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ありと

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それは、切欠か始まりか

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あの人とは朝、いつも会えるわけじゃない。



週に2か3回、いつもの朝の電車に乗っているんだ。
僕にとっての、だけど。
大学生なら、取っている学科のためだろうし、社会人なら勤務形態のためだろう。


・・・僕は、あの人の事を、何も知らない。


名前も何も知らない、声すら聞いた事がないんだと、当たり前なのに物凄くがっかりする。
電車で同じ車両に乗ってる・・・のは、何の関係も無いのと同じだ。


今度は、あの人に宛てた・・・なんだろう?
ああ、そうだな、“手紙”を書いた。

あの、取り留めもない走り書きを読んでくれたと分かって。・・・それが、僕が書いた物だと気付いてくれていると思うしかない視線と仕草をしていたあの人。
初めて、何かしらの意思のある視線を受けて、僕がどれほどドキドキしたか。

あの時の、あの人の様子を思い出しながら、僕がどう思ったのか、何を考えたのかをまた思うままに書いてみた。
勿論いろいろ気を付けたつもりだ。最初の“手紙”より、丁寧に文字を書いたし。

・・・あの人に、渡すために書いているんだから。

その手紙は、犯罪者の様な手段で渡すしかなかったのが・・・どうしようもないけどイヤだった。

仕方ないだろ?だって、僕はあの人と・・・何の、関係も、無い、んだから。声を掛ける事すら、出来ないんだから。
それでも。あの人は、そのままで。
スマホをポケットに入れる瞬間に差し込んだ手紙を、そのままにしてくれた。
スマホを持った手が、ビクンと大きく震えたのが・・・怖かった。
それはそうか。怖がられても、当然の事をしたんだ。

でも、そのままで。

いつもの駅のホームへ降りた後、ふわりとこちらを向いてから、階段へ消えていった。




僕は、あれを渡してどうしたかったんだろう。

今さら、そう思うのはオカシイだろうか。
でも・・・ただ、あの時に。
僕に気付いてくれたって。もしかして、貴女も僕に気付いていたのだろうか、って。期待して・・・しまったんだ。

だからだろうか、“手紙”を書こうと思ったのは。
それで僕は、どうしようと・・・?


あの人と・・・繋がりを持ちたい、と願ってしまっているんだ。
言葉を交わしてみたい、どんな声をしているんだろう。あの電車には、いつから・・・いや、どこから乗って来ているんだろう、あの駅で降りるのは大学のため?仕事のため?

・・・貴女の、名前を知ってみたい。

あの、不思議とふんわりとした、穏やかな雰囲気を纏って、何を考え何をしているんだろう。

期待なんて、綺麗なものじゃない。
自分でもよく分からない欲求に、どうにもならなくなっている。

何故だろう?何でこんなにも・・・あの人の事を知りたくて、あの人に僕を知って欲しいのか。この気持ちは何なのか。


いくら考えても分からない。


・・・これは何なのか。全く分からない僕に、友達が言った。


「・・・お前、それって、一目惚れ的なヤツじゃね?で、そのまま惚れちゃった的な。どこの誰かも分からない人が、理由もなくずっと気になる、気になって仕方ないなんて。で?どんな人なんだよ?浮いた話しも無い、秀才くんの一目惚れの運命の相手って」


・・・あ・・・?

・・・えっ?・・・そう、か?
そんな、事なのか?


・・・分からないんだけど。




そんな非科学的な、直感?感覚的?・・・運命?

・・・・・・・。

それなら。運命なんて、この時代にエビデンスも何もない、そんな事があるのなら。



・・・あの人に。あの人と話がしてみたい。
あの人の声を聞いて、あの人の近くで過ごしてみたい。
僕が、どうしてこんな事になっているのか、どうしてこんなに気になって・・・”知りたい知って欲しい”と、思ってしまうのか。

はっきりさせたい、そう、思う。

どうすればいい?どうやって?知り合いでも、何でもない人との事なんて、どうしたらいいんだろう。


・・・・明日、挨拶を、してみよう、か。


無視をされれば、それでもいい。挨拶は、別におかしい事じゃない。
ただ、これ以上に不審に思われるのだけは避けたい。
それ以上に、怖がられたり嫌がられたら・・・怖い。


このままなら、朝の電車で会えるけど。

・・・そんな事になれば、もう会えなくなるだろう。


ーーーそれは、嫌だ。絶対にダメ。




僕の“手紙”を2回とも受け取ってくれた、あの人は。
どうして、そうしてくれたんだろう。

・・・僕と同じように、何かを・・・感じて、くれているのだろうか。
そうだったら嬉しいと、思う僕の。



この気持ちは、何なんだろう。




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