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第七章

第三百三話 神戯の暗躍者

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 デーモンとエルフの二人が手を取り合って、どれほどの時が経っただろうか。幾月幾年の時間が経過し、始めの頃は協力的で笑みを絶やさなかったデーモンは、すっかり笑顔を浮かべることが少なくなり、感情の抜け落ちた表情を見せることが多くなった。

 デーモン以外の六人は、デーモンから聞いた情報を元に神戯を勝ち抜くために最善を尽くしている。

 己の力を高めるためにベースレベル、スキルレベルの上昇に励み、レアアイテムの確保で装備を整えた。そうして異世界ファーアースの法則システム上で強力な存在になった後は、信仰心エネルギーFPを貯めるため、それぞれが国や組織などのコミニティを結成していった。

 エルフは『エルディン』と呼ばれるエルフの国を建国したほど、世界に溶け込んでいた。

 最初の神戯参加者七人の一人が言った。

「相談がある。急いで神戯に勝たなくても良いんじゃないか? この世界を開拓して、より良い世界にすることが大切だと思わないか?」

 それを言い出したのは、ドワーフだったかドラゴニュートだったか。

「この世界に生きている人間たちは、間違いなく命だ。彼らのために、俺たちはできる限りのことをすべきだと思っている」

 異世界ファーアースが創造された際、NPCとして様々な人間が同時に創造された。彼はそんな者たちにも命があると良い、守ろうと言い出した。

 驚くべきことに、その意見は最初の神戯参加者たちに好意的に受け入れられた。

 彼らが神戯に勝ちたいという意志が薄いのは感じていた。

 何せ元々天才と呼ばれた者たちであり、承認欲求は充分に満たされている。彼らは各々の分野では神の如く崇められていた者たちなのだ。今更、神に至れると言われたところで、何を目標にするのだろうか。

 それに納得できないのはデーモンだ。デーモンは神戯を終わらせて元の世界へ戻ることを目的にしている。

「何を言っているのですか? NPCたちは、所詮は神戯のために創造された偶像ですよ? 神戯が終われば消えてしまう泡沫の夢に過ぎません」

 異世界ファーアースのNPC、住人たちは神戯が終われば消える。それは最初に狐の神から説明された共通の事実。

 遙か未来で最強厨の魔王が、未だに知らない神戯の残酷なる仕様。

「だから、それを何とかする方法を、皆で協力して見つけ出さないか?」
「賛成だ。儂も、弟子たちを見捨てたくない」
「私もです。エルフの、あなたもそうでしょう? 今度、お子様が産まれると聞いています。奥様とお子様のためにも、協力して頂けますよね」
「僕は………」

 エルフがデーモンを見つめる。エルフはデーモンに対して、神戯を可能な限り早く終わらせて、デーモンを大切な人の元へ戻すと約束した。

「あなた方は、遊戯ゲームの一つくらいしたことがないのですか? ゲームが終われば、その世界のNPCも、大地も、すべてが消えるのです。それがゲームです。それを生かす方法を探すため、ゲームを続ける? 正気の沙汰とは思えません。神の如き力を得たから、己が神となったと勘違いしているのですか?」
「彼らはそれぞれ意思があり、命ですよ。我々と子供も作れるのです。人間以外の何なのですか」
「ゲームはクリアされるためにあります。攻略不可能などゲームとしての存在価値がありません。とっとと終わらせて、我々は元の世界へ戻り、元の生活を過ごしましょう」

 デーモンの言葉はある意味で正しいものだったけれど、ある意味で致命的に間違っていた。デーモン以外の最初の神戯参加者たちは、デーモンの言葉に誰一人賛成しない。

「そうですか。神に踊らされた愚か者ですね」
「言い過ぎだぞ。別に神戯のクリアを目指さないと言っている訳じゃない。NPCたちが生存できる方法を見つけて、それから神戯をクリアしても遅くはないと言っているだけだ。俺たちならそれもできるはずだ」
「すべてを救う完全なる勝利。我々天才七人なら不可能じゃない」

 盛り上がる者たちをよそ目に、デーモンは俯いた。そんなデーモンにエルフが話し掛ける。

「クレシェンド、僕は」
「セルヴァンス、あなたも同じ考えですか?」
「そんなことはない。僕は神戯の勝利を第一に考えている」
「だったら、今すぐ、あなたの妻と子供を殺してください」
「それは………」
「できるはずでしょう? どうせ神戯が終わったら消える存在ですよ。神戯の勝利を目指しているならば、できるはずだ」
「ごめん。それはできない。勝利の結果として消えるのと、僕の手でそれをするのは意味が違う」
「欺瞞ですね。あなたもその程度でしたか」
「聞いてくれ、僕は」
「もうあなた方に期待するのはやめました。最後に教授いたしましょう」

 デーモンの独白に最初の神戯参加者六人は注目する。

「私がこの神戯の内容を知り、強い力を持ってやって来た理由はただ一つ。この神戯を裏から操る者より、命令を受けていたのです」
「く、クレシェンド?」
「あなた方は始まる前から敗北していた。勝利するには、私の指示に従って、神戯を裏から操る者が現れる前に神戯を終わらせるしかなかった」



 デーモンは六人の元から消え、己の【拠点】まで戻った後に情報ウィンドウを起動する。

 デーモンが起動したのは、単なる情報ウィンドウではない。全体的に真っ黒なデザインで、プレイヤーが使いやすいようなアイコンや絵柄もなくタッチ操作も受け付けない特別なものだった。

 プレイヤーたちが使う情報ウィンドウを光の窓と表現するのであれば、闇の窓と言えるものだった。

「近衛天翔王光、舞台は整いましたよ。どうぞ、私の用意したものを活用して、瞬く間に神戯を終わらせてください。あのような神に至れるなどと驕った凡百な天才など嘲笑い、真の天才たる御身の力を示して頂きたい」

 デーモンが近衛天翔王光の名前を呼ぶと、返事がある。

『ふむ。ちょうど儂の神戯への参加準備も完了した。しかし瞬く間に終わらせるか。儂が負けることはないが、儂も万全を期すつもりだ。それにせっかく神々が創ったという遊戯を、少しくらい楽しんでやるつもりだ』
「それでは、このような手順はどうでしょう? まず私が残っている神戯参加者たちを皆殺しにして、FPを奪い取ります。近衛天翔王光は、その私を脱落させてすべてのFPを入手する。その後、あなたはFPを使うなり、神戯を楽しむなりする。私は姫桐様の元へ帰る」

 神戯において神クラスのレベルを上げる最も早い方法は、信仰心エネルギーFPを集めたプレイヤーを抹殺すること。

 クレシェンドは最初の神戯参加者たちに様々な仕様を教えて、異世界ファーアースで王や英雄、聖女と呼ばれるほどに信仰されるように仕向けた。

 すべては近衛天翔王光が神戯を勝利するための餌。

 あのような連中は、養豚場の豚に過ぎない。少しだけエルフのセルヴァンスの顔が頭をよぎったけれど関係無い。

『良い考えじゃな。お前はとりあえず今居る神戯参加者を全滅させてFPを集めろ。それは儂が貰う。そしてこちらの世界へ戻った後は、儂が居ない間、愛しい我が娘を任せるとしよう』
「言われるまでもありません。姫桐様は私のすべてです」
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