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エピローグ
第四百五十七話 青の翼を持つ弓
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アクロシア大陸における最後の大氾濫が終わった後、冒険者パーティ<青翼の弓とオモダカ>は解散した。
<青翼の弓とオモダカ>という冒険者パーティは、フォルティシモから貰った魔法道具の襷を信じて使ってくれるメンバーたちで臨時結成された合同パーティだ。それが予想外の効果と、フォルティシモという共通話題があったため長く続いた経緯がある。
更に<青翼の弓>も<オモダカ>も、大氾濫への思いがあって冒険者になったという事情があった。だからそれぞれの目的のため、大氾濫発生前に解散するはずだったのだけれど、大氾濫の直前<青翼の弓とオモダカ>が悲劇に見舞われてしまう。
その悲劇から救ってくれたフォルティシモへの恩返しのため解散は保留となり、<青翼の弓とオモダカ>として大氾濫へ臨んだ。
つまり大氾濫を生き延びて、二度と大氾濫が発生しない世界を手に入れた今、<青翼の弓とオモダカ>の役割は終わった。
もちろんフォルティシモが望むのであれば、カイルたちはそのまま<青翼の弓とオモダカ>として、フォルティシモのために働いただろう。
けれどそれは、フォルティシモ本人が望まなかった。その時の会話は、フォルティシモらしく軽いものだったのを覚えている。
「パーティの解散?」
「ああ。もちろんこれからも、フォルティシモに頼まれたら喜んで手伝う。けど、パーティは解散しようと思ってる。俺たちが揃っていたほうが都合が良いなら、解散は取り消すけど」
「カイル、あれだ。俺はお前の友人って言って良いか?」
「それは、俺から思っても良いのかって、聞き返したい内容なんだけど」
「そうか。お前には色々と助けられた。だから後は、この新しい世界でお前が欲しいものを目指せ」
「俺たちの幸せを願ってくれるのは嬉しい。だけど俺たちは、フォルティシモに返せない恩がある。本当に、俺たちにできることはないのか?」
「それはもう十分に返して貰った。まだ返し足りないなら、結婚式に友人代表として呼んでくれ。ご祝儀は出す」
「はは、なんだよ、それ」
「友人として呼ばれた経験がないのを、少し気にしてるだけだ」
カイルはフォルティシモの気持ちを理解して、<青翼の弓とオモダカ>へそれぞれの道を歩むよう言った。剣士サリスはずっと一緒にやろうと言ってくれたけれど、魔法使いノーラや僧侶フィーナには将来がある。
だから最終的には、<青翼の弓とオモダカ>を解散することになった。
そして幼馴染みである斧使いデニスは、ずっと前からあったアクロシア王国の騎士団からのスカウトを受けた。
もう一人の幼馴染みで、カイルが村を出て冒険者になろうと決意させた女性エイダは―――。
◇
「カイル! ってまた寝てたの!?」
カイルは窓から明るい光が差し込む部屋の中、ダブルベッドの上で、部屋の扉を開けたエイダの叫びによって目を覚ました。今の今まで夢の中にいたことを自覚し、現状を理解しようと努める。
「エイダ? 今、起きたけど」
カイルが右腕を振るうと、虚空に光の窓が開いた。窓の中には様々な文字が並んでいたので、その中の一つ、時刻を見て今度は光の窓ではなく目を見開く。
「うわっ、もうこんな時間なのか!?」
カイルは慌ててダブルベッドから身を起こした。
「もう! 私が起きる時、起こしたでしょ!」
「昨日、遅くまで資料を作ってたから、二度寝したみたいだ」
「それで遅刻したら本末転倒でしょうが! ほら、早く着替えて!」
お腹が膨らんだエイダに急かされながら、身支度を調えていく。
> ですから、叩き起こすべきだと言ったのです
エイダの肩に乗っている小さな妖精がカイルへ呆れた感想を漏らした。
「カイルが疲れてるだろうから気を遣ったのに」
「ごめん」
> 素直に謝れることは良い夫婦関係に必須です。マスターの夫カイルは、良い夫と言えるでしょう。今後も精進してください
この妖精はエイダのサポート妖精である。ファーアースオンライン・バージョン・フォルティシモが始まった日、カイルたちの目の前に現れたサポート妖精。それは【課金】さえすれば、膨大な知識と学習能力でプレイヤーを助けてくれるものだ。
カイルは妊娠中のエイダの生活を補助するため、サポート妖精へ【課金】を決意した。このサポート妖精は知識やメンタルだけでなく、物理的補助まで二十四時間一秒も目を離さないで助けてくれる。
あまりにも便利過ぎて、子供が産まれた後も【課金】を継続させられそうだった。
ちなみにファーアースオンライン・バージョン・フォルティシモにおける【課金】とは、信仰心である。
最強神フォルティシモを想えば想うほど、その力は貯まっていき、サポート妖精や様々な恩恵を受けることができる。
信仰はたしかな力と見返りを持つようになった。
それが【課金】という名称なのは、よく分からないが。
カイルが急いで出勤した場所は、アクロシア王国の冒険者ギルドだった。
ここが今のカイルの仕事場だ。
アクロシア大陸最大の冒険者ギルドは、大氾濫前と比べればすっかり寂しくなっている。初めて冒険者ギルドを尋ねて来た新人を迷わせる五階建ての建造物はそのままだけれど、四階と五階は倉庫という名の空きスペースになってしまった。
それも仕方がないだろう。
この大陸の冒険者という職業は、誰よりも先頭で危険を冒す者だった。
食物連鎖の頂点は人間ではなく魔物であり、人間は魔物に襲われないように決められた場所に籠城することで生きて来た。その危険を一つでも減らすのが冒険者の仕事。それが大陸の人類の歴史で産まれた冒険者という職業だった。
しかし大陸に生きる人類がプレイヤー化したため、魔物に怯える必要がなくなった。大氾濫は無くなり、外敵はすべて最強の神が撃退してくれる。大陸の不幸は確実に減っただろう。
そんな中、もう冒険者は不要になったかに思えたけれど、冒険者ギルドは別の側面を持つようになった。
この最強の神が創造した世界ファーアースオンライン・バージョン・フォルティシモは、努力した者が強くなるようにできている。
生まれつき足の速い者よりも、レベルを上げてAGIが高い者のが速く走れる。
学者のような頭の良い者しかなれない職業も、レベルを上げてINTを高くすればなれる。
己の容姿に自信がなくても、【課金】によって理想の見た目になれる。
【料理】も【鍛冶】も【調合】も【細工】も【裁縫】も【魔術】も【剣技】も何もかも、同じだ。
ファーアースオンライン・バージョン・フォルティシモでは、努力は人を裏切らない。
そのすべてのベースとして、レベル上げがある。
「知っている人も居ると思うけど、元<青翼の弓とオモダカ>のリーダーカイルだ」
カイルは冒険者ギルドの一室で、冒険者になったばかりの十数人の前で挨拶をした。カイルの目の前にいる少年少女たちは、カイルの言葉を真剣に聞いている。
少なくない少年少女たちから、カイルへの憧憬を感じられた。
<青翼の弓とオモダカ>は有名だ。<青翼の弓とオモダカ>は最強ではなかったかも知れないけれど、間違いなく最高の冒険者パーティだったから。
「みんなが一人前になるまで、一所懸命にやっていくつもりだ。みんなは色んなことを聞いていると思う。でも一つだけ安心して欲しい」
新人冒険者の教育担当。それが今のカイルの仕事である。
努力することが成果に結びつく世界で、今までとは違って野心に燃えた若者たちが冒険者の門を叩くようになっていた。
そんな彼らが一人前になるまで面倒を見るのは、毎日手探りで苦労する。
「この世界は、必死に頑張れば必ず報われる。ここは、そんな世界だ」
<青翼の弓とオモダカ>という冒険者パーティは、フォルティシモから貰った魔法道具の襷を信じて使ってくれるメンバーたちで臨時結成された合同パーティだ。それが予想外の効果と、フォルティシモという共通話題があったため長く続いた経緯がある。
更に<青翼の弓>も<オモダカ>も、大氾濫への思いがあって冒険者になったという事情があった。だからそれぞれの目的のため、大氾濫発生前に解散するはずだったのだけれど、大氾濫の直前<青翼の弓とオモダカ>が悲劇に見舞われてしまう。
その悲劇から救ってくれたフォルティシモへの恩返しのため解散は保留となり、<青翼の弓とオモダカ>として大氾濫へ臨んだ。
つまり大氾濫を生き延びて、二度と大氾濫が発生しない世界を手に入れた今、<青翼の弓とオモダカ>の役割は終わった。
もちろんフォルティシモが望むのであれば、カイルたちはそのまま<青翼の弓とオモダカ>として、フォルティシモのために働いただろう。
けれどそれは、フォルティシモ本人が望まなかった。その時の会話は、フォルティシモらしく軽いものだったのを覚えている。
「パーティの解散?」
「ああ。もちろんこれからも、フォルティシモに頼まれたら喜んで手伝う。けど、パーティは解散しようと思ってる。俺たちが揃っていたほうが都合が良いなら、解散は取り消すけど」
「カイル、あれだ。俺はお前の友人って言って良いか?」
「それは、俺から思っても良いのかって、聞き返したい内容なんだけど」
「そうか。お前には色々と助けられた。だから後は、この新しい世界でお前が欲しいものを目指せ」
「俺たちの幸せを願ってくれるのは嬉しい。だけど俺たちは、フォルティシモに返せない恩がある。本当に、俺たちにできることはないのか?」
「それはもう十分に返して貰った。まだ返し足りないなら、結婚式に友人代表として呼んでくれ。ご祝儀は出す」
「はは、なんだよ、それ」
「友人として呼ばれた経験がないのを、少し気にしてるだけだ」
カイルはフォルティシモの気持ちを理解して、<青翼の弓とオモダカ>へそれぞれの道を歩むよう言った。剣士サリスはずっと一緒にやろうと言ってくれたけれど、魔法使いノーラや僧侶フィーナには将来がある。
だから最終的には、<青翼の弓とオモダカ>を解散することになった。
そして幼馴染みである斧使いデニスは、ずっと前からあったアクロシア王国の騎士団からのスカウトを受けた。
もう一人の幼馴染みで、カイルが村を出て冒険者になろうと決意させた女性エイダは―――。
◇
「カイル! ってまた寝てたの!?」
カイルは窓から明るい光が差し込む部屋の中、ダブルベッドの上で、部屋の扉を開けたエイダの叫びによって目を覚ました。今の今まで夢の中にいたことを自覚し、現状を理解しようと努める。
「エイダ? 今、起きたけど」
カイルが右腕を振るうと、虚空に光の窓が開いた。窓の中には様々な文字が並んでいたので、その中の一つ、時刻を見て今度は光の窓ではなく目を見開く。
「うわっ、もうこんな時間なのか!?」
カイルは慌ててダブルベッドから身を起こした。
「もう! 私が起きる時、起こしたでしょ!」
「昨日、遅くまで資料を作ってたから、二度寝したみたいだ」
「それで遅刻したら本末転倒でしょうが! ほら、早く着替えて!」
お腹が膨らんだエイダに急かされながら、身支度を調えていく。
> ですから、叩き起こすべきだと言ったのです
エイダの肩に乗っている小さな妖精がカイルへ呆れた感想を漏らした。
「カイルが疲れてるだろうから気を遣ったのに」
「ごめん」
> 素直に謝れることは良い夫婦関係に必須です。マスターの夫カイルは、良い夫と言えるでしょう。今後も精進してください
この妖精はエイダのサポート妖精である。ファーアースオンライン・バージョン・フォルティシモが始まった日、カイルたちの目の前に現れたサポート妖精。それは【課金】さえすれば、膨大な知識と学習能力でプレイヤーを助けてくれるものだ。
カイルは妊娠中のエイダの生活を補助するため、サポート妖精へ【課金】を決意した。このサポート妖精は知識やメンタルだけでなく、物理的補助まで二十四時間一秒も目を離さないで助けてくれる。
あまりにも便利過ぎて、子供が産まれた後も【課金】を継続させられそうだった。
ちなみにファーアースオンライン・バージョン・フォルティシモにおける【課金】とは、信仰心である。
最強神フォルティシモを想えば想うほど、その力は貯まっていき、サポート妖精や様々な恩恵を受けることができる。
信仰はたしかな力と見返りを持つようになった。
それが【課金】という名称なのは、よく分からないが。
カイルが急いで出勤した場所は、アクロシア王国の冒険者ギルドだった。
ここが今のカイルの仕事場だ。
アクロシア大陸最大の冒険者ギルドは、大氾濫前と比べればすっかり寂しくなっている。初めて冒険者ギルドを尋ねて来た新人を迷わせる五階建ての建造物はそのままだけれど、四階と五階は倉庫という名の空きスペースになってしまった。
それも仕方がないだろう。
この大陸の冒険者という職業は、誰よりも先頭で危険を冒す者だった。
食物連鎖の頂点は人間ではなく魔物であり、人間は魔物に襲われないように決められた場所に籠城することで生きて来た。その危険を一つでも減らすのが冒険者の仕事。それが大陸の人類の歴史で産まれた冒険者という職業だった。
しかし大陸に生きる人類がプレイヤー化したため、魔物に怯える必要がなくなった。大氾濫は無くなり、外敵はすべて最強の神が撃退してくれる。大陸の不幸は確実に減っただろう。
そんな中、もう冒険者は不要になったかに思えたけれど、冒険者ギルドは別の側面を持つようになった。
この最強の神が創造した世界ファーアースオンライン・バージョン・フォルティシモは、努力した者が強くなるようにできている。
生まれつき足の速い者よりも、レベルを上げてAGIが高い者のが速く走れる。
学者のような頭の良い者しかなれない職業も、レベルを上げてINTを高くすればなれる。
己の容姿に自信がなくても、【課金】によって理想の見た目になれる。
【料理】も【鍛冶】も【調合】も【細工】も【裁縫】も【魔術】も【剣技】も何もかも、同じだ。
ファーアースオンライン・バージョン・フォルティシモでは、努力は人を裏切らない。
そのすべてのベースとして、レベル上げがある。
「知っている人も居ると思うけど、元<青翼の弓とオモダカ>のリーダーカイルだ」
カイルは冒険者ギルドの一室で、冒険者になったばかりの十数人の前で挨拶をした。カイルの目の前にいる少年少女たちは、カイルの言葉を真剣に聞いている。
少なくない少年少女たちから、カイルへの憧憬を感じられた。
<青翼の弓とオモダカ>は有名だ。<青翼の弓とオモダカ>は最強ではなかったかも知れないけれど、間違いなく最高の冒険者パーティだったから。
「みんなが一人前になるまで、一所懸命にやっていくつもりだ。みんなは色んなことを聞いていると思う。でも一つだけ安心して欲しい」
新人冒険者の教育担当。それが今のカイルの仕事である。
努力することが成果に結びつく世界で、今までとは違って野心に燃えた若者たちが冒険者の門を叩くようになっていた。
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