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食われる?

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「竜児、ぶちょー(仮)のガードが硬すぎて状況が読めないんだけど……今どんな感じ?」
「背後の状況よりむしろ今の君の状況の方が僕には理解できませんが」
「………それは言わない約束っ!!」
「そんな約束した覚えはありません」
「だろうね!」

言ってないけどお約束っていうやつです。

「……あの~、いい加減離してもらえませんか、ぶちょー(疑惑)」
「犬相手に何を下手に出てるんです」
「いやだってさぁ、ほら…」

ぶらん、ぶらん、と宙で揺れる足。

実は現在、何度も背後を覗こうとした挙句とうとう面倒になったらしいお犬様に襟首をがぶりと子犬のように噛まれております。
ぱっと見テイクアウトしているように見えなくもない。

しかし、捕食されるなどという危機感を一切抱かないのはなぜなのか。

「それはきっとぶちょー(推測)だからだな。きっと」

うんうん、と頷いた所で、ぶるん、と大きく高瀬の体が揺れた。

「うぉ!?」

バサバサバサバサ……!!

たし。
ぺし。

「!?」

どこからともなく飛んできた一羽のカラスに正面から特攻され、それを前足一本でペしりと叩き伏せる狼。
無残に地面に叩きつけられるカラス………と思いきや、地面に落ちたのは一枚の札。

「チッ……」

失敗か、と。
背後から聞こえた舌打ちの主は当然、龍一である。

「なにしてくれてんの!?危ないじゃん!」
「俺にはその状態の方がよっぽど危険に見えるんだが、気のせいか?」

一応助け舟のつもりだったんだが、と。
そう言われるとちょっと弱い。

だが、その程度の攻撃ではびくともしない狼。
目障りとでも言いたげな様子で足元に落ちた札をぐちゃぐちゃに踏みにじっている。

あぁ、バラバラ。

しかし外からの助けが見込めないとなれば後は自分でなんとかするしかない。

よし。

高瀬は気合いをいれた。

じーーーーーーーーーー。
『ぐるるるる……』

じーーーーーーーーーーー。
『ぐる…』

言葉で説得しても下ろしてくれそうになかったので、無言のままひたすら見つめてみることにした高瀬。
三度目でどことなく疲れた顔をした狼が、そっと地面に下ろしてくれました。

勝った!!

あからさまに、「しょうがないな」とでも言わんばかりの狼。
離してくれたはいいが、危険だからここにいなさい、と太い前足に再び背中から抱き込まれ、やはり身動きは取れない。
なんだろう、この抵抗する気力を根こそぎ持っていかれる感じ。

「うぬぬ……魅惑のもふもふさんめぇ~~~!!!」

シリアスは一体どこへ行ったんだと思いつつ地団駄を踏んでいると、「いい加減にしなさい」と竜児の声が。

『ぐるるるるるる……』
「巣篭もり中の熊でもあるまいし、抱え込むのはやめなさい」

たしなめるような竜児の言葉を理解しているかのように、狼の拘束が少しずつ緩む。
だが、まだ警戒を解いてはいないようで、本当に少しずつ。
そこにつかつかとやってきた竜児。
噛みつかれる、などという警戒心は初めから抱いていないようだ。


「……?なにこれ」
「君が知りたがっていたものですよ」
「……私が?」

そう言って竜児がハンカチの上に乗せたまま目の前に差し出してきたのは、濁った水色をした、水晶のような小さな玉。

知りたがっていたというと…。

「まさか、あのお坊さんが最終的にそんなコンパクトになったとかそういう……?」

頷く竜児をみると、どうやらそれで正解らしい。

·······たま、だな。

「これ、どういう状態?」

あの惨劇がなぜこうなったのか。
拘束が弛んだ所で先程の現場に目を向けるが、そこにはすでに争いの後はない。

「僕にそんなことがわかると思いますか?ただそこに落ちていたものを拾っただけですよ」
「――――拾った」
「勿論、素手ではありませんが」

君も直接は触らないように。
そう釘を刺され、伸ばしかけていた手をあわてて引っ込める。

「触ったら危ないのかな?」
「わからないから触るなと言っているんです」

なるほど、正論だ。

「―――なぁ、それ見せてみろよ」
『がるるるる········!』
「あ」

静かだと思っていた男がひょいと横から口をだし、貸してみろと手を伸ばすのに、牙を剥き出しにして威嚇する狼。

「危ねぇな。飼い犬の躾がなってねぇんじゃねぇか?嬢ちゃん」
「いや、おっさん敵でしょ」

威嚇するのはこの場合正しい行為である。
まぁ、この狼が本当に高瀬の味方であったならの話だが。


「ブチョ―?だったか?随分変な名前つけてんなぁ」
「それは名前じゃないし」
「―――まさか名を与えていないのか?」

驚いたようにこちらを見下ろす男。

いまだ警戒を解かない狼を見上げ、「そりゃまずい」と。

「名前をつけていないのなら気を付けろよ。
飼い犬に手を噛まれる所じゃすまなくなる」

嬢ちゃん、あんた食われるぞ?
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