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第3章 松陰密航
10 晋作、帰萩する
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安政元(一八五四)年十二月、江戸の桜田藩邸で約十一ヶ月もの時を過ごした晋作は、膨大な『武学拾粋』の内容を全て写本することに成功していた。
「はは! やったぞ! 一年近くかかってしもうたが遂に『武学拾粋』の内容を全て写本することができた! じゃがせっかく江戸に来ることができたのに、一度も藩邸から出ることなく萩へ帰らねばならぬのはまっこと心残りじゃのう……」
この年、晋作の祖父である又兵衛が藩の役を辞して隠居し、その祖父が晋作の身を案じて彼宛に帰萩するよう手紙を出したため、晋作は一人江戸を去らねばならなかった。
晋作が江戸を去る当日、雪の中を品川宿まで小忠太が見送りにやって来って、餞別の言葉を送った。
「ええか、晋作。爺様の文にはお前の身を案じてとあったが爺様はもう七十近いお年、恐らく自分がいつまで生きておられるか分からぬ故、お前を側に置いておきたいとゆうのが本音じゃろう。本来は子である儂が爺様のお側におらねばならぬのじゃが、江戸におられる若殿様の奥番頭を務めちょる以上、江戸を離れることは敵わぬ。儂のかわりに爺様のことをよろしく頼むぞ」
「もちろんであります、父上。父上にかわり私が爺様の面倒を見申し上げますのでどうかご安心下さい」
晋作は小忠太の申し出を承諾すると、背中にかけていた笠を頭に被り、一人寒空の中を歩き始めた。
「はは! やったぞ! 一年近くかかってしもうたが遂に『武学拾粋』の内容を全て写本することができた! じゃがせっかく江戸に来ることができたのに、一度も藩邸から出ることなく萩へ帰らねばならぬのはまっこと心残りじゃのう……」
この年、晋作の祖父である又兵衛が藩の役を辞して隠居し、その祖父が晋作の身を案じて彼宛に帰萩するよう手紙を出したため、晋作は一人江戸を去らねばならなかった。
晋作が江戸を去る当日、雪の中を品川宿まで小忠太が見送りにやって来って、餞別の言葉を送った。
「ええか、晋作。爺様の文にはお前の身を案じてとあったが爺様はもう七十近いお年、恐らく自分がいつまで生きておられるか分からぬ故、お前を側に置いておきたいとゆうのが本音じゃろう。本来は子である儂が爺様のお側におらねばならぬのじゃが、江戸におられる若殿様の奥番頭を務めちょる以上、江戸を離れることは敵わぬ。儂のかわりに爺様のことをよろしく頼むぞ」
「もちろんであります、父上。父上にかわり私が爺様の面倒を見申し上げますのでどうかご安心下さい」
晋作は小忠太の申し出を承諾すると、背中にかけていた笠を頭に被り、一人寒空の中を歩き始めた。
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