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第十四話 予定のない放課後

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「さてと……、先輩を見送ったはいいけどこの後どうしようか?特に予定とかもないし、ちょっと寄り道でもして帰ろうかな?」


 三葉先輩を見送った後、俺は放課後の予定を考えつつ校舎を後にする。


 先程、三葉先輩をなんとか先生の手伝いの方に向かわせて、自分はどうしようかとこの後の予定を考えようとしてーー苦笑した。

 麗奈の事で頭が一杯だった昨日までの俺は、ただ当たり前のように生徒会室、もしくは麗奈の在籍している1-Aに向かうというのがいつもの習慣だった。

 しかし麗奈と別れ、昼休みの誘いをも断った今となっては……、それをする必要もその権利すらもう失ってしまった。

 思いがけず空いてしまった時間に、今更ながら呆然としてしまうが……、今の俺は行くあてもないのに校舎を後にしてしまった。

 今更教室に戻る事はないだろう。(先輩との一件もあって色々と面倒だし……。)


 ーーとは言え、もしそれに早めに気付いていれば、和樹にでも声を掛けて遊びに行くことも出来たのにな……。


「(……って、そういえばアイツ、今日は部活か。水、木なら多少遊べるんだがな。)」


 そのようにして、この後どこに寄り道して帰ろうかと思いながら、そのまま学校から家までの通学路を歩いているとーーシュポ!

 そんな音が俺のカバンの中で鳴り響いた。

 たぶん誰かからのLINEの着信だと思うけど、一体誰からだろう?

 俺は疑問に思い、自身のスマホのLINE画面を開くと……、通知は母さんから?


「えーと、なになに……?『アンタ雫に感謝しなさいよ?あの子朝からアンタのためって言って朝からお弁当を作ってたんだけど、肝心のアンタはそれを忘れたじゃない?
 それで帰ってきた雫にその事を伝えたんだけど、「今のお兄ちゃんだとしょうがないよ。」って言って、笑ってアンタの事を許してたのよ。でもそれじゃあ、あまりにも雫が不憫じゃない?だから、アンタ家に帰ったら絶対に雫に感謝の言葉を伝えなさいよ?』
 ーーなるほど、そうだったのか……。雫が俺の事を気遣って……。」


 予想外にも、その着信は母さんからのもので、その内容は『雫にちゃんと感謝を伝えなさい』との事だった。

 昨日の段階から随分と雫には助けられたのだが、こんな所まで色々と気を遣われていたなんて……、なんと言うべきか、本当に雫には感謝してもしきれない程だ。


「(それなのに……、わざわざ用意してくれたお弁当を忘れて来るなんて……。)」


 俺は雫への感謝と罪悪感の気持ちで一杯になり、感謝の言葉を伝えるのは当然としても、それとは別に何か雫が喜びそうな物を渡さないといけないと思った。


「(ーーちょうどこの後の予定もなかったし、雫の好物のプリンでもコンビニで買って帰るか。それもプレミアム何とかみたいな名前のそれなりに高いヤツを。)」


 俺はふと雫の好物を思い出し、感謝の言葉と共に好物のプリンを渡そうと考えた。

 そして行き先を決めた俺は、そのままその足を近くのコンビニに向けて、雫の好物のプリンを買いに行くのだった。



 ・
 ・・
 ・・・
 ・・
 ・



「らっしゃいやせぇ。」


 そんなテキトウな店員の気怠げな声がレジから聞こえてくる。

 俺は雫への贈り物のプリンを買うために、近くのコンビニまで歩いて来たのだか、店員の声を聞いて毎度ながらに思う。

 コンビニに入った時に聞こえてくるこの声は、本当に必要な掛け声なのだろうか?と。

 正直こんな風にテキトウに挨拶するくらいなら、いっその事何も言わない方が客からの評判は良いのではないか?と、そんな事を考えてしまう程だ。(テレビでその掛け声は防犯面での意味があると聞いた事もあるが。)

 たまにはちゃんと挨拶をしてくれる店員さんもいるのだが、大概はこんな風にテキトウな感じの挨拶で、今日のレジはテキトウな店員(男)のようだ。


「えーと……、たしか雫は……カラメルが苦めのプリンが好きって言ってたよな?昔『プリンのように甘い部分9割、苦い部分1割みたいな人生がいい人生なんだよ!』って謎に力説してたっけ……アイツ。その原理で言えば、俺の失恋もその1割の部分だと思えて、かなり気が楽になるな。だって、残りの9割は甘い部分になるんだから……。
 それに『甘いか苦いかはその人の感じ方、考え方次第だ!』ともアイツは言ってたよな。やっぱそう考えると、雫って昔からよく出来た奴だったんだなぁ。こんな何気ない所でも俺の事を助けてくれるなんて……。これは色んな意味でしっかりと選ばないとな。」


 俺はコンビニに入ってから雫とのそんな会話を思い出して、改めて雫がしっかりとした妹であったを実感した。

 女の子の心の成長は男よりも早いというが、雫の場合はもっと前からしっかりしていたような気がする。

 ずっと昔から俺の事を見ててくれて、その努力を評価してくれた。その上、俺の事をいつも気遣ってくれているのを実感を持って感じられる俺には、勿体無い程の妹である。

 そんな優しい妹のためにも、俺は理想のプリンを探し出す事にした。


「うーん……、どれも美味しそうには見えるんだが、どうにも種類が多過ぎるな。何か参考になるものであるばいいんだが、どうすればいいのかな?ネットで調べるのは時間が掛かりそうだし……。
 そうだ!母さんに写メを送って、それでアドバイスを貰えばいいじゃないか!そうすれば、雫の好みに出来るだけ近づけるし……、何より失敗がなさそうだ。よし!早速デザートコーナーを写真で撮って……。」


 俺はカシャリとスマホの撮影機能を使いプリンコーナー、そしてその付近のデザートコーナーなどを数枚撮影する。

 あんまり、マナーが良くない行動だとは思うが、より良い商品を購入する為の行動なので、ここは多めに見て貰いたい。

 するとその途中、ガタッと近くの棚から音が鳴ったが……、別に気にはしない。


 しかしながら、俺の撮る技術がイマイチなのか、結果的に何度かパシャパシャと撮り直す事になってしまった。

 そして1番上手く、また見やすく撮れた写真を母さんのLINEに添付して、助言を貰おうとLINEを送ろうとしていた所……。


「ちょっと、ちょっと!お客さん!勝手に商品を持って行ってしまわれたら困りますよ!そのカバンの商品まだレジを通してないでしょ?困るんですよ。そんな風に持っていかれたら……。ほら!その商品を返してもらって、事情をウラで聞きますから……、早くこっちに来てください。」


 商品棚を挟んでレジ側の場所からそんな声が聞こえて来て、先程の気怠げな店員が棚を挟んで裏側にいる誰かに声を掛けていた。

 何やら話を聞く限りでは、商品の万引きがたった今行われていたみたいだ。

 そしてそれを見つけた店員が、見咎めて直接声を掛けたようだ。


 俺は「今時、万引きなんて……。」と思って、少しだけ興味が湧き、その現場にひょこりと首だけ出して観察をする。

 ……見たところ、帽子を深くかぶった小さな女の子?が商品を万引きしたようだ。

 確かにその開いているカバンの上には、パンの袋が無造作に二つ置かれており、そこには購入済みのテープが見当たらない。


 見た所中学生かそこらの子が万引きなんて……、そこまであの子の家庭は経済状況が良くないのだろうか?

 俺はそんな風にその子の家庭状況について心配してしまったが、とは言え俺には関係のない話なので、後の処理などは店員さんに任せた方がいいだろう。


 などと、そんな事を考えていた俺は、改めて母さんに写メを送ろうとしていた写真フォルダの写真を確認しているとーーあれ?


「んっ!?あれ……、これって?」


 俺が雫へのプリンの助言を貰うため、母さんに送る用に撮ったその写真の左端にはーー


「ほら!黙ってても万引きは許されないよ!ほら、早くこっちに来て!」

「……いや!私……万引きなんてやってないです。これは……何かの間違いで……、それで……。『ちょっと待った!』……っえ?」


 店員がその少女の手を引いて、レジの奥に消えて行きそうになるのを、慌てて俺は全力で止めに入るのだった。

 ーー手には握りしめたスマホを片手に。
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