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第四章

第百五十五話 最初の神戯参加者

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 それはフォルティシモとエルディンの御神木テディベアの会話で聞いた話だ。フォルティシモが領域や権能を獲得したからか、御神木が身体を失ってテディベアになったからか、彼はかつてはぐらかされた神戯に関する情報をいくつも教えてくれた。


 まずは信仰心エネルギーに関する話で、フォルティシモのステータスにFPという項目を出現させる方法を教えられた。このFPこそが権能を使う際に消費される信仰心エネルギーなのだと言う。

 最初から出しておけと文句を言いたかったが、テディベアに文句を言っても仕方がないので我慢する。これまでは感覚だけだったものが、具体的な数字で確認できるようになっただけでも良しと思うことにした。

 FPの貯め方については、これまでフォルティシモが調べたこと以上の情報はなかった。フォルティシモのやってきた方法以上の情報は、テディベアからは出て来ない。


 次にテディベアがかつて聞きそびれた異世界に来た経緯を聞いてみる。

 フォルティシモの祖父や少女神様が関わっているかと思って身構えていたものの、まったく違った容姿の神様の話を聞かされた。少女神様はピアノとマウロに関わっていた疑いがあるので、他のプレイヤーも少女神様が異世界に連れて来た可能性を考えていたが、どうやら違うらしい。

 テディベアを異世界に転移させた神様は狐人族―――少なくとも狐の耳と尻尾を持った女性の神様だったそうだ。

 狐神様は祖父や少女神様に比べて、テディベアへそこそこ丁寧に神戯に関する説明をしてくれてから異世界へ転移させた。だから狐神様によって異世界転移した者たちは、最初から神戯を勝ち抜くために行動をしたのだと言う。

 テディベアは快く、彼が聞いた狐神様の話をフォルティシモにもしてくれた。


 その中でフォルティシモが眉を潜めたのは、プレイヤー同士を殺した場合の仕様だ。

 FPを貯め込んだプレイヤーは神クラスを上げるための大きな経験値になる。ざっくり言うと信仰された神を殺すことが、神クラスのレベルを上げる近道なのだ。

 信仰された神が消えた時、神に蓄えられた“想い”が行き場を失い、神を殺した者へ吸収される。

 だからこそテディベアの仲間は、最初の神戯参加者たちを裏切って皆殺しにしたのだろう。もしくは最初からそのつもりだったのかも知れない。他のプレイヤーがFPを集めたところで、全員を殺して自身を成長させようとした。魔女は丸々と太らせてから子供を喰う。それを体現した形だ。

 テディベアが語る仕様通りに受け取るのであれば、この神戯というゲームはFPを貯めたプレイヤーを殺すのが最大の目標となる。ただ同時にFPを貯めたプレイヤーは、それだけ権能を使ってくる。

 フォルティシモの【領域制御】は戦闘中に使えるようなものではなかったが、マウロのそれは使い勝手がよさそうだったので、戦えば格下でも苦戦する可能性があった。

 FPを貯めるには領域が必要で、最果ての黄金竜が領域やそこに住む者たちを襲うのが神戯の戦い方だと言っていたのと合致する。

 マウロの言葉が正しいらしいことに不快感を覚えながら、フォルティシモは続きを促した。


 そして一通りの話をしたところで、プレイヤーを樹木へと変えて、今になって殺した者に関する話題へ切り込んだ。

 長い間、この異世界ファーアースで暮らしていたのであれば、相当のFPを貯め込んでいるはず。逆に言えばそれだけ強いという意味に他ならない。どんな相手に狙われても、殺し返しているのだから。

「それで、そいつの力や権能はどんななんだ?」
『それは―――完全には分からない』
「お前、綿を抜くぞ」
『僕、綿を抜かれるとどうなるのかな?』

 愛らしい熊のぬいぐるみは、自分の腹をポンポンと叩いていた。テディベアの質問には、フォルティシモも答えられないが、知ったところで何の益もないので試すつもりもない。

 代わりに手の平でテディベアの顔を挟み込む。もふっとした感触が伝わって来て、フォルティシモは勝ち誇ったように笑った。

「はっ、キュウの勝ちだな。手触りも温もりも比較にならない」
『このぬいぐるみ用意したの君なんだけど』

 テディベアが自分を倒した相手に関して分からないのも、実は仕方がない側面がある。

 フォルティシモが異世界ファーアースに来て最初に出会ったプレイヤー両手槍の男ヴォーダンへ【解析】を使った時、神クラスに関する情報は表示されなかった。だからファーアースオンラインのスキルを使っても、神クラスについては分からないのだ。

 それを知るには実際に攻撃を受けるか、相手に教えて貰うしかないのかも知れない。マウロの攻撃がヒヌマイトトンボを貫くのを見て、ピアノには情報ウィンドウを直接見せて貰ったように。

 テディベアはファーアースオンラインのルールにおいて敗北し、気が付いたら樹木にされていたので、相手が使った権能については分からない。

 それでも知っている限りの情報を聞いて、メモ帳を埋めていった。

「他には何か知らないのか?」
『スキルの設定を作るのが、僕らの中で群を抜いて上手かった』

 フォルティシモも【コード設定】に関しては一家言あるので、まだ見ぬ相手に競争心が湧く。

 ファーアースオンラインでの戦い方についても、テディベアから情報を得られた。かなりの戦闘特化ビルドで、どちらかと言えば後衛型。得意なスキルやちょっとした癖まで答えてくれる。

 しかし、フォルティシモはそれらの情報を聞きながら、意味がないと思い始めていた。

 それは相手の情報以前に、テディベアの知識が古かったからだ。何年前のアップデートで止まっているのか知らないが、最新において最強のカンストプレイヤーであるフォルティシモと戦えるようなステータスではないのは確実だった。

「そういえば名前を聞いてなかったな。覚えられないが、メモはしておく」

『クレシェンド。彼の名はクレシェンドだよ』

 テディベアはその名前に、一つの知識を付け加える。

『最も注意しなければならないのは、彼は勝つために手段を選ばない点だよ』
「奇遇だな。俺も親友から勝つために手段を選ばないと言われてる』
『君が考えているほど甘いものじゃないと思うけど。僕は最果ての黄金竜をやっとの思いで封じたところを狙われたし』

 フォルティシモはテディベアの敗北理由に対して、笑い飛ばす余裕があった。

 そんなもの何度となく受けてきたPKのための常套手段だ。レイドボスモンスターと戦った直後を狙われたり、他のチームと争った後に絶え間なく攻撃されたり、そんな小手先の戦術は飽きるほど体験した。

「その程度で最強のフォルティシモが敗北することはない」
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