あの子で始まり、私で終わる

ainsel

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 幼かった私の療養は数か月かかった。
 無数の傷に残るほどの物はなく、痣もいつしかきれいに消えた。痩せて骨が浮き出た体も栄養を考慮した食事、たっぷりの睡眠のおかげで肉もつき、そのうち年齢相応の成長も始まるだろう。

 体力的に健康になったところで、魔法の訓練が始まった。
 黒魔法を発現したとはいえ、身内にある強大な力を制御できなければ意味がない。もともと座学は寝る間も惜しんでやらされていた。恐怖と必要にかられながらも身につけた。基礎はある、ついでにわたしはなかなか優秀だったらしく、あっという間に黒魔法も自在に使いこなせるようになった。

 黒魔法――別名、闇魔法とも呼ばれる魔法は、主に人の精神に影響を及ぼす。意のままに精神を操り、人格さえ崩壊させる。本来なら忌避されるものだが、ブレア家は王家によって手厚く保護されている。祖先が結んだ盟約と言う縛りのおかげで、ブレア家の黒魔法は王家の血筋には効果がない。反逆することのない、王家にとって便利に使える駒だった。いわゆる、ブレア家は王家の暗部としての役割を担っている。黒魔法を発現させてから、その話も聞かされた。

 ぎこちなくも、少しずつ。
 私と両親はそれなりに『普通の』家族のような関係を築いていった。会えば挨拶をし、ともに食事をし、たまには茶をたしなみながら会話をする。両親からはたくさんの贈り物をもらった。私を笑顔で褒めてくれることも多くなった。
 たまにあの過去は夢だったのでは、と思うような日々。

 あの子の欲していたこと。
 求めて、求めて、でも決して手に入らなかったもの。
 それを今、享受しているのは私。

 寂しく、一人ぼっちで消えてしまったあの子。
 どこにいるのだろう。
 今、このぬるま湯のような安寧を知らせる術もない。

「ここに帰ってきたい?」

 虚空に問うても、応えはないとわかっている。
 私が奪ったあの子の居場所。
 あの子がたどり着けなかった未来。
 今なら、戻りたいと思ってくれる……?

 応えはない。
 だけど、私の心の奥に澱のように重なって沈んでいる感情。
 これは私のものではない。
 あの子が残してくれたもの。
 あの子が生きて、感じて来た証。
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