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坂門

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アックスピーク

歓迎すべきお客と招かれざる客

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 ぴょこぴょこ、ふわっふわっ。
 灰色の柔らかな産毛を揺らし、母親であるフッカの後を付いてまわります。黒目はクリクリと大きく、顔の大きさに対して短い口ばしは横に大きく広がっていました。父親のヘッグはそんな二羽の後ろをオロオロと心配そうに付いて回るだけです。
 世のお父さんなんて、こんなものよ。と言うハルさんの言葉にみんなは頷いていました。
 そういうものなのですか⋯⋯残念ながら私には良く分かりません。

 フッカの後ろを歩きながら、いろいろな物に興味を示しています。怖々と腰は引け、口ばしで突っついてみてはすぐにフッカの影に隠れてしまいます。
 か、かわいい。
 私達の瞳はこの仕草を見る度にハートマークですよ。


「あ! それ私が行きます」

 あわよくば観に行こうと、画策して行きます。我先にと手を挙げ、競い合う様に廊下へ向かいました。今回は私がゲットです。
 
 基本的にハルさんとアウロさんが交代で見守っていました。私達の好奇心剝き出しの瞳と違い、ふたりの瞳は真剣です。真剣な眼差しは何事も逃すまいとアックスピークの一挙手一投足を見つめます。つぶさに観察しては、些細な事も記述していました。
 アックスピークの成長日記。そんな物が出来てしまいそうですよ。
 出版したら売れるかな? でも、需要はきっと無いですね。マネしようと思った所でマネ出来る事ではありませんから。

◇◇◇◇

「ただいまー。窓口が一瞬ざわついてさ、面白かったよ」
「面白かったって⋯⋯まぁ、いいわ。フィリシア、ありがとう」

 ギルドからフィリシアが帰って来ました。順調な成長が確認出来てから一週間ほど経ったので、ヘッグとフッカの仔、ロッカの登録です。名付けはもちろんハルさん。そして、この登録が大騒ぎを呼び込む事になるのです。

◇◇

「こ、こんにちは! アックスピークの雛がいると聞いたのですが、ひと目見る事は出来ませんか?」
「是非とも」
「お願いー!」

 入口から飛び込んで来たのは【オルファステイム】のデルクスさん、獣内科医のログリさん、それに薬剤師のモニークさんです。デルクスさんは、見た事の無い必死の形相でお店に飛び込んで来ました。
 さっき登録から帰ったばかりなのに随分と早い登場ですよ。デルクスさんの普段見せない熱に、私達は気圧けおされます。

「な、な⋯⋯なんで?? 随分と情報が早いわね」

 驚いているハルさんに、デルクスさんはグイっと詰め寄ります。

「たまたまウチの者が、フィリシアさんの隣の窓口にいたもので。もう、2番ギルドはちょっとした騒ぎになっていますよ。ひと目でいいのでお願い出来ませんか?」
「ぅわー、騒ぎって面倒臭くなりそう⋯⋯。まぁ、お世話になっているし、見るだけなら、ぜーんぜん構わないわ。今、アウロが付いているんで、エレナ! 案内してあげて」
「分かりました。こちらです」

 私が案内を始めると、皆さんソワソワし始めました。いつも冷静な印象のデルクスさんがこんなに興奮する姿を見せるなんて、本当に珍しいです。普通に生活していたら、見る事は無いであろう稀少種の雛。そんな見られなくて当たり前のものが見られるとなれば、熱量が上がるのも仕方ありませんかね。

「アウロさん、お疲れ様です。【オルファステイム】の皆さんがロッカを見学されたいと、いらっしゃいました」
「「「ぉぉぉぉぉぉぉぉ⋯⋯」」」

 私の言葉より先に、三人とも廊下の窓から食い入るようにアックスピーク達を見ていました。静かな感嘆の声から、興奮が伝わります。

「アウロ、生後どれくらい?」
「今ちょうど一週間ですね。ここまでは問題無く順調です」

 デルクスさん、興奮からなのかちょっと早口になっています。

「やはり、通常の大型陸鳥とは違うのでしょうか?」
「今の所大きな差異はありませんよ。他の鳥より好奇心は旺盛かも知れませんね」

 ログリさんは食い入るように見つめたまま、口を開きます。この光景を目に焼き付けようと、瞬きすらしてないのでは? と思ってしまうほどずっと見つめていました。

「可愛いね~。雛鳥のあのふわふわ毛たまらない~」
「ですよね」

 モニークさんの言葉に全面的に同意です。私もモニークさんと並んで、瞳をハートマークにさせていました。
 

 さて、仕事の残っている私は後ろ髪を引かれる思いで、受付へと戻ります。モニークさんと一緒に瞳をハートマークにしていたかったのですが、仕方ありません。


「ひと目でいいから見せろ!」
「金はいくらでも出す! 譲ってくれ!」
「いや、そやつの倍出す! こっちに譲ってくれ!」

 受付から大きな声が届きます。お客さんを押しのけ、いかにもお金を持っていそうなおじさん達が、窓口に詰め寄っていました。大事に育てなくてはいけない仔を、みすみす売る訳がありません。ハルさんは奥の椅子に陣取り、この下らないとも言える喧騒に睨みを利かせていました。大切なお客さんにぞんざいな態度を示すおじさん達。このままだとハルさんがキレるのは時間の問題かも知れません。というか、時間の問題ですね。
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