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お年玉企画~部長とおせちと甘い罠⑦~

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「………酸っぱいぶどう……って。
え~っと、あれでしっけ?
なんか、子供の頃食べた駄菓子。
ガムみたいなのが三つ入ってて、一つだけものすごく酸っぱいっていう……」
「違う」

昔を懐かしみながら口にすれば、バッサリと否定された挙句、「この状況で気になるのはそこって、高瀬君も大概だよね」とのコメントが。

「酸っぱいぶどうってのはね、イソップ物語に出てくる狐の話だよ。
美味しそうな葡萄が目の前にあるのにどうしても手が届かず、あれはきっと不味くて酸っぱいから、取れなくても構わないんだって自分を誤魔化すんだ」
「……誤魔化し……」
「フロイト曰くの「防御本能」って奴だね。
誰だってあるだろ?どうせ無理に決まってるんだからって決めつけて初めから諦めてること」
「なるほど」

そう言われると確かになんとなくわかる。
だが、それってつまり?

「私、まさかの高嶺の花扱いですか!?」
「喜ぶところはそこじゃないよ、高瀬君。
そもそも高嶺の花っていうのは手の届かない憧れの人のことだろ?
高瀬君の場合はむしろほら、ど根性大根とかそっち系」

たまに道路とか妙なところに一本だけ生えている野草、あれのことだ。

「あげといて落とすとかやっぱり鬼畜だと思います」
「だけどイメージ的にはわかりやすいだろ?」

野良猫の次は大根ーーーーーーーうん、主任がモテるっていうのはなにかの悪い冗談ではないでしょうか。

「女心が全くわかってませんね、主任」
「女子力低そうな高瀬君に言われても全然心に響かないよね」

主任の反省は皆無の模様です。

「本当に、高瀬くんがただの野良猫だったら話は早かったのにね」
「え?」
「だってほら、ただの野良猫なら、捕まえて首輪をつけて部屋に入れてしまえば、もう誰にも取られずに済むだろう?」
「保護猫は微笑ましい話ですが今の主任の言葉はどう控えめに聞いても拉致監禁宣言にしか聞こえません」
「人権があってよかったね、高瀬君」
「………!!」

どうしよう。
これ、もしかして主任もなんかちょっと変わってませんか。
1UP……いや、むしろ一皮むけて腹黒さがむき出しに………!!

「なんか失礼なことを考えてるみたいだけど、ほら。
そろそろ谷崎が戻ってくるんじゃないか?」

そういって主任が部屋の奥へと視線を向けたその時。

ガシャーン!!

「部長!?」
「珍しいな。なにかミスったか?」

明らかな食器が割れる音。
手が滑ってコーヒーカップを割ってしまったのだろうか。

「ちょっと行ってみてきます」
「俺も行くよ。ーーーーーなにか、面白そうな事が起こっているような予感がするし」
「予感」

碌でもない予感ほどあたるというのはよくいうが……。

「とにかく、行ってみましょう」
「だね」

割れた破片で怪我をしているかもしれないし、部長が心配だ。

そもそもキッチンからリビングまでは大した距離もない。
すぐに現場にたどり着いた二人だが、床にはコーヒーらしき真っ黒な液体がぶちまけられ、割れたカップの破片があたりに散乱している。

それだけならばすぐに片付ければいい話。
だが、キッチンに立つ部長は固まったまま、ぴたりと動きを止めている。

「部長?」

どうして固まってるんですか、と。
尋ねようとして気がついた。

「ぶ、部長……??」

部長の影に、誰かいる。
小さな、部長の腰ほどしかないそれはーーーーーーー。

そこでプッ、と吹き出したのは主任。

「おい谷崎、どこまで進展したのかとは聞いたが、お前いつの間に隠し子を仕込んでたんだよ?」

明らかに冗談とわかる笑い混じりのその言葉に、彫像のような部長の眉間に深い渓谷が現れる。

「………及川君」
「!」

こちらをじろりと見つめる部長に、思わず無言で首を振った。

「私じゃないです!私は何もしてないですよ!?」
「だけど高瀬君そっくりだよね?あの子」
「冤罪です!!」

今度こそ本当に私は無罪である!!と力説する高瀬。

部長の後ろに隠れていた影がぴょこんと飛び出し、こちらを向いてたたたたっと走り出す。

そして。

『ひめたま』

「……ん?」

小鳥のさえずりのような、甲高い幼女の声。
服の裾を捕まれ、こちらを見上げる幼女の顔は、確かに見覚えのあるもので。

「ーーーーー急に現れたんだ、ここに」

はぁ、と深い溜息を吐きながらようやく雑巾を手に取り、後始末を始めた部長。

いやいや、あとは任せたみたいな顔されても!?
っていうかこの状況にもっと説明をプリーズ!!

「ん~、年齢で言うと3~4歳って感じかな?いつもの高瀬君よりちょっと小さいね」
「私激プリ……じゃなくてはい、確かにそうみたいですけど……」

冷静に分析を始める主任に付き合い、ちょっと真面目に対象を観察。

うるうると潤んだお目目に小さな手。
幼児らしい丸い顔に、寸胴な体型。

だがひとつ異質なことは、その幼女が来ている衣服。

ーーーーー葬儀にでも出るかのような、真っ黒な紋付着物。

そしてそこに付けられた家紋らしき文様に気づいたとき、高瀬の額につーと一筋、汗が流れた。

な、なんか見覚えが有るぞ。

「ーーーーー三本足の、鴉」

これってまさか、まさか………?

ごくりと唾を飲み込みながら、嬉しそうにこちらを見上げている自分そっくりの幼女を見下ろし、高瀬は尋ねた。

「も、もしかしてピーちゃん……?」

そんなわけはない。否定して欲しい。
でもだったらこの子は一体どこから湧いて出てきたのかという話になるわけで。

『ピィ!ひめたま!』

名を呼ばれ、嬉しそうに抱きつく幼女。

ーーーーーあぁ、そういえばいつの間にかいなくなってたな、ピーちゃん。

ハムちゃんといい、うちの小動物sは自由気ままな子達が多いのであまり気にしていなかったが…。

「やっぱり君の仕業だったのか、及川君」

部長からの冷たい視線が心に突き刺さる。

………有罪判決が突きつけられた瞬間だった。
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