゼノフォーブとゼノフィリアを見る。二人が否定しないところを見ると、その通りらしい。
「まー、お前、ファーアースオンラインを」
「そうだよ、ぜー。私はファーアースオンラインを廃課金廃人プレイしてた」
「ば、馬鹿なのか? <星>の者たちに、どう示しを付けている!?」
「いや、そもそも私がそれだけやっていたから、太陽神も全力で廃プレイに付き合ってくれてたんだよ。そうじゃなかったら、あの真面目ならーが、私を放ってゲームに傾倒するはずないでしょ」
マリアステラは最初から、その気になればいつでもカンストアバターへキャラクターチェンジが可能だった。未来視によって、絶対に失敗しないタイミングで。
マリアステラがレベル一アバターを使っていたのは、他者を弄ぶためだった。
「まー、本当に、心の底から、思う。お前の性格は、最悪だっ!」
ゼノフォーブが睨み付けたけれど、当のマリアステラはどこ吹く風と言った調子である。
「あははは! 酷いな、傷付いちゃうよ。でも私と魔王様、二人きりの一騎打ちのため、キュウとぜーたちには脱落して貰おうかな」
マリアステラはキャラクターチェンジを行ったため、まったくの無傷。それだけでなく、キュウたち三人のステータスを大きく上回っている。
キュウはあっという間に劣勢になったゼノフォーブとゼノフィリアを見る。二人は驚愕と苦渋の表情を作り、マリアステラは二人へ攻撃を続けながら心から楽しそうに笑っていた。
極限の未来視に、主人と同じカンストステータスが合わさった今、キュウの黄金の耳で聞き取れる未来に、マリアステラへ反撃する方法はない。
キュウもゼノフォーブもゼノフィリアも敗北する。
キュウは勝てない。
でも。
そう思った時、いつも現れてくれるのが。
フォルティシモだ。
「領域・爆裂」
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天井が取り払われたから空が見える。そこに居るのはキュウの主人だった。
キュウの主人はあの日と同じように、『サンタ・エズレル神殿』の天井を爆砕して現れたのだ。
あの日と違うのは、全身ボロボロでHPもレッドゾーンになっている点だった。太陽神ケペルラーアトゥムとの死闘を得て、大きなダメージを負っている。
「ご主人様!」
「魔王様、残念だよ。ぜーの作戦通りに動くなんて。今回は私が勝って、魔王様に“まー”って呼んで貰うようにしよう」
「フォルティシモ、だと? 計算上、ケペルラーアトゥムとの戦いは、あと数分は決着が付かなかったはずだが?」
主人は破壊された天井からゆっくりと降りてくる。この場に居る者たち全員が、主人の一挙手一投足へ注目していた。
そして主人が『サンタ・エズレル神殿』の大聖堂の床に足を付けた後、キュウを見る。
「キュウ、怪我はないな?」
ここはゲーム内だから怪我がないのは当たり前だけれど、キュウはあの日と同じように答えた。
「はいっ!」
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