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第七章

第三百五十九話 vs神戯 太陽への挑戦

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「次はあの太陽神についてだ。単刀直入に聞く。神戯参加者は神戯を開催している神を、本当の意味で倒せるのか?」

 フォルティシモはNPC、特にキュウが消えてしまうかも知れない話の次に、出現しただけで絶対的な神威を見せ付けた太陽神の話題へ移った。

 太陽神はクレシェンドの本体亜量子コンピュータが設置されていた『ユニティバベル』を含んだMAPへ現れ、MAP内のすべてを蒸発させてしまった。

 異世界ファーアースの概念である【MAP】に縛られているとは言え、その影響力は余りにも違う。

 狐の神タマはNPCたちの話をしていた時に比べて、若干ながら険しい表情を作った。彼女が話したかったのは、この話題に違いない。

 理由までは分からないが、狐の神タマは太陽神を倒すために動いている。デーモンたちへ協力し、クレシェンドへもかなりの支援をしていたことからも窺える事柄だ。拠点攻防戦前にフォルティシモへ会いに来たのも、すべてそのために違いない。

「原理的には可能、というべきだろう。神戯は、元々は神に到り達するための儀式、“神儀”だった。勝利条件を達成、儀式を完了した者であれば、存在としての位は神々と同列だ。神儀は既に終わり、【最後の審判】は神戯だからこそあるもの。だが【最後の審判】では、もはや神儀のルールでは守られない。逆を言えば、この遊戯盤へ干渉してくる神とも戦うことが可能だ」

 フォルティシモは狐の神タマの真剣な返答を聞いて、大仰に頷いて見せた。

「なるほどな。………とでも言うと思ったか? なんで最近は、相手が理解できない単語を使う奴がこうも多いんだ。相手に伝えたいって気持ちが足りないんだよ。伝える気があるのか、相手の理解へ合わせるのがコミュニケーションの基本だろ」

 ピアノの呆れ顔が「フォルティシモ、お前のブーメラン神技すぎだろ」と言ってるのは気のせいだ。自覚はある。

「それぞれの単語は後で確認するとして、要は、今の俺なら太陽神と戦えるという意味で良いのか?」
「コミュニケーションが成立していると思うが?」

 狐の神タマの揶揄は、この場で意味がないように思えるけれど、彼女は女神マリアステラと違って理知的で計算高い行動が目立つ。ただフォルティシモを馬鹿にするための発言をすることはないだろう。ここでフォルティシモと敵対しても、百害あって一利なしのはずだ。

 だからかつて神戯に関して話をした相手を思い出して、感づいたことがある。

「タマ、お前もしかして、神戯についての詳細は答えられないのか? というよりも答えられない部分があって、あえてぼかして話している感じか? たしか爺さんも神戯に関する質問には、言葉を濁していた」

 フォルティシモは異世界ファーアースへやって来て、キュウを救出するためにプレイヤーであるエルフ王ヴォーダンを抹殺した日、近衛天翔王光が操るオウコーと出会った。その時の近衛天翔王光は、神戯に関するフォルティシモの質問を不自然な形ではぐらかしたのだ。

 狐の神タマは扇子を開き、再び口元を隠した。これまで何度もやっていた仕草だったけれど、だからこそ意味が伝わって来た気がする。

「分かった。神戯については、お前が答えられる範囲で構わない。それについてはいつか聞く。今は、太陽神だ」
「かかか、キュウが惚れるだけのことはある。良い男かえ」
「今は真面目な話を、キュウの好みについては詳しく後で聞こう。問題は、あの光量と熱量だ」

 フォルティシモは狐の神タマの罠に引っ掛かりそうなのを全力で回避し、あの時のことを思い出す。クレシェンドを倒し、亜量子コンピュータをセフェールが乗っ取った後、それを破壊するために太陽神が現れた時のことを。

 太陽が目の前に現れて戦い続けられる者が、どれだけ存在するだろうか。光量と熱量だけでも考えられないほどで、まともに呼吸できる空気なんてあるはずもなく、物質の三態ではほとんどが固体で存在できるとは思えない。

「うむ。その通りかえ。どれだけの才能を持っていたところで、太陽の表面上で活動できなければ、【最後の審判】で太陽によって葬られる。長い間、太陽が認めた者でなければ神戯を通過できなかった理由となる」
「だから、思わせぶりな情報を混ぜるな。それも後で追求するぞ。ここまでだと、お前も太陽神には絶対に勝てないと言っているように聞こえるが?」

 狐の神タマは自らを扇子で扇ぎ、たっぷりと時間を取ってから口を開いた。

「太陽を倒す方法はない。それはほとんどの神々さえも不可能。唯一、クレシェンドの神に至る才能、他の権能を学習するという権能であれば、可能性はあると思っていた」

 クレシェンドの権能は、他者の権能をコピーする力だった。物語の主人公が持っているような強力な能力で、それを育てていけばどんな敵でも倒せるように思えるもの。いつの日か複数の権能を組み合わせれば、絶対なる太陽神を倒せる力にまで到達したかも知れない。

「だがフォルティシモ、お前の権能は、信仰があれば太陽さえも上回るのではないかえ?」

 フォルティシモの権能【領域制御】は、【領域】内のあらゆる情報を制御する力だ。マウロやアーサーの権能などを知れば知るほど、フォルティシモの力がどれほど優れているか分かる。

 太陽の光量と熱量に抱かれた世界でも、【領域制御】によって光量と熱量を制御し続ければ戦うことが可能。

 ただし、それだけだとクレシェンドは【領域制御】さえも学習していて、太陽神を倒す目的にはフォルティシモよりもクレシェンドのが優れているように思える。

「仮に食前の俺への祈りで、一秒間温度を一度下げられたとしよう。太陽神と戦う間、どれだけのFPが必要なのか想像もつかないな」
「かかか、今やこのファーアースの大地すべてから信仰を集められるお前だ。お前が太陽と戦っている間、お前を想わせ続ければ良い」

 狐の神タマは恐ろしいことを考える。フォルティシモも考えはしたけれど、実行しようとは思わなかった案。

 もうすぐ異世界ファーアースのアクロシア大陸では、“大氾濫”と呼ばれる災害が発生する。

 “大氾濫”とは四日四晩の間、モンスターが大陸中で無限沸きする現象で、異世界ファーアースの人間にとっては最悪の災害だと言う。クレシェンドはそれをノアの方舟の物語に例えていたし、大勢の人々やプレイヤーまで命を落とした。

 ラナリアは十年前の“大氾濫”で家族を失い、そのために自分の尊厳をなげうってフォルティシモの絶対服従の奴隷となった。

 フォルティシモも大陸中の国家が参加する国際会議に参加したし、元々は国の体裁さえ為していなかった大陸各国が天空の国フォルテピアノを認めて求める理由の大部分は“大氾濫”が根底にある。

「お前は神戯の管理者、つまりこの異世界ファーアースの神のはずだ。それなのに、その作戦か。だいぶ、悪辣だな」
「何を言う? お前も考えていたはずかえ? 考えていなければ、お前の布陣では見るからに苦手な外交をしているはずがない」

 フォルティシモは太陽神と戦うために大量の信仰心エネルギーFPが必要で、今のフォルティシモは大陸のどこかでフォルティシモを想った相手から信仰心エネルギーを回収できる。

 大陸中の国々は“大氾濫”の最中、昼夜問わず無限に襲い掛かってくるモンスターたちと戦わなければならない。

 そんな危機的状況で人々が祈る対象は、十年前までは聖マリア教の信仰対象である女神だった。

 それをフォルティシモが奪い取る。祈れば助けてくれるフォルティシモという存在を、フォルティシモが太陽神と戦う災害の四日間想わせ続ける。

「そうか。それが必要ならやるだけだ。太陽を抑えるほどの信仰を、大陸中から集めてやる」
「うむ。お前が大陸最大国家の王女を囲い、『浮遊大陸』を見せ、世界中へその存在を強引に知らしめた。そして今、聖マリア教が弱体化した。これほど異世界ファーアースが不安定となり、祈るものがお前に集中する機会は、おそらく二度と来ないだろう」

 フォルティシモは拳を握り締めた。

 ここまでなら、フォルティシモの祖父である近衛天翔王光でも可能な話だ。アクロシア大陸東部をあっさりとまとめあげ、千年後も信仰される体制を作り上げたことを考えれば、問題は信仰心エネルギーFP“だけ”ではないと察せられる。

「それで、爺さんも、クレシェンドも、太陽神を倒せなかった理由は他にないのか?」
「かかか」

 フォルティシモは狐の神タマの笑いに不快感を覚えた。

「熱と光、それはあくまで太陽が現れたに過ぎない。本体がそれよりも弱いはずがない。お前たちに分かり易く言うのであれば、太陽の表面で活動できるかどうかと、太陽を破壊できるかどうかは次元が違う話であろう?」
「その通りだ。それで、そっちの算段は?」
「最強に任せるとしよう」

 フォルティシモは思わず首を傾げる。

「わてにはどう考えても、太陽を倒す手段は思い浮かばないかえ。だから、頼む」
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