我の名はザビエル

由理実

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アナザーストーリー

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ザビエルは、布教にまつわる集会での押し問答に、圧倒されるものは感じたが、庶民たちに対しては深く共感する想いもあった。

ザビエルも祖国をスペインに侵略されて、命からがら生き延びたが、大切な人達を沢山失っている。
戦国の世における、庶民たちも一緒だ。
お金の為に、楽市楽座だけでは充分な収入は得られず、足軽を志願する農民が大勢いた。


だが、命を賭しても守りたい家族の為に、足軽を志願する日本人には、ザビエルも畏怖の念すら覚えた。

自分は4番目の幼い無力な子供だった。二人の兄たちが今どういう立場にいるのかは分からないが、身勝手だと知りつつも、上の立場に上がって行って欲しいと願う。

本当は誰だって自分の事が一番大切なはずなのに、有事になるとなぜ一番尊いはずの命を、日本人は簡単に捨てるような行動が取れるのか?
「air.」
という単語が浮かんだ。ザビエルはスペイン語を話すはずだが、作者は簡単な英単語しか知らない。

ヘレンケラーが最初に話した単語、
「water.」
に掛けている訳だが。
日本人が何より大切にしているのは、この空気という存在なのだろう。善も悪も超越した空気という存在だ。

神の言葉通りに生きていれば、こんな世の中は秒で終わるのに、日本人は屁理屈をこねくり回す。
もっと乱暴に言ってしまえば、幸せになれない理由を必死に探しているとも言える。

とはいえ、日本人には馴染む事がほぼ不可能な、キリスト教の価値観の押し売りを続けるのも疲れたので、日本人の心に寄り添ってみることにした。
聖書も十字架も今は要らない。まずは、異国の民との日常に寄り添った。

戦国時代の町医者とはいえ、みんな漢方にはかなり詳しい。しかもわざわざ高級な品を取り寄せる事は滅多になく、その辺に生えている草の中から薬効のあるものを常に集めていた。

未病という概念も持っていた。患う前の食養生だ。日本人は中国伝来の東洋医学を日本流にアレンジして、手持ちの物で上手に病気予防をしていた。

ザビエルも未病という概念を日本で初めて聞いた。それは、西洋医学ではあまり語られていない事だった。
中国伝来と聞いたので、日本での布教活動が終わったら、中国に行って、西洋医学では補えない知識を得たいという新たな目標が生まれた。

そして、日本人の衛生管理の徹底ぶりにも驚いた。
厠という名の場所があり、排せつ物を垂れ流そうとした時に、
「ここでしなさい!」
と、えらく叱られたが、ヨーロッパでは排せつ物の管理が杜撰なので、感染症のパンデミックが日常茶飯事だ。当時のヨーロッパは、いつも死と隣り合わせだが、日本には排せつ物を纏めて流す場所があった。

それは、もうかなり古くから存在し、昔の人はおまるという、携帯用トイレを自室に置いて、そこに用を足して畑の肥料にしていた。
ついでに言えば、そこに溜まった汚物を、嫌いな奴の部屋に、ぶちまけていたりもした。これも、
「モテる女は死ねば良い。」
という、善悪を越えた空気から発生しての事だ。
この習性だけは本当にどうにかして欲しいものだが。そのせいか、大人用おまるは廃れて、乳幼児専用の物になって行った。

おまるが厠に進化したお陰で、そういう嫌がらせもなくなった。そして、厠があるので、街中の空気はいつもきれいだ。微かな花の匂いさえ、ザビエルの鼻をくすぐった。

ザビエルは、教義教理の押し付けを辞めて、庶民の心に寄り添ううちに、段々と大切なものに気が付いた。そして、日本が大好きになった。
今回の活動においては、宣教師としての課題が、山積なのは分かったが、日本人の国民性には学ぶべきものが沢山あったし、愛すべき世界の仲間達だと思った。

ザビエルの旅は終わりを告げたが、彼の遺した足跡は今も色褪せることなく、多くの人々に影響を与え続けている。彼の愛と献身は、時を超えて現代の私たちにも届き、異文化理解と共感の大切さを教えてくれる。
彼が日本で感じたこと、学んだこと、そして愛したことは、今もなお、私たちの心の中で生き続けている。

彼の死後数百年が経ち、世界は大きく変わった。しかし、ザビエルが示した寛容と理解の精神は、今日のグローバル化した社会においても、ますます重要な意味を持っている。

彼の日本での経験は、異なる文化間の架け橋となり、互いの違いを超えた、人間同士の絆を築くためのモデルとなっている。

そして、彼の記念日である12月3日は、私たちにとって、異文化交流の価値を再認識し、世界中の人々との平和と友好を願う日となっている。ザビエルの精神は、未来へと続く希望の光として、永遠に輝き続けるだろう。
おしまい。
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みんなの感想(1件)

おうぎまちこ(あきたこまち)

タイトル勝ちな上におふざけ感があって楽しい作品ですね(^^)続きもお待ちしております✨

解除

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