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本編
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「馬っ鹿ねーあんたは!」
困り切った俺の必死のヘルプに対するこのお言葉・・・ひどい。
「あのな、遥さん、可愛い弟に他に何か言うことはないでしょうか・・・」
こんな言い様でも、何だかほっとする辺り、俺ってそっち系?あいつにこんな目にあわされても、何故だか本気で怒れないし嫌えないのだ。
「まあ、私はその奇特な殿下と面識もないし、何とも言えないけど。・・・あんた、王族の多忙さ知ってる?本来なら、仕官を断ったあんたにそこまで関わったり、手を回したりするヒマなんてないはずよ?」
「はあ?王子がめちゃ忙しいのは知ってるよ。遥だって知らないだろ。そんなの」
急に何を言い出すんだ?そりゃ、大変なのは見てりゃわかるよ。
遥は少し考え込んでいるのか黙ると、ゆっくりと話し出した。それは俺が父さんから聞いた今の国王の学生時代の事、そしてここに来て王子と接する中で俺の中で引っ掛かっていた気持ち、そのものだった。
「ま、伊織がヤラレちゃってもいい位にその奇特な殿下が好きなら、しっかりモノにしちゃいなさいよ」
「・・・!!??」
絶句する俺に、いや~モノにされちゃう方か~とさらに混乱に追い討ちをかけてくる。いやいや、待て!なんでそうなる?今の話を聞いていたのか?なんなんだ?お前の脳は腐に傾いていたのか?
混乱している俺の口からは、一つも言葉が出てこない。受話器に向かって唸っているだけの俺に、のんびりとした遥の声が届く。
「だぁってさ、伊織は誰かに意に沿わないことされたら、どんな手段を取ろうと、どんな事をしようと絶対に許さないし、機械関係ならえげつない報復するじゃない。で、あっさりと抜け出して知らん顔してさ」
まあ、これまでは確かにそうしてきた。だから、今回はなんだかおかしいのだ。何も起こす気になれない、というか、ならない。ただただ、どうしていいのか解らない。
「あんた、殿下が可愛いとか言ったでしょ。普通、男に対して使わないわよ。そんな美少女顔だった?よっぽど子どもに見えたわけ?」
ああ、確かにすごい美貌だが女の子には到底見えないし、子どもには見えない。ただ、当初の無愛想で無表情だった彼が、無邪気に楽しそうに話したり、はにかんだ笑顔が可愛いと思った。今だって、時々その顔が一瞬だけど出る事がある。こんな事をされているのにその時はやっぱり思う、可愛いと。
「弟とか、そういった庇護欲的な感じなの?相手が王子だから、いつもの伊織じゃないわけ?でも、あんたはそんな殊勝な奴じゃないわよ」
けっこうな言われようだなあ。でも、俺の事を親よりも良く解ってるのは遥だ。
「あんたが他人に対して、こんな風に話したの私は初めて聞いた。認める認めないはあんた次第だけどね」
うん、そうだね。
「もう一つの問題は、あっちが伊織に執着する理由、解っているかどうかね。あんたに惚れちゃっている自分の気持ちに」
「・・・おまえ、バカ?あっちは何とも思ちゃいない。ただ、俺の知識が必要なだけだ。それに、王子である自分の意のままにならない俺が許せないだけだろ」
受話器の向こうから、呆れたような溜め息と、“目も悪かったんだ”とか“相変わらず自覚無し”とか聞こえるが、こればっかりはありえない。第一、いつそんな事になるような要素があったよ?
あんな美形からみたら、俺はその辺の黒い石ころだろうよ。
「それはあんただって同じ条件じゃない。あんたは美形なら男でもOKなタイプだった?少なくとも、女男美醜問わず他人にそういう感情を持ったことないことくらい知っているわ」
そんな事まで把握していたとは・・・恐ろしい、、、。
「何番煎じの言葉かって感じだけど、人を好きになるのに、要素とか時間とか関係ないのよ。好きになっちゃったっていう事に、理由なんてなくていいの」
その年で、何にも解ってないわね~と、また呆れられる。そんな事を言われたって解んないよ。にっちもさっちもいかない俺に、遥は最後にもう一つ、と言った。
「じゃあ、あんたの気持ちもあっちの気持ちも、はっきりさせちゃえばいいのよ。いつも通り、ドンと行っちゃいなさい。緊張して泣いたって大丈夫よ~。むしろ、軟禁しちゃうくらい好かれちゃってるなら、使える武器よ」
涙は女だけの武器じゃないのよ~、とケラケラ笑う。
ここまで遥が言うのならもう、やるしかなさそうだ。俺は、遥の分析力をかっている。俺が自分自身にひた隠しにしていた気持ちすら、暴いてきた。
それにしても、豪胆な女だよなぁ。弟が男に惚れているとわかっても、平然と応援して結びつけようとするし。ま、”体なんて魂の器なだけ。美人もブスもないわよ”ってのが持論で、本体は十分に美人の部類なのに全く頓着しないサイエンティストなんだよなーあいつ。
「殿下、少しお時間を頂けますでしょうか」
翌日、俺はさっそく行動に出た。以前はプログラミングや雑談に使っていた時間は、名目を変えて講義として継続していた。モニターに向かったまま、こちらを向こうとしない王子を見ながら、遥に言われた事を思い出す。・・・ああ、やっぱりあいつの言った通り、俺は・・・自分の気持ちをしっかりと自覚してしまい、緊張と動悸が高まる。今、俺はすごく情けない顔をしているハズだ。でも、もう引くわけにはいかない。
「・・・なんだ、言って・・・!!」
こちらに視線を向けた王子の、普段はすがめられたような鋭い目が見開かれた。
そりゃそうか、いま俺の両目には水分が多量に乗っているので。まあ、涙目になっているんだ。恥ずかしい話、俺は感情が高ぶったり緊張すると目に汗がでるんだよ。それをよく”泣いている”なんて勘違い(勘違いだ!!)されるんだが、今回ばかりは有効な現象として役立っているっぽい。だって、王子がちゃんとこちらを向いてくれているのだから。
あれ以来、まともに目も合わせてくれなくなっていたから。
「殿下の命令をお受けすれば、満足ですか?」
俺の言葉に、王子はがらりと表情を変えた。完璧な王子の顔は、見る間に今にも泣き出しそうな頼りない17歳の顔に戻った。その顔に手を伸ばしそうになるのを堪え、もう一言。
「私の知識や技術だけをご所望なら、それはお受けします。個人としての私が必要ないのでしたら、それ以外の私を返して頂きたい」
室内は沈黙だけが支配していた。
王子は俺の最後の言葉に、ひどく傷ついた顔をした。いや、後悔や悲しみ、戸惑いや不安・・・やっぱり、王子も迷って解らないままでこんな事をしていたのではないだろうか。でも、少なくとも俺が思っていたようにただの意地でこんな状態にしているのではなさそうだ。
さて、ここからは王子がどうでてくるか、だ。俺は相手を誘導して本心を暴くような事は出来ない。殿下を試すような事も出来ない。
ここからは、俺は俺らしくぶつかっていくだけだ。遥に”甘い”とか”スマートじゃない”とかイヤミを言われそうだけど、こんな顔をさせて自分ばかり優位にするのは、フェアじゃない不誠実と思うんだ。
困り切った俺の必死のヘルプに対するこのお言葉・・・ひどい。
「あのな、遥さん、可愛い弟に他に何か言うことはないでしょうか・・・」
こんな言い様でも、何だかほっとする辺り、俺ってそっち系?あいつにこんな目にあわされても、何故だか本気で怒れないし嫌えないのだ。
「まあ、私はその奇特な殿下と面識もないし、何とも言えないけど。・・・あんた、王族の多忙さ知ってる?本来なら、仕官を断ったあんたにそこまで関わったり、手を回したりするヒマなんてないはずよ?」
「はあ?王子がめちゃ忙しいのは知ってるよ。遥だって知らないだろ。そんなの」
急に何を言い出すんだ?そりゃ、大変なのは見てりゃわかるよ。
遥は少し考え込んでいるのか黙ると、ゆっくりと話し出した。それは俺が父さんから聞いた今の国王の学生時代の事、そしてここに来て王子と接する中で俺の中で引っ掛かっていた気持ち、そのものだった。
「ま、伊織がヤラレちゃってもいい位にその奇特な殿下が好きなら、しっかりモノにしちゃいなさいよ」
「・・・!!??」
絶句する俺に、いや~モノにされちゃう方か~とさらに混乱に追い討ちをかけてくる。いやいや、待て!なんでそうなる?今の話を聞いていたのか?なんなんだ?お前の脳は腐に傾いていたのか?
混乱している俺の口からは、一つも言葉が出てこない。受話器に向かって唸っているだけの俺に、のんびりとした遥の声が届く。
「だぁってさ、伊織は誰かに意に沿わないことされたら、どんな手段を取ろうと、どんな事をしようと絶対に許さないし、機械関係ならえげつない報復するじゃない。で、あっさりと抜け出して知らん顔してさ」
まあ、これまでは確かにそうしてきた。だから、今回はなんだかおかしいのだ。何も起こす気になれない、というか、ならない。ただただ、どうしていいのか解らない。
「あんた、殿下が可愛いとか言ったでしょ。普通、男に対して使わないわよ。そんな美少女顔だった?よっぽど子どもに見えたわけ?」
ああ、確かにすごい美貌だが女の子には到底見えないし、子どもには見えない。ただ、当初の無愛想で無表情だった彼が、無邪気に楽しそうに話したり、はにかんだ笑顔が可愛いと思った。今だって、時々その顔が一瞬だけど出る事がある。こんな事をされているのにその時はやっぱり思う、可愛いと。
「弟とか、そういった庇護欲的な感じなの?相手が王子だから、いつもの伊織じゃないわけ?でも、あんたはそんな殊勝な奴じゃないわよ」
けっこうな言われようだなあ。でも、俺の事を親よりも良く解ってるのは遥だ。
「あんたが他人に対して、こんな風に話したの私は初めて聞いた。認める認めないはあんた次第だけどね」
うん、そうだね。
「もう一つの問題は、あっちが伊織に執着する理由、解っているかどうかね。あんたに惚れちゃっている自分の気持ちに」
「・・・おまえ、バカ?あっちは何とも思ちゃいない。ただ、俺の知識が必要なだけだ。それに、王子である自分の意のままにならない俺が許せないだけだろ」
受話器の向こうから、呆れたような溜め息と、“目も悪かったんだ”とか“相変わらず自覚無し”とか聞こえるが、こればっかりはありえない。第一、いつそんな事になるような要素があったよ?
あんな美形からみたら、俺はその辺の黒い石ころだろうよ。
「それはあんただって同じ条件じゃない。あんたは美形なら男でもOKなタイプだった?少なくとも、女男美醜問わず他人にそういう感情を持ったことないことくらい知っているわ」
そんな事まで把握していたとは・・・恐ろしい、、、。
「何番煎じの言葉かって感じだけど、人を好きになるのに、要素とか時間とか関係ないのよ。好きになっちゃったっていう事に、理由なんてなくていいの」
その年で、何にも解ってないわね~と、また呆れられる。そんな事を言われたって解んないよ。にっちもさっちもいかない俺に、遥は最後にもう一つ、と言った。
「じゃあ、あんたの気持ちもあっちの気持ちも、はっきりさせちゃえばいいのよ。いつも通り、ドンと行っちゃいなさい。緊張して泣いたって大丈夫よ~。むしろ、軟禁しちゃうくらい好かれちゃってるなら、使える武器よ」
涙は女だけの武器じゃないのよ~、とケラケラ笑う。
ここまで遥が言うのならもう、やるしかなさそうだ。俺は、遥の分析力をかっている。俺が自分自身にひた隠しにしていた気持ちすら、暴いてきた。
それにしても、豪胆な女だよなぁ。弟が男に惚れているとわかっても、平然と応援して結びつけようとするし。ま、”体なんて魂の器なだけ。美人もブスもないわよ”ってのが持論で、本体は十分に美人の部類なのに全く頓着しないサイエンティストなんだよなーあいつ。
「殿下、少しお時間を頂けますでしょうか」
翌日、俺はさっそく行動に出た。以前はプログラミングや雑談に使っていた時間は、名目を変えて講義として継続していた。モニターに向かったまま、こちらを向こうとしない王子を見ながら、遥に言われた事を思い出す。・・・ああ、やっぱりあいつの言った通り、俺は・・・自分の気持ちをしっかりと自覚してしまい、緊張と動悸が高まる。今、俺はすごく情けない顔をしているハズだ。でも、もう引くわけにはいかない。
「・・・なんだ、言って・・・!!」
こちらに視線を向けた王子の、普段はすがめられたような鋭い目が見開かれた。
そりゃそうか、いま俺の両目には水分が多量に乗っているので。まあ、涙目になっているんだ。恥ずかしい話、俺は感情が高ぶったり緊張すると目に汗がでるんだよ。それをよく”泣いている”なんて勘違い(勘違いだ!!)されるんだが、今回ばかりは有効な現象として役立っているっぽい。だって、王子がちゃんとこちらを向いてくれているのだから。
あれ以来、まともに目も合わせてくれなくなっていたから。
「殿下の命令をお受けすれば、満足ですか?」
俺の言葉に、王子はがらりと表情を変えた。完璧な王子の顔は、見る間に今にも泣き出しそうな頼りない17歳の顔に戻った。その顔に手を伸ばしそうになるのを堪え、もう一言。
「私の知識や技術だけをご所望なら、それはお受けします。個人としての私が必要ないのでしたら、それ以外の私を返して頂きたい」
室内は沈黙だけが支配していた。
王子は俺の最後の言葉に、ひどく傷ついた顔をした。いや、後悔や悲しみ、戸惑いや不安・・・やっぱり、王子も迷って解らないままでこんな事をしていたのではないだろうか。でも、少なくとも俺が思っていたようにただの意地でこんな状態にしているのではなさそうだ。
さて、ここからは王子がどうでてくるか、だ。俺は相手を誘導して本心を暴くような事は出来ない。殿下を試すような事も出来ない。
ここからは、俺は俺らしくぶつかっていくだけだ。遥に”甘い”とか”スマートじゃない”とかイヤミを言われそうだけど、こんな顔をさせて自分ばかり優位にするのは、フェアじゃない不誠実と思うんだ。
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