11 / 51
case of グウェン
11.そこ、トチる?
しおりを挟む
遠国料理を食べたい、というご希望だった。
奥方のレシピ本を見せていただいたので、とりあえずメニューのバランスやなんかは置いといて、片っ端から作っていった。奥方のレシピは別のノートに書き写して残しておいた。これで、この家の料理人の方も、これから同じ味を再現できるだろう。
中華で言うなら満願全席。
料理人さんたちの協力のもと、種々雑多な大量の料理の数ができた。
やりきった私は、満足だ。
「とりあえず、こんなところでよろしいですか?」
お借りした真っ白でフリルのついたエプロンを外し、汗をぬぐう。
いや、特に汗はかいてないけど、なんとなく。
「今日は、大変勉強になりました」
「いえ、こちらこそ図々しくも厨房を使わせていただき、ありがとうございました」
ついでに我が家用にと、今日作った料理の数々をお重に詰めてもらってる。
両親と妹も遠国料理が好きなので、ありがたい。
「では、お嬢様はこちらへ」
厨房入り口にメイドさんが迎えに来てくれた。
外も暗くなってきたし、帰りは馬車で送っていただけるようなので、安心だ。
公爵家の馬車なんて、どんだけ乗り心地がいいんだろう。楽しみである。
「ふぁっ?!」
思わず、変な声が出た。
メイドさんに案内されたのは馬車止めではなく、なぜか客間だった。さすが公爵家、素敵な客間――なんてボケてたら、あれよあれよと裸に剝かれ、バスタブにドボン。
数名体制で洗われ、マッサージで磨かれ、いつの間にかドレスに着替えさせられていた。
そして、気付いた時には食堂の椅子に座っていたのだった。
「グウェン嬢、今日はあなたのおかげで、久しぶりに亡き妻の味を楽しめる。ありがとう」
美丈夫なザグデン公爵様が優しい微笑みを浮かべながら、直々に声をかけてきてくれた。
悲鳴はなんとか飲み込んだ。
おかしい。
用が済んだらそのまま帰宅の予定だったのに。
「すごい量を作ってくれたんだね。ああ、これなんか母上の得意料理だった」
「私はこの味付けが好きだった。懐かしいなぁ」
公爵家のご長男に次男、リーファイ様の兄君たちだ。
長兄様も次兄様もそれぞれ美形だ。なにこのイケメンパラダイス。
「さぁ、冷めないうちにいただこう」
公爵様の言葉で、晩餐が始まった。
全てが洋風な中で、テーブルの上だけ異文化。和食に中華のバラバラな料理が並んでいる。それらを器用に箸を使って召し上がる、公爵家の方たち。
うん、カオス。
そういえばリーファイ様の反応はどうかな、と気になった。
真横に座っている彼の方を横目でチラリと伺うと、箸が動いていない。そのまま視線を上に上げれば、なぜかリーファイ様が私を凝視していた。
「召し上がらないんですか、リーファイ様?」
「え…あっ!いや、その――」
食欲旺盛なリーファイ様にしては珍しく、箸が進んでない。
「リー、お前が食べないなら、グウェン嬢の手料理、私たちで全部いただくぞ?」
「だっ、ダメだ!そんなに欲張るなよ、リュー兄!!」
次兄様の言葉に、リーファイ様は猛然と目の前の皿を平らげ始めた。
その食べっぷりにホッとして、とりあえずお腹の空いていた私も箸を伸ばさせてもらった。
「時に、グウェン嬢。リーファイの無理な願いを聞き入れてもらい、感謝する。失礼を承知でお願いしたいのだが、もしよかったら、今後も気軽に来訪していただきたい」
公爵様の言葉に、うれしさと共に残念な気持ちが湧いた。
「私は週末には第二王子殿下との顔合わせを控えております。本当なら、今回も来るべきではなかったのですが……」
未婚女性である私が、男性の家においそれと行くのは普通はよしとされない。
いくらリーファイ様は側近とはいえ、私は第二王子殿下との顔合わせ前。今回の訪問だってグレーゾーンだ。
「その点なら問題ない」
カタン、と乾いた音をさせて、リーファイ様が椅子から立ち上がった。
「あいつは最初から、こうなることを見越してたみたいだ。こんな風に手のひらの上で踊らされるのは癪だけど――」
私の横で膝をついたリーファイ様が、私の右手からそっと箸を外して横に置いた。
そのまま右手を軽く握りこまれる。
レンズ越しの三白眼が柔らかく細められ、その唇から優しい声が零れた。
「グウェン、俺のモノになってくれないか?」
はて?
なにがどうしてそうなった?!
そんでもって、手ぇ!
しかも何ですか、いきなりの名前呼び捨て。
待って、心臓が持たない。
「俺じゃダメだろうか?」
「あ、あの……?!」
「俺は公爵家の人間だけど、三男だ。もちろん、婿入りも可能だ。ですよね、父上?」
リーファイ様の目線を追えば、鷹揚に頷かれる公爵様。
「キミは最初から、俺を奇異の目で見なかったよね?会話してもその印象は変わらなかった。むしろ、俺は好印象を持った。遠国料理に精通していて、しかも料理上手」
まぁ、前世日本人ですし。
お米と黒髪メガネ男子大好きっ子ですし。
好みのイケメガネにお願いされれば、そりゃ、ご飯何てなんぼでも作ったりますわ!!
「むしろ、俺にとって、惚れるなって方が無理だよ!もし、キミさえよければ、俺と婚にゃくしっ……」
あ、噛んだ。
リーファイ様は真っ赤になって、口元を片手で覆い隠した。
兄上たちは爆笑し、公爵様はわざとらしい咳払いをして肩の震えを誤魔化していた。
奥方のレシピ本を見せていただいたので、とりあえずメニューのバランスやなんかは置いといて、片っ端から作っていった。奥方のレシピは別のノートに書き写して残しておいた。これで、この家の料理人の方も、これから同じ味を再現できるだろう。
中華で言うなら満願全席。
料理人さんたちの協力のもと、種々雑多な大量の料理の数ができた。
やりきった私は、満足だ。
「とりあえず、こんなところでよろしいですか?」
お借りした真っ白でフリルのついたエプロンを外し、汗をぬぐう。
いや、特に汗はかいてないけど、なんとなく。
「今日は、大変勉強になりました」
「いえ、こちらこそ図々しくも厨房を使わせていただき、ありがとうございました」
ついでに我が家用にと、今日作った料理の数々をお重に詰めてもらってる。
両親と妹も遠国料理が好きなので、ありがたい。
「では、お嬢様はこちらへ」
厨房入り口にメイドさんが迎えに来てくれた。
外も暗くなってきたし、帰りは馬車で送っていただけるようなので、安心だ。
公爵家の馬車なんて、どんだけ乗り心地がいいんだろう。楽しみである。
「ふぁっ?!」
思わず、変な声が出た。
メイドさんに案内されたのは馬車止めではなく、なぜか客間だった。さすが公爵家、素敵な客間――なんてボケてたら、あれよあれよと裸に剝かれ、バスタブにドボン。
数名体制で洗われ、マッサージで磨かれ、いつの間にかドレスに着替えさせられていた。
そして、気付いた時には食堂の椅子に座っていたのだった。
「グウェン嬢、今日はあなたのおかげで、久しぶりに亡き妻の味を楽しめる。ありがとう」
美丈夫なザグデン公爵様が優しい微笑みを浮かべながら、直々に声をかけてきてくれた。
悲鳴はなんとか飲み込んだ。
おかしい。
用が済んだらそのまま帰宅の予定だったのに。
「すごい量を作ってくれたんだね。ああ、これなんか母上の得意料理だった」
「私はこの味付けが好きだった。懐かしいなぁ」
公爵家のご長男に次男、リーファイ様の兄君たちだ。
長兄様も次兄様もそれぞれ美形だ。なにこのイケメンパラダイス。
「さぁ、冷めないうちにいただこう」
公爵様の言葉で、晩餐が始まった。
全てが洋風な中で、テーブルの上だけ異文化。和食に中華のバラバラな料理が並んでいる。それらを器用に箸を使って召し上がる、公爵家の方たち。
うん、カオス。
そういえばリーファイ様の反応はどうかな、と気になった。
真横に座っている彼の方を横目でチラリと伺うと、箸が動いていない。そのまま視線を上に上げれば、なぜかリーファイ様が私を凝視していた。
「召し上がらないんですか、リーファイ様?」
「え…あっ!いや、その――」
食欲旺盛なリーファイ様にしては珍しく、箸が進んでない。
「リー、お前が食べないなら、グウェン嬢の手料理、私たちで全部いただくぞ?」
「だっ、ダメだ!そんなに欲張るなよ、リュー兄!!」
次兄様の言葉に、リーファイ様は猛然と目の前の皿を平らげ始めた。
その食べっぷりにホッとして、とりあえずお腹の空いていた私も箸を伸ばさせてもらった。
「時に、グウェン嬢。リーファイの無理な願いを聞き入れてもらい、感謝する。失礼を承知でお願いしたいのだが、もしよかったら、今後も気軽に来訪していただきたい」
公爵様の言葉に、うれしさと共に残念な気持ちが湧いた。
「私は週末には第二王子殿下との顔合わせを控えております。本当なら、今回も来るべきではなかったのですが……」
未婚女性である私が、男性の家においそれと行くのは普通はよしとされない。
いくらリーファイ様は側近とはいえ、私は第二王子殿下との顔合わせ前。今回の訪問だってグレーゾーンだ。
「その点なら問題ない」
カタン、と乾いた音をさせて、リーファイ様が椅子から立ち上がった。
「あいつは最初から、こうなることを見越してたみたいだ。こんな風に手のひらの上で踊らされるのは癪だけど――」
私の横で膝をついたリーファイ様が、私の右手からそっと箸を外して横に置いた。
そのまま右手を軽く握りこまれる。
レンズ越しの三白眼が柔らかく細められ、その唇から優しい声が零れた。
「グウェン、俺のモノになってくれないか?」
はて?
なにがどうしてそうなった?!
そんでもって、手ぇ!
しかも何ですか、いきなりの名前呼び捨て。
待って、心臓が持たない。
「俺じゃダメだろうか?」
「あ、あの……?!」
「俺は公爵家の人間だけど、三男だ。もちろん、婿入りも可能だ。ですよね、父上?」
リーファイ様の目線を追えば、鷹揚に頷かれる公爵様。
「キミは最初から、俺を奇異の目で見なかったよね?会話してもその印象は変わらなかった。むしろ、俺は好印象を持った。遠国料理に精通していて、しかも料理上手」
まぁ、前世日本人ですし。
お米と黒髪メガネ男子大好きっ子ですし。
好みのイケメガネにお願いされれば、そりゃ、ご飯何てなんぼでも作ったりますわ!!
「むしろ、俺にとって、惚れるなって方が無理だよ!もし、キミさえよければ、俺と婚にゃくしっ……」
あ、噛んだ。
リーファイ様は真っ赤になって、口元を片手で覆い隠した。
兄上たちは爆笑し、公爵様はわざとらしい咳払いをして肩の震えを誤魔化していた。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる