5 / 5
アナザーストーリー
しおりを挟む
ザビエルは、布教にまつわる集会での押し問答に、圧倒されるものは感じたが、庶民たちに対しては深く共感する想いもあった。
ザビエルも祖国をスペインに侵略されて、命からがら生き延びたが、大切な人達を沢山失っている。
戦国の世における、庶民たちも一緒だ。
お金の為に、楽市楽座だけでは充分な収入は得られず、足軽を志願する農民が大勢いた。
立場の低い戦闘員の命は軽い。
だが、命を賭しても守りたい家族の為に、足軽を志願する日本人には、ザビエルも畏怖の念すら覚えた。
自分は4番目の幼い無力な子供だった。二人の兄たちが今どういう立場にいるのかは分からないが、身勝手だと知りつつも、上の立場に上がって行って欲しいと願う。
本当は誰だって自分の事が一番大切なはずなのに、有事になるとなぜ一番尊いはずの命を、日本人は簡単に捨てるような行動が取れるのか?
「air.」
という単語が浮かんだ。ザビエルはスペイン語を話すはずだが、作者は簡単な英単語しか知らない。
ヘレンケラーが最初に話した単語、
「water.」
に掛けている訳だが。
日本人が何より大切にしているのは、この空気という存在なのだろう。善も悪も超越した空気という存在だ。
神の言葉通りに生きていれば、こんな世の中は秒で終わるのに、日本人は屁理屈をこねくり回す。
もっと乱暴に言ってしまえば、幸せになれない理由を必死に探しているとも言える。
とはいえ、日本人には馴染む事がほぼ不可能な、キリスト教の価値観の押し売りを続けるのも疲れたので、日本人の心に寄り添ってみることにした。
聖書も十字架も今は要らない。まずは、異国の民との日常に寄り添った。
戦国時代の町医者とはいえ、みんな漢方にはかなり詳しい。しかもわざわざ高級な品を取り寄せる事は滅多になく、その辺に生えている草の中から薬効のあるものを常に集めていた。
未病という概念も持っていた。患う前の食養生だ。日本人は中国伝来の東洋医学を日本流にアレンジして、手持ちの物で上手に病気予防をしていた。
ザビエルも未病という概念を日本で初めて聞いた。それは、西洋医学ではあまり語られていない事だった。
中国伝来と聞いたので、日本での布教活動が終わったら、中国に行って、西洋医学では補えない知識を得たいという新たな目標が生まれた。
そして、日本人の衛生管理の徹底ぶりにも驚いた。
厠という名の場所があり、排せつ物を垂れ流そうとした時に、
「ここでしなさい!」
と、えらく叱られたが、ヨーロッパでは排せつ物の管理が杜撰なので、感染症のパンデミックが日常茶飯事だ。当時のヨーロッパは、いつも死と隣り合わせだが、日本には排せつ物を纏めて流す場所があった。
それは、もうかなり古くから存在し、昔の人はおまるという、携帯用トイレを自室に置いて、そこに用を足して畑の肥料にしていた。
ついでに言えば、そこに溜まった汚物を、嫌いな奴の部屋に、ぶちまけていたりもした。これも、
「モテる女は死ねば良い。」
という、善悪を越えた空気から発生しての事だ。
この習性だけは本当にどうにかして欲しいものだが。そのせいか、大人用おまるは廃れて、乳幼児専用の物になって行った。
おまるが厠に進化したお陰で、そういう嫌がらせもなくなった。そして、厠があるので、街中の空気はいつもきれいだ。微かな花の匂いさえ、ザビエルの鼻をくすぐった。
ザビエルは、教義教理の押し付けを辞めて、庶民の心に寄り添ううちに、段々と大切なものに気が付いた。そして、日本が大好きになった。
今回の活動においては、宣教師としての課題が、山積なのは分かったが、日本人の国民性には学ぶべきものが沢山あったし、愛すべき世界の仲間達だと思った。
ザビエルの旅は終わりを告げたが、彼の遺した足跡は今も色褪せることなく、多くの人々に影響を与え続けている。彼の愛と献身は、時を超えて現代の私たちにも届き、異文化理解と共感の大切さを教えてくれる。
彼が日本で感じたこと、学んだこと、そして愛したことは、今もなお、私たちの心の中で生き続けている。
彼の死後数百年が経ち、世界は大きく変わった。しかし、ザビエルが示した寛容と理解の精神は、今日のグローバル化した社会においても、ますます重要な意味を持っている。
彼の日本での経験は、異なる文化間の架け橋となり、互いの違いを超えた、人間同士の絆を築くためのモデルとなっている。
そして、彼の記念日である12月3日は、私たちにとって、異文化交流の価値を再認識し、世界中の人々との平和と友好を願う日となっている。ザビエルの精神は、未来へと続く希望の光として、永遠に輝き続けるだろう。
おしまい。
ザビエルも祖国をスペインに侵略されて、命からがら生き延びたが、大切な人達を沢山失っている。
戦国の世における、庶民たちも一緒だ。
お金の為に、楽市楽座だけでは充分な収入は得られず、足軽を志願する農民が大勢いた。
立場の低い戦闘員の命は軽い。
だが、命を賭しても守りたい家族の為に、足軽を志願する日本人には、ザビエルも畏怖の念すら覚えた。
自分は4番目の幼い無力な子供だった。二人の兄たちが今どういう立場にいるのかは分からないが、身勝手だと知りつつも、上の立場に上がって行って欲しいと願う。
本当は誰だって自分の事が一番大切なはずなのに、有事になるとなぜ一番尊いはずの命を、日本人は簡単に捨てるような行動が取れるのか?
「air.」
という単語が浮かんだ。ザビエルはスペイン語を話すはずだが、作者は簡単な英単語しか知らない。
ヘレンケラーが最初に話した単語、
「water.」
に掛けている訳だが。
日本人が何より大切にしているのは、この空気という存在なのだろう。善も悪も超越した空気という存在だ。
神の言葉通りに生きていれば、こんな世の中は秒で終わるのに、日本人は屁理屈をこねくり回す。
もっと乱暴に言ってしまえば、幸せになれない理由を必死に探しているとも言える。
とはいえ、日本人には馴染む事がほぼ不可能な、キリスト教の価値観の押し売りを続けるのも疲れたので、日本人の心に寄り添ってみることにした。
聖書も十字架も今は要らない。まずは、異国の民との日常に寄り添った。
戦国時代の町医者とはいえ、みんな漢方にはかなり詳しい。しかもわざわざ高級な品を取り寄せる事は滅多になく、その辺に生えている草の中から薬効のあるものを常に集めていた。
未病という概念も持っていた。患う前の食養生だ。日本人は中国伝来の東洋医学を日本流にアレンジして、手持ちの物で上手に病気予防をしていた。
ザビエルも未病という概念を日本で初めて聞いた。それは、西洋医学ではあまり語られていない事だった。
中国伝来と聞いたので、日本での布教活動が終わったら、中国に行って、西洋医学では補えない知識を得たいという新たな目標が生まれた。
そして、日本人の衛生管理の徹底ぶりにも驚いた。
厠という名の場所があり、排せつ物を垂れ流そうとした時に、
「ここでしなさい!」
と、えらく叱られたが、ヨーロッパでは排せつ物の管理が杜撰なので、感染症のパンデミックが日常茶飯事だ。当時のヨーロッパは、いつも死と隣り合わせだが、日本には排せつ物を纏めて流す場所があった。
それは、もうかなり古くから存在し、昔の人はおまるという、携帯用トイレを自室に置いて、そこに用を足して畑の肥料にしていた。
ついでに言えば、そこに溜まった汚物を、嫌いな奴の部屋に、ぶちまけていたりもした。これも、
「モテる女は死ねば良い。」
という、善悪を越えた空気から発生しての事だ。
この習性だけは本当にどうにかして欲しいものだが。そのせいか、大人用おまるは廃れて、乳幼児専用の物になって行った。
おまるが厠に進化したお陰で、そういう嫌がらせもなくなった。そして、厠があるので、街中の空気はいつもきれいだ。微かな花の匂いさえ、ザビエルの鼻をくすぐった。
ザビエルは、教義教理の押し付けを辞めて、庶民の心に寄り添ううちに、段々と大切なものに気が付いた。そして、日本が大好きになった。
今回の活動においては、宣教師としての課題が、山積なのは分かったが、日本人の国民性には学ぶべきものが沢山あったし、愛すべき世界の仲間達だと思った。
ザビエルの旅は終わりを告げたが、彼の遺した足跡は今も色褪せることなく、多くの人々に影響を与え続けている。彼の愛と献身は、時を超えて現代の私たちにも届き、異文化理解と共感の大切さを教えてくれる。
彼が日本で感じたこと、学んだこと、そして愛したことは、今もなお、私たちの心の中で生き続けている。
彼の死後数百年が経ち、世界は大きく変わった。しかし、ザビエルが示した寛容と理解の精神は、今日のグローバル化した社会においても、ますます重要な意味を持っている。
彼の日本での経験は、異なる文化間の架け橋となり、互いの違いを超えた、人間同士の絆を築くためのモデルとなっている。
そして、彼の記念日である12月3日は、私たちにとって、異文化交流の価値を再認識し、世界中の人々との平和と友好を願う日となっている。ザビエルの精神は、未来へと続く希望の光として、永遠に輝き続けるだろう。
おしまい。
1
お気に入りに追加
4
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
劉禅が勝つ三国志
みらいつりびと
歴史・時代
中国の三国時代、炎興元年(263年)、蜀の第二代皇帝、劉禅は魏の大軍に首府成都を攻められ、降伏する。
蜀は滅亡し、劉禅は幽州の安楽県で安楽公に封じられる。
私は道を誤ったのだろうか、と後悔しながら、泰始七年(271年)、劉禅は六十五歳で生涯を終える。
ところが、劉禅は前世の記憶を持ったまま、再び劉禅として誕生する。
ときは建安十二年(207年)。
蜀による三国統一をめざし、劉禅のやり直し三国志が始まる。
第1部は劉禅が魏滅の戦略を立てるまでです。全8回。
第2部は劉禅が成都を落とすまでです。全12回。
第3部は劉禅が夏候淵軍に勝つまでです。全11回。
第4部は劉禅が曹操を倒し、新秩序を打ち立てるまで。全8回。第39話が全4部の最終回です。
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
千姫物語~大坂の陣篇~
翔子
歴史・時代
戦国乱世の真っ只中。
慎ましく、強く生きた姫がいた。
その人の名は『千姫』
徳川に生まれ、祖父の謀略によって豊臣家へ人質同然に嫁ぐ事となった。
伯母であり、義母となる淀殿との関係に軋轢が生じるも、夫・豊臣秀頼とは仲睦まじく暮らした。
ところが、それから数年後、豊臣家と徳川家との間に大きな確執が生まれ、半年にも及ぶ大戦・「大坂の陣」が勃発し、生家と婚家の間で板挟みに合ってしまう。
これは、徳川家に生まれ、悲劇的な運命を歩んで参った一人の姫が、女としての幸福を探す波乱万丈の物語である。
*この話は史実を元にしたフィクションです。
マルチバース豊臣家の人々
かまぼこのもと
歴史・時代
1600年9月
後に天下人となる予定だった徳川家康は焦っていた。
ーーこんなはずちゃうやろ?
それもそのはず、ある人物が生きていたことで時代は大きく変わるのであった。
果たして、この世界でも家康の天下となるのか!?
そして、豊臣家は生き残ることができるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
タイトル勝ちな上におふざけ感があって楽しい作品ですね(^^)続きもお待ちしております✨