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比丘尼塚伝説編⑬
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「えっ……。じゃあやっぱり私は地球を征服するために送り込まれた野菜の国の―――――――」
「違う!」
食いぎみに突っ込まずともわかります。
冗談冗談。
「お前な…………だから真剣に………」
「ごめんごめん」
疲れた顔で肩を落とす源太郎の肩をぽんと叩く。
「もしかしてあれ?源太郎も私の事を女神様だとか言っちゃう派?え~ッと、ヒメ神だっけ」
「何…………?」
「え?違う??」
あれ、話の流れ的に絶対そうだと思ったのだが。
こてんと首をかしげれば、その首をぐいっと無理やり戻され、真正面から源太郎としばし見つめあう。
「”ヒメガミ”ってのは何だ?」
「むしろそれを私が聞きたい。そっちの業界用語とかなんかじゃないの?」
龍一からも一応説明はされたが、イマイチ理解はできなかった。
ヒメガミ、秘め神、姫神。
高瀬としては総じて理解不能。
なんのこっちゃな話だ。
「…つまり、こっちの同業者の誰かにそう言われたってことか?」
「まぁ、そんな感じ。四乃森龍一って知ってる?」
「…知ってるもなにも、そいつは……」
「あ、やっぱ有名なんだ」
苦々しいその表情を見るだけで、源太郎が龍一をどう思っているのかの想像は容易につく。
今の彼の表情を言葉にするのなら、「また面倒くさいやつを釣り上げやがって」だ。
説明しろと迫られるのも面倒なので、「まぁ、詳しい話は後でね、後で」と適当にお茶を濁す。
「四乃森……それにヒメガミ、か」
小さく呟き、難しい顔で黙り込んでしまった源太郎。
その二つに共通する何かに心当たりでもあるのだろうか。
表情から察するに、あまり高瀬にとって楽しい話題ではなさそうだ。
「で、それはともかくそっちとは違うなら一体―――――」
人間じゃないってどういう意味よ?と。
言葉の真意を尋ねようとしたその時。
ガサガサガササッ……………!!!!
ザクザクザクッ…………。
明らかな人の気配。
続いて聞こえた足音に思わず気配を殺し、さっと源太郎の背中に隠れる。
「………………のあたりであっとるはずやんな?」
「…………何、お前マジでビビりまくってんの?ウケるわ!!」
あはははは、と。
少し離れた場所から微かに聞こえてくるのは二人分の話し声。
訛りのある、独特なイントネーションのやりとりには所々笑いがまじっている。
「……………あいつら」
「知り合い?」
あからさまな舌打ちを見せた源太郎。
そういえばどこかで聞いたことのある声のような気も………。
「番組の出演者だ。ロケのリポーター役で雇われた若手の芸人の」
「お~!!」
その説明に納得。
ぽんと拳を叩く。
民放のバラエティ番組と言えば、賑やかしの芸人が付き物。
なるほど、だから関西弁。
聞き覚えがある気がしたのは芸能人だったからか。
「どれどれ…………?」
顔が見えないかと源太郎を盾にしつつ声のした方を覗こうとする高瀬だったが、すぐに源太郎から頭を叩かれて無言のまま背後へ押し戻された。
大人しくしていろと言うことらしい。
「芸人なんてどうでもいいだろ。お前は出てくるな」
「え~っ」
ちぇっと地面の石を蹴るふりだけしつつ、「顔くらいいいじゃん」と拗ねる演技を見せる高瀬。
竜児の手先である源太郎はともかくとして、TV局側が用意した人間に、こちら側から不用意に接触するのも得策
ではないだろう。
源太郎の忠告はもっともなのだが、高瀬本人としては強引に巻き込まれた割に蚊帳の外のようで面白くない。
というか、ここに隠れていても話は進まないと思うのだが、源太朗はこれからどうするつもりなのだろうか。
これから何が起こるかはわからないが、下手に一般人が巻き添えになったらまずい。
源太郎ならば彼らをうまく追い返すことも可能だと思うのだが、本人の思惑はまた別なようで。
「あいつらは好きでここまで来たんだ、なにが起ころうと自己責任だろ。
俺にあいつらの面倒を見る義務はない」
「ってことはまさかの静観?」
「そうだ。最初に言っておくが、これからあいつらの身になにが起ころうとお前は出て行くなよ、及川」
「?なんで」
目の前で何が起こっても見捨てろと言っているも同然のセリフに首を傾げるが、源太郎からの返答には身も蓋もなく。
「お前が関わると余計な面倒が増える」
ーーーはっきり身に覚えがあるだけに、反論のしようがない。
だが、とりあえずなんだかイラっとしたので、無言のまま「エイやっ」と源太郎の背中に蹴りいれる高瀬。
墨染の袈裟に小さな靴跡がはっきり付いたのを見て「本物のガキかよお前は…」と源太朗がため息混じりに汚れを払う。
「……そもそもまだ何か起こると確定したわけじゃねぇ。
ただの様子見だ、様子見」
「んじゃ、あの人たちの身に何か起こったら?」
「見捨てて逃げるに決まってんだろ」
冷酷無比なまでの即答だった。
流石にそれは聖職者としてどうかと高瀬も胡乱な目を向けるも、源太郎はむしろそれのどこが悪いと開き直った様子。
「緊急避難、って言葉を後で辞書で調べてみろ」
「それって確か自分が助かるためなら他人を犠牲にしてもやむなしってやつでしょ」
「知ってるならおとなしく黙って見てろ」
「鬼か!」
だがまぁ、確かに源太郎の言うとおり、今の段階ではまだ必ず何かが起こると決まっているわけではなし、様子を見るというのもありかも知れない。
しかし、だ。
源太郎のいる高瀬からは彼らの姿が視認できているのかもしれないが、それよりも低い位置にいる高瀬からは、全くと言っていいほど彼らの姿が視界に入らない。
むしろ源太郎に邪魔をされて影すらも見えない有様だ。
こうなったら仕方ない。
「よし、じゃあ源太朗、おんぶ」
「嫌だ」
「しょうがないな、なら肩車で」
「…・勝手に背中によじ登るなっ!!降りろっ!!!」
「ぶーーー!!!」
べとっと源太郎の背中に張り付き、おんぶおばけと貸す高瀬。
もちろん小声でのやりとりだが、物音は少し離れた場所にいる彼らにも聞こえたらしい。
「おい!!今なんや変な音がせぇへんかったか?」
「どうせなんかの動物やろうけど……。念の為にカメラ回しとくか」
ピッ、という音が聞こえたところを見ると、言葉通りどうやらスマホかなにかの動画スイッチが入ったようだ。
これで余計に、迂闊な行動はできなくなった。
背中から引き剥がされ、「だから静かにしろといったろ!」と頭にげんこつを喰らった高瀬。
霊体なので痛くない、と言いたいところだが、生憎これが普通に痛い。
後で竜児に言いつけてやると、こっそり卑怯な復讐計画を立てながら、ふと高瀬は気づいた。
ーーーーーーーあれ?よく考えたら、今の私って霊体じゃん。
周囲を見える人間ばかりに囲まれていたせいですっかり忘れられ気味だが、霊感のある人間にしか今の幼女姿は見えないはず。
………と、いうことは?
もしかすると、真正面から彼らの前に出て行ったところで、全然大丈夫だったりするのではなかろうか。
「ねぇ、源太朗……」
「動くな」
「まだ何も言ってないのにっつ!!!」
「言わなくても顔に書いてあるんだ、お前の場合はっ!!」
「!?」
ペタペタと顔を触る高瀬に、はぁと溜息を吐きつつ「いいか?」と再び説教モードの源太朗。
「お前をここにおびき寄せた奴がいるのを忘れたのか。
たとえあいつらにお前が見えなくとも、お前をここに引きずり込んだやつがお前の事をーーーーーーーーー」
リィィィィン…………。
見逃すはずが、ないだろうと。
そう告げようとしたはずの源太郎の言葉が、途中でぷつりと立ち消えた。
会話の合間、確かに聞こえたその音に、顔を見合わせて沈黙する二人。
リィィン、と、もう一度はっきりと聞こえたその音に、呼吸を止めて聞き入る。
そしてその音を聞いていたのは、当然ながら高瀬達だけではなかった。
「……なんやこの音?熊よけ鈴か?」
「わいらの他にも抜けがけ組でもおったかな?」
「せやったら合流してもうたほうが早いんちゃうの?」
「せやけど、番組のADやったら面倒なことになるで」
「下見しとったとでも言えばええやんけ」
「それもそやな」
人外の存在など頭にもない芸人ふたりは、その音を誰かが近づいてきた音と勘違いし、「おーい、ここやここ!」と音が聞こえた方角へと手を振る始末。
楽天的にも程がある考え方だが、それが本当であったならどれだけ嬉しいことか。
「…………ここでADさん登場、なぁんてオチになる可能性は?」
なけなしの可能性を信じて口にした高瀬の言葉に、源太郎が呆れたように「ないな」と言葉を返そうとした刹那。
「あははははっはははははっはははははははは!!!!」
「「う、うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」」
聞こえたの若い男の悲鳴。
驚きながらも何が起こったのかと強引に源太郎の背中によじ登った高瀬は、それを見た瞬間、声をなくした。
悲鳴の前に聞こえた、けたたましい笑い声の、その正体。
視界いっぱいに広がった、長く、それでいてまるで蜘蛛の糸のように細い黒髪。
その黒髪に簀巻きにされた若い男二人組が、既に意識を失った様子でだらりと腕を投げ出しながら吊るされるように宙に浮いている。
その中心にいるのは、先程までは確かに姿の見えなかった尼僧姿の一人の女。
口元を袈裟の袖で隠しているが、その口元が笑っているのは遠目に見てもわかる。
本来であれば、尼僧は出家をする際に髪を剃るか短く切るのが習わし。
その髪の代わりとして、帽子と呼ばれる白い被り物をかぶるのが正しい尼僧の正装だが、目の前にいる尼僧の帽子はすっかりはだけ、その下からは真っ黒な長い黒髪が漂うように地面へと伸びている。
オカルト現象には慣れてきたつもりだったが、これはまるでーーーーーー。
「源太朗、今すぐ二次元からゲゲゲの鬼○郎呼んできて」
「………現実逃避すんのは諦めろ、及川」
「だってほら、諦めたらそこで試合終了って言うしっ」
「むしろ現実を見ないとあいつら二人の人生が終わるな、今ここで」
「怖いこと言わないでっつ!!」
怨霊とか祟りとかじゃなく、あれはどう見ても人あらざるもの。
妖怪にしか、見えなかった。
「違う!」
食いぎみに突っ込まずともわかります。
冗談冗談。
「お前な…………だから真剣に………」
「ごめんごめん」
疲れた顔で肩を落とす源太郎の肩をぽんと叩く。
「もしかしてあれ?源太郎も私の事を女神様だとか言っちゃう派?え~ッと、ヒメ神だっけ」
「何…………?」
「え?違う??」
あれ、話の流れ的に絶対そうだと思ったのだが。
こてんと首をかしげれば、その首をぐいっと無理やり戻され、真正面から源太郎としばし見つめあう。
「”ヒメガミ”ってのは何だ?」
「むしろそれを私が聞きたい。そっちの業界用語とかなんかじゃないの?」
龍一からも一応説明はされたが、イマイチ理解はできなかった。
ヒメガミ、秘め神、姫神。
高瀬としては総じて理解不能。
なんのこっちゃな話だ。
「…つまり、こっちの同業者の誰かにそう言われたってことか?」
「まぁ、そんな感じ。四乃森龍一って知ってる?」
「…知ってるもなにも、そいつは……」
「あ、やっぱ有名なんだ」
苦々しいその表情を見るだけで、源太郎が龍一をどう思っているのかの想像は容易につく。
今の彼の表情を言葉にするのなら、「また面倒くさいやつを釣り上げやがって」だ。
説明しろと迫られるのも面倒なので、「まぁ、詳しい話は後でね、後で」と適当にお茶を濁す。
「四乃森……それにヒメガミ、か」
小さく呟き、難しい顔で黙り込んでしまった源太郎。
その二つに共通する何かに心当たりでもあるのだろうか。
表情から察するに、あまり高瀬にとって楽しい話題ではなさそうだ。
「で、それはともかくそっちとは違うなら一体―――――」
人間じゃないってどういう意味よ?と。
言葉の真意を尋ねようとしたその時。
ガサガサガササッ……………!!!!
ザクザクザクッ…………。
明らかな人の気配。
続いて聞こえた足音に思わず気配を殺し、さっと源太郎の背中に隠れる。
「………………のあたりであっとるはずやんな?」
「…………何、お前マジでビビりまくってんの?ウケるわ!!」
あはははは、と。
少し離れた場所から微かに聞こえてくるのは二人分の話し声。
訛りのある、独特なイントネーションのやりとりには所々笑いがまじっている。
「……………あいつら」
「知り合い?」
あからさまな舌打ちを見せた源太郎。
そういえばどこかで聞いたことのある声のような気も………。
「番組の出演者だ。ロケのリポーター役で雇われた若手の芸人の」
「お~!!」
その説明に納得。
ぽんと拳を叩く。
民放のバラエティ番組と言えば、賑やかしの芸人が付き物。
なるほど、だから関西弁。
聞き覚えがある気がしたのは芸能人だったからか。
「どれどれ…………?」
顔が見えないかと源太郎を盾にしつつ声のした方を覗こうとする高瀬だったが、すぐに源太郎から頭を叩かれて無言のまま背後へ押し戻された。
大人しくしていろと言うことらしい。
「芸人なんてどうでもいいだろ。お前は出てくるな」
「え~っ」
ちぇっと地面の石を蹴るふりだけしつつ、「顔くらいいいじゃん」と拗ねる演技を見せる高瀬。
竜児の手先である源太郎はともかくとして、TV局側が用意した人間に、こちら側から不用意に接触するのも得策
ではないだろう。
源太郎の忠告はもっともなのだが、高瀬本人としては強引に巻き込まれた割に蚊帳の外のようで面白くない。
というか、ここに隠れていても話は進まないと思うのだが、源太朗はこれからどうするつもりなのだろうか。
これから何が起こるかはわからないが、下手に一般人が巻き添えになったらまずい。
源太郎ならば彼らをうまく追い返すことも可能だと思うのだが、本人の思惑はまた別なようで。
「あいつらは好きでここまで来たんだ、なにが起ころうと自己責任だろ。
俺にあいつらの面倒を見る義務はない」
「ってことはまさかの静観?」
「そうだ。最初に言っておくが、これからあいつらの身になにが起ころうとお前は出て行くなよ、及川」
「?なんで」
目の前で何が起こっても見捨てろと言っているも同然のセリフに首を傾げるが、源太郎からの返答には身も蓋もなく。
「お前が関わると余計な面倒が増える」
ーーーはっきり身に覚えがあるだけに、反論のしようがない。
だが、とりあえずなんだかイラっとしたので、無言のまま「エイやっ」と源太郎の背中に蹴りいれる高瀬。
墨染の袈裟に小さな靴跡がはっきり付いたのを見て「本物のガキかよお前は…」と源太朗がため息混じりに汚れを払う。
「……そもそもまだ何か起こると確定したわけじゃねぇ。
ただの様子見だ、様子見」
「んじゃ、あの人たちの身に何か起こったら?」
「見捨てて逃げるに決まってんだろ」
冷酷無比なまでの即答だった。
流石にそれは聖職者としてどうかと高瀬も胡乱な目を向けるも、源太郎はむしろそれのどこが悪いと開き直った様子。
「緊急避難、って言葉を後で辞書で調べてみろ」
「それって確か自分が助かるためなら他人を犠牲にしてもやむなしってやつでしょ」
「知ってるならおとなしく黙って見てろ」
「鬼か!」
だがまぁ、確かに源太郎の言うとおり、今の段階ではまだ必ず何かが起こると決まっているわけではなし、様子を見るというのもありかも知れない。
しかし、だ。
源太郎のいる高瀬からは彼らの姿が視認できているのかもしれないが、それよりも低い位置にいる高瀬からは、全くと言っていいほど彼らの姿が視界に入らない。
むしろ源太郎に邪魔をされて影すらも見えない有様だ。
こうなったら仕方ない。
「よし、じゃあ源太朗、おんぶ」
「嫌だ」
「しょうがないな、なら肩車で」
「…・勝手に背中によじ登るなっ!!降りろっ!!!」
「ぶーーー!!!」
べとっと源太郎の背中に張り付き、おんぶおばけと貸す高瀬。
もちろん小声でのやりとりだが、物音は少し離れた場所にいる彼らにも聞こえたらしい。
「おい!!今なんや変な音がせぇへんかったか?」
「どうせなんかの動物やろうけど……。念の為にカメラ回しとくか」
ピッ、という音が聞こえたところを見ると、言葉通りどうやらスマホかなにかの動画スイッチが入ったようだ。
これで余計に、迂闊な行動はできなくなった。
背中から引き剥がされ、「だから静かにしろといったろ!」と頭にげんこつを喰らった高瀬。
霊体なので痛くない、と言いたいところだが、生憎これが普通に痛い。
後で竜児に言いつけてやると、こっそり卑怯な復讐計画を立てながら、ふと高瀬は気づいた。
ーーーーーーーあれ?よく考えたら、今の私って霊体じゃん。
周囲を見える人間ばかりに囲まれていたせいですっかり忘れられ気味だが、霊感のある人間にしか今の幼女姿は見えないはず。
………と、いうことは?
もしかすると、真正面から彼らの前に出て行ったところで、全然大丈夫だったりするのではなかろうか。
「ねぇ、源太朗……」
「動くな」
「まだ何も言ってないのにっつ!!!」
「言わなくても顔に書いてあるんだ、お前の場合はっ!!」
「!?」
ペタペタと顔を触る高瀬に、はぁと溜息を吐きつつ「いいか?」と再び説教モードの源太朗。
「お前をここにおびき寄せた奴がいるのを忘れたのか。
たとえあいつらにお前が見えなくとも、お前をここに引きずり込んだやつがお前の事をーーーーーーーーー」
リィィィィン…………。
見逃すはずが、ないだろうと。
そう告げようとしたはずの源太郎の言葉が、途中でぷつりと立ち消えた。
会話の合間、確かに聞こえたその音に、顔を見合わせて沈黙する二人。
リィィン、と、もう一度はっきりと聞こえたその音に、呼吸を止めて聞き入る。
そしてその音を聞いていたのは、当然ながら高瀬達だけではなかった。
「……なんやこの音?熊よけ鈴か?」
「わいらの他にも抜けがけ組でもおったかな?」
「せやったら合流してもうたほうが早いんちゃうの?」
「せやけど、番組のADやったら面倒なことになるで」
「下見しとったとでも言えばええやんけ」
「それもそやな」
人外の存在など頭にもない芸人ふたりは、その音を誰かが近づいてきた音と勘違いし、「おーい、ここやここ!」と音が聞こえた方角へと手を振る始末。
楽天的にも程がある考え方だが、それが本当であったならどれだけ嬉しいことか。
「…………ここでADさん登場、なぁんてオチになる可能性は?」
なけなしの可能性を信じて口にした高瀬の言葉に、源太郎が呆れたように「ないな」と言葉を返そうとした刹那。
「あははははっはははははっはははははははは!!!!」
「「う、うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」」
聞こえたの若い男の悲鳴。
驚きながらも何が起こったのかと強引に源太郎の背中によじ登った高瀬は、それを見た瞬間、声をなくした。
悲鳴の前に聞こえた、けたたましい笑い声の、その正体。
視界いっぱいに広がった、長く、それでいてまるで蜘蛛の糸のように細い黒髪。
その黒髪に簀巻きにされた若い男二人組が、既に意識を失った様子でだらりと腕を投げ出しながら吊るされるように宙に浮いている。
その中心にいるのは、先程までは確かに姿の見えなかった尼僧姿の一人の女。
口元を袈裟の袖で隠しているが、その口元が笑っているのは遠目に見てもわかる。
本来であれば、尼僧は出家をする際に髪を剃るか短く切るのが習わし。
その髪の代わりとして、帽子と呼ばれる白い被り物をかぶるのが正しい尼僧の正装だが、目の前にいる尼僧の帽子はすっかりはだけ、その下からは真っ黒な長い黒髪が漂うように地面へと伸びている。
オカルト現象には慣れてきたつもりだったが、これはまるでーーーーーー。
「源太朗、今すぐ二次元からゲゲゲの鬼○郎呼んできて」
「………現実逃避すんのは諦めろ、及川」
「だってほら、諦めたらそこで試合終了って言うしっ」
「むしろ現実を見ないとあいつら二人の人生が終わるな、今ここで」
「怖いこと言わないでっつ!!」
怨霊とか祟りとかじゃなく、あれはどう見ても人あらざるもの。
妖怪にしか、見えなかった。
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初コメ失礼します!
面白くて一気に読んでしまいました^^
続きが楽しみです(❁´ω`❁)
無理をしない程度に更新して頂けたら幸いですm(_ _)m
隆駆さんの作品どれも大好きです!特にこの作品は高瀬も部長も竜児も賢治もみんな大好きです!
登場人物の掛け合いも、話の構成も予想がつかなかったり、今まで私が読んだことのないお話で引き込まれてしまって何度も読み返しました。
プライベートもお忙しいことと思いますが、時間ができた時など無理のない範囲でもいいので更新を気長にお待ちしています!!
るなるど様、こんな休眠中としかいえない不甲斐ない作者をご支援頂き、感動の涙で前が見えません(。´Д⊂)
久しぶりにサイトへログインしてみた直後にこの感想が届き、まさに運命を感じました。
正直今のアカウントを閉鎖するかどうかを悩み中で、本当に久々にログインした感じだったのでまずビックリして。
高瀬達を忘れずにいてくださった事、本当に感謝です。
そろそろ時計の針を前を進めないとですね。
どれだけ書けるかわかりませんが、まずは書きかけの比丘尼塚編を終わらせるのを目標に近日中の更新再開を目指します。
実は随分前から半分近く書き終わっていた次話は、来週中には公開できるかと思いますので、もう少々お待ちくださいませ(*- -)(*_ _)ペコリ
【第一部完(?)】迄しか読んでいませんが、私は部長とくっ付くとみた!!!!!でも変態ロリコン腹黒弁護士も捨てがたい…!!!!!!!!!弁護士にドロドロに甘やかされるのが見たい!!!ぜ!!!!
〝報告〟( ̄^ ̄ゞ
第一部完(?)の最初らへんで、部長が課長になってました
K様、感想ありがとうございます( ´∀` )b
まだ途中までとのことですが、飽きられずに読み続けてもらえることを祈るのみです。
誤字直しました!ありがとうございます。
単純な誤字ならともかく役職を間違えるのは……(^o^;)
適当作者ですが、これからも高瀬と愉快な仲間達をよろしくお願いします。