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間章
第百十四話 本当の願い
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主人と出会ってからというもの、キュウの人生は様変わりした。故郷の里でそのまま暮らしていたら決して体験しなかっただろうことを次々に経験し、夢にも思わなかったほどのレベルに到達した。大陸最強国家と言われるアクロシアの王女様と出会ったと思ったら友達になって、強大で恐ろしい魔物を倒す冒険者ギルドの歴代最高レベルに自分の名前があって、気が付けばいつも目で追っている主人には常識をことごとく破壊された。
大きな城を爆砕する魔術、超高速で大空を飛び回る天烏、見たこともないほどに凶悪な魔物が生息する孤島、主人と同レベルだというピアノという綺麗な女性、山のように巨大な黄金の竜、大地を抉ってしまう天災とも見紛う竜の吐息、そしてそれを圧倒した主人、さすがにこれ以上驚くことはないかと思っていたのに。
キュウ個人としては最大の関心事であった主人の従者アルティマとの出会いをしたと思ったら、エンシェントとセフェールという格別の信頼を得ているらしい二人の従者と出会った。みんな美人で可愛くて強くて頭も良くて自信に満ちあふれていた。
そんな時、“現実”は自分が現実であることを忘れて、大地を空へ浮かべてしまった。
主人が言っていた『浮遊大陸』だ。言っていたのと違うのは、アクロシアの上空に悠然と現れた大地は、キュウの主人が持ってきた物らしいという点だった。
本当に大地が空に浮いていることに驚けば良いのか、動いていることに驚けば良いのか、アクロシアの頭上にあることに驚けば良いのか、主人が操っていることに驚けば良いのか、そんな物語の登場人物のような人の元に居る自分に驚けば良いのか。
そして謎の声を聞いた。
謎の声に導かれるまま、キュウは剣を取って人を殺した。人を殺したことが怖くて、そんなことさえ上手くできない自分が情けなかった。主人の従者たちが戻って来て、キュウの居場所がなくなることが嫌だった。
いや、そのどれもが、本当は違う。
謎の声は怖かったけれど、自分よりも強い人なんて当たり前だ。人を殺したのは衝撃だったけど、主人に買われた時から覚悟はしていた。自分が情けないのは、家族に捨てられた時から自覚している。居場所がなくなるのが怖いのは、本音だけど。
だからキュウの、本当は―――。
> あっさだよー
キュウは誰かに起こされた気がして、勢い良く目を開ける。
キュウがいつもの宿のベッドで目を覚ますと、隣のベッドでリースロッテが寝息を立てていた。いつもの癖で目を覚まして最初に隣のベッドを確認するのだが、今日はいつもの光景がなかったことに寂しさと安堵を感じる。
昨日のことを思うと、主人が居たら布団にくるまって身もだえしたことだろう。実を言うと、あのまま主人に抱かれるのかと思ったからだ。
部屋の片隅から紙を捲る音がしたので視線を向けると、セフェールが窓から入る朝日を光源にして読書をしていた。
「おはようございますぅ」
「お、おはようございます。その、早い、ですね」
キュウを起こしたのはセフェールなのか聞こうとして、聞くのを止めた。もし起こすのであればリースロッテも一緒に起こすだろう。
「ええぇ、本の続きが気になってぇ、早く目が覚めてしまいましたぁ」
アクロシアでの書物の値段はそこそこ値が張るものの、庶民に手が届かないほどではない。それこそ主人と一緒に暮らすようになったキュウであれば、毎日一冊ずつ買ってもお金に余裕がある程度の値段である。
奴隷として売られるほどに貧窮していた頃を考えれば、有り得ないほどの金銭感覚。キュウも最初は遠慮してお金を使うのを控えていた。しかしあの生きる世界が違う主人に近づこうと思えば、知識や自己研鑽に対してお金を渋るという選択肢はないと教えて貰った今では、図書館や本屋へ頻繁に足を運んでいる。
「何を読んでるのでしょうか? もしよろしければ私も」
主人の信頼する従者が読む本が気になる。読めそうであれば自分にも貸して貰いたい。
「恋愛小説ですよぉ」
「………れ、恋愛小説ですか?」
キュウでは解読できないような学術書を読んでいるのかと思えば、キュウも好きなジャンルの本だった。キュウが住んでいた里には大勢が集まれる場所があり、そこの本棚にあったものをよく読んでいた。
「ええ、面白いですよぉ。いやぁいつの時代、どんな場所でも恋愛は良いですねぇ。そういえばぁ、荷物に本がいっぱいありましたけどぉ、キュウはどんな本を読んでるんですかぁ?」
「えっと、大陸の歴史とか、文化の在り方とか、各地の伝承とか………」
「………それ面白いんですかぁ?」
「あ、あの、ご主人様に、この大陸の、常識のフォローをするように言われて」
「そう言われて、懸命に勉強しているんですかぁ? キュウは良い子ですねぇ」
「そ、そんなことないです」
良い子、なんてことは有り得ない。キュウは勉強が好きでは無かったし、今でも別に好きではない。キュウが学習しているのは、ただただ主人に褒められたいからであって、捨てられたくないからで、“良い子”であることとは掛け離れた理由だ。
「ところで今日は、引っ越しの準備ということでしたがぁ、どうしますかぁ?」
「あの『浮遊大陸』という場所には、お店が無いって言ってましたけど」
「店というかぁ。私たちしか住んでないんですよぉ」
「え? でも、王様だって」
「ああ、あれはぁ、事実をねじ曲げたというかぁ、脚色して話がスムーズに進むようにしただけですよぉ」
「じゃあ、ご主人様は王様じゃないんですね」
少しだけ安心した。ラナリアとは友達になれたけれど、キュウにとって王侯貴族というのは恐れ多い存在だ。
「王ではないですがぁ、まあ、それ以上なんじゃないですかねぇ? あれ、動かせるようになったみたいですしぃ?」
セフェールの立てた指先にあるのは、空だ。
「………ご主人様は、その、凄いです」
「あはははぁ」
セフェールは笑ってキュウの頭を撫でてくれる。
セフェールがリースロッテを起こすと、不機嫌なのかそうでないのか抑揚のない口調と呆けているような表情で朝の挨拶をされたので、お辞儀して挨拶を返した。リースロッテはセフェールにされるがままに、青空のような髪の毛を結って貰っている。
「キュウ、隣のフォルさんたちの様子を見て来て貰えますかぁ?」
「はい」
部屋を出て、隣のドアに立つ。ノックをしようとして、昨日のことを思い出して腕を下げる。何度も深呼吸をしてから、遠慮がちにノックをした。
「ご主人様」
「キュウか、入ってくれ」
主人とピアノが会合に使っていたのは、キュウたちが宿泊している三人部屋よりもかなり小さな部屋だった。ベッドは一つしかないようで、その他のスペースも手狭なため一人部屋だと思われる。
主人がピアノと話をするために一晩だけ借りた部屋は、ベッドが端に追いやられ、中央のテーブルに白い紙が広げられて付箋がぺたぺたと貼り付けられていた。付箋にはエルフ、森、湖、鉄火場、畑、儀式場、教会、リサイクル、ランダム、ゴーレムなど、脈絡のない単語が書かれている。
そのテーブルを囲むようにして左右に椅子が置かれており、それぞれ主人とピアノが腰掛けていた。
「どうかしたか?」
「あの、朝なので」
「もうそんな時間だったか」
「フォルティシモ、残りは後日にしよう」
「そうだな」
主人とピアノの会話を耳にしても、何のことか分からず首を傾げることしかできない。
「ああ、あとで詳しく報告はするつもりだが」
主人が少し嬉しそうなので、安心して頷く。
「ピアノとチームを組んだ」
「チームというのは、パーティとは違うのでしょうか」
「………違うんだ。なんというか、パーティよりも大きな単位だ」
「フォルティシモお前、それで説明してるつもりか」
ピアノの呆れた声が聞こえた。チームというのが何かは分からないけれど、主人にとってピアノとチームを結成することは、嬉しいことに分類されるのだけは分かるので。
「おめでとうございます」
「ありがとう、キュウ」
主人が笑みを見せて、キュウも思わず嬉しくなる。
主人、ピアノ、セフェール、リースロッテ、キュウの五人は、朝食を宿の食堂でとっていた。他の従者は一足先に【拠点】へ戻って準備をしているらしい。
食事一つでびくびくしていた数ヶ月前が懐かしいと思えるくらいには、キュウもこの状況に慣れてしまった。寝ぼけているのか、スプーンを使ったと思ったら口からスープを零しているリースロッテに驚いて、セフェールがタオルで彼女の口許や服を拭いている。
ピアノは虚空を睨め付けるように見ていて、穏やかな主人の友人というイメージとは違う、真剣な一面を発見できた。
キュウはと言うと、主人と朝の会話をしながら食事をしている。
「キュウは家にあると嬉しい施設、内装とか庭とかはあるか?」
これまでであれば「ご主人様の嬉しいものが私の嬉しいものです」と答えたけれど、主人の質問の主旨がそこに無いことくらい、キュウにも分かるようになった。
「私は、その、料理が練習できる台所があったら、嬉しいです」
「つうが使ってるシステムキッチンがあるが、専用のがあったほうが面倒がないな」
「あ、あの、私は、別に」
専用という言葉を聞いて、キュウのためだけに台所が用意されてしまいそうで、焦って主人を止める。台所ならどこの家にもあるはずなので、料理の練習に使わせて欲しいという意味だった。
「遠慮しなくていいんだぞ。外装内装や装飾品なんかも課金アイテムで売る程あるし、【拠点】のレベルにも余裕があるから施設を好きなだけ拡張できる」
「ご、ご主人様、その、家を建て替えるのですか?」
「あ、ああぁ。そうじゃない。なんていうか、そう、神の力で、内装や外装を自由に入れ替えができるんだ。家具や間取りなんかも、自由自在にできるぞ」
大した驚きはない。あの大空を覆い隠してしまった『浮遊大陸』に比べれば、家の一軒を自在に操作することなんて小さいことだと思ってしまった。キュウは自分の価値観が、主人に塗り替えられていることに気付く。嫌ではない。
「私は雨風のしのげる部屋があれば、それで十分です」
「キュウは【拠点】に帰るまでに、理想の部屋を俺に教えろ。できなかったら、俺が考え得る限りの最高の部屋がキュウの自室になるぞ」
「………が、がが、頑張ります」
半ば本気で思ったことを口にしたけれど、主人はお気に召さなかったようで、主人から脅されてしまった。笑っていたので冗談だと思っていたのに、冗談ではなく本当に最高の部屋になるとは思わなかった。
大きな城を爆砕する魔術、超高速で大空を飛び回る天烏、見たこともないほどに凶悪な魔物が生息する孤島、主人と同レベルだというピアノという綺麗な女性、山のように巨大な黄金の竜、大地を抉ってしまう天災とも見紛う竜の吐息、そしてそれを圧倒した主人、さすがにこれ以上驚くことはないかと思っていたのに。
キュウ個人としては最大の関心事であった主人の従者アルティマとの出会いをしたと思ったら、エンシェントとセフェールという格別の信頼を得ているらしい二人の従者と出会った。みんな美人で可愛くて強くて頭も良くて自信に満ちあふれていた。
そんな時、“現実”は自分が現実であることを忘れて、大地を空へ浮かべてしまった。
主人が言っていた『浮遊大陸』だ。言っていたのと違うのは、アクロシアの上空に悠然と現れた大地は、キュウの主人が持ってきた物らしいという点だった。
本当に大地が空に浮いていることに驚けば良いのか、動いていることに驚けば良いのか、アクロシアの頭上にあることに驚けば良いのか、主人が操っていることに驚けば良いのか、そんな物語の登場人物のような人の元に居る自分に驚けば良いのか。
そして謎の声を聞いた。
謎の声に導かれるまま、キュウは剣を取って人を殺した。人を殺したことが怖くて、そんなことさえ上手くできない自分が情けなかった。主人の従者たちが戻って来て、キュウの居場所がなくなることが嫌だった。
いや、そのどれもが、本当は違う。
謎の声は怖かったけれど、自分よりも強い人なんて当たり前だ。人を殺したのは衝撃だったけど、主人に買われた時から覚悟はしていた。自分が情けないのは、家族に捨てられた時から自覚している。居場所がなくなるのが怖いのは、本音だけど。
だからキュウの、本当は―――。
> あっさだよー
キュウは誰かに起こされた気がして、勢い良く目を開ける。
キュウがいつもの宿のベッドで目を覚ますと、隣のベッドでリースロッテが寝息を立てていた。いつもの癖で目を覚まして最初に隣のベッドを確認するのだが、今日はいつもの光景がなかったことに寂しさと安堵を感じる。
昨日のことを思うと、主人が居たら布団にくるまって身もだえしたことだろう。実を言うと、あのまま主人に抱かれるのかと思ったからだ。
部屋の片隅から紙を捲る音がしたので視線を向けると、セフェールが窓から入る朝日を光源にして読書をしていた。
「おはようございますぅ」
「お、おはようございます。その、早い、ですね」
キュウを起こしたのはセフェールなのか聞こうとして、聞くのを止めた。もし起こすのであればリースロッテも一緒に起こすだろう。
「ええぇ、本の続きが気になってぇ、早く目が覚めてしまいましたぁ」
アクロシアでの書物の値段はそこそこ値が張るものの、庶民に手が届かないほどではない。それこそ主人と一緒に暮らすようになったキュウであれば、毎日一冊ずつ買ってもお金に余裕がある程度の値段である。
奴隷として売られるほどに貧窮していた頃を考えれば、有り得ないほどの金銭感覚。キュウも最初は遠慮してお金を使うのを控えていた。しかしあの生きる世界が違う主人に近づこうと思えば、知識や自己研鑽に対してお金を渋るという選択肢はないと教えて貰った今では、図書館や本屋へ頻繁に足を運んでいる。
「何を読んでるのでしょうか? もしよろしければ私も」
主人の信頼する従者が読む本が気になる。読めそうであれば自分にも貸して貰いたい。
「恋愛小説ですよぉ」
「………れ、恋愛小説ですか?」
キュウでは解読できないような学術書を読んでいるのかと思えば、キュウも好きなジャンルの本だった。キュウが住んでいた里には大勢が集まれる場所があり、そこの本棚にあったものをよく読んでいた。
「ええ、面白いですよぉ。いやぁいつの時代、どんな場所でも恋愛は良いですねぇ。そういえばぁ、荷物に本がいっぱいありましたけどぉ、キュウはどんな本を読んでるんですかぁ?」
「えっと、大陸の歴史とか、文化の在り方とか、各地の伝承とか………」
「………それ面白いんですかぁ?」
「あ、あの、ご主人様に、この大陸の、常識のフォローをするように言われて」
「そう言われて、懸命に勉強しているんですかぁ? キュウは良い子ですねぇ」
「そ、そんなことないです」
良い子、なんてことは有り得ない。キュウは勉強が好きでは無かったし、今でも別に好きではない。キュウが学習しているのは、ただただ主人に褒められたいからであって、捨てられたくないからで、“良い子”であることとは掛け離れた理由だ。
「ところで今日は、引っ越しの準備ということでしたがぁ、どうしますかぁ?」
「あの『浮遊大陸』という場所には、お店が無いって言ってましたけど」
「店というかぁ。私たちしか住んでないんですよぉ」
「え? でも、王様だって」
「ああ、あれはぁ、事実をねじ曲げたというかぁ、脚色して話がスムーズに進むようにしただけですよぉ」
「じゃあ、ご主人様は王様じゃないんですね」
少しだけ安心した。ラナリアとは友達になれたけれど、キュウにとって王侯貴族というのは恐れ多い存在だ。
「王ではないですがぁ、まあ、それ以上なんじゃないですかねぇ? あれ、動かせるようになったみたいですしぃ?」
セフェールの立てた指先にあるのは、空だ。
「………ご主人様は、その、凄いです」
「あはははぁ」
セフェールは笑ってキュウの頭を撫でてくれる。
セフェールがリースロッテを起こすと、不機嫌なのかそうでないのか抑揚のない口調と呆けているような表情で朝の挨拶をされたので、お辞儀して挨拶を返した。リースロッテはセフェールにされるがままに、青空のような髪の毛を結って貰っている。
「キュウ、隣のフォルさんたちの様子を見て来て貰えますかぁ?」
「はい」
部屋を出て、隣のドアに立つ。ノックをしようとして、昨日のことを思い出して腕を下げる。何度も深呼吸をしてから、遠慮がちにノックをした。
「ご主人様」
「キュウか、入ってくれ」
主人とピアノが会合に使っていたのは、キュウたちが宿泊している三人部屋よりもかなり小さな部屋だった。ベッドは一つしかないようで、その他のスペースも手狭なため一人部屋だと思われる。
主人がピアノと話をするために一晩だけ借りた部屋は、ベッドが端に追いやられ、中央のテーブルに白い紙が広げられて付箋がぺたぺたと貼り付けられていた。付箋にはエルフ、森、湖、鉄火場、畑、儀式場、教会、リサイクル、ランダム、ゴーレムなど、脈絡のない単語が書かれている。
そのテーブルを囲むようにして左右に椅子が置かれており、それぞれ主人とピアノが腰掛けていた。
「どうかしたか?」
「あの、朝なので」
「もうそんな時間だったか」
「フォルティシモ、残りは後日にしよう」
「そうだな」
主人とピアノの会話を耳にしても、何のことか分からず首を傾げることしかできない。
「ああ、あとで詳しく報告はするつもりだが」
主人が少し嬉しそうなので、安心して頷く。
「ピアノとチームを組んだ」
「チームというのは、パーティとは違うのでしょうか」
「………違うんだ。なんというか、パーティよりも大きな単位だ」
「フォルティシモお前、それで説明してるつもりか」
ピアノの呆れた声が聞こえた。チームというのが何かは分からないけれど、主人にとってピアノとチームを結成することは、嬉しいことに分類されるのだけは分かるので。
「おめでとうございます」
「ありがとう、キュウ」
主人が笑みを見せて、キュウも思わず嬉しくなる。
主人、ピアノ、セフェール、リースロッテ、キュウの五人は、朝食を宿の食堂でとっていた。他の従者は一足先に【拠点】へ戻って準備をしているらしい。
食事一つでびくびくしていた数ヶ月前が懐かしいと思えるくらいには、キュウもこの状況に慣れてしまった。寝ぼけているのか、スプーンを使ったと思ったら口からスープを零しているリースロッテに驚いて、セフェールがタオルで彼女の口許や服を拭いている。
ピアノは虚空を睨め付けるように見ていて、穏やかな主人の友人というイメージとは違う、真剣な一面を発見できた。
キュウはと言うと、主人と朝の会話をしながら食事をしている。
「キュウは家にあると嬉しい施設、内装とか庭とかはあるか?」
これまでであれば「ご主人様の嬉しいものが私の嬉しいものです」と答えたけれど、主人の質問の主旨がそこに無いことくらい、キュウにも分かるようになった。
「私は、その、料理が練習できる台所があったら、嬉しいです」
「つうが使ってるシステムキッチンがあるが、専用のがあったほうが面倒がないな」
「あ、あの、私は、別に」
専用という言葉を聞いて、キュウのためだけに台所が用意されてしまいそうで、焦って主人を止める。台所ならどこの家にもあるはずなので、料理の練習に使わせて欲しいという意味だった。
「遠慮しなくていいんだぞ。外装内装や装飾品なんかも課金アイテムで売る程あるし、【拠点】のレベルにも余裕があるから施設を好きなだけ拡張できる」
「ご、ご主人様、その、家を建て替えるのですか?」
「あ、ああぁ。そうじゃない。なんていうか、そう、神の力で、内装や外装を自由に入れ替えができるんだ。家具や間取りなんかも、自由自在にできるぞ」
大した驚きはない。あの大空を覆い隠してしまった『浮遊大陸』に比べれば、家の一軒を自在に操作することなんて小さいことだと思ってしまった。キュウは自分の価値観が、主人に塗り替えられていることに気付く。嫌ではない。
「私は雨風のしのげる部屋があれば、それで十分です」
「キュウは【拠点】に帰るまでに、理想の部屋を俺に教えろ。できなかったら、俺が考え得る限りの最高の部屋がキュウの自室になるぞ」
「………が、がが、頑張ります」
半ば本気で思ったことを口にしたけれど、主人はお気に召さなかったようで、主人から脅されてしまった。笑っていたので冗談だと思っていたのに、冗談ではなく本当に最高の部屋になるとは思わなかった。
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