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第八章
第四百話 ある女性デーモンの使命と悪意
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天空の王フォルティシモと太陽神ケペルラーアトゥムの戦いが始まる少し前、そのデーモンの女性は地下都市ホーンディアンにある牢屋へ閉じ込められていた。
理由は、英雄クレシェンドの遺してくれた【運営からのお知らせ】を使い、NPC共に世界の終焉を知らせた罪だ。その行為が天空の王フォルティシモの足を引っ張るものだったから、首謀者だったデーモンの女性と仲間たちは閉じ込められている。
デーモンの女性は牢屋の中で、愚かな同胞たちを嘲り笑った。
愚かな同胞たちは英雄クレシェンドへの感謝を忘れたのだ。どんな窮地でも救ってくれた英雄は、戦いが終わればただの殺人鬼だと言わんばかりに。
千年前から戦っているグラーヴェ翁一派も、良い顔をして支援して来た狐の神タマも、彼の恩恵を享受していたホーンディアンの民たちも、英雄クレシェンドを裏切った。
「私たちを千年もの間、導いてくれたクレシェンド様を裏切るなんて。愚か者ばかり。角付きは、太陽の女神に母なる大地を奪われたことを忘れてしまった。今の角付きは裏切り者だ。クレシェンド様を裏切った、畜生共」
デーモンの女性は、助けに来た“同胞”を見てそう言い放つ。
「そうは思いませんか? プレスト」
甲冑を身に纏ったプレストは、デーモンの女性が囚われている牢屋の前に立っていた。
NPCからデーモンの女武者と呼ばれているプレストは千年以上も生き続けていて、年齢はグラーヴェ翁よりも年上だが、まったく歳を取っている様子がない。今ではデーモンの女性よりも年下に見える。
年齢を重ねない特徴は、神戯参加者にしてプレイヤーだった英雄クレシェンドと同じである。
「元より某は、はみ出し者だ。同胞が何をしたところで、今更裏切りなどとは思わん」
プレストの刀が豆腐でも切るように軽々と格子を切り裂く。デーモンの女性は自由になったと理解した。
「助かりました。クレシェンド様との関係を疑ったこと、謝罪させてください」
「受け入れよう。さっさと行け」
「私はクレシェンド様の思いを、本当の意味で、この母なる大地を我らの手に取り戻します。一緒に、行きませんか?」
「達成するべきは、千年の悲願。某は、某たちの方法で達成する」
デーモンの女性はプレストから拒否されたことを理解し、軽く溜息を吐いてから頭を下げた。プレストは千年前から変人だと言われていた記録がある。所詮、変人は変人だ。
その後、同じように牢屋に入れられてしまった真の同胞たちを解放していく。プレストのように格子の破壊はできないので、鍵を見つけ出して一つ一つ開けていった。
そして向かうは、英雄クレシェンドを殺した天空の王フォルティシモの討伐と、母なる大地を奪った太陽の女神の、神殺しだ。
「同胞よ。あの箱を使うなら、覚悟しろ。エルピスが希望か予兆かは、箱に詰めた者のみぞ知る事柄だ」
数ヶ月前に行われた、デーモンによるサンタ・エズレル神殿攻略作戦。
ここ数ヶ月の間、この千年で最も女神信仰が失われ、サンタ・エズレル神殿を守る力も大幅に弱体化した。その隙を狙ったデーモンたちは、サンタ・エズレル神殿で眠る女神の秘法を求めたのだ。
女神に対抗できる力を持つ、神殺しの箱。
あの日、その最も重要な箱の確保を任されたのが、デーモンの女性だった。デーモンの女性は英雄クレシェンドに信頼されていたから、彼から直接その役目を推薦されたのだ。
デーモンの女性は英雄クレシェンドに認められていた。プレストやグラーヴェ翁よりも重要な任務を任された。だから全力で役目をこなした。
攻略作戦の結果は散々なものだった。大勢のデーモンたちがやられて、グラーヴェ翁は裏切りを画策し、<フォルテピアノ>との拠点攻防戦まで発展してしまったが、それでも箱は確保できた。
途中、寒気のするほど美麗な瞳を持つ少女に、箱について何か言われた気もするけれど、デーモンの女性は大成功と言って良い結果を出したのだ。
それなのに、その後の戦いで英雄クレシェンドは殺された。
天空の王フォルティシモの手によって。
デーモンの女性は牢屋から解放した同胞を引き連れて、ホーンディアンにある宝物殿へ向かった。
ホーンディアンにはプレイヤーが侵入不可能な隠し部屋や隠し通路がいくつもあり、千年間、神戯参加者やプレイヤーからデーモンたちを守ってきた。
そんな隠し部屋は宝物殿にもあり、その場所は、英雄クレシェンドとプレストしか知らない。
そこに、サンタ・エズレル神殿から回収した箱が仕舞われている。
見た目は大きな特徴のない箱で、大陸を支配する聖マリア教の秘法中の秘法とは思えない。
だがこの箱は、解き放てば神殺しを起動する兵器だ。英雄クレシェンドを創造した真なる神によって産み出された神殺しの兵器が封じられている。
英雄クレシェンドがそう言っていたのだから間違いない。英雄クレシェンドがどこの誰から情報を得て、デーモンたちに奪取させたのかは知らないけれど、英雄クレシェンドの判断に間違いなどない。
ホーンディアンは脱獄騒ぎになっていた。デーモンの女性たちが脱獄したのを知って、追っ手を差し向けようとしている。戦える者たちは、<暗黒の光>を中心にほとんどが天空の王フォルティシモへ与しているため、碌な者が残っていないはず。
それなのに未だにデーモンの女性を、英雄クレシェンドの思想を邪魔しようとする。本当に愚かな裏切り者共だ。
デーモンの女性は真の同胞たちを鼓舞し、箱を奪い返そうとするデーモンたちを討ち果たしながら、ホーンディアンから離れていく。
ようやく追っ手を振り切った頃には、一緒に牢屋から脱出した真の同胞たちの姿はなくなっていたけれど、その想いは託された。
どこをどう歩いて来たのか、もはや分からない。
デーモンの女性は箱を抱えて、その場所までやって来た。
その場所は、大空で二人の存在が戦っているのが見える。
天空の王フォルティシモと太陽の女神。
デーモンの女性は、ようやく、英雄クレシェンドの仇を討てる。
「憎き太陽の女神と、天空の王! 共に滅びてしまえ!」
箱を。
開けた。
> 【世界を焼き尽くす巨神】が出現しました
それはフォルティシモがファーアースへ異世界召喚された日に戦った、VRMMOファーアースオンラインの最新最強のモンスター。
VRMMOファーアースオンラインにアクセスしている全プレイヤーで討伐するはずだった、ワールドレイドボスモンスター。
VRMMOファーアースオンラインで唯一、神の名を持つモンスター。
理由は、英雄クレシェンドの遺してくれた【運営からのお知らせ】を使い、NPC共に世界の終焉を知らせた罪だ。その行為が天空の王フォルティシモの足を引っ張るものだったから、首謀者だったデーモンの女性と仲間たちは閉じ込められている。
デーモンの女性は牢屋の中で、愚かな同胞たちを嘲り笑った。
愚かな同胞たちは英雄クレシェンドへの感謝を忘れたのだ。どんな窮地でも救ってくれた英雄は、戦いが終わればただの殺人鬼だと言わんばかりに。
千年前から戦っているグラーヴェ翁一派も、良い顔をして支援して来た狐の神タマも、彼の恩恵を享受していたホーンディアンの民たちも、英雄クレシェンドを裏切った。
「私たちを千年もの間、導いてくれたクレシェンド様を裏切るなんて。愚か者ばかり。角付きは、太陽の女神に母なる大地を奪われたことを忘れてしまった。今の角付きは裏切り者だ。クレシェンド様を裏切った、畜生共」
デーモンの女性は、助けに来た“同胞”を見てそう言い放つ。
「そうは思いませんか? プレスト」
甲冑を身に纏ったプレストは、デーモンの女性が囚われている牢屋の前に立っていた。
NPCからデーモンの女武者と呼ばれているプレストは千年以上も生き続けていて、年齢はグラーヴェ翁よりも年上だが、まったく歳を取っている様子がない。今ではデーモンの女性よりも年下に見える。
年齢を重ねない特徴は、神戯参加者にしてプレイヤーだった英雄クレシェンドと同じである。
「元より某は、はみ出し者だ。同胞が何をしたところで、今更裏切りなどとは思わん」
プレストの刀が豆腐でも切るように軽々と格子を切り裂く。デーモンの女性は自由になったと理解した。
「助かりました。クレシェンド様との関係を疑ったこと、謝罪させてください」
「受け入れよう。さっさと行け」
「私はクレシェンド様の思いを、本当の意味で、この母なる大地を我らの手に取り戻します。一緒に、行きませんか?」
「達成するべきは、千年の悲願。某は、某たちの方法で達成する」
デーモンの女性はプレストから拒否されたことを理解し、軽く溜息を吐いてから頭を下げた。プレストは千年前から変人だと言われていた記録がある。所詮、変人は変人だ。
その後、同じように牢屋に入れられてしまった真の同胞たちを解放していく。プレストのように格子の破壊はできないので、鍵を見つけ出して一つ一つ開けていった。
そして向かうは、英雄クレシェンドを殺した天空の王フォルティシモの討伐と、母なる大地を奪った太陽の女神の、神殺しだ。
「同胞よ。あの箱を使うなら、覚悟しろ。エルピスが希望か予兆かは、箱に詰めた者のみぞ知る事柄だ」
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ここ数ヶ月の間、この千年で最も女神信仰が失われ、サンタ・エズレル神殿を守る力も大幅に弱体化した。その隙を狙ったデーモンたちは、サンタ・エズレル神殿で眠る女神の秘法を求めたのだ。
女神に対抗できる力を持つ、神殺しの箱。
あの日、その最も重要な箱の確保を任されたのが、デーモンの女性だった。デーモンの女性は英雄クレシェンドに信頼されていたから、彼から直接その役目を推薦されたのだ。
デーモンの女性は英雄クレシェンドに認められていた。プレストやグラーヴェ翁よりも重要な任務を任された。だから全力で役目をこなした。
攻略作戦の結果は散々なものだった。大勢のデーモンたちがやられて、グラーヴェ翁は裏切りを画策し、<フォルテピアノ>との拠点攻防戦まで発展してしまったが、それでも箱は確保できた。
途中、寒気のするほど美麗な瞳を持つ少女に、箱について何か言われた気もするけれど、デーモンの女性は大成功と言って良い結果を出したのだ。
それなのに、その後の戦いで英雄クレシェンドは殺された。
天空の王フォルティシモの手によって。
デーモンの女性は牢屋から解放した同胞を引き連れて、ホーンディアンにある宝物殿へ向かった。
ホーンディアンにはプレイヤーが侵入不可能な隠し部屋や隠し通路がいくつもあり、千年間、神戯参加者やプレイヤーからデーモンたちを守ってきた。
そんな隠し部屋は宝物殿にもあり、その場所は、英雄クレシェンドとプレストしか知らない。
そこに、サンタ・エズレル神殿から回収した箱が仕舞われている。
見た目は大きな特徴のない箱で、大陸を支配する聖マリア教の秘法中の秘法とは思えない。
だがこの箱は、解き放てば神殺しを起動する兵器だ。英雄クレシェンドを創造した真なる神によって産み出された神殺しの兵器が封じられている。
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それなのに未だにデーモンの女性を、英雄クレシェンドの思想を邪魔しようとする。本当に愚かな裏切り者共だ。
デーモンの女性は真の同胞たちを鼓舞し、箱を奪い返そうとするデーモンたちを討ち果たしながら、ホーンディアンから離れていく。
ようやく追っ手を振り切った頃には、一緒に牢屋から脱出した真の同胞たちの姿はなくなっていたけれど、その想いは託された。
どこをどう歩いて来たのか、もはや分からない。
デーモンの女性は箱を抱えて、その場所までやって来た。
その場所は、大空で二人の存在が戦っているのが見える。
天空の王フォルティシモと太陽の女神。
デーモンの女性は、ようやく、英雄クレシェンドの仇を討てる。
「憎き太陽の女神と、天空の王! 共に滅びてしまえ!」
箱を。
開けた。
> 【世界を焼き尽くす巨神】が出現しました
それはフォルティシモがファーアースへ異世界召喚された日に戦った、VRMMOファーアースオンラインの最新最強のモンスター。
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