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ラーサ・ティアンの選択
ラーサの困惑、モモの思惑
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繁盛店は物を売りつくして店をしまい。やる気の無い店は時間が来たと店をしまう。
人の流れに逆行するモモが、店じまいを始める屋台を覗いて行った。
求めるのは、やる気の無い猫人。顔はうろ覚えだが、あんな独特の雰囲気を纏う猫人なんて彼女しかいない。
でも、何て声を掛ければいいのかしら?
向こうはこっちの事など、きっと知りもしない。ここは力技の店長をお手本にして、押しの一手かしら。
まぁ、のんびりと構えていられるほど時間も無いし、四の五の言わずに飛び込むしか無いわね。
店じまいを始めているいくつかの店舗を覗いていると、すぐにその姿は目に付いた。片づけるその手つきから気怠さが伝わる。
見つけた。間違いない、彼女だ。
無表情で淡々と屋台を畳んでいる猫人に、ハルの強引さを手本にモモは飛び込んで行った。
「こんにちは。忙しいところ申し訳ないけど、ちょっといいかしら?」
「うん? 店は終わりだ。明日また来てくれよ」
「あ、いえいえ。そっちじゃないのよ、ラーサ」
いきなり自分の名を呼ばれ、怪訝な視線をモモに向けた。
「え? 誰?」
「あ、突然ごめんね。モモ・ルドヴィア、一応あなたの先輩よ」
「先輩? ルドヴィア? ああ! ルドヴィアのお嬢様か? え? 何? 意味が分からないんだけど。忙しいから、また今度にしてくれる」
意外、こっちの事を知っているなんて。
でもまあ、そうよね。何事ってなるわよね。
ラーサの反応にモモは納得して、笑みを深めて見せた。
「私の事知っているのなら、話は早⋯⋯」
「他人に興味の無い、我が道を行くお嬢様。人の事なんて、微塵も気にしない氷のような女。それが何? 笑いにでも来た? 別にいいよ、笑えば」
「あらぁ⋯⋯下級生にも伝わっていたの⋯⋯恥ずかしい!」
モモが顔を覆っていると、ラーサはその様子を冷ややかに見つめ、冷たい言葉を向けるだけだった。
「もういいかな。片づけて帰るんだ」
「いや、良くないわ。お願い、ちょっと付き合ってよ」
「え? いやだよ。何でそんな事をしなくちゃならないんだよ」
ラーサの言う事はもっとも。初対面の人間にいきなり付き合ってと言われて、ついて行く方がおかしいもの。
でも、連れて行かないと。彼女の知識と意見が、今は欲しい。友人のアイーダを含め、何人かの内科医の顔も浮かんだ。けど、診るのが動物となれば、あれやこれや言って断られるのが目に見えている。
変わり者の内科医に一縷の望みを託す。
何としても彼女を【ハルヲンテイム】に連れて行かないと⋯⋯。
「いいから、いいから。ちょっと付き合ってくれればいいだけ。助けると思って、来て、お願い! もちろん、お礼もするわ」
「本格的に意味が分かんないのだけど。【ルドヴィアホスピタル】に、連れて行く気なら行かないよ」
「え? 行かないわよ。もう移転してミドラスには無いし。あ、もしかして、病院には行きたくないとか? なら、心配しないで、病院じゃないから」
驚いた顔を見せるラーサに、モモはニコっと微笑みを見せる。
いい反応。
私の事を知っていれば不思議よね。
「なら、どこだよ?」
「う~ん、お店ね。凄くいいお店」
「いい店? 何屋?」
「何屋? 私が今働いているお店よ。怪しい店じゃないわ。あなたの力を貸して欲しいの?」
「あんた、病院で働いていないのか? 家が病院なのに??」
「あなただって、首席だったのに屋台で働いているじゃない。同じよ」
「⋯⋯同じか??」
「まぁまぁ、あなたの事が必要なのよ。人助けと思ってちょっとだけ付き合って」
「ちょ、ちょっと!」
ラーサの腕をグイっと掴み、屋台から引き剥がして行く。困惑は深いが、そこまでの抵抗を見せない様に、モモの笑みは深まる。
「いいから、いいから、ね!」
こうなってしまえば、屋台からそう遠くない【ハルヲンテイム】の前に連れ出すのは容易。ラーサは渋りながらも、モモに腕を引かれて行った。
◇◇
「うん? ここ【ルドヴィアホスピタル】じゃないか」
ラーサは病院のままの待合を見渡し、首を傾げる。
「言ったじゃない、ヴィトリアに移転したって。ここは【ハルヲンテイム】よ」
「テイム? 調教店が何で⋯⋯って、ちょっと!!」
「ほら、入って、入って。ハルさーん! 連れて来たよ!」
待っていましたとばかりに飛び出して来た小さなエルフの姿に、ラーサはまた驚いた。
「忙しいのに悪いわね。私は店長のハル。あ、えっと⋯⋯」
「ラーサよ。こちらは内科医のラーサ」
「ちょ、ちょっと」
モモはラーサの困惑など気にも留めず、グイっと背中を押した。
「ラーサ、宜しくね。こっちよ」
「何、何、ちょっと!!」
今度はハルがラーサの腕を掴んだ。
ドワーフの力に引きずられ、なすがままのラーサ。抵抗を試みたところで、力で敵うはずも無く、あっさりと処置室の前へと辿り着いた。
「ごめん、私達ではどうしていいか分からなくて、ラーサ、あなたに診て貰いたいの」
ハルの懇願と共に開け放った扉の向こうで、うずくまる中型犬ミドシュパード。
ラーサは三度困惑を見せる。
「犬じゃん! 診れるかよ」
ポンと後ろから肩に置かれた手。モモはラーサの困惑を理解し、笑みを向けた。
「大丈夫。人も動物も一緒ですもの」
「⋯⋯へ?」
「でさ、状況なんだけど。激しい嘔吐と下痢、そこからの脱水症状と倦怠感。吐き気止めと強めの下痢止め、それに抗生剤で、嘔吐と下痢は治まった。だけど、倦怠感だけが残り、ずっと不調を訴えているの。この倦怠感が続いているものなのか、別の原因から来ているものなのか私達では判断つかなくてさ。ラーサ、どう思う?」
「どうって⋯⋯」
有無を言わさず、ハルは診察状況をまくしたてた。
ラーサはふたりからの視線を浴びて、訳の分からぬまま診察台へと近づいて行く。
目の前で力無くうな垂れているミドシュパードを見つめ、大きく息を吐き出した。
「聴診器を貸して」
ラーサは嘆息しながらも、聴診器を当てて行く。
「肺雑音は無いけど、心音が早いな」
「体が小さいからね。人より早いわよ」
ハルの言葉に軽く頷いて見せた。
「ふぅーん。て事は、問題は無いって感じか。強い下痢止めって何を使った?」
「クロラッシュよ」
「⋯⋯抗生剤、吐き気止め、下痢止め⋯⋯倦怠感が取れない。症状は治まっている。⋯⋯いや、抑えつけているのか? ⋯⋯」
ラーサは顎に手を置き、真剣な表情でブツブツと思考の沼へと飛び込んで行く。ハルもモモも、その姿を神妙な面持ちで見つめる。現状を打破する鍵を、まさに今ラーサが握ろうとしていると、ふたりは感じていた。
「⋯⋯そうだな、薬は続けているのか?」
「量は減らしているけどね」
ハルの言葉に、確信を得たのかゆっくりと頷いて見せた。
「薬は今すぐにストップ」
「全部?」
「そうだ。下痢と嘔吐の症状が出たら、しばらくそのままに。軽めの痛み止めを入れて、しばらく様子見だ」
「嘔吐や下痢は止めないの? 大丈夫?」
不安を見せるハルとモモに、ラーサは振り返る。
「薬を止めて症状が復活したら、原因は抗生剤で叩けていない。抗生剤で叩けないって事は、細菌ではなく、極小生物の可能性が高い。嘔吐と下痢を繰り返す事で、体の中の極小生物を体外に排出させる。本人⋯⋯本犬? まぁ、この仔は少し辛いけど、そこは治療の為だ、仕方ない。薬で辛さを緩和するしか無いな。これで、嘔吐と下痢の症状が出なければ、他に原因がある。目先をいちから変えて診て行くしか無いね」
「極小生物って何?? 細菌とは違うの?」
「違う。顕微鏡で見えない、抗生剤が効かないっていう結構厄介なやつだ」
初めて聞いた言葉にハルは首を傾げ、モモは自分の記憶の引き出しを必死に開けて行った。
「顕微鏡でも見えないのに、何で発見出来たの?」
「見た方が早いな。【癒光】」
ラーサの手から零れる白光の小さな玉にハルは目を剥いて、驚きを隠さなかった。
「ええ! あなた凄いじゃない! 獣人がヒールなんて!!」
ラーサはすぐに前を向き、ふたりから顔を隠した。何だか少し照れている様にも見えるが、今はそれどころでは無い。
白光の落ちたミドシュパードの呼吸が少し落ち着いた様に見える。細菌に落とした時の反応に酷似していた。
「ヒールの効果があるって事は、顕微鏡では見えないが、細菌みたく悪さをする極小の生物が体内に存在しているって考えられる。それを細菌と差別する為に、極小生物って呼ぶ事にしたんだ。特徴として大きいのは抗生剤が効かない。極小生物を体外に排出させるしか治療法が無いってのが、現状なんだ」
「「へぇ~」」
ハルとモモはふたり揃って感嘆の声を上げた。
「学校で習ったかしら? まったく覚えて無いわ」
「いや、ここ数年の話だ。抗生剤の効かない症例で、ヒールが有効な例が散見され始め、研究者達が今必死に研究しているらしい」
「らしいって、あなたは研究していないの? 詳しいのに」
「話を聞いただけ。研究なんてしていないよ」
「そうなの。でも、助かったわ。ありがとう。正直、お手上げ状態だったから本当に助かったわ」
「⋯⋯そう」
素っ気ないラーサの姿に、モモはニヤリとハルに笑みを見せた。
ハルには、その笑みの意味が分からず首を傾げるだけ。
「ハルさん、今後もラーサに手伝って貰えたら助かるわよね」
「はぁ?」
モモの言葉にラーサはしかめ面を返す。モモはそんなラーサの困惑などお構いなしに、意味深な笑みを深めて行った。
人の流れに逆行するモモが、店じまいを始める屋台を覗いて行った。
求めるのは、やる気の無い猫人。顔はうろ覚えだが、あんな独特の雰囲気を纏う猫人なんて彼女しかいない。
でも、何て声を掛ければいいのかしら?
向こうはこっちの事など、きっと知りもしない。ここは力技の店長をお手本にして、押しの一手かしら。
まぁ、のんびりと構えていられるほど時間も無いし、四の五の言わずに飛び込むしか無いわね。
店じまいを始めているいくつかの店舗を覗いていると、すぐにその姿は目に付いた。片づけるその手つきから気怠さが伝わる。
見つけた。間違いない、彼女だ。
無表情で淡々と屋台を畳んでいる猫人に、ハルの強引さを手本にモモは飛び込んで行った。
「こんにちは。忙しいところ申し訳ないけど、ちょっといいかしら?」
「うん? 店は終わりだ。明日また来てくれよ」
「あ、いえいえ。そっちじゃないのよ、ラーサ」
いきなり自分の名を呼ばれ、怪訝な視線をモモに向けた。
「え? 誰?」
「あ、突然ごめんね。モモ・ルドヴィア、一応あなたの先輩よ」
「先輩? ルドヴィア? ああ! ルドヴィアのお嬢様か? え? 何? 意味が分からないんだけど。忙しいから、また今度にしてくれる」
意外、こっちの事を知っているなんて。
でもまあ、そうよね。何事ってなるわよね。
ラーサの反応にモモは納得して、笑みを深めて見せた。
「私の事知っているのなら、話は早⋯⋯」
「他人に興味の無い、我が道を行くお嬢様。人の事なんて、微塵も気にしない氷のような女。それが何? 笑いにでも来た? 別にいいよ、笑えば」
「あらぁ⋯⋯下級生にも伝わっていたの⋯⋯恥ずかしい!」
モモが顔を覆っていると、ラーサはその様子を冷ややかに見つめ、冷たい言葉を向けるだけだった。
「もういいかな。片づけて帰るんだ」
「いや、良くないわ。お願い、ちょっと付き合ってよ」
「え? いやだよ。何でそんな事をしなくちゃならないんだよ」
ラーサの言う事はもっとも。初対面の人間にいきなり付き合ってと言われて、ついて行く方がおかしいもの。
でも、連れて行かないと。彼女の知識と意見が、今は欲しい。友人のアイーダを含め、何人かの内科医の顔も浮かんだ。けど、診るのが動物となれば、あれやこれや言って断られるのが目に見えている。
変わり者の内科医に一縷の望みを託す。
何としても彼女を【ハルヲンテイム】に連れて行かないと⋯⋯。
「いいから、いいから。ちょっと付き合ってくれればいいだけ。助けると思って、来て、お願い! もちろん、お礼もするわ」
「本格的に意味が分かんないのだけど。【ルドヴィアホスピタル】に、連れて行く気なら行かないよ」
「え? 行かないわよ。もう移転してミドラスには無いし。あ、もしかして、病院には行きたくないとか? なら、心配しないで、病院じゃないから」
驚いた顔を見せるラーサに、モモはニコっと微笑みを見せる。
いい反応。
私の事を知っていれば不思議よね。
「なら、どこだよ?」
「う~ん、お店ね。凄くいいお店」
「いい店? 何屋?」
「何屋? 私が今働いているお店よ。怪しい店じゃないわ。あなたの力を貸して欲しいの?」
「あんた、病院で働いていないのか? 家が病院なのに??」
「あなただって、首席だったのに屋台で働いているじゃない。同じよ」
「⋯⋯同じか??」
「まぁまぁ、あなたの事が必要なのよ。人助けと思ってちょっとだけ付き合って」
「ちょ、ちょっと!」
ラーサの腕をグイっと掴み、屋台から引き剥がして行く。困惑は深いが、そこまでの抵抗を見せない様に、モモの笑みは深まる。
「いいから、いいから、ね!」
こうなってしまえば、屋台からそう遠くない【ハルヲンテイム】の前に連れ出すのは容易。ラーサは渋りながらも、モモに腕を引かれて行った。
◇◇
「うん? ここ【ルドヴィアホスピタル】じゃないか」
ラーサは病院のままの待合を見渡し、首を傾げる。
「言ったじゃない、ヴィトリアに移転したって。ここは【ハルヲンテイム】よ」
「テイム? 調教店が何で⋯⋯って、ちょっと!!」
「ほら、入って、入って。ハルさーん! 連れて来たよ!」
待っていましたとばかりに飛び出して来た小さなエルフの姿に、ラーサはまた驚いた。
「忙しいのに悪いわね。私は店長のハル。あ、えっと⋯⋯」
「ラーサよ。こちらは内科医のラーサ」
「ちょ、ちょっと」
モモはラーサの困惑など気にも留めず、グイっと背中を押した。
「ラーサ、宜しくね。こっちよ」
「何、何、ちょっと!!」
今度はハルがラーサの腕を掴んだ。
ドワーフの力に引きずられ、なすがままのラーサ。抵抗を試みたところで、力で敵うはずも無く、あっさりと処置室の前へと辿り着いた。
「ごめん、私達ではどうしていいか分からなくて、ラーサ、あなたに診て貰いたいの」
ハルの懇願と共に開け放った扉の向こうで、うずくまる中型犬ミドシュパード。
ラーサは三度困惑を見せる。
「犬じゃん! 診れるかよ」
ポンと後ろから肩に置かれた手。モモはラーサの困惑を理解し、笑みを向けた。
「大丈夫。人も動物も一緒ですもの」
「⋯⋯へ?」
「でさ、状況なんだけど。激しい嘔吐と下痢、そこからの脱水症状と倦怠感。吐き気止めと強めの下痢止め、それに抗生剤で、嘔吐と下痢は治まった。だけど、倦怠感だけが残り、ずっと不調を訴えているの。この倦怠感が続いているものなのか、別の原因から来ているものなのか私達では判断つかなくてさ。ラーサ、どう思う?」
「どうって⋯⋯」
有無を言わさず、ハルは診察状況をまくしたてた。
ラーサはふたりからの視線を浴びて、訳の分からぬまま診察台へと近づいて行く。
目の前で力無くうな垂れているミドシュパードを見つめ、大きく息を吐き出した。
「聴診器を貸して」
ラーサは嘆息しながらも、聴診器を当てて行く。
「肺雑音は無いけど、心音が早いな」
「体が小さいからね。人より早いわよ」
ハルの言葉に軽く頷いて見せた。
「ふぅーん。て事は、問題は無いって感じか。強い下痢止めって何を使った?」
「クロラッシュよ」
「⋯⋯抗生剤、吐き気止め、下痢止め⋯⋯倦怠感が取れない。症状は治まっている。⋯⋯いや、抑えつけているのか? ⋯⋯」
ラーサは顎に手を置き、真剣な表情でブツブツと思考の沼へと飛び込んで行く。ハルもモモも、その姿を神妙な面持ちで見つめる。現状を打破する鍵を、まさに今ラーサが握ろうとしていると、ふたりは感じていた。
「⋯⋯そうだな、薬は続けているのか?」
「量は減らしているけどね」
ハルの言葉に、確信を得たのかゆっくりと頷いて見せた。
「薬は今すぐにストップ」
「全部?」
「そうだ。下痢と嘔吐の症状が出たら、しばらくそのままに。軽めの痛み止めを入れて、しばらく様子見だ」
「嘔吐や下痢は止めないの? 大丈夫?」
不安を見せるハルとモモに、ラーサは振り返る。
「薬を止めて症状が復活したら、原因は抗生剤で叩けていない。抗生剤で叩けないって事は、細菌ではなく、極小生物の可能性が高い。嘔吐と下痢を繰り返す事で、体の中の極小生物を体外に排出させる。本人⋯⋯本犬? まぁ、この仔は少し辛いけど、そこは治療の為だ、仕方ない。薬で辛さを緩和するしか無いな。これで、嘔吐と下痢の症状が出なければ、他に原因がある。目先をいちから変えて診て行くしか無いね」
「極小生物って何?? 細菌とは違うの?」
「違う。顕微鏡で見えない、抗生剤が効かないっていう結構厄介なやつだ」
初めて聞いた言葉にハルは首を傾げ、モモは自分の記憶の引き出しを必死に開けて行った。
「顕微鏡でも見えないのに、何で発見出来たの?」
「見た方が早いな。【癒光】」
ラーサの手から零れる白光の小さな玉にハルは目を剥いて、驚きを隠さなかった。
「ええ! あなた凄いじゃない! 獣人がヒールなんて!!」
ラーサはすぐに前を向き、ふたりから顔を隠した。何だか少し照れている様にも見えるが、今はそれどころでは無い。
白光の落ちたミドシュパードの呼吸が少し落ち着いた様に見える。細菌に落とした時の反応に酷似していた。
「ヒールの効果があるって事は、顕微鏡では見えないが、細菌みたく悪さをする極小の生物が体内に存在しているって考えられる。それを細菌と差別する為に、極小生物って呼ぶ事にしたんだ。特徴として大きいのは抗生剤が効かない。極小生物を体外に排出させるしか治療法が無いってのが、現状なんだ」
「「へぇ~」」
ハルとモモはふたり揃って感嘆の声を上げた。
「学校で習ったかしら? まったく覚えて無いわ」
「いや、ここ数年の話だ。抗生剤の効かない症例で、ヒールが有効な例が散見され始め、研究者達が今必死に研究しているらしい」
「らしいって、あなたは研究していないの? 詳しいのに」
「話を聞いただけ。研究なんてしていないよ」
「そうなの。でも、助かったわ。ありがとう。正直、お手上げ状態だったから本当に助かったわ」
「⋯⋯そう」
素っ気ないラーサの姿に、モモはニヤリとハルに笑みを見せた。
ハルには、その笑みの意味が分からず首を傾げるだけ。
「ハルさん、今後もラーサに手伝って貰えたら助かるわよね」
「はぁ?」
モモの言葉にラーサはしかめ面を返す。モモはそんなラーサの困惑などお構いなしに、意味深な笑みを深めて行った。
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