上 下
433 / 509
第九章

第四百三十二話 vs神戯 創世論

しおりを挟む
 フォルティシモはキュウステラに導かれ、無限の情報の奔流で知っていく。キュウステラはフォルティシモが尋ねればすべてを答えてくれた。その姿勢は善悪や倫理観を排除した、徹底的に論理的なAIのようだ。

 そうして知っていく情報の中には、神戯もあった。

 フォルティシモやキュウの人生にあまりにも大きな影響を与えた神戯の、成り立ちと現状の情報である。

> 神戯の成立は、世界の始まりの日まで遡ります

 古今東西の物語に創世は欠かせないものである。世界とはどうやって生まれたのか、という疑問は何千年何万年生きた人類にも未だに到達出来ないものであり、これだけ科学が進んでも確かな答えには至っていない。

 だからこそ神話を語るのであれば、創世は限りなく重要な要素であり、多くの信仰物語が紡がれた。

 ある物語では無から天地創造神が生まれ、ある物語では超存在が光をもたらし、ある物語は泥のような混沌から世界や神が発生したとしている。

 科学がある程度発展すると、世界は創世の光ビックバンから始まったと信仰された。しかしそれもビックバン以前の世界を説明するには至らない。

> 最初に“始まり”がありました

 アカシックレコードの案内人キュウステラは宇宙開闢を語る。

> “始まり”は正確には言葉では説明できない概念であり、ここでは説明のため“始まり”と表現させて頂きます。最も近い概念が始まりだったというだけですので、正しく意味を為していない点はご了承ください

 キュウステラが手を掲げると周囲が闇に包まれる。この黄金と虹の空間は彼女の仕込みらしく、説明の際にはこうして周囲の風景を変化させていた。

> “始まり”は世界を産み出しました。そこで初めて知性体が理解可能な概念が生まれます。最初の世界、何もない無の世界。無が産み出されました

 周囲の闇は変わらない。完全なる無。“始まり”なる概念が産み出した、無を表現しているのだろう。

> そして“始まり”は、己の分身を作ろうと考えました。考えた、と表現しましたが、“始まり”に意志があったのかは不明です

 その現象に理由を付けるのであれば、聖書で語られる全知全能の唯一神と同じなのかも知れない。しかし決定的に違う点がある。“始まり”が作ったのは、アダム一人ではなかった。

 闇の中に十二の光球が浮かび上がった。大きさは野球ボール程度で、キュウステラの回りでゆっくりと浮いている。

> “始まり”によって産み出された、十二の偉大なる神々、始祖神たち

 キュウステラは、その光球の一つを指差す。

> その後も偉大なる神と呼ばれる存在は生まれていきますが、この最初の十二神だけは特別です。そしてその一柱が、キュウと協力して私を産みだしたマリアステラになります

 キュウステラが指差した光球は一際強い輝きを放った。

 彼女が偉大なる星の女神という敬称以外に、母なる星の女神と呼ばれているのは、彼女が始祖神の一柱でもあるからなのかも知れない。



> 神戯の成り立ちは、この現象に由来します

 キュウステラが十二の光球を手の平の上へ集める。

> この十二の神々は、“始まり”の複製であるがゆえに、“始まり”を殺す力を持っていました。だから十二の神々たちは、“始まり”を切り刻みました

 十二の光球が激しく動き回った。

 親殺し、いや神殺し。

> 切り刻んだ目的はそれぞれです。退屈、憤怒、欲望、虚栄、嫉妬、愉快、挑戦、愛情、依存、願望、狂気、憧憬。どれにしても十二の神々は“始まり”を解体しました

 十二の光球の運動が止まる。

> 十二の神々はそれぞれの理由で達成感を抱きましたが、いくつかの神々は“始まり”を殺したことを後悔し、考えました。“始まり”と同じことをすれば良いではないかと

 “始まり”は己を複製して十二の神々を作成した。ならば、その方法儀式を自分たちが使えるようになれば、再び“始まり”が戻って来るはず。

> 十二の神々は“始まり”が自分たちを産み出した方法を、大いなる神の儀式、神儀と名付けました

 まるで人間のコード化魂のアルゴリズムと同じだ。死んだ“始まり”という神を、術式AIとして復活させようとした。

> しかしながら、彼らが実行した神儀では“始まり”を作るには至りませんでした。それどころか始祖神たちの劣化コピーしか作ることができなかったのです

 それでもフォルティシモには数字でしか理解できない永い時間、神儀は行われ続けた。

> そんなある時、ある神が、戯れに神儀を変えました

 儀式が産み出すものを、“始まり”ではなく世界へ。天地創造の儀式へと改良改悪したのだ。

 何故そんなことをしたのか、それはあまりにも永い時間だったので、神儀に飽きてしまったのかも知れない。あるいは“始まり”への執着を忘却してしまったとも考えられる。

 こうして神なる儀式は二つの側面を持つことになる。

 一つは元の神儀と同じく神を産み出すこと。

 もう一つは世界を創造し、管理運営すること。

> 以上が、マリアステラの記憶にある神戯の成立です

 キュウステラが手の平を閉じると、十二の光球は消え去り、元の黄金と虹の空間が戻って来た。



「ずっと疑問だった謎が解けたな」

 キュウステラの説明を聞いたフォルティシモは、少しだけ晴れやかな気持ちになっていた。

 太陽神ケペルラーアトゥムはデーモンたちの故郷に現れて異世界ファーアースを創造した。その中ではNPCたちが本物の人間と同じように生きて暮らしていて、時間差で次々と召喚されるプレイヤーに、それぞれの事情で振る舞う神様たちがいた。神戯で誰かが勝利条件を達成し、最後の審判が終了したら異世界ファーアースはNPCごと消滅する。

「ピアノに初めて聞いた時から、ずっと考えていた。ゲームだったら作られた目的がある。だが神戯ってやつは知れば知るほど、基幹部分と側を別人が作ってるんじゃないかと思えて仕方がなかった」

 主催者がマリアステラ、トッキー、近衛天翔王光の三名だと聞いた時は一定の納得をした。

 しかしそれも別の疑問が浮かび上がり、答えにはなってくれなかった。

 神戯は神を誕生させたいのか、世界を創造し維持したいのか、神様が遊びたいのか。

 そして基幹部分―――現代リアルワールドでよく知る物理法則―――は美しいまでに完璧なのに、VRMMO的要素の、なんて不完全なことか。最強のステータスでも壊せない破壊不能オブジェクトは、物理法則なら子供でも簡単に壊せたりする。

「最初から、クリア条件が間違っていた。挑戦する相手クエが違った。俺が達成するべきだったのは、“始まり”の神儀だ」

 フォルティシモは笑う。

「ファーアースへ初めて来た日、言っただろ。このフォルティシモが、誰よりも先に見つけてやるって」
> 記録を聞くと言ったのではなく、心の中で誓ったとなります
「細かいことは良い。とにかく“始まり”の神儀上限解放クエの達成は、誰にも譲らない」

 フォルティシモはキュウステラの尻尾をわしゃわしゃした。相手がキュウだったら可哀想でできない強引な触り方である。

「最強って何だと思う?」
> 最強とは固定された概念ではなく、相対的あるいは観念的なもののため解答不能です、ご主魔様

 キュウステラは最初と同じ解答を繰り返した。

「俺はこう考える。どんな不可能も可能にする、絶対に物語を幸福にする存在、まるで機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナのような力」
最強厨ご主魔様最強望みは私の存在理由望みです

 神々の遊戯を真の意味で完遂クリアした時、到達する存在とは―――。



 ◇



 異世界ファーアースで黒い隼に乗る星の狐は、笑みを浮かべた。一つの身体に二つの存在が入っている状態だから、それがどちらの笑みかは分からないけれど、たしかに二人の願いは同じだった。

 <時>の神々は、危険を感じて星の狐を殺そうと全力で向かった。しかし黒い隼には追いつくことができず、神々が持つ権能も何故か通用しない。

 やがて黄金と虹の光が周囲を飲み込み始め、二つの光はその場にいる誰一人として近づけさせなかった。

 あるいは、そこに降臨する“何か”を、恐れたのかも知れない。



 System Ars Magna Start up

 Restore The Demon God

 Wating...Failed

 Create The Fortisimo God

 Wating...Done

 Success!

 観測されたから最強が生まれるのか、最強が生まれたから観測されたのか。

 それは永遠の謎になるが、ただ一つ言えることは、フォルティシモ最強フォルティシモ最強と成って戻って来た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...