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希望と絶望
バグベアー
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流れが緩やかになった、幅のない小川だ。
どれくらい流された?
キルロは途切れそうな意識をなんとか繋ぐ。
岸に向けて右手を伸ばすと、小さい突起に手がかかった。
最後の力を振り絞り岸の上へ体を投げだすと、仰向けに体を投げ出し天井を仰いだ。
キラキラとたくさんの光りの粒が弱い光りを放っている。
右手を伸ばすとすぐに岩壁に阻まれた。
随分と狭いな。
自分の吐く息と水のせせらぎだけが響く。
岩壁の光る粒を指で擦るとポロッと簡単に取れた、爪ほどの鉱石だ。
なんとなくポケットにねじ込む。
そういえばここには、まとわりつく不快感がないな。
不思議だ。
この鉱石も光りが届かないのになんで光るんだ?
あぁ、マッシュが持っていたやつか、いやあれ液体か、まぁいいか……。
体中が痛みに包まれ熱さを感じるが、悪寒が走り身震いもする。
体を動かす気力も沈黙し、ただただ意識だけがフワフワと漂う。
思考がまとまらない。
モンスターの気配もない………。
目を閉じるとそのまま意識が深淵へと落ちて行った。
この二人はまだ諦めてないんだ。
キノとクエイサーの背を見つめ、二人の意志に鼓舞された。
目を閉じ逡巡する思考を止める。シンプルに行こう。
目を見開き向かってくる異形のモンスターへ力を込め睨む。
まずアイツを仕留める。
「クエイサー」
「グラバー」
小声で声を掛けハンドサインを送る。
(キノ、右側からわかる?)と囁く。
背を向けていたキノが振り返り視線を合わせた。
「行くよ」
小声で声を掛けると同時に立ちあがり、弓を構える。
「ゴー!」
掛け声と共に懇親の一矢を放つ、不安も一緒に放ってしまえ。
キノを目が潰され死角になっている右側、経験値の高いクエイサーは左側へ展開していく。
ゆっくりと近づくバグベアーに二人は疾走する。キノは音も無く鋭い速さを見せ、クエイサーは駿足を見せた。バグベアーとの距離が一気に縮まっていく。
矢を受けたバグベアーが吼える。
片目は血走り。
よだれを垂らし。
醜悪さをばら撒きながら、怒りの本能のままにこちらに駆け出す。
千切れた左手の付け根からは血が滴り落ち毛に貼りついた血が乾き赤黒く左半身を染めていた。
耳をつんざく咆哮に体中の肌が振動する。
気圧されるな、自らを保て。
バグベアーの視界がハルヲを捉え、左腕の血が吹き出ようとお構いなしに一直線に向かってくる。
動かない左足で立ち回りは無駄だ。ハルヲは立ち尽くし、矢を放ち続けた。
いくつもの矢がバグベアーを捉える。嫌がるバグベアーは右手で飛んでくる矢を払い続け、いくつもの矢が右手に刺さって行く。だが、そんなものは致命的なダメージにはならない。
突進の勢いは止まらず咆哮を上げ、血を滴らせ真っ直ぐに突っ込んでくる。
体中を突き抜ける咆哮と視界の先に大きくなっていくその異形の姿から決して視線を外さない。
距離は数Mi、弓を捨て剣に持ち替える。
来い! と挑発を続けた。
咆哮を放つ長い影がハルヲに掛かる。バグベアーの圧が襲う。
剣を握る手に自然と力がこもり心音の高鳴りがピークを向かえた。
もう少し……。
今!
剣から手を放し二本指でバグベアーを指す。
「行け!」
キノがバグベアーの死角から頭へ素早くよじ登ると突き刺さっている左目の投げナイフを咥え、口元まで勢い良く一気に引き裂いた。バグベアーの左目から口にかけて血飛沫をあげ、裂けていくと悲鳴のような咆哮を上げる。
右の肩口からクエイサーが牙を剥きながら飛びついた。その牙が、バグベアーの喉元に食らいつく。
牙に驚くバグベアーは突進を止め咆哮を上げた。
その瞬間、グラバーが後ろから猛然と突進する。
バグベアーの背中へ全体重を叩きつけると、その衝撃に耐えられず激しい土埃を上げうつ伏せに倒れこんだ。
立ち込める土煙の中、ハルヲの足元に倒れ込んだバグベアーの頭が転がる。
その頭部へ。
絶望の象徴へ。
剣を突き立て自らを奮い立たせた。
突き刺した剣をさらに押し込む、脳の中心まで間違いなく捉えた。
目を閉じ、口元からだらしなく舌を出したまま動かない。
骸と化したバグベアーを見つめ安堵と疲労の溜め息を吐いた。
終わった。
ここまで連戦し過ぎている。
とりあえずここで補給と休息を取ろう。
キノがソワソワしているが、ここでの休息は必要だ。
このまま進んでもスピードと集中力の低下は間違いない。
共倒れしない為にもここで人心地つける。
陽光が弱く時間の感覚が分からない。
痛む足を投げ出し、強引に休息を取る。
自分の分が終わると皆の様子を伺い、必要な補給を素早く与えた。
まだ大丈夫、皆にも自分にも言い聞かせる。
「行くよ!」
鼓舞する。パーティーを。自分自身を。
痛みも疲労も関係ない。
瞳に力を宿せ。
痛む足を引きずろうが、地を踏みしめて進もう。
皆を鼓舞し、自分を鼓舞し前へ前へと。
匂いを追うマイキーを先頭に岩壁に沿って進んでいった。
匂いの跡は続いている。
この先に、もう少し進めば、折れそうな自身に言い聞かせた。
ゴールの見えない行軍が続く。
水音が聞こえてきた。マイキーが真っ直ぐに音の出所へと向かう。
小川?
こんな所に? 川幅も深さもそれほどでは無い、中心部から岩壁、外へ向かって緩やかに流れていた。
不快な空気が覆う地でありながら、川の水は恐ろしいほど澄んでいる。
マイキーの動きが止まった。
フゴフゴとせわしなく周辺を嗅ぎ回るがどうやらここで途切れたらしい。
ハルヲは苦い顔をする。
姿がないって事は動いていた? 動いている?
可能性を示唆するがアイツの痕跡は途絶えてしまった。
川に落ちた……。
探索する方向について立ち止まって思案を重ねる。
もう少し川幅があれば流されたと考えられるが、この幅だと言い切れない。
向こう岸に渡る事に寄ってバグベアーを振り切った? イヤ、人が渡れるくらいなのだからバグベアーが渡れないって事はないだろう……。
キノがフラッと岩壁の方へと向かった、水流が岩壁の中へと吸い込まれている。
吸い込まれている先を覗きこみ岩壁の中を覗いてみると大人二人が歩けそうな空間が外へ向かって続いていた。
後ろでチャポンという音が聞こえると水中を進むキノの姿が視界に入る。
岩壁の中まで進むと岸に上がりハルヲに振り向いた。
「来いって事?」
“グラバー”と呼ぶとバックパックを外したアントンを背に乗せ岩壁の中を指差した。
岸に近づくとアントンはピョンと跳ね一足先に岸へたどり着く。
マイキーとクエイサーも続き、最後にバックパックを背負ったハルヲが中へと向かった。
クエイサー達がブルブルと震わせ水を弾く。準備を整え、先へと進んだ。
光は届かなくなり真っ暗になるはずなのにキラキラと何かが微かに光り、空間をぼんやりと照らし出している。
空気の重い感じがない? 薄れている?
この雰囲気、あそこに似ている……。
!!
倒れているヤツがいる!
痛む足を必死に動かす。あのゴーグルは間違いない。
「あのバカっ!」
言葉と笑みが口元からこぼれる。
でも、動いてない? まさか?!
駆け寄り呼吸を確認した。上下する胸の動きに安堵の波が押し寄せる。
“良かった、良かった”と何度も口元からこぼし、倒れているキルロの頭を抱えこんだ。
「動くな」
静かに少しくぐもった女の声が、へたり込んでいるハルヲの背後から聞こえる。その瞬間首元に冷たい金属の感触。
どういう事??
クエスト受注者?
でもなんで脅す?
「あなたクエスト受注者?」
「はぁ?! 半端者何言っている」
『半端者』とハーフの蔑称をダルそうに答えた。
状況が飲み込めない。
刃を添えられた首は動かさず、横目で見上げるがフードを被り、鼻先までマスクで覆われて目元しか見えない。
獣人?
女はパーティーを一瞥すると“チッ!”と小さく舌打ちした。
どれくらい流された?
キルロは途切れそうな意識をなんとか繋ぐ。
岸に向けて右手を伸ばすと、小さい突起に手がかかった。
最後の力を振り絞り岸の上へ体を投げだすと、仰向けに体を投げ出し天井を仰いだ。
キラキラとたくさんの光りの粒が弱い光りを放っている。
右手を伸ばすとすぐに岩壁に阻まれた。
随分と狭いな。
自分の吐く息と水のせせらぎだけが響く。
岩壁の光る粒を指で擦るとポロッと簡単に取れた、爪ほどの鉱石だ。
なんとなくポケットにねじ込む。
そういえばここには、まとわりつく不快感がないな。
不思議だ。
この鉱石も光りが届かないのになんで光るんだ?
あぁ、マッシュが持っていたやつか、いやあれ液体か、まぁいいか……。
体中が痛みに包まれ熱さを感じるが、悪寒が走り身震いもする。
体を動かす気力も沈黙し、ただただ意識だけがフワフワと漂う。
思考がまとまらない。
モンスターの気配もない………。
目を閉じるとそのまま意識が深淵へと落ちて行った。
この二人はまだ諦めてないんだ。
キノとクエイサーの背を見つめ、二人の意志に鼓舞された。
目を閉じ逡巡する思考を止める。シンプルに行こう。
目を見開き向かってくる異形のモンスターへ力を込め睨む。
まずアイツを仕留める。
「クエイサー」
「グラバー」
小声で声を掛けハンドサインを送る。
(キノ、右側からわかる?)と囁く。
背を向けていたキノが振り返り視線を合わせた。
「行くよ」
小声で声を掛けると同時に立ちあがり、弓を構える。
「ゴー!」
掛け声と共に懇親の一矢を放つ、不安も一緒に放ってしまえ。
キノを目が潰され死角になっている右側、経験値の高いクエイサーは左側へ展開していく。
ゆっくりと近づくバグベアーに二人は疾走する。キノは音も無く鋭い速さを見せ、クエイサーは駿足を見せた。バグベアーとの距離が一気に縮まっていく。
矢を受けたバグベアーが吼える。
片目は血走り。
よだれを垂らし。
醜悪さをばら撒きながら、怒りの本能のままにこちらに駆け出す。
千切れた左手の付け根からは血が滴り落ち毛に貼りついた血が乾き赤黒く左半身を染めていた。
耳をつんざく咆哮に体中の肌が振動する。
気圧されるな、自らを保て。
バグベアーの視界がハルヲを捉え、左腕の血が吹き出ようとお構いなしに一直線に向かってくる。
動かない左足で立ち回りは無駄だ。ハルヲは立ち尽くし、矢を放ち続けた。
いくつもの矢がバグベアーを捉える。嫌がるバグベアーは右手で飛んでくる矢を払い続け、いくつもの矢が右手に刺さって行く。だが、そんなものは致命的なダメージにはならない。
突進の勢いは止まらず咆哮を上げ、血を滴らせ真っ直ぐに突っ込んでくる。
体中を突き抜ける咆哮と視界の先に大きくなっていくその異形の姿から決して視線を外さない。
距離は数Mi、弓を捨て剣に持ち替える。
来い! と挑発を続けた。
咆哮を放つ長い影がハルヲに掛かる。バグベアーの圧が襲う。
剣を握る手に自然と力がこもり心音の高鳴りがピークを向かえた。
もう少し……。
今!
剣から手を放し二本指でバグベアーを指す。
「行け!」
キノがバグベアーの死角から頭へ素早くよじ登ると突き刺さっている左目の投げナイフを咥え、口元まで勢い良く一気に引き裂いた。バグベアーの左目から口にかけて血飛沫をあげ、裂けていくと悲鳴のような咆哮を上げる。
右の肩口からクエイサーが牙を剥きながら飛びついた。その牙が、バグベアーの喉元に食らいつく。
牙に驚くバグベアーは突進を止め咆哮を上げた。
その瞬間、グラバーが後ろから猛然と突進する。
バグベアーの背中へ全体重を叩きつけると、その衝撃に耐えられず激しい土埃を上げうつ伏せに倒れこんだ。
立ち込める土煙の中、ハルヲの足元に倒れ込んだバグベアーの頭が転がる。
その頭部へ。
絶望の象徴へ。
剣を突き立て自らを奮い立たせた。
突き刺した剣をさらに押し込む、脳の中心まで間違いなく捉えた。
目を閉じ、口元からだらしなく舌を出したまま動かない。
骸と化したバグベアーを見つめ安堵と疲労の溜め息を吐いた。
終わった。
ここまで連戦し過ぎている。
とりあえずここで補給と休息を取ろう。
キノがソワソワしているが、ここでの休息は必要だ。
このまま進んでもスピードと集中力の低下は間違いない。
共倒れしない為にもここで人心地つける。
陽光が弱く時間の感覚が分からない。
痛む足を投げ出し、強引に休息を取る。
自分の分が終わると皆の様子を伺い、必要な補給を素早く与えた。
まだ大丈夫、皆にも自分にも言い聞かせる。
「行くよ!」
鼓舞する。パーティーを。自分自身を。
痛みも疲労も関係ない。
瞳に力を宿せ。
痛む足を引きずろうが、地を踏みしめて進もう。
皆を鼓舞し、自分を鼓舞し前へ前へと。
匂いを追うマイキーを先頭に岩壁に沿って進んでいった。
匂いの跡は続いている。
この先に、もう少し進めば、折れそうな自身に言い聞かせた。
ゴールの見えない行軍が続く。
水音が聞こえてきた。マイキーが真っ直ぐに音の出所へと向かう。
小川?
こんな所に? 川幅も深さもそれほどでは無い、中心部から岩壁、外へ向かって緩やかに流れていた。
不快な空気が覆う地でありながら、川の水は恐ろしいほど澄んでいる。
マイキーの動きが止まった。
フゴフゴとせわしなく周辺を嗅ぎ回るがどうやらここで途切れたらしい。
ハルヲは苦い顔をする。
姿がないって事は動いていた? 動いている?
可能性を示唆するがアイツの痕跡は途絶えてしまった。
川に落ちた……。
探索する方向について立ち止まって思案を重ねる。
もう少し川幅があれば流されたと考えられるが、この幅だと言い切れない。
向こう岸に渡る事に寄ってバグベアーを振り切った? イヤ、人が渡れるくらいなのだからバグベアーが渡れないって事はないだろう……。
キノがフラッと岩壁の方へと向かった、水流が岩壁の中へと吸い込まれている。
吸い込まれている先を覗きこみ岩壁の中を覗いてみると大人二人が歩けそうな空間が外へ向かって続いていた。
後ろでチャポンという音が聞こえると水中を進むキノの姿が視界に入る。
岩壁の中まで進むと岸に上がりハルヲに振り向いた。
「来いって事?」
“グラバー”と呼ぶとバックパックを外したアントンを背に乗せ岩壁の中を指差した。
岸に近づくとアントンはピョンと跳ね一足先に岸へたどり着く。
マイキーとクエイサーも続き、最後にバックパックを背負ったハルヲが中へと向かった。
クエイサー達がブルブルと震わせ水を弾く。準備を整え、先へと進んだ。
光は届かなくなり真っ暗になるはずなのにキラキラと何かが微かに光り、空間をぼんやりと照らし出している。
空気の重い感じがない? 薄れている?
この雰囲気、あそこに似ている……。
!!
倒れているヤツがいる!
痛む足を必死に動かす。あのゴーグルは間違いない。
「あのバカっ!」
言葉と笑みが口元からこぼれる。
でも、動いてない? まさか?!
駆け寄り呼吸を確認した。上下する胸の動きに安堵の波が押し寄せる。
“良かった、良かった”と何度も口元からこぼし、倒れているキルロの頭を抱えこんだ。
「動くな」
静かに少しくぐもった女の声が、へたり込んでいるハルヲの背後から聞こえる。その瞬間首元に冷たい金属の感触。
どういう事??
クエスト受注者?
でもなんで脅す?
「あなたクエスト受注者?」
「はぁ?! 半端者何言っている」
『半端者』とハーフの蔑称をダルそうに答えた。
状況が飲み込めない。
刃を添えられた首は動かさず、横目で見上げるがフードを被り、鼻先までマスクで覆われて目元しか見えない。
獣人?
女はパーティーを一瞥すると“チッ!”と小さく舌打ちした。
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