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第四章
第百六十話 打倒フォルティシモの噂
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冒険者パーティ<リョースアールヴァル>、エルフだけのパーティ。フォルティシモから見て、エルミアには積年の宿敵である両手槍の男ヴォーダンを倒してしまったことで恨まれている。しかしその後の、エルフたちを『浮遊大陸』へ移住させたり、テディベアを復活させた件では感謝されているはずだ。
それにアクロシア王都で再会した時も、一緒に仕事をする機会があるかもと言っていたので、彼女は仕事に感情を持ち込まないタイプであると思われる。だったら合同受注を頼めば引き受けてくれるかも知れない。
パーティメンバーと共に応接室へやって来たエルミアは、その頭の上にテディベアを載せていた。元神戯参加者であり、御神木の姿にされてエルディンを長い間見守ってきた人物が、エルミアの頭の上に載って手を振っている。
フォルティシモ、キュウ、ギルドマスターは彼女の姿を凝視してしまったのは仕方がない。
「おい、エルミア」
「何よ」
「その姿で、街中を歩いて来たのか?」
フォルティシモはエルミアの頭の上のテディベアを指差す。彼女たちはエルフというだけで目立つのに、ぬいぐるみを頭に載せて歩いていたら、さぞかし人目を引いただろう。フォルティシモでさえ思わず指摘せずにはいられなかった。
「ち、違うわよ!」
『ごめんよ、エルミア。僕が彼との話なら参加させて欲しいって言ったから』
「テディさんは悪くないわ!」
「そうだよな。テディベアを頭に載せて街中を歩いていたら、お前の評価を三段階くらい上げるところだった」
「なんでそれで評価が上がるのよ」
フォルティシモもピアノから鋼鉄メンタルだと評されたが、テディベアを頭に載っけて冒険者活動しているとしたらエルミアのメンタルは、それを遙かに上回るダイヤモンドメンタルだ。およそ定命の人間には到達しえないエルフだけが持ち得るメンタルだと言えるだろう。とても勝ち目がありそうもない。
エルミアがテディベアをどうして頭に載せたのかは考え無いことにする。片手で抱えるという選択肢はなかったのだろうか。
エルミアたちに事情を話すと、エルミア以外のエルフたちは二つ返事で合同受注を快諾してくれた。見覚えのあるエルフが挙動不審になっていたような気もするが、概ね快諾と言って差し支えない。当のエルミアも反対する様子はなかったので、ギルドマスターに指名依頼を受注すると伝える。
ただ、やはり冒険者としてベテランのエルミアも、指名依頼の内容を聞いて首を傾げていた。指名依頼の時点で受注するパーティは決まっている。それなのにそのパーティが受注できない条件を付け加えるなんて、有り得ない依頼の仕方だ。
この指名依頼は、どちらかと言えばフォルティシモに対する挑戦状だろうか。
フォルティシモは口角を吊り上げた。こうしてお膳立てされたなら、最強のフォルティシモとしてはお招きにあずからねばならない。
依頼の日の朝早くに待ち合わせの壁の外には、十台を超える馬車が立ち並んでいた。馬車の周囲を騎士たちが囲むようにして警戒し、馬車の間では荷物の積み込みが行われている。
フォルティシモは当然としてキュウ、それから戦闘能力が高くアクロシアで名前が売れているアルティマ、索敵能力に秀でて多くの従魔を使うキャロルの三人を連れていた。
騎士や積み荷の作業をしている者たちは、フォルティシモを気にしているようで何度も何度も振り返りながら仕事をしている。
エルミア率いる<リョースアールヴァル>のエルフたちが現れると、視線は厳しいものに変わった。彼女たちもその視線に気が付いているだろうが、エルミアを筆頭に堂々とした様子だ。
エルフたちがフォルティシモの傍へ寄って来ると、それらの視線は焦ったように逸らされていく。アクロシア王国でのエルフたちへの感情は複雑なものだと聞いているのに、よく今でも冒険者を続けようと思うものだ。
「随分早いじゃないの」
「俺は待ち合わせ五分前に相手が現れなかったら苛立つ主義だ」
フォルティシモが前にも誰かに伝えた言葉を口にすると、エルミアは何がおかしかったのか、フォルティシモの肩をぽんぽんと叩きながら笑った。
「良い心がけね。もっとも、あなたがそれを言ったら、大陸中の上流階級は震え上がるでしょうけど」
キュウ、アルティマ、キャロルが、エルミアや彼女のパーティメンバーと挨拶を交わす。フォルティシモはもう一人の知り合いであるテディベアを見下ろす。テディベアは、今日はエルミアの頭の上ではなく地面に立っていた。
「調子はどうだ?」
『ああ、快適過ぎて怖いくらいだよ。君って僕のように情報を取り尽くした相手も気遣うタイプなんだね。まあそれより、こんなに堂々と姿を見せても平気なのかい?』
「どういう意味だ?」
『一部の勢力が、君を排除するために動いているという話じゃないか。もしかしたらプレイヤーの可能性もある。もし大勢のプレイヤーから一斉に狙われたら、君だって危ないだろう?』
フォルティシモはテディベアの話を考えてみる。たしかにフォルティシモだって、大勢のプレイヤーから一斉に襲い掛かられたら、その対処に苦慮するのは否定できない。しかし、その戦法でフォルティシモを攻略できたプレイヤーは存在しない。
「俺を排除するか。それはどこで聞いた話だ?」
『エルミアと行動している最中に、君を倒そうって話し合ってる男たちがいたんだ。もっとも、それを言った男たちは、エルミアがボコボコにしてしまったけど』
エルミアはMAG偏重のステータスだったが、ベースレベルが高いので素手でもその辺りの冒険者には負けはしない。その様子を再現しているつもりなのか、テディベアのぬいぐるみの身体がシャドーボクシングをするのは、まったく迫力がなかった。
フォルティシモを倒そうとする者たちがいるのは、気に掛けておく必要があるだろう。
たしかに異世界ファーアースに来て両手槍の男ヴォーダンを倒した日から、好き勝手に行動をしている。恨まれる要素は、ゲームの頃以上だろう。もしかしたら今回の依頼もそれ絡みかも知れない。依頼者の身元はハッキリしたものだとしても、実際は依頼者も騙されているのは有り得る話だ。
フォルティシモだけでは受注できない奇妙な指名依頼も、フォルティシモの知り合いごと一網打尽にするつもりだと考えれば不思議ではなくなる。今からでももう少し戦力を厚くするべきか悩む。フォルティシモが誰を呼び寄せるか検討している内に、依頼者が姿を現した。
それにアクロシア王都で再会した時も、一緒に仕事をする機会があるかもと言っていたので、彼女は仕事に感情を持ち込まないタイプであると思われる。だったら合同受注を頼めば引き受けてくれるかも知れない。
パーティメンバーと共に応接室へやって来たエルミアは、その頭の上にテディベアを載せていた。元神戯参加者であり、御神木の姿にされてエルディンを長い間見守ってきた人物が、エルミアの頭の上に載って手を振っている。
フォルティシモ、キュウ、ギルドマスターは彼女の姿を凝視してしまったのは仕方がない。
「おい、エルミア」
「何よ」
「その姿で、街中を歩いて来たのか?」
フォルティシモはエルミアの頭の上のテディベアを指差す。彼女たちはエルフというだけで目立つのに、ぬいぐるみを頭に載せて歩いていたら、さぞかし人目を引いただろう。フォルティシモでさえ思わず指摘せずにはいられなかった。
「ち、違うわよ!」
『ごめんよ、エルミア。僕が彼との話なら参加させて欲しいって言ったから』
「テディさんは悪くないわ!」
「そうだよな。テディベアを頭に載せて街中を歩いていたら、お前の評価を三段階くらい上げるところだった」
「なんでそれで評価が上がるのよ」
フォルティシモもピアノから鋼鉄メンタルだと評されたが、テディベアを頭に載っけて冒険者活動しているとしたらエルミアのメンタルは、それを遙かに上回るダイヤモンドメンタルだ。およそ定命の人間には到達しえないエルフだけが持ち得るメンタルだと言えるだろう。とても勝ち目がありそうもない。
エルミアがテディベアをどうして頭に載せたのかは考え無いことにする。片手で抱えるという選択肢はなかったのだろうか。
エルミアたちに事情を話すと、エルミア以外のエルフたちは二つ返事で合同受注を快諾してくれた。見覚えのあるエルフが挙動不審になっていたような気もするが、概ね快諾と言って差し支えない。当のエルミアも反対する様子はなかったので、ギルドマスターに指名依頼を受注すると伝える。
ただ、やはり冒険者としてベテランのエルミアも、指名依頼の内容を聞いて首を傾げていた。指名依頼の時点で受注するパーティは決まっている。それなのにそのパーティが受注できない条件を付け加えるなんて、有り得ない依頼の仕方だ。
この指名依頼は、どちらかと言えばフォルティシモに対する挑戦状だろうか。
フォルティシモは口角を吊り上げた。こうしてお膳立てされたなら、最強のフォルティシモとしてはお招きにあずからねばならない。
依頼の日の朝早くに待ち合わせの壁の外には、十台を超える馬車が立ち並んでいた。馬車の周囲を騎士たちが囲むようにして警戒し、馬車の間では荷物の積み込みが行われている。
フォルティシモは当然としてキュウ、それから戦闘能力が高くアクロシアで名前が売れているアルティマ、索敵能力に秀でて多くの従魔を使うキャロルの三人を連れていた。
騎士や積み荷の作業をしている者たちは、フォルティシモを気にしているようで何度も何度も振り返りながら仕事をしている。
エルミア率いる<リョースアールヴァル>のエルフたちが現れると、視線は厳しいものに変わった。彼女たちもその視線に気が付いているだろうが、エルミアを筆頭に堂々とした様子だ。
エルフたちがフォルティシモの傍へ寄って来ると、それらの視線は焦ったように逸らされていく。アクロシア王国でのエルフたちへの感情は複雑なものだと聞いているのに、よく今でも冒険者を続けようと思うものだ。
「随分早いじゃないの」
「俺は待ち合わせ五分前に相手が現れなかったら苛立つ主義だ」
フォルティシモが前にも誰かに伝えた言葉を口にすると、エルミアは何がおかしかったのか、フォルティシモの肩をぽんぽんと叩きながら笑った。
「良い心がけね。もっとも、あなたがそれを言ったら、大陸中の上流階級は震え上がるでしょうけど」
キュウ、アルティマ、キャロルが、エルミアや彼女のパーティメンバーと挨拶を交わす。フォルティシモはもう一人の知り合いであるテディベアを見下ろす。テディベアは、今日はエルミアの頭の上ではなく地面に立っていた。
「調子はどうだ?」
『ああ、快適過ぎて怖いくらいだよ。君って僕のように情報を取り尽くした相手も気遣うタイプなんだね。まあそれより、こんなに堂々と姿を見せても平気なのかい?』
「どういう意味だ?」
『一部の勢力が、君を排除するために動いているという話じゃないか。もしかしたらプレイヤーの可能性もある。もし大勢のプレイヤーから一斉に狙われたら、君だって危ないだろう?』
フォルティシモはテディベアの話を考えてみる。たしかにフォルティシモだって、大勢のプレイヤーから一斉に襲い掛かられたら、その対処に苦慮するのは否定できない。しかし、その戦法でフォルティシモを攻略できたプレイヤーは存在しない。
「俺を排除するか。それはどこで聞いた話だ?」
『エルミアと行動している最中に、君を倒そうって話し合ってる男たちがいたんだ。もっとも、それを言った男たちは、エルミアがボコボコにしてしまったけど』
エルミアはMAG偏重のステータスだったが、ベースレベルが高いので素手でもその辺りの冒険者には負けはしない。その様子を再現しているつもりなのか、テディベアのぬいぐるみの身体がシャドーボクシングをするのは、まったく迫力がなかった。
フォルティシモを倒そうとする者たちがいるのは、気に掛けておく必要があるだろう。
たしかに異世界ファーアースに来て両手槍の男ヴォーダンを倒した日から、好き勝手に行動をしている。恨まれる要素は、ゲームの頃以上だろう。もしかしたら今回の依頼もそれ絡みかも知れない。依頼者の身元はハッキリしたものだとしても、実際は依頼者も騙されているのは有り得る話だ。
フォルティシモだけでは受注できない奇妙な指名依頼も、フォルティシモの知り合いごと一網打尽にするつもりだと考えれば不思議ではなくなる。今からでももう少し戦力を厚くするべきか悩む。フォルティシモが誰を呼び寄せるか検討している内に、依頼者が姿を現した。
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