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獣人とお伽噺
獣人とお伽噺 ①
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「よし! そうしよう」
「よし! じゃないわよ。あんたはまったく、次から次へと⋯⋯」
唐突に言い放つキルロを睨みつけ、呆れて見せるハルの姿。いつもの【スミテマアルバレギオ】の姿だ。
【果樹の森】でうな垂れる100名程の兎人を受け入れると、高々に宣言するキルロの姿。ハルは頭を抱え、盛大に天を仰いだ。
なんでこう、こいつは!!
怒りというより諦めに近い苛立ち。ただ、キルロの言葉が正しい事も理解出来、悶々と悶絶を繰り返すだけだった。
キルロの実家のある、医療大国ヴィトリア。ミドラスと中央に接する西の大国の片隅に広がる裏通り。
傘下に治めた世界最大の治療院。その財力を使って裏通りに彼らの居住区を作ると言い出した。
いきなり言われた兎人の戸惑いは大きく、ハルの頭痛も止まらない。
また始まった。
エレナといい、先日の実家の件といい。何でもかんでも抱え込んで⋯⋯。
結果が出ているから、文句は言え無いけどさ。何でもかんでも抱え込めばいいってもんじゃないでしょう。振り回されるこっちの身にもなってみろ。
盛大に肩を落とすハルの横で、ネインがキルロを見つめながら口を開いた。
「ヴィトリアの裏通りに居住区を作成とは、素晴らしいですね」
「何呑気な事言っているのよ。あんなの考えなしに言っているだけに決まっているじゃない」
「そうなのですか!? ただ、先日の件で、中央が介入する事になりました。襲ったヤツらも中央の目が光る中、再度襲う事は無いのではありませんか」
そうなのだけれど。別に反対する気も無いし、兎人達を救いたい気持ちは山ほどある。けれども⋯⋯。何でもかんでも、簡単に抱え込むアイツに対して悶々と苛立つのだ。案の定、抱え込む事案はどんどんと大きくなっていっている。次は何が起こるのやら⋯⋯ハルの頭痛は止む事は無かった。
「オレ、ちょっと実家行って、話してくるわぁ」
飄々と言い放つキルロをハルはキッと睨みつける。
「ネイン! あなたもついて行きなさい。こいつだけじゃ心配しか無い」
「承知致しました」
ネインは表情も変えず、ハルに一礼して見せると隣にいたユラも手を挙げた。
「オレも行く! また美味いもん食えるんだろう」
「何だよそれ⋯⋯ってドワーフか⋯⋯。ユラ、家造り得意か?」
キルロは一瞬呆れてみせたが、手先の器用なドワーフ。居住区の建設の際力になるのでは? と考える。
「おいおい。こっちはドワーフだぞ。そんなもん得意に決まってんだろう。ヌシは何言ってんだ、まったく」
「んぐっ」
絶句するキルロに今度はユラが呆れて見せた。
何にせよ、彼らが無事に安住の地を得てくれればそれでいい。
ハルはやり取りを見つめながら、盛大に溜め息をついた。
◇◇◇◇
『『『兎人?!』』』
お昼を食べながら、いつものように無事帰還したハルさんの冒険話に耳を傾けます。思い出すと何かイライラするみたいで、話しているハルさんの眉間にどんどん皺が寄っていきました。
ただ、みんなはハルさんの第一声に絶句して食べる手が止まってしまいます。
何がそんなにびっくりなのでしょう?
確かに街中で兎人さんなんて見た事無いのですが、みんながびっくりする程珍しいのですかね? アックスピークといい、ハルさんはみんなをびっくりさせるのが得意です。私はひとり可笑しくて、みんなの姿に吹き出していました。
「フフ。ハルさんはみんなをびっくりさせるのが得意なのですね」
「別に得意じゃないし。みんなが勝手にびっくりしているだけよ」
何故かハルさんは少しむくれていました。まるで自分のせいでは無いと言いたげです。
「というか、なんでエレナはびっくりしないんだ? 兎人だぞ」
「そうそう」
「??」
私が首を傾げて見せると、今度はみんなが私にびっくりしていました。
「あ! エレナ、学校行っていないから、兎人のお伽噺知らないのか」
「お伽噺?」
フィリシアは私の肩に手を置き、何度も大きく頷いて見せます。
モモさんはニッコリと笑顔で私に教えてくれました。
「よし! じゃないわよ。あんたはまったく、次から次へと⋯⋯」
唐突に言い放つキルロを睨みつけ、呆れて見せるハルの姿。いつもの【スミテマアルバレギオ】の姿だ。
【果樹の森】でうな垂れる100名程の兎人を受け入れると、高々に宣言するキルロの姿。ハルは頭を抱え、盛大に天を仰いだ。
なんでこう、こいつは!!
怒りというより諦めに近い苛立ち。ただ、キルロの言葉が正しい事も理解出来、悶々と悶絶を繰り返すだけだった。
キルロの実家のある、医療大国ヴィトリア。ミドラスと中央に接する西の大国の片隅に広がる裏通り。
傘下に治めた世界最大の治療院。その財力を使って裏通りに彼らの居住区を作ると言い出した。
いきなり言われた兎人の戸惑いは大きく、ハルの頭痛も止まらない。
また始まった。
エレナといい、先日の実家の件といい。何でもかんでも抱え込んで⋯⋯。
結果が出ているから、文句は言え無いけどさ。何でもかんでも抱え込めばいいってもんじゃないでしょう。振り回されるこっちの身にもなってみろ。
盛大に肩を落とすハルの横で、ネインがキルロを見つめながら口を開いた。
「ヴィトリアの裏通りに居住区を作成とは、素晴らしいですね」
「何呑気な事言っているのよ。あんなの考えなしに言っているだけに決まっているじゃない」
「そうなのですか!? ただ、先日の件で、中央が介入する事になりました。襲ったヤツらも中央の目が光る中、再度襲う事は無いのではありませんか」
そうなのだけれど。別に反対する気も無いし、兎人達を救いたい気持ちは山ほどある。けれども⋯⋯。何でもかんでも、簡単に抱え込むアイツに対して悶々と苛立つのだ。案の定、抱え込む事案はどんどんと大きくなっていっている。次は何が起こるのやら⋯⋯ハルの頭痛は止む事は無かった。
「オレ、ちょっと実家行って、話してくるわぁ」
飄々と言い放つキルロをハルはキッと睨みつける。
「ネイン! あなたもついて行きなさい。こいつだけじゃ心配しか無い」
「承知致しました」
ネインは表情も変えず、ハルに一礼して見せると隣にいたユラも手を挙げた。
「オレも行く! また美味いもん食えるんだろう」
「何だよそれ⋯⋯ってドワーフか⋯⋯。ユラ、家造り得意か?」
キルロは一瞬呆れてみせたが、手先の器用なドワーフ。居住区の建設の際力になるのでは? と考える。
「おいおい。こっちはドワーフだぞ。そんなもん得意に決まってんだろう。ヌシは何言ってんだ、まったく」
「んぐっ」
絶句するキルロに今度はユラが呆れて見せた。
何にせよ、彼らが無事に安住の地を得てくれればそれでいい。
ハルはやり取りを見つめながら、盛大に溜め息をついた。
◇◇◇◇
『『『兎人?!』』』
お昼を食べながら、いつものように無事帰還したハルさんの冒険話に耳を傾けます。思い出すと何かイライラするみたいで、話しているハルさんの眉間にどんどん皺が寄っていきました。
ただ、みんなはハルさんの第一声に絶句して食べる手が止まってしまいます。
何がそんなにびっくりなのでしょう?
確かに街中で兎人さんなんて見た事無いのですが、みんながびっくりする程珍しいのですかね? アックスピークといい、ハルさんはみんなをびっくりさせるのが得意です。私はひとり可笑しくて、みんなの姿に吹き出していました。
「フフ。ハルさんはみんなをびっくりさせるのが得意なのですね」
「別に得意じゃないし。みんなが勝手にびっくりしているだけよ」
何故かハルさんは少しむくれていました。まるで自分のせいでは無いと言いたげです。
「というか、なんでエレナはびっくりしないんだ? 兎人だぞ」
「そうそう」
「??」
私が首を傾げて見せると、今度はみんなが私にびっくりしていました。
「あ! エレナ、学校行っていないから、兎人のお伽噺知らないのか」
「お伽噺?」
フィリシアは私の肩に手を置き、何度も大きく頷いて見せます。
モモさんはニッコリと笑顔で私に教えてくれました。
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