ハルヲンテイムへようこそ

坂門

文字の大きさ
上 下
4 / 180
出合い

お人好しー②

しおりを挟む
「よし! 腹もいっぱいになったし、行くか!」
「え?? どこに??」
「いいから、いいから。キノも行くぞ」

 キルロさんはまたニカっと笑い、私の背中を押して行きます。
 キルロさんのお店は街の中央からは、かなり離れた外れにありました。そびえ立つ八角形の巨大なギルドを目指し歩き始めます。
 この世界を支えるギルドの周りは華やかで、たくさんの人に溢れていました。
 それはたくさんの人の目があるという事。
 私は躊躇してしまいます。
 足の運びは鈍くなり、キルロさん達と距離を置いてしまいます。私なんかと一緒にいる所を見られたら、きっと迷惑。あんなに良くして貰ったのに、それはダメ。
 私はいつものように俯き、いつも以上に足を引きずっていました。

「エレナ、顔を上げるんだ」
「でも⋯⋯」
「何を気にする? オレもキノもここにいる。さぁ、行くぞー!」

 キルロさんは私の肩に手を置くと、前を指差します。
 くすんだ灰色の前髪の隙間から、世界を覗くと、溢れんばかりの人と飛び交う声。体がすくんで、足が動きません。

「大丈夫だ」

 肩に置いたキルロさんの手に、力が込められました。その手が私を優しく後押ししてくれます。

「ほらな。なんてこたぁない」

 足を動かす私に優しい言葉を掛けて、勇気づけてくれます。

 私は気が付くと足を止め、中央にそびえ立つギルドの真下からその巨大な建造物を見上げていました。
 たくさんの人を吸い込んでは、吐き出して⋯⋯どれだけの人がこの世界にいるのかな? 

「エレナ、もしかしてギルドを見るのは初めてか?」
「遠くからしか見た事なかったから⋯⋯」

 私が感嘆の声を上げると、キルロさんは膝をつきギルドを指差します。

「あれがどういうものか知っているか?」

 私が首を横に振ると、柔らかい笑みを浮かべ、キルロさんは続けます。

「あそこがギルドだってのは知っているよな。八か所の大きな扉があって、扉ごとに扱っている物が違うんだ。たとえば、オレとかエレナの親父さんとかが良く使うのは3番。冒険者が請け負う、素材集めや、モンスター駆除なんかの依頼を扱っている。他の扉には、衣類や布を扱う所、食べ物や飲み物を扱う所。住民や冒険者の登録、ソシエタスの加入手続きなんかも請け負っている。ここが日々、みんなの生活を支えているんだ。エレナもその内イヤでも世話になるぞ。成人したら登録しないとならないからな」
「⋯⋯ソシエタスって何?」
「なんつうか、集団? 商社? 大人数が所属している大規模な集合体かな。店とかと違って、冒険に特化した所、製作に特化した所、それこそ何でもやっている所とか、いろんな種類のソシエタスがあって、ソシエタスに加入していると報奨金の多い大規模な依頼を受ける事が出来るんだ。いやぁ~個人と比べると額の差があり過ぎて、やんなっちゃうんだよな」

 キルロさんは渋い顔をして、頭を掻いて見せます。何だかその姿が可笑しくて、笑ってしまいました。

「キルロさんは、ソシエタス入っていないの?」
「なんか、面倒そうで。気ままに出来る方が性に合っているみたいだ」
「そっか⋯⋯」
「あ! そうだ。これから行く所では、話し言葉は丁寧にするんだ。です、ます、語尾に付けて丁寧に話す事を心掛けろ」
「どこに行くの?」
「行くの? じゃない、行くのですか? だ。まぁ、オレにはそれでいいんだけどな」
「ど、どこに行くのです⋯⋯か?」
「そうだ。今から、ある店に行く。お客さん相手の商売だから、しゃべり言葉は丁寧にが基本だ」
「うん」
「うんじゃない」
「は、はい」
「それそれ」

 キルロさんはまた頭にポンと手を置いて、笑ってくれました。
 大きなギルドを通り過ぎても、人の波は引きません。たくさんの人の熱を感じます。私はいつの間にか顔を上げている事に気が付きました。不思議です。今日一日でいろいろ起こり過ぎて、これは夢なんじゃないかと思ってしまいます。
 夢なら醒めないで、どうかお願い。
 私はまた足を止めます。キルロさんが、不思議そうに私を覗きました。

「どうした? もうすぐそこだぞ?」
「あ、あの、どうして私にこんなに良くしてくれるの⋯⋯ですか?」

 そう。なんで私なんかに。みんなが忌み嫌う私なんかに。
 俯く私の顔を覗き込み、またニカっと笑ってくれました。

「アハハハ。そんな事を気にしていたのか? そんなものは簡単だ⋯⋯」

 キルロさんが少し間を開けます。私は釣られて顔を上げました。

「キノの友達は、オレにとっても友達だ。さぁ、行こう」

 何だかその言葉に心が凄くポカポカしました。体中に力が湧く不思議な感じ。
 私は軽くなった足で、地面を蹴っていきます。いつもより力強い足取りで歩いていました。

「これからエレナにある人物に会って貰う。まぁ、いい奴だから緊張しなくていいぞ。ちゃんと丁寧に思った事を言えば大丈夫」
「⋯⋯はい?」

 一体何がどうなるのかさっぱり分かりません。
 私はキルロさんに言われるがまま、後ろをついて行きます。
 ギルドから少し歩いた、街の中心部にほど近い所で私達は立ち止まりました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はあなたの母ではありませんよ

れもんぴーる
恋愛
クラリスの夫アルマンには結婚する前からの愛人がいた。アルマンは、その愛人は恩人の娘であり切り捨てることはできないが、今後は決して関係を持つことなく支援のみすると約束した。クラリスに娘が生まれて幸せに暮らしていたが、アルマンには約束を違えたどころか隠し子がいた。おまけに娘のユマまでが愛人に懐いていることが判明し絶望する。そんなある日、クラリスは殺される。 クラリスがいなくなった屋敷には愛人と隠し子がやってくる。母を失い悲しみに打ちのめされていたユマは、使用人たちの冷ややかな視線に気づきもせず父の愛人をお母さまと縋り、アルマンは子供を任せられると愛人を屋敷に滞在させた。 アルマンと愛人はクラリス殺しを疑われ、人がどんどん離れて行っていた。そんな時、クラリスそっくりの夫人が社交界に現れた。 ユマもアルマンもクラリスの両親も彼女にクラリスを重ねるが、彼女は辺境の地にある次期ルロワ侯爵夫人オフェリーであった。アルマンやクラリスの両親は他人だとあきらめたがユマはあきらめがつかず、オフェリーに執着し続ける。 クラリスの関係者はこの先どのような未来を歩むのか。 *恋愛ジャンルですが親子関係もキーワード……というかそちらの要素が強いかも。 *めずらしく全編通してシリアスです。 *今後ほかのサイトにも投稿する予定です。

異世界を【創造】【召喚】【付与】で無双します。

FREE
ファンタジー
ブラック企業へ就職して5年…今日も疲れ果て眠りにつく。 目が醒めるとそこは見慣れた部屋ではなかった。 ふと頭に直接聞こえる声。それに俺は火事で死んだことを伝えられ、異世界に転生できると言われる。 異世界、それは剣と魔法が存在するファンタジーな世界。 これは主人公、タイムが神様から選んだスキルで異世界を自由に生きる物語。 *リメイク作品です。

ドッキリで婚約破棄を宣言するようなクズ男はいりませんので我儘な妹とお幸せに! 〜後から後悔してももう遅いので寄って来ないで!〜

mimiaizu
恋愛
伯爵令嬢アスーナ・ブラアランは、自己中心的で精神年齢が低くて底意地の悪いカリブラ・ゲムデス侯爵令息と婚約していた。婚約してからアスーナは、カリブラに振り回され続けて心労が絶えない。 しかし、とあるパーティーの最中でカリブラが婚約破棄を突きつけた。その理由はアスーナの妹ソルティアと仲良くなったという理由らしい。 そこでアスーナは自由になったと思い喜んで婚約破棄を受け入れた。その後すぐにハラド・グラファイト公爵令息に求婚されて、婚約を受け入れることとなる。 だが、二人のもとにカリブラとソルティアがやってきて「婚約破棄はドッキリ」だと口にするのであった。 無神経なカリブラとソルティアにアスーナは本気で心を鬼にした。 「私の方から貴方に婚約破棄をさせていただきます」 結局、アスーナはカリブラと婚約破棄して新たにハラドと婚約することになった。 新たな婚約者と共に歩むことになったアスーナ。その一方でカリブラは……。

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

にゃんこの日常〜飼い主よ、俺を愛して!〜

ミクリ21
BL
これは、ある一人の青年とにゃんこの日常の話です。 悩みを抱える青年と、その青年が大好きなにゃんこの日常が、今始まる!!

ミュージカル小説 ~踊る公園~

右京之介
現代文学
集英社ライトノベル新人賞1次選考通過作品。 その街に広い空き地があった。 暴力団砂猫組は、地元の皆さんに喜んでもらおうと、そこへ公園を作った。 一方、宗教団体神々教は対抗して、神々公園を作り上げた。 ここに熾烈な公園戦争が勃発した。 ミュージカル小説という美しいタイトルとは名ばかり。 戦いはエスカレートし、お互いが殺し屋を雇い、果てしなき公園戦争へと突入して行く。

処理中です...