27 / 180
アウロ・バッグスの憂鬱
これが世に言う七不思議というやつですか?
しおりを挟む
「皆様、お騒がせいたしました。お待たせして申し訳ありません。受付を再開致します」
モモさんがいつもの優しい笑顔で待合いに声を掛けていきます。ざわついていたお客様達も、いつもの【ハルヲンテイム】にすぐに落ち着きを取り戻して行きました。
まん丸のせいで滞っていた治療やトリミングが一気に流れて来て、店は大忙しです。
ハルさんを筆頭に破綻する事無く、見事なまでに回していきます。私も目の回る忙しさに必死についていきますが、なかなか皆さんのようにこなせていないのが現状。もっと、もっとですね。
「お忙しい所、すいません」
ひと段落した所を見計らったようにひとりの男性が入店されました。短い髪を綺麗にまとめ、エルフかと思うほど綺麗な顔立ちのヒューマン。身長はそれほど高くありませんが、顔が小さいのか、とてもスタイルが良く見えます。
物静かに頭を下げる姿に、みんなが同じように嘆息して見せました。知った顔の方なのでしょうか?
男性が顔を上げると、申し訳なさそうな顔でまた頭を下げました。
「本当にいつも申し訳ありません。また父が皆様にご迷惑を掛けてしまったようで、皆様の邪魔をしないようにと口酸っぱく言ってはいるのですが⋯⋯誠に申し訳ありません」
父??
誰? ですかね?
「もういいわよ。頭を上げてオルファスさん」
オルファスさん?
どっかで聞いた⋯⋯ええー!? 父? まん丸の息子さん? 何故、あのまん丸からこんな爽やかで、綺麗な顔立ちの子供が生まれるの?? 世の中って不思議。
私が一人困惑をしていると、みんなは苦笑いしつつも、慣れた様子で息子さんを迎え入れていました。
「そうそう。悪いのはあんたじゃないんだからさ。しかし、毎度毎度謝りに来るなんて、律儀だね」
ラーサさんが肩をすくめて見せると、息子さんも嘆息して見せます。
「身内の不始末を詫びるのは当然です。その前にさせるなと言われればそれまでですけど⋯⋯あ、これお詫びと言ってはいつも同じですが、みなさんでお分け下さい」
「もういいわよ、そこまで気を使わなくて」
「そう言わずに受け取って下さい。せめてもの罪滅ぼしです」
ハルさんに綺麗な箱に入った焼き菓子を差し出します。ハルさんは苦笑いと共に仕方なくといった感じで受け取りました。
「⋯⋯あれ、高くて美味しいやつ⋯⋯」
フィリシアが私の耳元で囁きます。
何とも出来た息子さんで。
私は父親とのあまりの落差に驚きを隠せませんでした。その姿を面白がるようにフィリシアは続けます。
「⋯⋯いつものルーティンみたいなものよ。父親が面倒を起こして、息子が尻ぬぐい。まぁ、息子的にもここに来る口実が出来るからいいのかもね」
そう言ってフィリシアは口端を上げて意地の悪い笑顔を見せました。
口実?
私がさらに困惑を深めると、息子を見ろとフィリシアが目配せ。私は息子さんへ視線を移します。
「それとカラログースさん。もうひとつお詫びというわけではありませんが、劇場の特等席のチケットが二枚手に入ったのでいかがですか? 今上演中の『暗黒騎士に落ちぶれたけど気を取り直して、いちからやり直す事にしました』、なんでも主演女優のアンナ・ネレーニャが素晴らしいそうです」
「申し訳ないけど、行く時間は無いわ。本当にそんな気を使わなくていいから」
「⋯⋯そうですか。お忙しいですものね。失礼致しました。あ! そうだ、このチケット、もしよろしかったらどなたか行かれませんか? 二枚とも差し上げますよ」
「あ! いいの!? 貰う!」
フィリシアは間髪入れずに手を差し出しました。息子さんもイヤな顔ひとつせずに笑顔でチケットを差し出します。
劇場⋯⋯そんなものもあるのですね。
「どうぞ。楽しんで来て下さい。お騒がせしました。失礼します。あ、アウロ。また嫌味を言われたかい? すまない。君の穴が埋まらないから父もイライラしているのだよ」
アウロさんは嘆息して、黙って首を横に振ります。息子さんはその姿に微笑みを返し、最後にまたひとつ頭を下げて、お店を後にされました。
何でしょうこの父親との落差は。
きっと、父親が引っ掻き回した後に息子が謝りに来るのが分かっているので、最初から強く当たらないのですね。
いつものハルさんなら瞬殺ですもの。
「ハルさん、一回くらい付き合ってあげれば? 健気でいい子じゃない」
「モモは他人事だからそう言えるのよ。悪いやつじゃないのは分かっているけど、父親がアレだし、なんかいいやつ過ぎて何か気乗りしないのよね」
ハルさんとモモさんのやり取りを聞きながら、ラーサさんとフィリシアは“ククク⋯⋯”とふたり揃ってニヤニヤと肩を震わせていました。
まったくふたりとも悪い顔になっていますよ。
モモさんがいつもの優しい笑顔で待合いに声を掛けていきます。ざわついていたお客様達も、いつもの【ハルヲンテイム】にすぐに落ち着きを取り戻して行きました。
まん丸のせいで滞っていた治療やトリミングが一気に流れて来て、店は大忙しです。
ハルさんを筆頭に破綻する事無く、見事なまでに回していきます。私も目の回る忙しさに必死についていきますが、なかなか皆さんのようにこなせていないのが現状。もっと、もっとですね。
「お忙しい所、すいません」
ひと段落した所を見計らったようにひとりの男性が入店されました。短い髪を綺麗にまとめ、エルフかと思うほど綺麗な顔立ちのヒューマン。身長はそれほど高くありませんが、顔が小さいのか、とてもスタイルが良く見えます。
物静かに頭を下げる姿に、みんなが同じように嘆息して見せました。知った顔の方なのでしょうか?
男性が顔を上げると、申し訳なさそうな顔でまた頭を下げました。
「本当にいつも申し訳ありません。また父が皆様にご迷惑を掛けてしまったようで、皆様の邪魔をしないようにと口酸っぱく言ってはいるのですが⋯⋯誠に申し訳ありません」
父??
誰? ですかね?
「もういいわよ。頭を上げてオルファスさん」
オルファスさん?
どっかで聞いた⋯⋯ええー!? 父? まん丸の息子さん? 何故、あのまん丸からこんな爽やかで、綺麗な顔立ちの子供が生まれるの?? 世の中って不思議。
私が一人困惑をしていると、みんなは苦笑いしつつも、慣れた様子で息子さんを迎え入れていました。
「そうそう。悪いのはあんたじゃないんだからさ。しかし、毎度毎度謝りに来るなんて、律儀だね」
ラーサさんが肩をすくめて見せると、息子さんも嘆息して見せます。
「身内の不始末を詫びるのは当然です。その前にさせるなと言われればそれまでですけど⋯⋯あ、これお詫びと言ってはいつも同じですが、みなさんでお分け下さい」
「もういいわよ、そこまで気を使わなくて」
「そう言わずに受け取って下さい。せめてもの罪滅ぼしです」
ハルさんに綺麗な箱に入った焼き菓子を差し出します。ハルさんは苦笑いと共に仕方なくといった感じで受け取りました。
「⋯⋯あれ、高くて美味しいやつ⋯⋯」
フィリシアが私の耳元で囁きます。
何とも出来た息子さんで。
私は父親とのあまりの落差に驚きを隠せませんでした。その姿を面白がるようにフィリシアは続けます。
「⋯⋯いつものルーティンみたいなものよ。父親が面倒を起こして、息子が尻ぬぐい。まぁ、息子的にもここに来る口実が出来るからいいのかもね」
そう言ってフィリシアは口端を上げて意地の悪い笑顔を見せました。
口実?
私がさらに困惑を深めると、息子を見ろとフィリシアが目配せ。私は息子さんへ視線を移します。
「それとカラログースさん。もうひとつお詫びというわけではありませんが、劇場の特等席のチケットが二枚手に入ったのでいかがですか? 今上演中の『暗黒騎士に落ちぶれたけど気を取り直して、いちからやり直す事にしました』、なんでも主演女優のアンナ・ネレーニャが素晴らしいそうです」
「申し訳ないけど、行く時間は無いわ。本当にそんな気を使わなくていいから」
「⋯⋯そうですか。お忙しいですものね。失礼致しました。あ! そうだ、このチケット、もしよろしかったらどなたか行かれませんか? 二枚とも差し上げますよ」
「あ! いいの!? 貰う!」
フィリシアは間髪入れずに手を差し出しました。息子さんもイヤな顔ひとつせずに笑顔でチケットを差し出します。
劇場⋯⋯そんなものもあるのですね。
「どうぞ。楽しんで来て下さい。お騒がせしました。失礼します。あ、アウロ。また嫌味を言われたかい? すまない。君の穴が埋まらないから父もイライラしているのだよ」
アウロさんは嘆息して、黙って首を横に振ります。息子さんはその姿に微笑みを返し、最後にまたひとつ頭を下げて、お店を後にされました。
何でしょうこの父親との落差は。
きっと、父親が引っ掻き回した後に息子が謝りに来るのが分かっているので、最初から強く当たらないのですね。
いつものハルさんなら瞬殺ですもの。
「ハルさん、一回くらい付き合ってあげれば? 健気でいい子じゃない」
「モモは他人事だからそう言えるのよ。悪いやつじゃないのは分かっているけど、父親がアレだし、なんかいいやつ過ぎて何か気乗りしないのよね」
ハルさんとモモさんのやり取りを聞きながら、ラーサさんとフィリシアは“ククク⋯⋯”とふたり揃ってニヤニヤと肩を震わせていました。
まったくふたりとも悪い顔になっていますよ。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
エルフの森をキャンプ地とする!
ウサクマ
ファンタジー
ある日、偶然が重なって異世界……燃え尽きたエルフの里に迷い混んでしまった二人の兄妹。
そんな時、出会った女神から言われた難題は……【野菜狂信者共に肉か魚を食べさせろ】?
これはブラック企業に勤めていたが辞表を叩き付け辞めたウメオ。
友達が強盗に殺され引き篭りとなっていたイチゴ。
この兄妹が異世界で肉を、魚を、野菜を、スイーツをコンロで焼いて食べ続ける…… そしてたまたま出会ったエルフや、行商をしているダークエルフを始めとした周囲の人々にも食べさせ続ける。
そんな二人のピットマスターの物語。
「だからどうした、俺がやるべき事は可愛い妹と一緒にバーベキューをする事だけだ」
「私、ピットマスターじゃないんだけど?」
※前作と微妙に世界観が繋がっていますし何なら登場人物も数人出ます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる