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第二章
第五十七話 望まれた最強
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フォルティシモが天烏に乗って青白い光の渦を抜けた先、そこには黄金の空があった。太陽の光とはまったく別の光が空を染め上げている。それはまるで黄金色のマジックアワーで時間が止まったかのようだった。
黄金色の空は写真やゲーム内で何度も見た経験はある。しかしリアルで見るのが初めてだったフォルティシモは、美しさよりも不気味さを感じてしまう。その原因を知っているから尚更だ。
黄金色の空には悠然と飛翔する物体が在った。光はその物体から放たれており、遠くからでもその物体の巨大さが良く分かる。アクロシア王城を上回る大きさのそれは、三対の翼を広げ天烏のように翼から眩しいほどの光エフェクトを放出し、ゆっくりとその巨体を宙に浮かべている黄金のドラゴンだった。
そして空に浮かび傷付き頭から血を流しているピアノ、力尽きたのか地面に膝を突いているフレア、名前はもれなく全員忘れたがピアノのパーティメンバーや大勢のエルフや兵士たちは、誰一人二本の足で立っていなかった。
黄金のドラゴン、最果ての黄金竜は突如として空に現れたフォルティシモに警戒をしている様子を見せた。フォルティシモの出現した場所からほんの僅かだが後退している上、攻撃を仕掛けることなくこちらの動きを観察している。
ファーアースオンラインでは高度なAIを売りにしているとは言え、レイドボスはプレイヤーを抹殺するのが役割だ。その役割に忠実に行動するため、ほとんどは見つかった瞬間に襲ってくる。そのため静かに観察するという行動は、最果ての黄金竜の行動AIがファーアースオンラインの頃から変わっているという意味だ。
「化け、物」
「なん、ですか、あれは………っ」
「みんながっ!」
キュウとラナリア、シャルロットは、翼や尻尾まで含めれば数百メートルはあろうかという巨体を持つ最果ての黄金竜を見て、開いた口が塞がらないと言った様子だった。
エルミアだけは地上に倒れているエルフたちを見下ろして叫んでいた。
状況を確認するまでもなく、最果ての黄金竜と戦ったピアノのHPが危険域に達して、フォルティシモに救援要請の機能で助けを求めたのは分かっている。
エルミアが逃げる時間を稼いだエルフたちが居ることや、トーラスブルスの兵士たちが一緒なのは、どうでも良いことだ。石作りの建造物が壊れている点も知ったことではない。
重要なのは、目の前で友人が苦しんでいて、フォルティシモに助けを求めている。
フォルティシモはそれを見て、冷静になっていく自分に気が付く。
利用されるのは嫌いだ。しかしそれが友人の頼み、それも危機であるならば話は変わる。
キュウを襲われた時のような、何が何でもぶち殺してやるという殺意は湧いてこないものの、冷たい闘志が溢れ出して仕方がない。
「キュウ、ラナリア、シャルロット。俺はあれを倒すから、天烏から降りるなよ」
「ご主人様………」
キュウの心配したような声を聞いて、フォルティシモは尊大にふんぞり返ってみせた。最強の神になろうとしているのに、たかがレイドボスに苦戦してなどいられない。まして非常に好みな可愛い女の子に心配させるような顔をさせるなど、フォルティシモの目指す最強とは掛け離れている。
フォルティシモはキュウに視線を合わせた。当然、フォルティシモがキュウへ掛ける言葉は決まっている。
「安心しろ。俺が竜ごときに負けると思ったか?」
「いえ、思っておりません。ご主人様、お願いいたします」
キュウも、あの時と同じように返してくれた。フォルティシモが思わず嬉しくなって、キュウを抱き締める。抱き締めながらキュウの尻尾を撫で回す。
「ご、ご主人様!?」
「すぐに終わらせるから待ってろ」
「は、はいっ」
フォルティシモとキュウの遣り取りを見ていたラナリアが顎に手を当てて、表情は笑顔のまま不満そうに口を尖らせている。
「フォルティシモ様、私には何かないのでしょうか? キュウさんと同じように抱き締めて頂けるだけでも感動しますよ?」
「本当に望んでるならもっとそれらしい態度を見せろ」
「難しいですね。フォルティシモ様の前だと、私も恥ずかしくて素直になれません」
「本当に、倒せるのよね?」
続いてエルミアが不安そうな声音で尋ねて来た。
「答えた通りだ」
「そ、そうだっ! 私もこれで援護するわ!」
エルミアが取り出したのは、手の平で掴めるくらいの大きさの木彫り人形だった。それは余りにも強すぎた最果ての黄金竜を弱体化させるためのアイテムで、最果ての黄金竜をレイドボスと戦うための専用空間に隔離する。
そこはファーアースとは別の世界であり、星の加護を受けている最果ての黄金竜は加護を受けられないという設定だった。また専用空間には様々なギミックがあり、それを利用すれば低レベルでも良い戦いが可能というものだ。
低レベルクリアには興味が湧かなかったので、詳しくは知らない。
「その人形、一度使っただろ?」
「え? ええ、そうだけど………どうして分かるのよ?」
「人形の目が開いてる。もう使えない」
エルミアはそんなことはないと否定して、木彫り人形を空へ掲げて使おうと試みる。しかし何も起きないことが分かると、悔しそうに何度も何度も人形を確認していた。
「私が、使っちゃった、から?」
「気にするな。必要ない」
「で、でもっ」
フォルティシモは元々弱体化アイテムに頼るつもりはなかったので気にもならず、ピアノへ視線を向け、音声チャットを繋げる。
「おいピアノ」
『ああ、悪いな。自分から協力しないって言っておいて、このザマだ』
音声チャットから聞こえる声に覇気はなく、疲れとは違った意味で彼女の状態が悪いのだと理解できた。強がって苦笑しているような気配も伝わって来る。
「あれソロはキツいだろ」
『まあな』
「俺なら倒せる」
『ああ。けど、気を付けてくれ。こいつファーアースオンラインの時より強い』
ピアノが逃走さえできずにここまで追い詰められたのだから、その強さは推して量れる。
ピアノは装備アイテムを始めとして課金要素を除けば、基礎ステータスはフォルティシモとほとんど変わらない。【覚醒】段階も同じだ。
それでもフォルティシモに焦りはない。
だってフォルティシモはソロ限定バランスブレイカーの【魔王】で、何より廃課金なのだから、基礎ステータスが同じでも実際の戦闘能力は大幅に上である。
「そうか」
『だから―――楽勝で倒して見せろよ、“最強”』
友人の激励を受けたフォルティシモは頬を緩める。
この異世界ファーアースに来て、ここまで強い敵と戦うのは初めてだ。しかし恐怖は感じない。
少女たちから送り出され、友人に頼られた戦い。
最強の力を振るうに相応しい戦場だ。
フォルティシモはインベントリから魔王剣を取り出して手に取った。真っ黒な刀身を持った片手直剣。
動画や掲示板で晒され、狩り場で罵倒され、PKをし返しながらも、ボスを独占し続けて作り上げた最強の攻撃力を持つ剣に、ガチャ産武器のレア効果を限界まで凸して合成させた、もう一つの廃神器。
天烏の背中を蹴って、黄金の空へ。
【飛翔】を使って空中に静止したフォルティシモは、設定されているバフを使い、ステータスを底上げし、最善の状態を作り上げる。
そして最果ての黄金竜へ向かって飛ぶ。
最果ての黄金竜はフォルティシモを待ち構えている。
この場で誰が最も強いのか。
この世で最強なのは誰か。
「恨むなら、この最強のフォルティシモの“前”に立ち塞がったことを恨め」
> 【最果ての黄金竜】との戦闘が開始されました
黄金色の空は写真やゲーム内で何度も見た経験はある。しかしリアルで見るのが初めてだったフォルティシモは、美しさよりも不気味さを感じてしまう。その原因を知っているから尚更だ。
黄金色の空には悠然と飛翔する物体が在った。光はその物体から放たれており、遠くからでもその物体の巨大さが良く分かる。アクロシア王城を上回る大きさのそれは、三対の翼を広げ天烏のように翼から眩しいほどの光エフェクトを放出し、ゆっくりとその巨体を宙に浮かべている黄金のドラゴンだった。
そして空に浮かび傷付き頭から血を流しているピアノ、力尽きたのか地面に膝を突いているフレア、名前はもれなく全員忘れたがピアノのパーティメンバーや大勢のエルフや兵士たちは、誰一人二本の足で立っていなかった。
黄金のドラゴン、最果ての黄金竜は突如として空に現れたフォルティシモに警戒をしている様子を見せた。フォルティシモの出現した場所からほんの僅かだが後退している上、攻撃を仕掛けることなくこちらの動きを観察している。
ファーアースオンラインでは高度なAIを売りにしているとは言え、レイドボスはプレイヤーを抹殺するのが役割だ。その役割に忠実に行動するため、ほとんどは見つかった瞬間に襲ってくる。そのため静かに観察するという行動は、最果ての黄金竜の行動AIがファーアースオンラインの頃から変わっているという意味だ。
「化け、物」
「なん、ですか、あれは………っ」
「みんながっ!」
キュウとラナリア、シャルロットは、翼や尻尾まで含めれば数百メートルはあろうかという巨体を持つ最果ての黄金竜を見て、開いた口が塞がらないと言った様子だった。
エルミアだけは地上に倒れているエルフたちを見下ろして叫んでいた。
状況を確認するまでもなく、最果ての黄金竜と戦ったピアノのHPが危険域に達して、フォルティシモに救援要請の機能で助けを求めたのは分かっている。
エルミアが逃げる時間を稼いだエルフたちが居ることや、トーラスブルスの兵士たちが一緒なのは、どうでも良いことだ。石作りの建造物が壊れている点も知ったことではない。
重要なのは、目の前で友人が苦しんでいて、フォルティシモに助けを求めている。
フォルティシモはそれを見て、冷静になっていく自分に気が付く。
利用されるのは嫌いだ。しかしそれが友人の頼み、それも危機であるならば話は変わる。
キュウを襲われた時のような、何が何でもぶち殺してやるという殺意は湧いてこないものの、冷たい闘志が溢れ出して仕方がない。
「キュウ、ラナリア、シャルロット。俺はあれを倒すから、天烏から降りるなよ」
「ご主人様………」
キュウの心配したような声を聞いて、フォルティシモは尊大にふんぞり返ってみせた。最強の神になろうとしているのに、たかがレイドボスに苦戦してなどいられない。まして非常に好みな可愛い女の子に心配させるような顔をさせるなど、フォルティシモの目指す最強とは掛け離れている。
フォルティシモはキュウに視線を合わせた。当然、フォルティシモがキュウへ掛ける言葉は決まっている。
「安心しろ。俺が竜ごときに負けると思ったか?」
「いえ、思っておりません。ご主人様、お願いいたします」
キュウも、あの時と同じように返してくれた。フォルティシモが思わず嬉しくなって、キュウを抱き締める。抱き締めながらキュウの尻尾を撫で回す。
「ご、ご主人様!?」
「すぐに終わらせるから待ってろ」
「は、はいっ」
フォルティシモとキュウの遣り取りを見ていたラナリアが顎に手を当てて、表情は笑顔のまま不満そうに口を尖らせている。
「フォルティシモ様、私には何かないのでしょうか? キュウさんと同じように抱き締めて頂けるだけでも感動しますよ?」
「本当に望んでるならもっとそれらしい態度を見せろ」
「難しいですね。フォルティシモ様の前だと、私も恥ずかしくて素直になれません」
「本当に、倒せるのよね?」
続いてエルミアが不安そうな声音で尋ねて来た。
「答えた通りだ」
「そ、そうだっ! 私もこれで援護するわ!」
エルミアが取り出したのは、手の平で掴めるくらいの大きさの木彫り人形だった。それは余りにも強すぎた最果ての黄金竜を弱体化させるためのアイテムで、最果ての黄金竜をレイドボスと戦うための専用空間に隔離する。
そこはファーアースとは別の世界であり、星の加護を受けている最果ての黄金竜は加護を受けられないという設定だった。また専用空間には様々なギミックがあり、それを利用すれば低レベルでも良い戦いが可能というものだ。
低レベルクリアには興味が湧かなかったので、詳しくは知らない。
「その人形、一度使っただろ?」
「え? ええ、そうだけど………どうして分かるのよ?」
「人形の目が開いてる。もう使えない」
エルミアはそんなことはないと否定して、木彫り人形を空へ掲げて使おうと試みる。しかし何も起きないことが分かると、悔しそうに何度も何度も人形を確認していた。
「私が、使っちゃった、から?」
「気にするな。必要ない」
「で、でもっ」
フォルティシモは元々弱体化アイテムに頼るつもりはなかったので気にもならず、ピアノへ視線を向け、音声チャットを繋げる。
「おいピアノ」
『ああ、悪いな。自分から協力しないって言っておいて、このザマだ』
音声チャットから聞こえる声に覇気はなく、疲れとは違った意味で彼女の状態が悪いのだと理解できた。強がって苦笑しているような気配も伝わって来る。
「あれソロはキツいだろ」
『まあな』
「俺なら倒せる」
『ああ。けど、気を付けてくれ。こいつファーアースオンラインの時より強い』
ピアノが逃走さえできずにここまで追い詰められたのだから、その強さは推して量れる。
ピアノは装備アイテムを始めとして課金要素を除けば、基礎ステータスはフォルティシモとほとんど変わらない。【覚醒】段階も同じだ。
それでもフォルティシモに焦りはない。
だってフォルティシモはソロ限定バランスブレイカーの【魔王】で、何より廃課金なのだから、基礎ステータスが同じでも実際の戦闘能力は大幅に上である。
「そうか」
『だから―――楽勝で倒して見せろよ、“最強”』
友人の激励を受けたフォルティシモは頬を緩める。
この異世界ファーアースに来て、ここまで強い敵と戦うのは初めてだ。しかし恐怖は感じない。
少女たちから送り出され、友人に頼られた戦い。
最強の力を振るうに相応しい戦場だ。
フォルティシモはインベントリから魔王剣を取り出して手に取った。真っ黒な刀身を持った片手直剣。
動画や掲示板で晒され、狩り場で罵倒され、PKをし返しながらも、ボスを独占し続けて作り上げた最強の攻撃力を持つ剣に、ガチャ産武器のレア効果を限界まで凸して合成させた、もう一つの廃神器。
天烏の背中を蹴って、黄金の空へ。
【飛翔】を使って空中に静止したフォルティシモは、設定されているバフを使い、ステータスを底上げし、最善の状態を作り上げる。
そして最果ての黄金竜へ向かって飛ぶ。
最果ての黄金竜はフォルティシモを待ち構えている。
この場で誰が最も強いのか。
この世で最強なのは誰か。
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> 【最果ての黄金竜】との戦闘が開始されました
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