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届かない想い

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「光希が本当に可愛くて・・・・」

「はいはい、分かりましたってば」

友達兼、会社の上司と夕食を食べていた。勿論、安藤さんの奢りだ。こうして光希くんとの惚気話を聞かされる代わりに、高級なレストランで奢ってもらっている。会社ではクールな上司として通っているせいで、会社で恋人との話をする事にも抵抗があるのだろう。安藤は惚気話をできて、俺も美味しいご飯が食べられる、両方が得をする関係だ。

「部長、そろそろ酔ってきてますよね?」

「酔ってない・・・・」

「顔が赤いですよ?」

「酔ってない!!」

そう言うが、先程からずっと同じことを話していると思う。部長の話は半分聞き流していたが、明らかに顔も赤く、酔っている事は一目で分かった。

「そろそろ帰ますよ」

「まだ飲む」

高級なワインの入ったグラスを握りしめ、まだ光希くんとの惚気話をするんだと、中々帰ろうとしない。

「部長、光希くんが家で待ってますよ」

「よし帰ろう」

先程の態度が嘘のように椅子から立ち上がった。全く、前の部長からは信じられないくらいに光希さんにベタ惚れだ。

タクシーに二人で乗ったはいいが、部長は完全に酔っ払ってしまっていた。これでは一人で帰ることも厳しいだろうと思い、部屋まで運んで行ってやる事にした。これでまた夕飯を奢らせる口実ができたと思うと、安いものだ。
チャイムを押すと、すぐに光希さんが現れた。既にエントランスのインターホンで部長を送って来た事は説明してあるから、俺が誰かは分かっている筈だ。

「太樹さんを送っていただいて、すみません」

中からは、綺麗な黒猫が姿を現した。

「・・・・あの、どうかしましたか?」

光希さんは、俺がジッと見つめている事に不思議そうな顔をする。

「ああいや、部長からはよく聞かされていたのですが、本当に可愛らしいなと思いまして」

「へ?」

周りに言われ慣れているだろうに、ポカンとした表情をした。どこからどう見ても、光希さんは本当に美人だ。

「え、その・・・、ありがとう、ございます。お世辞だとしても嬉しいです\\」

「お世辞なんかじゃないですよ、本心です」

光希さんは身長が低くて、ぱっと見は未成年のようだった。けれど、可愛らしい顔立ちの中に、どこか大人びた雰囲気を感じた。安藤さんに聞いていたが、今まで散々苦労してきたせいだろうか。
肩を貸してここまで運んできた安藤さんを、光希さんに渡した。そんな細い体で大丈夫かと心配していたが、あっさりと安藤さんの体重を支えた。

「光希さんは本当に安藤さんから愛されてますね」

「そんなわけ無いじゃないじゃないですか」

「いや、愛されてるでしょう?」

初めは、その言葉が冗談だと思っていた。でも、どうやら本気で言っているようだった。

「太樹さんが、俺なんかを好きなわけ無いですよ」

「でも、光希さんの事を大切にされてるんじゃ無いですか?」

「確かに、太樹さんは俺に優しいです」

「だから・・・・」

「ただそれは、俺に子供を産ませる為でしょうから」

「そんなわけ・・・っ!!」

安藤さんが光希さんの事が大好きなのは、見ていれば分かる。だから好きじゃ無いなんて事は、絶対に有り得なかった。

「ううん・・・・」

起きたのか、安藤が身動ぎをした。

「太樹さんを送ってもらって、ありがとうございました」

「いや、大丈夫です」

安藤さんを担いだまま、ぺこりとお辞儀をした。安藤さんも起きた事だし、そう言ってマンションから出て待ってもらっているタクシーに乗った。
光希さんは、自分が愛されている事に気がつかないのか?あれだけ安藤さんは分かりやすいと言うのに???
これは一筋縄では行かなそうだと、少しだけ安藤さんに同情をした。

次の日の昼休みに、部長に昨日の会話を話してみた。

「それ、本当に言っていたのか・・・??」

「本当ですよ」

自分の気持ちが伝わっていなかった事に、ショックを受けているようだった。

「今まで光希さんに好きだと言った事は無いんですか?」

「確かに、それは無いな」

「なら部長が悪いんじゃ無いですか?」

恋人に好きだと言った事がないのは、流石にないと思う。

「それでも、その分行動で伝えてきたつもりだったんだ」

「でも、伝わっていなかったじゃないですか」

「ぐぅっ・・・・、今日、光希と話し合う必要がありそうだな」

「そうですね」

耳を垂れさせ、尻尾もしょんぼりとさせている。ここまで落ち込んでいる部長も珍しいと思った。

「部長は光希さんのことが好きなんですよね?」

「勿論だ、愛している」

「ならよかったです」

光希さんの言った通り、光希さんのことを子供を産ませるだけの相手だと思っているのなら、いくら部長と言えど嫌いになっていただろうから。
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