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第六章
第二百六十五話 獅子とのお茶会
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「ねぇ、聞いてるの、ルナーリス?」
「拝聴しています。コーデリアお姉様」
ルナーリスは女皇になったのだから、一皇族である姉コーデリアに対して謙る必要はない。それどころか姉コーデリアが傅かなければならないのだけれど、幼い頃から叩き込まれた根性はそう簡単に直ってくれなかった。
それに今の姉コーデリアは、どこかおかしい。獅子人族こそが頂点だという自信満々さが無くなり、政治にも関心がなくなったように見える。
「うぷっ」
それはそれとして、ルナーリスは吐き気を覚えて口許に手を当てる。これはルナーリスを暗殺するために用意された毒物を摂取したから、ではなく、胃腸が異常な量のコーヒーを摂取したせいで悲鳴を上げているのだ。
「カリオンドルのだとお口に合わないかしら? アクロシアからも集めたのだけれど、フォルテピアノではどれが流行っているの?」
知りません、という言葉を出したら、コーヒーを一緒に吐き出してしまいそうだった。
フォルティシモ陛下を招いたお茶会で出す予定の味見係をしている女皇。
実質的に宗主国であるフォルティシモ陛下が口にするものを、事前に皇帝が味を知っておくべき、という理屈は分かる。自分は食べたことがないけれど、食べてくれなんて言えない。しかしここまで来ると実験台にされているような気分だった。
「ああ、そうそう、私も入れてみたの。陛下にお出しできるかしら? ルナーリスの意見を聞きたいから、飲んでみてくれる? 陛下に飲んで頂いた後、私が入れたのだと言えたら、素敵でしょう? 味を気に入って頂けたらなお良いわ」
「う、え、と」
フォルティシモ陛下の好みの味なんて、ルナーリスが知るはずがない。キャロルやラナリアなら確実に知っているだろうけれど、ルナーリスはこんな馬鹿な話で彼女たちへ連絡を入れるつもりはなかった。
「それから衣服に関しては何かおっしゃってなかった? 以前にお見せしたのだけれど、何もおっしゃってくださらなかったの」
たぶんフォルティシモ陛下は、あまり派手ではない格好が好みだと思う。フォルティシモ陛下が最も愛している王后キュウは、ほとんど装飾品も着けない大人しい格好をしている。
「この宝石は私のお気に入りなのだけれど、これを着けるのはどうかしら? ルナーリスの意見を聞きたいわ」
「うぷっ」
そんなルナーリスの犠牲の上に成り立ったお茶会の当日。
姉コーデリア自慢の花園にテーブルが用意され、不必要なまでの花束があちこちに飾られている。周囲で待機する獣型亜人族の侍女たちは表情を強張らせていて、これから戦場へ出向くと言わんばかりの緊張感だ。
彼女たちの緊張は痛いほどによく分かる。ここへやって来るのは、単純な他国の王ではない。巨大な大陸を空に浮かべ、目映い太陽を召喚して大陸の危機を救った絶対的な王、天空の王フォルティシモ陛下なのだ。
出迎えるのは女皇としての正装をしたルナーリスと、衣服の体積が身体よりも大きいのではと思うほど着飾った姉コーデリア。
姉コーデリアはフォルティシモ陛下をお茶会に招いたことを自慢して回っていたが、ルナーリス以外の同席を許さなかった。こんな政治利用できる機会を放棄しているところを見ても、姉の変化が分かるというものである。
ちなみにルナーリスを同席させた思惑も理解できるけれど、今日のルナーリスは背景に終始するつもりだった。
侍女たちが一斉に頭を下げたのを合図にして、フォルティシモ陛下、王后キュウ、そしてキャロルが花園に現れる。ルナーリスはキャロルの虎耳を見て内心で大きな安堵を覚えた。フォルティシモ陛下と姉コーデリアに挟まれたお茶会と、コーヒーによる作用で胃に穴が開く覚悟をしていたが、キャロルが大きく軽減してくれるだろう。
歩いているフォルティシモ陛下は侍女の中で毛並みの良い者が気になっているのか、視線が彼女たちの耳や尻尾を彷徨っていた。
「本日はようこそお越しくださいました! わたくしコーデリアが天空の王フォルティシモ陛下へご挨拶申し上げます。今日の良き日に太陽のご加護がありますように」
姉コーデリアが生まれてこの方見たこともないような満面の笑顔でフォルティシモ陛下を出迎える。それに対するフォルティシモ陛下の反応は温度差を感じさせるものだった。
いや姉コーデリアのある単語に反応して、明らかに温度を一つ下げた。ルナーリスは初代皇帝が遺したメッセージを一緒に見ていたことを誰にも話していない。だから、姉コーデリアはカリオンドル皇国で一般的に目上の者へ対して行われる挨拶をしただけ。ルナーリスだって、鍵盤商会で思わず口にした言葉だ。
今日の良き日に“太陽”のご加護がありますように。
ただ、タイミングが悪かった。今のフォルティシモ陛下に太陽の加護を願う言葉を紡ぐなんて、それだけでルナーリスの内心は震え上がった。この場に王后キュウとキャロルがいなかったら、姉コーデリアが殺される光景を幻視して、一目散に逃げ出しただろう。
「話を聞いてやる約束だから来たが、何か用か?」
落ちこぼれと蔑まれたルナーリスと違って、初代皇帝の力をいくつも発現した姉コーデリアは、かなり小さい頃から政治の世界で生きている。そんな姉だから、フォルティシモ陛下の口調が平坦になったことに気が付いただろう。
「あ、あの! 何かお気に障ることがありましたか? 何でもおっしゃってください!」
姉コーデリアに同情を覚えるつもりはないので、フォルティシモ陛下の機嫌を損ねるなら同席させないで欲しかった、と内心で恨み言を呟いておく。
「今、何か用かと聞いただろ」
ますます言葉の温度が下がるフォルティシモ陛下。産まれて初めて、姉から妹ルナーリスへ縋るような視線が向けられた。
ルナーリスから言いたいことは、フォルティシモ陛下はあくまでも理性的に対応しているということだ。姉コーデリアは感情的な面で歓心を買いたいのだろうけれど、フォルティシモ陛下は感情ではなく理性での対応を要求している。どちらが悪いというのではなく、単純に二人の間に齟齬がある。
いや、あえて原因を挙げるとしたら、姉コーデリアの誘い方が悪い。
竜人族であるルナーリスを皇帝にするためにフォルティシモ陛下が入国した時に、無理矢理待ち伏せしてお茶会に誘ったのだと言う。そんなタイミングで獅子人族の姉コーデリアから個人的な誘いをされたら、警戒してしかるべきだ。本当に感情的な歓心を買いたいのであれば、竜人族の主催する会に参加するか、天空の民エルフたちを労う目的にするべきだった。己が権力闘争には興味がないことを示さなければ、スタートラインにさえ立てない。
そんなこと、かつての姉コーデリアだったらルナーリスよりも理解しているだろうに、今の彼女は何かに狂っている。
「ふぉ、フォルティシモ陛下は、カリオンドル皇国の建国神話をご存知ですか!?」
姉コーデリアが唐突な話題を口にした。しかしそれは、思いの外フォルティシモ陛下の関心を引ける。
建国神話自体は、絵本にもなっているような有り触れたものだ。
大地に降り立った竜神と獅子神の二柱が、聖マリア教の女神マリアステラのように遙か遠い地からやって来た初代皇帝を認めてカリオンドル皇国を興す。その中にある様々な出来事。だが巨大な力を持つ神が三人の仲を引き裂き、獅子の女神は強大な魔物を産み出し人間に討伐され、竜の女神は太陽に焼かれた。
単なる御伽噺なら良かった。けれど初代皇帝の遺したメッセージを見た後では、まったく違った感想が湧いて来る。初代皇帝、二人の初代皇妃である竜神と獅子神は、太陽神と戦って敗れたのではないか。
「概要を聞いた程度だ」
「その中に、娘が愛する父親へプレゼントをしたという逸話がありまして、わたくしたち皇族の間では、父親の誕生日に娘が必ずお祝いを」
ルナーリスは一度も父親の誕生日を祝ったことはないけれど、姉コーデリアは第一皇女として毎年盛大に祝っていたのだろう。
だがルナーリスは思う。姉コーデリアは地雷を踏む天才だろうか。もうピンポイントでフォルティシモ陛下の不機嫌スイッチを押しているとしか思えない。
姉コーデリアもフォルティシモ陛下の雰囲気が厳しくなっていくのに気が付いている。だから益々焦っている。ルナーリスはもうここから逃げ出そうか迷っていたら、救いの言葉が掛かった。
「あの、初代皇妃である獅子の女神様は、人間に滅ぼされたのですか?」
王后キュウは軽い気持ちで尋ねた。彼女の表情を見るにそれは間違いない。けれどフォルティシモ陛下の雰囲気が変わった。
「キュウの言う通りだ。獅子神は、人間に討伐されたらしいな」
「は、はい。建国神話では、そう言われています。初代皇帝をあまりにも愛していた獅子の女神は、彼を失いたくなくて狂った末に討伐されたのだと」
姉コーデリアもこの話題だと思ったようで、言葉を明るくする。
「しかし、わたくしたちの間では別の逸話が伝わっております!」
「別の? どんな話だ?」
「はい。獅子の女神は、愛する人と同じ人を愛した竜の女神を取り戻すため、今でも愛に生きているというものです」
それは城にお化けが出るとか、空の上に大陸があるとか、地底世界があるとか、口伝とも言えない噂話だった。不思議な出来事と獅子の女神の生存を無理矢理こじつけているような話。しかし噂話だと一笑に付すべきか、それを判断するのはルナーリスではない。
「偉大なる獅子の女神が、愛する方の遺した国を捨てるなんて有り得ませんから!」
獅子人族の女性は愛する夫と家族を守るのだと豪語した。
「お前、その、獅子人族の、あれだ」
王后キュウがフォルティシモ陛下へそっと「コーデリアさんです」と話し掛けているのが、唇の形から読み取れた。ラナリアからも聞いていたけれど、フォルティシモ陛下は姉コーデリアの名前をすっかり忘れていたらしい。
「コーデリア、興味の湧く話だった」
「はい!」
フォルティシモが出されたコーヒーに口を付ける。
「これ、なかなか上手いな」
「はい! 初代皇帝陛下が好まれた味として伝わっております!」
また地雷だった。
「拝聴しています。コーデリアお姉様」
ルナーリスは女皇になったのだから、一皇族である姉コーデリアに対して謙る必要はない。それどころか姉コーデリアが傅かなければならないのだけれど、幼い頃から叩き込まれた根性はそう簡単に直ってくれなかった。
それに今の姉コーデリアは、どこかおかしい。獅子人族こそが頂点だという自信満々さが無くなり、政治にも関心がなくなったように見える。
「うぷっ」
それはそれとして、ルナーリスは吐き気を覚えて口許に手を当てる。これはルナーリスを暗殺するために用意された毒物を摂取したから、ではなく、胃腸が異常な量のコーヒーを摂取したせいで悲鳴を上げているのだ。
「カリオンドルのだとお口に合わないかしら? アクロシアからも集めたのだけれど、フォルテピアノではどれが流行っているの?」
知りません、という言葉を出したら、コーヒーを一緒に吐き出してしまいそうだった。
フォルティシモ陛下を招いたお茶会で出す予定の味見係をしている女皇。
実質的に宗主国であるフォルティシモ陛下が口にするものを、事前に皇帝が味を知っておくべき、という理屈は分かる。自分は食べたことがないけれど、食べてくれなんて言えない。しかしここまで来ると実験台にされているような気分だった。
「ああ、そうそう、私も入れてみたの。陛下にお出しできるかしら? ルナーリスの意見を聞きたいから、飲んでみてくれる? 陛下に飲んで頂いた後、私が入れたのだと言えたら、素敵でしょう? 味を気に入って頂けたらなお良いわ」
「う、え、と」
フォルティシモ陛下の好みの味なんて、ルナーリスが知るはずがない。キャロルやラナリアなら確実に知っているだろうけれど、ルナーリスはこんな馬鹿な話で彼女たちへ連絡を入れるつもりはなかった。
「それから衣服に関しては何かおっしゃってなかった? 以前にお見せしたのだけれど、何もおっしゃってくださらなかったの」
たぶんフォルティシモ陛下は、あまり派手ではない格好が好みだと思う。フォルティシモ陛下が最も愛している王后キュウは、ほとんど装飾品も着けない大人しい格好をしている。
「この宝石は私のお気に入りなのだけれど、これを着けるのはどうかしら? ルナーリスの意見を聞きたいわ」
「うぷっ」
そんなルナーリスの犠牲の上に成り立ったお茶会の当日。
姉コーデリア自慢の花園にテーブルが用意され、不必要なまでの花束があちこちに飾られている。周囲で待機する獣型亜人族の侍女たちは表情を強張らせていて、これから戦場へ出向くと言わんばかりの緊張感だ。
彼女たちの緊張は痛いほどによく分かる。ここへやって来るのは、単純な他国の王ではない。巨大な大陸を空に浮かべ、目映い太陽を召喚して大陸の危機を救った絶対的な王、天空の王フォルティシモ陛下なのだ。
出迎えるのは女皇としての正装をしたルナーリスと、衣服の体積が身体よりも大きいのではと思うほど着飾った姉コーデリア。
姉コーデリアはフォルティシモ陛下をお茶会に招いたことを自慢して回っていたが、ルナーリス以外の同席を許さなかった。こんな政治利用できる機会を放棄しているところを見ても、姉の変化が分かるというものである。
ちなみにルナーリスを同席させた思惑も理解できるけれど、今日のルナーリスは背景に終始するつもりだった。
侍女たちが一斉に頭を下げたのを合図にして、フォルティシモ陛下、王后キュウ、そしてキャロルが花園に現れる。ルナーリスはキャロルの虎耳を見て内心で大きな安堵を覚えた。フォルティシモ陛下と姉コーデリアに挟まれたお茶会と、コーヒーによる作用で胃に穴が開く覚悟をしていたが、キャロルが大きく軽減してくれるだろう。
歩いているフォルティシモ陛下は侍女の中で毛並みの良い者が気になっているのか、視線が彼女たちの耳や尻尾を彷徨っていた。
「本日はようこそお越しくださいました! わたくしコーデリアが天空の王フォルティシモ陛下へご挨拶申し上げます。今日の良き日に太陽のご加護がありますように」
姉コーデリアが生まれてこの方見たこともないような満面の笑顔でフォルティシモ陛下を出迎える。それに対するフォルティシモ陛下の反応は温度差を感じさせるものだった。
いや姉コーデリアのある単語に反応して、明らかに温度を一つ下げた。ルナーリスは初代皇帝が遺したメッセージを一緒に見ていたことを誰にも話していない。だから、姉コーデリアはカリオンドル皇国で一般的に目上の者へ対して行われる挨拶をしただけ。ルナーリスだって、鍵盤商会で思わず口にした言葉だ。
今日の良き日に“太陽”のご加護がありますように。
ただ、タイミングが悪かった。今のフォルティシモ陛下に太陽の加護を願う言葉を紡ぐなんて、それだけでルナーリスの内心は震え上がった。この場に王后キュウとキャロルがいなかったら、姉コーデリアが殺される光景を幻視して、一目散に逃げ出しただろう。
「話を聞いてやる約束だから来たが、何か用か?」
落ちこぼれと蔑まれたルナーリスと違って、初代皇帝の力をいくつも発現した姉コーデリアは、かなり小さい頃から政治の世界で生きている。そんな姉だから、フォルティシモ陛下の口調が平坦になったことに気が付いただろう。
「あ、あの! 何かお気に障ることがありましたか? 何でもおっしゃってください!」
姉コーデリアに同情を覚えるつもりはないので、フォルティシモ陛下の機嫌を損ねるなら同席させないで欲しかった、と内心で恨み言を呟いておく。
「今、何か用かと聞いただろ」
ますます言葉の温度が下がるフォルティシモ陛下。産まれて初めて、姉から妹ルナーリスへ縋るような視線が向けられた。
ルナーリスから言いたいことは、フォルティシモ陛下はあくまでも理性的に対応しているということだ。姉コーデリアは感情的な面で歓心を買いたいのだろうけれど、フォルティシモ陛下は感情ではなく理性での対応を要求している。どちらが悪いというのではなく、単純に二人の間に齟齬がある。
いや、あえて原因を挙げるとしたら、姉コーデリアの誘い方が悪い。
竜人族であるルナーリスを皇帝にするためにフォルティシモ陛下が入国した時に、無理矢理待ち伏せしてお茶会に誘ったのだと言う。そんなタイミングで獅子人族の姉コーデリアから個人的な誘いをされたら、警戒してしかるべきだ。本当に感情的な歓心を買いたいのであれば、竜人族の主催する会に参加するか、天空の民エルフたちを労う目的にするべきだった。己が権力闘争には興味がないことを示さなければ、スタートラインにさえ立てない。
そんなこと、かつての姉コーデリアだったらルナーリスよりも理解しているだろうに、今の彼女は何かに狂っている。
「ふぉ、フォルティシモ陛下は、カリオンドル皇国の建国神話をご存知ですか!?」
姉コーデリアが唐突な話題を口にした。しかしそれは、思いの外フォルティシモ陛下の関心を引ける。
建国神話自体は、絵本にもなっているような有り触れたものだ。
大地に降り立った竜神と獅子神の二柱が、聖マリア教の女神マリアステラのように遙か遠い地からやって来た初代皇帝を認めてカリオンドル皇国を興す。その中にある様々な出来事。だが巨大な力を持つ神が三人の仲を引き裂き、獅子の女神は強大な魔物を産み出し人間に討伐され、竜の女神は太陽に焼かれた。
単なる御伽噺なら良かった。けれど初代皇帝の遺したメッセージを見た後では、まったく違った感想が湧いて来る。初代皇帝、二人の初代皇妃である竜神と獅子神は、太陽神と戦って敗れたのではないか。
「概要を聞いた程度だ」
「その中に、娘が愛する父親へプレゼントをしたという逸話がありまして、わたくしたち皇族の間では、父親の誕生日に娘が必ずお祝いを」
ルナーリスは一度も父親の誕生日を祝ったことはないけれど、姉コーデリアは第一皇女として毎年盛大に祝っていたのだろう。
だがルナーリスは思う。姉コーデリアは地雷を踏む天才だろうか。もうピンポイントでフォルティシモ陛下の不機嫌スイッチを押しているとしか思えない。
姉コーデリアもフォルティシモ陛下の雰囲気が厳しくなっていくのに気が付いている。だから益々焦っている。ルナーリスはもうここから逃げ出そうか迷っていたら、救いの言葉が掛かった。
「あの、初代皇妃である獅子の女神様は、人間に滅ぼされたのですか?」
王后キュウは軽い気持ちで尋ねた。彼女の表情を見るにそれは間違いない。けれどフォルティシモ陛下の雰囲気が変わった。
「キュウの言う通りだ。獅子神は、人間に討伐されたらしいな」
「は、はい。建国神話では、そう言われています。初代皇帝をあまりにも愛していた獅子の女神は、彼を失いたくなくて狂った末に討伐されたのだと」
姉コーデリアもこの話題だと思ったようで、言葉を明るくする。
「しかし、わたくしたちの間では別の逸話が伝わっております!」
「別の? どんな話だ?」
「はい。獅子の女神は、愛する人と同じ人を愛した竜の女神を取り戻すため、今でも愛に生きているというものです」
それは城にお化けが出るとか、空の上に大陸があるとか、地底世界があるとか、口伝とも言えない噂話だった。不思議な出来事と獅子の女神の生存を無理矢理こじつけているような話。しかし噂話だと一笑に付すべきか、それを判断するのはルナーリスではない。
「偉大なる獅子の女神が、愛する方の遺した国を捨てるなんて有り得ませんから!」
獅子人族の女性は愛する夫と家族を守るのだと豪語した。
「お前、その、獅子人族の、あれだ」
王后キュウがフォルティシモ陛下へそっと「コーデリアさんです」と話し掛けているのが、唇の形から読み取れた。ラナリアからも聞いていたけれど、フォルティシモ陛下は姉コーデリアの名前をすっかり忘れていたらしい。
「コーデリア、興味の湧く話だった」
「はい!」
フォルティシモが出されたコーヒーに口を付ける。
「これ、なかなか上手いな」
「はい! 初代皇帝陛下が好まれた味として伝わっております!」
また地雷だった。
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